井草氏の結果の多変数化 (局所ゼータ関数がガン マ関数の積で書ける場合について) 筑波大学数学研究科 (D1) 1 天野勝利 (Amano, Katsutoshi) 序文 K を C または R, V を C 上 n 次元ベクトル空間, G を連結かつ簡約可能な線形代数群 で K 上定義されているものとし, (G, V ) が概均質ベクトル空間で, 定数でない相対不変 式を持つものであるとする. また, (G, V ) の K 上の基本相対不変式を P1 , · · · , Pr , VK を V の K-有理点全体とする. そして, s = (s1 , · · · , sr ) ∈ Cr (Re(s1 ) > 0, · · · , Re(sr ) > 0), および VK 上の Schwartz space S(VK ) の元 Φ に関して, 局所ゼータ関数 ZK (s, Φ) を Z ZK (s, Φ) = |P1 (x)|sK1 · · · |Pr (x)|sKr Φ(x)dx VK により定める. また, 適当な VK の内積 h , iK をとると, Pi∗ (∂x ) exp(hx, yiK ) = Pi (y) exp(hx, yiK ) (i = 1, · · · , r) なる微分演算子 P1∗ (∂x ), · · · Pr∗ (∂x ) があって, 各 m = (m1 , · · · , mr ) ∈ Zr≥0 に対し, P1∗ (∂x )m1 · · · Pr∗ (∂x )mr [P1 (x)s1 +m1 · · · Pr (x)sr +mr ] = bm (s)P1 (x)s1 · · · Pr (x)sr となる多項式 bm (s) ∈ C[s] = C[s1 , · · · , sr ] が存在することが知られている. この bm (s) は佐藤の b-関数と呼ばれている. ここで, Φ(x) として test function: φK (x) = exp(−hx, xiK ) をとるとき, ZK (s, φK ) がガンマ関数の積によって explicit に計算できることがある. そのような例としては, 例えば C. L. Siegel による正定値対称行列の空間における積分 ([Si, Hilfssatz 37]) な Q どがある. さらに一般には, 井草準一氏により, r = 1 のとき, b1 (s) = a λ (s + λ) とす ると, K = C のとき, Y Γ(s + λ) , ZC (s, φC ) = as Γ(λ) λ K = R かつ P1 (x) が x に関する多重線形形式であるとき, s ZR (s, φR ) = a 2 Y Γ((s + λ)/2) λ 1 Γ(λ/2) となることが証明されている ([I2, Chapter 6]). 本稿では, 上記の井草氏の結果が一般の r ≥ 1 について拡張できることを示し, その 事実を多変数局所関数等式の導出に役立てることを考えてみることにする. さて, 上記のような場合に ZK (s, φK ) がガンマ関数の積で書けるということの根拠 には, まず ZC (s, φC ), ZR (2s, φR ) が, それぞれ {βm (s)}m∈Zr をある多項式の組としたと ≥0 きの以下のような差分方程式: F (s + m) = βm (s)F (s) (m ∈ Zr≥0 ) (1) の一つの有理型関数解となっていることがあげられる. これは青本和彦氏 [Ao] により 考察されている差分方程式の特別な場合であり, s が Cr の適当な無限遠方向にいくと きの, その方向に応じたある漸近展開を持つような一意的な有理型関数解が存在する ことが知られている ([Ao, Théorème 1.2]). そこで原理的には, ZK (s, φK ) の無限遠に おけるふるまいが分かれば, ZK (s, φK ) の explicit な表示が得られる, と考えられる. 本稿の第 2 節では, [I2] のアイデアををもとに, (1) の有理型関数解が, Cr の虚軸 方向の無限遠におけるふるまいによって特徴付けられることを証明する. すなわち, d1 , · · · , dr をそれぞれ β(1,0,···,0) (s), · · · , β(0,···,0,1) (s) の最高次斉次部分の次数, σi = Re(si ), P ti = Im(si ) (i = 1, · · · , r), o(1) を | i di ti | → ∞ のとき 0 に収束する無限小とすると き, 恒等的に 0 でない (1) の有理型関数解 F (s) が次のような条件: 定数 σ01 , · · · , σ0r ∈ R, および σ = (σ1 , · · · , σr ) のみに依存する実数値連続関数 ψ(σ), δ(σ) があって, F (s) が D = {s ∈ Cr | σ0i ≤ σi ≤ σ0i + 1 (i = 1, · · · , r)} を含むある開 領域で正則, かつ, |F (s)| ≤ ψ(σ) | P i ¡ ¢ P P di ti |δ(σ) exp − π2 | i di ti | (1 + o(1)) (| i di ti | → ∞, σ ∈ D) . をみたせば, F (s) はガンマ関数の積により書けることをみる. 