人工呼吸器関連肺炎(VAP)と人工呼吸器関連状態(VAC)の予防 :声門下分泌物吸引(カフ上部吸引)に関する無作為化比較試験 Prevention of Ventilator-Associated Pneumonia and Ventilator-Associated Conditions: A Randomized Controlled Trial With Subglottic Secretion Suctioning Damas, P et al. Crit Care Med. 2015 Jan;43(1):22-30 doi: 10.1097/CCM.0000000000000674 PMID: 25343570 岡山大学病院 急性・重症患者看護専門看護師 門田耕一 監修:茨城県厚生連総合病院水戸協同病院 救急部・集中治療部 阿部智一先生 背景 • VAPバンドルの実施によりVAP発症率を減少させるとして、 その効果が多くのICUで示されている (VAP発症数/人工呼吸日数【Ventilation Day:VD】) →1~3/1000VD(USA)、12~18/1000VD(Europe) • VAPの定義を含み、いくつかの要因でアセスメントする 「VAE(人工呼吸器関連事象)サーベイランス」が新たな 定義として提案された(1,2)。 1.Center for Disease Control and Prevention : Surveillance for ventilated associated events. Available at : https://www.cdc.gov/nshn/acute-care-hospital/vae/index.html. Accessed September 19, 2014 2.Klompas M : Complications of mechanical ventilation-The CDC’s new surveillance paradigm. N Engl J Med 2013;368:1472–1475 VAEサーベイランスの概要 安定した2日間以上の人工呼吸管理 安定/改善傾向の後、下記の変化が2日以上続く PEEP≧3cmH2O もしくは FIO2≧0.2 VAC(人工呼吸器関連状態) VACの状態を満たし、かつ下記の2項目を満たす 1.体温:>38℃/<36℃または白血球数 ≧12,000 or ≦4,000 2.抗菌薬開始後4日以上経過 IVAC(感染に関連した呼吸器合併症) 培養検査による 膿性痰の存在陽性 1.定量培養陽性 ・気管内痰:≧105CFU/ml ・BAL:≧104CFU/ml 2.組織診で陽性 Possible-VAP Probable-VAP http://www.cdc.gov/nhsn/PDFs/vae/Draft-Ventilator-Associate-Event-Protocol_v6.pdf を参考に作成 背景 • VAP発症は、患者への抗生剤投与に繋がる • 抗生剤の使用日数を減らすことはVAP発症率を 低減させる • カフ上部吸引がVAP発症率を減少させることは すでにメタアナリシス(3)や多施設研究(4)において 示されている • にもかかわらず、VAPバンドルにカフ上部吸引は 含まれていない 3. Dezfulian C, Shojania K, Collard HR, et al: Subglottic secretion drainage for preventing ventilator-associated pneumonia. Am J Med 2005;118:11–18 4.Lacherade JC, De Jonghe B, Guezennec P, et al: Intermittent subglottic secretion drainage and ventilatorassociated pneumonia: A multi-center trial. Am J Respir Crit Care Med 2010; 182:910–917 方法 • A病院内の5部署のICUで、カフ上部吸引が可能な気管 チューブ(TIET)を使用して、2日間以上の人工呼吸管理 をしている患者を対象とした。 • 18歳以下、他の研究への参加者、48時間以内の人工 呼吸離脱例は除外した。 • カフ上部吸引を実施する群(group1:介入群)と、実施 しない群(group2:対照群)とに無作為に振り分けた。 • 介入群は対照群と比較し、VAP発生を50%減らせると 仮定し、5%の有意水準、80%以上の検出力を得るた めに各群170名(総340名)以上になるように設定した。 対象者選定 2370名の入院患者 そのうち745名が非気管挿管、 891名が48時間以内での気管挿管患者 734名の気管挿管患者 11名が気管切開、352名が通常の気管 チューブでの気管挿管、3名が同意されず、 2名が18歳以下、14名が研究に参加中 352名を無作為に振り分け 介入群:170名 対象群:182名 1名が気管切開、17名 が48時間以内に抜管 1名が気管切開、22名 が48時間以内に抜管 N=152名 N=159名 170名を分析 182名を分析 結果指標 一次アウトカム ・ VAP発症とVAP罹患期間 二次アウトカム ・VACとIVAC発症、そしてICU在室期間の 抗生剤使用日数 対象の属性データ チャールソン併存 疾患スコア (1-2:mediam/ 3-4:high 5以上:very high) SAPSスコア (異なる集団での重 症度や治療成果の 比較に用いる) SOFAスコア (5以上で死亡率 20%) 重症度など において 両群間に 有意差なし 両群間のVAP例数の変化 ハザード比:0.46 →VAPのリスクが Group1がGroup2 より54%低い 95%信頼区間 0.25-0.85 ↓ カフ上部吸引が VAP予防に 効果あり 結果 「人工呼吸管理歴の期間」において、有意に対照群が長い 結果 「TIET使用期間中のVAP患者数」 に有意差あり 「VAC,IVACの 患者数」に 有意差なし 「ICU在室中の 抗生剤使用期間」と 「気管挿管中の 抗生剤使用日数」 に有意差あり 「ICU在室日数」「ICU死亡率」 「在院日数」「院内死亡率」に 有意差なし 結果(まとめ) 一次アウトカム • カフ上部吸引によるVAP減少への介入効果あり 【15名(8.8%)vs32名(17.6%):p=0.016】 • 1000日人工呼吸期間(VD)あたりのVAP発生頻度に有意差あり 【9.6 of 1,000VD vs 19.8 of 1,000VD(p=0.0076)】 二次アウトカム • 両群間で、VAC及びIVAC発症率に有意差なし • VAP患者47名のうちのVAC発症患者は25名(58.2%)でIVAC発症 患者は24名(51%)、非VAP患者305名のうちの、VAC発症患者は 53名(17.4%)でIVAC発症患者は11名(3.6%)で、有意差あり (p<0.0001)。 • VAC発症患者は非VAC発症患者に比べて有意にICU在室期間が 長く【20day vs 11day:p<0.0001】、院内死亡率も高い【46名/78名 (59%) vs 75名/228名(32.9%):p<0.0001】 • 介入群で抗生剤使用日数が少ない(使用日数/全ICU日数) 【1696日/2754日(61.6%) vs 1965日/2868日(68.5%):p<0.0001】 結論 • カフ上部吸引は、抗生剤使用の有意な減少に 関連し、VAPを有意に減少させた • VAC発症において、カフ上部吸引実施の有無に 有意差はなく、その発症にはVAP以外の、別な 医学的要因が影響していると考えられる 私見 • この研究でVAP発症率が高いことは、対象者に 緊急手術や外傷といった急変での気管挿管例 が多いことが影響しているかもしれない • 侵襲期の生体反応を広く包含しやすいVACでは、 VAP予防に相関するカフ上部吸引のみの効果は 得にくかったのかもしれない • 様々な医学的理由で全身状態が悪化している 重症患者にVACの存在だけでVAPと関連づける ことは、もしかしたら難しいかもしれない • カフ上部吸引の具体的な実施方法に関しては、 持続的もしくは間欠的、吸引圧設定や吸引方法 といったさらなる具体的な方法の検討が必要
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