核融合原型炉用酸化物分散強化型低放射化フェライト鋼の キャラ

ZE26A-24
核融合原型炉用酸化物分散強化型低放射化フェライト鋼の
キャラクタリゼーション
酒瀬川英雄 1,谷川博康 1,安堂正己 1,木村晃彦 2
1
日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門
2
京都大学エネルギー理工学研究所
1. 背景と目的
次世代エネルギープラントにおいてエネルギー変換効率を高めるために高温強度に優れた材料を開
発することは非常に有効であり、高速増殖炉や核融合炉においては従来の耐熱鋼をベースとしてその
母相にナノメートルサイズの酸化物粒子を分散させることによって高温強度の向上を目指した酸化物
分散強化型(ODS: Oxide Dispersion Strengthened)鋼の開発が世界各国で鋭意進められている。
日本原子力研究開発機構にて開発された核融合炉用構造材料低放射化フェライト鋼(F82H)をベー
スとした ODS-F82H 鋼は他の同系統 ODS 鋼と比較してもトップレベルのクリープ強度特性(最も要求
される高温強度特性)を有することがわかりつつあり、本研究はこの ODS-F82H 鋼の実用化、つまり、
大量製造時におけるこの優れたクリープ強度特性の再現性の向上を最終目標として ODS-F82H 鋼の詳
細なキャラクタゼーションを実施、そのクリープ強度特性の支配因子の調査を目的とした。
2. 実験方法
表 1 に ODS-F82H 鋼(呼称:J1 ヒート鋼)の化学組成を示した。今回のキャラクタリゼーションは
メカニカルアロイング粉末状態について特に注目した。これはこれまでの ODS 鋼(他鋼種を含めて)
のキャラクタリゼーションの実施例がメカニカルアロイング粉末を熱間固化までしてバルク状とした
ものにほぼ限られており、熱間固化前の粉末状態に注目した例が極めて限られているためである。
また熱間固化時の粉末の変形・結合状況に注目するため、放電プラズマ焼結(加圧力:20MPa、温
度:950 °C、保持時間:30 min)によって製作した多孔質状態(粉末間に空隙を意図的に残した状態)
の供試材も用意、走査型電子顕微鏡(ZEISS 社製 ULTRA55)にて観察した。
表 1 メカニカルアロイング直後の ODS-F82H 鋼粉末の化学組成
Element (wt%)
C Si Mn Cr W Ta V Ti Y O
N Total Al Insol. Al Ar
0.16 0.02 0.02 8.18 1.92 0.08 0.21 0.17 0.26 0.15 0.011 0.038 < 0.001 0.006
3. 結果および考察
まず表 2 にメカニカルアロイング粉末をサイズ分けして化学組成を分析した結果を示した。サイズ
分けは 45 m より小さいもの、45m 以上 125m 以下のもの、および 125 m より大きいものの 3 種
類として、それぞれ Small、Medium、および Large という ID とした。最も特徴的なことはサイズ変化
に従って酸素量が変化していることである。最も表面積の大きくなる Small の酸素量が最も高く、順
に Medium、Large とサイズが大きくなるに従って、つまり、表面積が小さくなるに従って酸素量が低
くなった。ODS 鋼において酸素量はクリープ強度特性と関係のある重要パラメータであることがわか
っており[1]、サイズ分けによってこの酸素量が変化することを示したこの結果は、これまで考慮され
たことのなかったメカニカルアロイング粉末のサイズ制御が材料特性制御に対して重要となることを
意味するものである。また最も表面積が小さく酸素量が低い Large においてもその量がメカニカルアロ
イング直後(表 1)より高いことは、メカニカルアロイング後の粉末取り扱いについて可能な限り酸化
を防止できるように雰囲気制御することが望ましいことを示す結果である。
表2
サイズ分け後の ODS-F82H 鋼粉末の化学組成
ZE26A-24
ID
C
Si Mn Cr
W
Ta
Element (wt%)
V Ti Y O
N
Total Al Insol. Al
Small 0.163 0.01 0.01 8.09 1.87 0.09 0.19 0.17 0.25 0.19 0.012 0.042
Medium 0.161 0.01 0.01 8.12 1.88 0.09 0.19 0.17 0.26 0.17 0.012 0.042
Large 0.163 0.01 0.01 8.11 1.88 0.09 0.19 0.17 0.26 0.16 0.014 0.043
Ar
Comment
< 0.001 0.0072 < 45m
< 0.001 0.0074 45 - 125 m
< 0.001 0.0075 > 125 m
図 1(a)には Large を放電プラズマ焼
結にて多孔質体状態とした場合の組織
を示した。加圧方向は図中の左上に示
している。メカニカルアロイング粉末
は一般にフレーク状であるがこの形状
を反映した焼結状態である。著者らの
成果によれば焼結体の旧粉末表面はク
リープ破壊と関連することがわかって
(a) 粉末の焼結状態
おり[2]、ここで確認されたような等軸
ではない粉末形状(旧粉末表面の状態)
はクリープ強度特性に異方性が生まれ
る原因の一つになるとが考えられる。
図 1(b)に粉末内の母相に注目したイン
レンズ型高感度検出器による二次電子
像(SEI: Secondary Electron Image)を示
した。一つの粉末内に結晶粒の細かい
部分と粗大な部分の 2 種類の母相があ
図(b) 粉末内の母相
ることがわかる。ODS-F82H 鋼が含ま
れる 8-9Cr 系 ODS 鋼は単相鋼と 2 相鋼
図 1 放電プラズマ焼結した ODS-F82H の組織
があり後者の方がクリープ強度特性に
優れることがわかっているが[1]、2 相のそれぞれに対応するような単相の粉末が 2 種類存在するので
はなく、1 種類の粉末に 2 相存在することがわかったことは、今後のクリープ強度特性の向上のために
有用な情報である。これは母相の存在形態がクリープ変形・破壊挙動と関連するからである[3]。
参考文献
[1] S Ohtsuka, et al., J. Nucl. Mater. 329–333 (2004), 372-376.
[2] H. Sakasegawa, et al., Fusion Eng. Des. 81 (2006), 1013-1018.
[3] K. Shinozuka, et al., J. Nucl. Mater. 417 (2011), 233-236.
4. まとめ
核融合原型炉用として注目されている ODS-F82H 鋼について報告例が限られているメカニカルアロ
イング粉末状態のキャラクタリゼーションを実施した。これより粉末サイズおよび形状がそれぞれク
リープ強度特性の重要な制御パラメータの一つの酸素量およびクリープ変形・破壊挙動の異方性に影
響を及ぼす可能性を明らかとして、これが大量製造時も考慮すべき支配因子になり得ることを示した。
5. 本年度 発表リスト
今年度は該当なし(次年度以降に予定)。
謝辞
本研究の一部は JSPS 科研費 25820453 の助成を受けたものです。