第 3 節では, ZK (s, φK ) が上記の条件ををみたすことを示し, その explicit な表示を 求めることにする. また最後に, そのことを用いて局所関数等式に関する一つの関係 式を導出する. なお, 上の方法の他に, 藤上雅樹氏によって本稿とは別の証明も得られていることを 注記しておく. それについては [F], または本講究録の藤上氏の文章を参照してほしい. 2 多項式係数の差分方程式 各 m ∈ Zr≥0 に対して r 変数多項式 bm (s) ∈ C[s] = C[s1 , · · · , sr ] が与えられていると し, 恒等的に 0 でない Cr の有理型関数 F (s) について次の差分等式 F (s + m) = bm (s)F (s) (m ∈ Zr≥0 ) 2 (2) が成立しているとする. すると, {bm (s)}m∈Zr はコサイクル条件 ≥0 bm1 +m2 (s) = bm1 (s)bm2 (s + m1 ) (m1 , m2 ∈ Zr≥0 ) (3) を満たさねばならない. このとき, bm (s) は次のように一次式の積に分解されることが 知られている. 定理 2.1 ([SatoM2, Appendix]) r 変数多項式の組 {bm (s)}m∈Zr がコサイクル条件 ≥0 (3) をみたすとき, ある一次形式の組 ek (s) = ek1 s1 + · · · + ekr sr (ek1 , · · · , ekr ∈ Z≥0 , Qd00k k = 1, · · · , N , ek 6= ek0 (k 6= k 0 )), 一変数有理関数の組 ηk (t) = i=1 (t + qki )µki ∈ C(t) 00 P dk µki > 0, k = 1, · · · , N ), および定数 h1 , · · · , hr ∈ C× があって, (µki = ±1, d0k = i=1 (i) 各 m ∈ Zr≥0 に対し, bm (s) = 1 hm 1 r · · · hm r N Y ek (m)−1 k=1 j=0 Y ek (m)6=0 ηk (ek (s) + j). (ii) G.C.D(eki )i=1,···,r = 1 (k = 1, · · · , N ). eki 6=0 注意 2.2 各 ηk (t) は多項式とは限らない (例えば r = 2, N = 1, e11 = 2, e12 = 3, η1 (t) = t(t + 1)−1 (t + 2) のときなど) が, 各 m ∈ Zr≥0 に対して, ek (m) 6= 0 なら Qek (m)−1 ηk (t + j) は多項式でなければならない. したがって, 例えば, qk1 , · · · , qkd00k の j=0 うち実部が最大のものを qki とすれば µki = 1, などのことはいえる. さて, 以下 z ∈ C に対して z の偏角 arg z は −π < arg z ≤ π の範囲でとることにし √ て, z, α ∈ C に対して復素巾 z α は z α = exp(α(log |z| + −1 arg z)) と主値をとって考 えるものとする. そして s = (s1 , · · · , sr ) ∈ Cr に対して関数 γ(s) を 00 γ(s) = hs11 · · · hsrr dk N Y Y Γ(ek (s) + qki )µki k=1 i=1 により定めると, γ(s) は差分方程式 (2) のひとつの有理型関数解となっている. PN P 以下, di = k=1 eki d0k , σi = Re(si ), ti = Im(si ) (i = 1, · · · , r), o(1) を | i di ti | → ∞ のとき 0 に収束する無限小とする. この節の目的は次の定理を証明することである. 