数学 B 第 4 回 担当: 田中 冬彦1 複素積分 4 4.1 曲線の定義 有界閉区間 a ≤ t ≤ b, −∞ < a < b < ∞ から複素平面への連続写像 ϕ : t ∈ [a, b] 7→ ϕ(t) ∈ C を曲線と呼んだ (2.2 節). 複素関数 f の積分 (複素積分) は曲線を用いて定義される. 曲線の定義 また, ϕ(a) = ϕ(b) の時, 閉曲線という. ϕ(a), ϕ(b) はそれぞれ, 曲線の始点, 終点ともい う. ϕ が一対一写像の時, 単純曲線(ジョルダン曲線)という. 閉曲線の場合, 終点を 除いて一対一写像の時, 単純閉曲線 (ジョルダン閉曲線) とよぶことにする. a < t < b で Reϕ(t), Imϕ(t) が連続微分可能かつ, (Reϕ′ (t))2 + (Imϕ′ (t))2 ̸= 0 の時, なめらかな 曲線と呼ぶことにする. 問 96 (定義の確認). 次の曲線の軌跡を図示しなさい. また, 閉曲線はどれか. (a) ϕ1 (t) = (3 − i)t + 1, 0 ≤ t ≤ 1. (b) ϕ2 (t) = eit , 0 ≤ t ≤ π/2. (c) ϕ3 (t) = i + 2e−it , 0 ≤ t ≤ 2π. 曲線の演算 曲線 C, ϕ(t), a ≤ t ≤ b に対して, 以下を逆向きの曲線とよび C −1 もしくは −C であ らわす. ψ(t) := ϕ(b + a − t), a ≤ t ≤ b また, 二つの曲線 C1 , C2 が ϕj (t), aj ≤ t ≤ bj , j = 1, 2 で定義されているとき, t につ いて連続になるようにつなげた曲線 C2 C1 (C1 + C2 ともかく.) を以下で定義する. ψ(t) := { ϕ1 (t), a1 ≤ t ≤ b1 , ϕ2 (t − b1 + a2 ), b1 ≤ t ≤ b2 − a2 + b1 . (ϕ1 (b1 ) ̸= ϕ2 (a2 ) の場合は不連続になる.) 曲線 C が区分的になめらかとは, なめらか な曲線 C1 , . . . , Cr の合成で C = Cr Cr−1 . . . C1 とかけることをいう. 1 たなか ふゆひこ, 基礎工学部 J 棟 J612 号室, [email protected] 1 問 97 (定義の確認). 問 96 の各曲線について, 逆向きの曲線を定義し, その軌跡を図示し なさい. 問 98 (定義の確認). 以下の二つの曲線を合成した曲線を定義し, その軌跡を図示しなさい. ψ1 (t) = t, −1 ≤ t ≤ 1, ψ2 (t) = e2πit , 0 ≤ t ≤ 1. 問 99 (曲線の合成). 曲線 C1 , C2 を ϕ1 (t) = eit , 0 ≤ t ≤ π, ϕ2 (t) = 2t − 1, 0 ≤ t ≤ 1 と する. (a) 曲線 C1−1 を求めなさい. (b) 曲線 C2 C1 を求めなさい. (c) 曲線 C1−1 C2−1 を求めなさい. 曲線 C, ϕ(t) = x(t) + iy(t), a ≤ t ≤ b について √ )2 ( )2 ∫ b ( dx(t) dy(t) L(C) := + dt dt dt a を曲線 C の長さという. 以下では L(C) < ∞ となる曲線のみを扱う ことにする. 問 100 (L(C) = ∞ の例). 以下で定義された曲線の軌跡を図示しなさい. z(t) = t + i sin(π/t), 0 < t ≤ 1, z(0) = 0. (有界領域内で, 曲線の長さ L(C) = ∞ のジョルダン曲線の例. フラクタル曲線なども同 様に L(C) = ∞ になりえる.) 問 101 (曲線の長さとパラメータの変換). 以下の問に答えなさい. (a) 問 99 の曲線 C1 について L(C1 ) = π を示しなさい. √ 2 (b) 曲線 C3 を ϕ3 (τ ) = eiτ , 0 ≤ τ ≤ π で定義するとき, L(C3 ) を求めなさい. (c) 閉区間 [a, b] で狭義単調増加な連続関数 g(t) を考える. このとき, さらに g が (a, b) 微 分可能で導関数 g ′ (t) が連続ならば τ := g(t) によって新たにパラメータをとりなお した曲線 C̃ の長さは元の曲線の長さと一致すること, つまり L(C) = L(C̃) を示しな さい. ∫ 曲線 C の長さについて, L(C) = C |dz| のようにパラメータをあらわに出さずに書くこ ともある. 2 複素積分の定義 4.2 複素積分には定義の仕方が幾つかあるが, ここでは以下のように定義する. 複素積分の定義 複素関数 f (z) の積分は曲線 C に沿って定義される. 領域 D 上の連続な複素関数 f (z) についてまず C を z : [a, b] → D で定義されたなめらかな曲線として, C に沿った f の積分を ∫ ∫ b dz(t) f dz := f (z(t)) dt dt C a と定義する. ここで右辺は実部と虚部に分けてそれぞれ計算してよい. 区分的になめらかな曲線の場合は C = Cr . . . C1 となめらかな曲線の合成で書き下して ∫ f (z)dz := C r ∫ ∑ j=1 f (z)dz Cj と定義する. C は積分経路という. 