【パラダイム】 10∼30年遅れの行政マネジメント 北海道大学大学院教授 宮脇 淳 日本の行政機関でも、90年代後半から「NPM(New Public Management)」に代表される新しい経営的 手法の導入が進められてきた。その結果、国や地方自治体では政策評価制度の創設や意思決定プロセ スの見直しなど様々な体質改革が展開されている。こうした取り組みは、人口減少局面の到来、財政制 約の強まりなど外部環境が大きく変化する中で、公共サービスの質を向上させ、行政と住民、官と民の役 割分担の見直しなどを進めていく上で不可欠かつ有用なものとなっている。 しかし、こうした取り組みにおいて認識しておかなければならないことは、どれだけ取り組みが進んでい るか(進捗度問題、インパクト問題)と同時に、進捗度を測るスタートラインそのものがグローバルな視点に おいて如何なるレベルに位置しているかである。経済や情報のグローバル化が強まる状況では、一国、 一地域の行政のあり方、リージョナリズム(地域主義)の価値を考え、如何なる視点で如何なるレベルま での体質改革を進めていくかを行政自らが認識しなければならない。そのためには、グローバルな視点 に立って自らの行政マネジメントのレベルを認識する必要がある。本政策研究レポートで今月号からスタ ートする「公共経営プロフェッショナルシリーズ/プロジェクト・マネジメント:入門編」では、以上の点を認 識しつつ、21世紀の行政マネジメントとは何かを模索する。 米国の製造業にはじまり、民間企業、行政機関を問わず広範に導入されているプロジェクト・マネジメン トは、1960~80年代の「管理・統制型マネジメント」、「ライン・マネジメント」、「プロダクト・マネジメント」を 中心とする時代から、90年代以降の「問題抽出、問題解決型プロジェクト・マネジメント」の時代へと進化 している。管理・統制型のルール・ドライブのマネジメントから、問題抽出・問題解決型のミッション・ドライ ブのマネジメントへの進化である。後者において、「プロジェクト」とは問題抽出・問題解決のためのプロセ ス・マネジメントを意味し、政策・事業等を可能な限り計画通りに遂行していく管理・統制のマネジメントを 意味するものではない。 こうした進化を日本の行政機関に当てはめた場合、21世紀を迎えた今日でも、依然として80年代まで 主流であった「ライン・マネジメント」等の域に止まっている機関が少なくない。公共サービスを提供する部 局ごとの工程管理が主体であり、計画を基本とする管理・統制型マネジメントが展開されている。このた め、官僚的な知識と経験がマネジメントの柱として維持され、環境変化への対応が困難な状況を生み出 している。こうした機関は、1960~70年代のマネジメント体質の中に存在し、実質的に30年以上昔の 時代に位置している。そのため、NPM等の取り組みにおいて先進的と言われる地方自治体等では、プロ ダクト・マネジメント、ライフ・サイクル・マネジメント、リスク・マネジメント等の概念の導入にも努力しており、 国内的なレベルとしては高い評価を受けることができる。しかし、そうした取り組みも問題抽出・問題解決 を主軸としたマネジメント・システムにまでは至っていない。問題抽出・問題解決のマネジメントとは、常に 多面的な視点を持つ中で、問題点の認識、そして認識された問題点の解決プロセスをマネジメントの主軸 に据え、計画を策定する場合でも問題点の抽出・解決のプログラム自体を内容の主体とする。先進的自 治体であっても、こうした点では10年程度昔の時代に位置している。 「PHP 政策研究レポート」 (Vol.6 1 No.74)2003 年 8 月
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