定理 2.3 差分方程式 (2) の恒等的に 0 でない任意の有理型関数解 F (s) について, 定 数 σ01 , · · · , σ0r ∈ R, および σ = (σ1 , · · · , σr ) のみに依存する実数値連続関数 ψ(σ), δ(σ) があって, F (s) が D = {s ∈ Cr | σ0i ≤ σi ≤ σ0i + 1 (i = 1, · · · , r)} を含むある開領域 で正則で, しかも ¡ ¢ P P P |F (s)| ≤ ψ(σ) | i di ti |δ(σ) exp − π2 | i di ti | (1 + o(1)) (| i di ti | → ∞, σ ∈ D) となるならば, F (s) は定数倍を除き γ(s) と一致する. 3 [証明] 仮定より C(s) = F (s)/γ(s) は Cr で正則な, C(s + m) = C(s) (m ∈ Zr ) なる周 期関数として解析接続される. そこで, C(s) の Fourier 級数展開を C(s) = ∞ X ¡ √ P ¢ αu1 ···ur exp 2π −1 i ui si u1 ,···,ur =−∞ とする. 各 u = (u1 , · · · , ur ) に対して αu は s によらない数であり, Z √ P ¡ ¢ P C(s) exp −2π −1 i ui σi dσ αu = exp (2π i ui ti ) Rr /Zr と書くことができる. 以下, u = (u1 , · · · , ur ) 6= (0, · · · , 0) のとき αu = 0 となることを示し, C(s) が s によ らない定数であることを証明することにする. まず上の式より, Z P |αu | ≤ exp (2π i ui ti ) |C(s)|dσ = exp (2π P Z i ui t i ) Rr /Zr D∩Rr |F (s)| dσ |γ(s)| (4) となるから, この式の右辺が t = (t1 , · · · , tr ) のとり方によりいくらでも小さくできる ことを示せばよい. P k = 1, · · · , N に対し ok (1) を | i eki ti | → ∞ のとき 0 に収束する無限小とすると, Stirling の公式により (例えば [I2, Section 6.2] を参照) P ¡ ¢ 1 P 1 P |Γ(ek (s) + qkj )| = (2π) 2 | i eki ti | i eki σi +Re(qkj )− 2 exp − π2 | i eki ti | (1 + ok (1)) P (| i eki ti | → ∞, σ ∈ D) P を得る. そこで, u 6= (0, · · · , 0) に対し i ci (2πui + arg hi ) 6= 0 となる適当な正の数 c1 , · · · , cr ∈ R>0 をとり, t = (c1 , · · · , cr )t0 (t0 ∈ R) とすると, ある σ の実数値連続関数 ψ 0 (σ) (> 0), δ 0 (σ) があって ¢ ¡ P P 0 |γ(s)| = exp (−t0 i ci arg hi ) ψ 0 (σ)|t0 |δ (σ) exp − π2 | i ci di | |t0 | (1 + o(1)) (|t0 | → ∞, σ ∈ D) となることが分かる. 一方このとき, ¡ ¢ P P |F (s)| ≤ ψ(σ) | i ci di |δ(σ) |t0 |δ(σ) | exp − π2 | i ci di | |t0 | (1 + o(1)) (|t0 | → ∞, σ ∈ D) である. したがって (4) 式より, ある定数 M, δ0 > 0 があって P |αu | ≤ exp (t0 i ci (2πui + arg hi )) |t0 |δ0 M (1 + o(1)) (|t0 | → ∞, σ ∈ D) P となる. ここで, exp (t0 i ci (2πui + arg hi )) → 0 となる方向で |t0 | → ∞ とすれば, 右 辺は 0 に収束する. 故に αu = 0 であることがわかる. 以上より, C(s) が s によらない定数, したがって F (s) は定数倍を除き γ(s) と一致す ることがいえた. ¤ 4 3 局所ゼータ関数の計算 3.1 K = C の場合 まずは K = C として Z ZC (s, φC ) = V |P1 (x)|sC1 · · · |Pr (x)|sCr exp(−hx, xiC )dx を考えることにする. なお, 以下 dx は常に Z exp(−2πhx, xiC )dx = 1 V となるように正規化したものを考えているものとする. ZC (s, φC ) の右辺の積分は Re(s1 ) > 0, · · · , Re(sr ) > 0 なる範囲で収束して s に関する正則関数となる. さて, 第 1 節における bm (s) はコサイクル条件 (3) を満たすから, 定理 2.1 のように 一次式の積に分解できる. また, P1∗ (∂x )m1 · · · Pr∗ (∂x )mr [|P1 (x)|sC1 · · · |Pr (x)|sCr P1 (x)m1 · · · Pr (x)mr ] = bm (s)|P1 (x)|sC1 · · · |Pr (x)|sCr (m ∈ Zr≥0 ), それから di = P k eki d0k = deg Pi (i = 1, · · · , r) より, Pi∗ (∂x ) exp(−hx, xiC ) = (−1)di Pi (x) exp(−hx, xiC ) (i = 1, · · · , r) だから, 部分積分により, ZC (s + m, φC ) = bm (s)ZC (s, φC ) (m ∈ Zr≥0 ) を得る. これにより ZC (s, φC ) は Cr の有理型関数として解析接続される. とくに s = 0 での値は Z n ZC (0, φC ) = exp(−hx, xiC )dx = (2π) 2 V である. そしてここで, ZC (s, φC ) は次のようにガンマ関数の積により explicit に書か れることが証明される. 定理 3.1 ¶µ dk µ N Y Y Γ(ek (s) + qki ) ki 00 n 2 ZC (s, φC ) = (2π) hs11 · · · hsrr k=1 i=1 5 Γ(qki ) . p [証明] l = l(x) = hx, xiC , x = lu とすると, ある定数 α > 0 があって dx = αl2n−1 dldu となる. また, i = 1, · · · , r について, Pi (x) は斉次式だから, |Pi (lu)|sCi = l2di si |Pi (u)|sCi となる. よって Re(s1 ) > 0, · · · , Re(sr ) > 0 なる範囲で Z ZC (s, φC ) = |P1 (x)|sC1 · · · |Pr (x)|sCr exp(−hx, xiC )dx V Z ∞ P Z 2 i di si +2n−1 2 = α l exp(−l )dl |P1 (u)|sC1 · · · |Pr (u)|sCr du 0 とかける. ここで l(u)=1 α ψ(s) = 2 Z l(u)=1 |P1 (u)|sC1 · · · |Pr (u)|sCr du 2 とおき, ν = l と変数変換すれば 2ldl = dν で, Z ∞ P P ZC (s, φC ) = ψ(s) ν i di si +n−1 exp(−ν)dν = ψ(s)Γ ( i di si + n) 0 を得る. したがって Stirling の公式により P |ZC (s, φC )| ≤ ψ(σ)|Γ ( i di si + n) | P ¡ ¢ 1 P P 1 = (2π) 2 ψ(σ) | i di ti | i di σi +n− 2 exp − π2 | i di ti | (1 + o(1)) P (| i di ti | → ∞, 1 ≤ σi ≤ 2 (i = 1, · · · , r)) となることがわかる. よって, 定理 2.3 により, 上記の結果を得る. ¤ この定理を用いれば C 上の局所関数等式は完全に決定することができる. 今, (G, V ) が正則概均質ベクトル空間, したがって, g ∈ G に対して P1 (g · x)2κ1 · · · Pr (g · x)2κr = (det g)2 P1 (x)2κ1 · · · Pr (x)2κr となるような半整数の組 κ1 , · · · , κr ∈ (1/2)Z>0 が存在す るものとする. また, V とその双対空間 V ∗ は内積 h , iC により同一視しているものと して, Φ ∈ S(V ) に対し Fourier 変換 Φ̂ ∈ S(V ∗ ) を Z √ Φ̂(y) = Φ(x) exp(2π −1(hx, ȳiC + hx̄, yiC ))dx V により定める. それから (G, V ) は簡約可能概均質ベクトル空間だから, 双対空間 (G∗ , V ∗ ) の基本相対不変式 P1∗ , · · · , Pr∗ を, Pi (∂x ) exp(hx, yiC ) = Pi∗ (y) exp(hx, yiC ) (i = 1, · · · r), また各 m = (m1 , · · · , mr ) ∈ Zr≥0 に対し, P1 (∂x )m1 · · · Pr (∂x )mr [P1∗ (x)s1 +m1 · · · Pr∗ (x)sr +mr ] = bm (s)P1∗ (x)s1 · · · Pr∗ (x)sr となるようにとることができる. なお, 上記の bm (s) は第 1 節と同じものである. さて, Φ∗ ∈ S(V ∗ ) について, 双対空間の局所ゼータ関数 ZC∗ (s, Φ∗ ) を Z ∗ ∗ |P1∗ (y)|sC1 · · · |Pr∗ (y)|sCr Φ∗ (y)dy ZC (s, Φ ) = V∗ 6 により定める. ZC (s, Φ), ZC∗ (s, Φ∗ ) は Cr の有理型関数として解析接続されるが, この とき κ = (κ1 , · · · , κr ) とすれば, ある有理型関数 c(s) が存在して ZC∗ (s − κ, Φ̂) = c(s)ZC (−s, Φ) (Φ ∈ S(V )) なる関数等式が成立する ([SatoM1, 第 3 章]). この c(s) は [SatoM1, 定理 7] において は符号を除いて得られていたわけであるが, 定理 3.1 を用いれば, 次のように符号をこ めて決定される. 系 3.2 c(s) = r Y ¶µ dk µ N Y Y Γ(ek (s − κ) + qkj ) kj 00 ((2π)−di hi )2si −κi i=1 k=1 j=1 Γ(−ek (s) + qkj ) . [証明] Φ(x) = exp(−2πhx, xiC ) とすると Φ̂ = Φ だから, 定理 3.1 を用いて関数等式の 両辺を計算すれば良い. ¤ 3.2 K = R の場合 次に K = R として Z |P1 (x)|s1 · · · |Pr (x)|sr exp(−hx, xiR )dx ZR (s, φR ) = VR を考えることにする. なお, 以下 dx は常に Z exp(−πhx, xiR )dx = 1 VR となるように正規化してあるものを考えることとする. ZR (s, φR ) の右辺の積分は Re(s1 ) > 0, · · · , Re(sr ) > 0 なる範囲で収束して s に関する正則関数となる. K = C の ときと同様, 第 1 節における bm (s) は定理 2.1 のように一次式の積に分解できる. また, P1∗ (∂x )m1 · · · Pr∗ (∂x )mr [|P1 (x)|s1 · · · |Pr (x)|sr P1 (x)m1 · · · Pr (x)mr ] = bm (s)|P1 (x)|s1 · · · |Pr (x)|sr (m ∈ Zr≥0 ) となることもすぐにわかる. 以下, 各 Pi (x) は x に関して多重線形形式になっているものと仮定する. このとき P di = k eki d0k = deg Pi (i = 1, · · · , r) より, Pi∗ (∂x ) exp(−hx, xiR ) = (−2)di Pi (x) exp(−hx, xiR ) (i = 1, · · · , r) 7 が成立する. したがって, Zr の標準基底を E1 = (1, 0, · · · , 0), · · · , Er = (0, · · · , 0, 1) と おくと, 部分積分により, ZR (s + 2Ei , φR ) = 2−di bEi (s)ZR (s, φR ) (i = 1, · · · , r) (5) が成り立つ. これにより ZR (s, φR ) は Cr の有理型関数として解析接続される. とくに s = 0 での値は Z n ZR (0, φR ) = exp(−hx, xiR )dx = π 2 VR である. また, 次の補題が成り立つ. 補題 3.3 各 Pi (x) が x に関する多重線形形式ならば, (i) bEi (s)bEj (s + 2Ei ) = bEi (s + 2Ej )bEj (s) (i, j = 1, · · · , r), (ii) eki = 0 or 1 (k = 1, · · · , N , i = 1, · · · , r). [証明] (i) これは (5) からただちに従う. (ii) 各 k = 1, · · · , N に対し, eki , ekj > 0 なる i, j を任意にとる. このとき (i) の, 一次 形式の部分が ek (s) となる因子に注目すると, 00 00 dk ekj −1 dk eki −1 Y Y Y Y µku (ek (s) + qku + 2eki + v)µku (ek (s) + qku + v) u=1 v=0 u=1 v=0 = d00 k eY ki −1 Y dk ekj −1 Y Y 00 u=1 v=0 u=1 v=0 (ek (s) + qku + 2ekj + v)µku (ek (s) + qku + v)µku を得る. ここで qk1 , · · · , qkd00k のうち実部が最大のものを qk とおくと, 左辺にでてくる 一次式たちのうち定数項の実部が最大のものは, (ek (s) + qk + 2eki + ekj − 1) であり, 右辺のそれは (ek (s) + qk + 2ekj + eki − 1) である. 注意 2.2 より, この両者は一致して いなければならない. したがってこのとき eki = ekj である. よって, ek1 , · · · , ekr のうち 0 でないものはすべて一致する. ところが定理 2.1(ii) よ り 0 でないものの最大公約数は 1 になるのだから, それらはすべて 1 になる. ¤ そこで, Z(s) = ZR (2s, φR ) とし, 00 mr 1 Bm (s) = hm 1 · · · hr dk ek (m)−1 N Y Y Y k=1 ek (m)6=0 i=1 (ek (s) + j=0 qki + j) (m = (m1 , · · · , mr ) ∈ Zr≥0 ) 2 とおくと, Z(s) は差分等式 Z(s + m) = Bm (s)Z(s) をみたす. ここで, 次の定理が証明 される. 8 定理 3.4 P1 (x), · · · , Pr (x) が x に関する多重線形形式ならば, 00 s1 2 n 2 sr 2 ZR (s, φR ) = π h1 · · · hr dk N Y Y Γ((ek (s) + qki )/2) k=1 i=1 Γ(qki /2) . p [証明] l = l(x) = hx, xiR , x = lu とすると, ある定数 α > 0 があって dx = αln−1 dldu となる. よって K = C のとき同様, Re(s1 ) > 0, · · · , Re(sr ) > 0 なる範囲で Z Z(s) = |P1 (x)|2s1 · · · |Pr (x)|2sr exp(−hx, xiR )dx VR Z ∞ P Z 2 i di si +n−1 2 = α l exp(−l )dl |P1 (u)|2s1 · · · |Pr (u)|2sr du 0 とかける. ここで l(u)=1 α ψ(s) = 2 Z |P1 (u)|2s1 · · · |Pr (u)|2sr du l(u)=1 とおき, ν = l2 と変数変換すれば 2ldl = dν で, Z ∞ P ¡P ¢ n n Z(s) = ψ(s) ν i di si + 2 −1 exp(−ν)dν = ψ(s)Γ i di si + 2 0 を得る. したがって Stirling の公式により ¡P ¢ n |Z(s)| ≤ ψ(σ)|Γ i di si + 2P | ¡ ¢ n−1 P P 1 = (2π) 2 ψ(σ) | i di ti | i di σi + 2 exp − π2 | i di ti | (1 + o(1)) P (| i di ti | → ∞, 1 ≤ σi ≤ 2 (i = 1, · · · , r)) となることがわかる. よって, 定理 2.3 および ZR (s, φR ) = Z(s/2) より, 上記の結果を 得る. ¤ ここで, GR を G の R 有理点全体とし, G◦R を, 単位元を含む GR の連結成分, GR+ を, G◦R を含むような GR の部分群とする. このとき (G, V ) の開軌道 Y について, Y の R 有 理点全体 YR は有限個の G+ R 軌道に分かれることが知られている. それらを Y1 , · · · , Yl とおく (YR = Y1 ∪ · · · ∪ Yl ). このとき各 Yi における局所ゼータ関数 ZYi (s, Φ) を Z ZYi (s, Φ) = |P1 (x)|s1 · · · |Pr (x)|sr Φ(x)dx (i = 1, · · · , l) Yi により定める. 各 ZYi (s, Φ) も ZR (s, Φ) 同様 Cr の有理型関数として解析接続される. ま た, 部分積分により Zi (s) = ZYi (2s, φR ) も差分等式 Zi (s + m) = Bm (s)Zi (s) を満たす. 従って上記の定理と同様にして次が成立する. 9 定理 3.5 P1 (x), · · · , Pr (x) が x に関する多重線形形式ならば, i = 1, · · · , l について, αi = ZYi (0, φR ) とすると, 00 s1 2 sr 2 ZYi (s, φR ) = αi h1 · · · hr dk N Y Y Γ((ek (s) + qki )/2) k=1 i=1 Γ(qki /2) . さて, (G, V ) が正則概均質ベクトル空間, (G∗ , V ∗ ) がその双対概均質ベクトル空間で あるとして, κ = (κ1 , · · · , κr ), P1∗ , · · · , Pr∗ を K = C のときと同様にとる. また, VR と その双対空間 VR∗ は内積 h , iR により同一視しているものとして, Φ ∈ S(VR ) に対し Fourier 変換 Φ̂ ∈ S(VR∗ ) を Z √ Φ̂(y) = Φ(x) exp(π −1hx, yiR )dx VR により定める. (G∗ , V ∗ ) の開軌道 Y ∗ に対して Y1∗ , · · · , Yr∗ を Y1 , · · · , Yr と同様にとり, Φ∗ ∈ S(VR∗ ) について各 ZY∗i∗ (s, Φ∗ ) を Z ∗ ∗ |P1∗ (x)|s1 · · · |Pr∗ (x)|sr Φ∗ (x)dx (i = 1, · · · , l) ZYi∗ (s, Φ ) = Yi∗ により定める. このとき, ある有理型関数の組 cij (s) (i, j = 1, · · · , l) が存在して ZY∗i∗ (s − κ, Φ̂) = l X cij (s)ZYi (−s, Φ) (Φ ∈ S(VR ), i = 1, · · · , l) j=1 なる関数等式が成立する ([SatoF, Lemma 5.5]). ここで, Φ(x) = exp(−πhx, xiR ) とす ると Φ̂ = Φ となるから, 定理 3.5 の結果を用いれば, この cij (s) たちについて, 次のよ うな関係式が成立することがいえる. 系 3.6 P1 (x), · · · , Pr (x) が x に関する多重線形形式であるとする. このとき i = 1, · · · , l について αi = ZYi (0, exp(−πhx, xiR )), αi∗ = ZY∗i∗ (0, exp(−πhx, xiR )) とすると, α1 ci1 (s) + · · · + αl cil (s) = αi∗ r Y 00 (π −du hu su − κ2u ) u=1 dk N Y Y Γ((ek (s − κ) + qkj )/2) k=1 j=1 Γ((−ek (s) + qkj )/2) . 参考文献 [Ao] K. Aomoto, “Les équations aux différences linéaires et les intégrales des fonctions multiformes”, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, Sec. IA, 22 (1975), 271– 297. 10 [Am] 天野勝利, “多変数局所関数等式の b-関数による具体的表示”, 筑波大学修 士論文, 2001. [F] 藤上雅樹, “概均質ベクトル空間における多変数局所関数等式の Γ-因子に ついて”, 筑波大学修士論文, 2001. [I1] J. Igusa, “On functional equations of complex powers”, Invent. math. 85 (1986), 1–29. [I2] J. Igusa, “An Introduction to the Theory of Local Zeta Functions”, Studies in Advanced Mathematics 14, AMS/IP, 2000. [SatoF] F. Sato, “Zeta functions in several variables associated with prehomogeneous vector spaces I: Functional equations”, Tôhoku Math. Journ. 34 (1982), 437–483. [SatoM1] 佐藤幹夫述, 新谷卓郎記, “概均質ベクトル空間の理論”, 数学の歩み 15-1 (1970), 85–157. [SatoM2] M. Sato, note by T. Shintani, translated by M. Muro, “Theory of prehomogeneous vector spaces (algebraic part)—the English translation of Sato’s lecture from Shintani’s note”, Nagoya Math. J. Vol. 120 (1990), 1–34. [Si] C. L. Siegel, “Über die analytische Theorie der quadratischen Formen”, Ann. Math. Vol. 36, No. 3 (1935), 527–606. 11
© Copyright 2024 ExpyDoc