問 102. 始点を z1 , 終点を z2 とする直線 C を考える 2 . (a) パラメータを t, 0 ≤ t ≤ 1 とし直線 C を z(t) でパラメータ表示しなさい. ∫ zdz を計算せよ. (b) C ∫ z̄dz を計算せよ. (c) C 問 103. 直線 C, z(t) = t, 0 ≤ t ≤ 1 について以下の積分を求めなさい. (a) f1 (z) = 1 + z. (b) f2 (z) = z 2 . (c) f3 (z) = iz. 実積分の性質と上の定義から以下がただちにわかる. 2 線分や半直線のように端点がある場合も直線と呼ぶことにする 3 複素積分の定義 (i) 複素線型. つまり, 任意の複素定数 α, β ∈ C, 連続な複素関数 f (z), g(z) について ∫ ∫ ∫ (αf + βg)dz = α f dz + β gdz C C C (ii) 区分的になめらかな曲線 C について ∫ ∫ f dz = − f dz C −1 C (iii) 区分的になめらかな曲線 C1 , C2 について ∫ ∫ f dz = ∫ f dz + C2 C1 C2 ∫ f dz = C1 f dz C1 C2 (iv) 区分的になめらかな曲線 C について ∫ ∫ f dz ≤ |f ||dz|, C C dz(t) dt のこと. ここで |dz| = dt 線積分の性質から, 狭義単調増加かつ微分可能な関数を用いて τ = g(t) のようにパラ メータを t から τ に取り直しても変わらない. 問 104. a > 0, b > 0 について 0, a, a + ib, ib を結んでできる長方形 T を考える. 0 から出 発し反時計まわりに T に沿って一周する閉曲線を C とする. (a) 0 ≤ t ≤ 4 として, t = 0, 1, 2, 3, 4 で長方形の各頂点を通るように C : z(t) を定めな さい. ∫ (b) zdz を求めなさい. (4 つに分けて積分を計算する.) C ∫ z̄dz を求めなさい. (4 つに分けて積分を計算する.) (c) C 2 問 105 (パラメータの変換). 曲線 C1 : ϕ1 (t) = eit , 0 ≤ t ≤ π, C2 : ϕ2 (τ ) = eiτ , 0 ≤ √ τ ≤ π に沿って f (z) = z 2 を積分する. 以下の問に答えなさい. (a) 曲線 C1 に沿って f (z) を積分しなさい. (b) 曲線 C2 に沿って f (z) を積分しなさい. (a) で求めた値と一致するか. 問 106. 複素関数 f (z) について以下を示しなさい 4 (a) 複素関数 f (z) が連続の時, |f (z)| も連続. (もちろん逆は成り立たない.) (b) K ⊂ C が有界閉集合の時, |f (z)| が連続ならば, sup |f (z)| = |f (z∗ )| z∈K を満たす z∗ ∈ K が必ず存在する. (最大値の存在.) したがって, 両辺共に有限の値に なる. このことを用いて, L(C) < ∞ の時, 連続関数の複素積分は常に有限の値になる こと, つまり, ∫ f dz < ∞ C を示しなさい. 問 107. 中心 0, 半径 r > 0 の円周の上半分を考える. 始点を∫ r, 終点を −r とするなめらか な単純曲線 C を適当に設定し, 以下の複素関数 f について f dz を計算せよ. C (a) f (z) = z̄ (b) f (z) = 1/z (c) f (z) = Rez 問 108 (原始関数). 領域 D 上で正則な関数 F (z) についてその複素微分 F ′ (z) = f (z), ∀z ∈ D の時, F は f の原始関数という. f が原始関数 F を持つ時, D 内の任意の二点 z, z0 を結ぶ曲線 C について ∫ f (z)dz = F (z) − F (z0 ) C が成立. したがってこの場合は D 内の経路によらず, 始点と終点のみで積分の値が決まる. (ただし, 一般に左辺の積分が存在しても原始関数をもつとは限らない.) (a) z ̸= 0 の時, d 1 1 = −m , m = 1, 2, . . . を示しなさい. dz z m z m+1 (b) z m , (m は −1 以外の整数) の原始関数を求めなさい. (c) a ̸= 0 のとき, eaz の原始関数を求めなさい. (d) sin z, cos z の原始関数を求めなさい. 問 109 (原始関数が存在しない例). 複素関数 f (z) = z̄ を z0 から z まで結ぶ曲線 C によっ て積分することを考える. ∫ FC (z; z0 ) := f (w)dw C と定義する. 5 (a) 曲線 C として直線 z(t) := z0 + (z − z0 )t, 0 ≤ t ≤ 1 をとるとき 1 FC (z; z0 ) = (z̄ + z¯0 )(z − z0 ) 2 を示しなさい. (b) z = x + iy とする. 曲線 D を z(t) = z0 + (x − x0 )t, (0 ≤ t ≤ 1), z(s) = z0 + (x − x0 ) + i(y − y0 )s, (0 ≤ s ≤ 1) とするとき FD (z; z0 ) = } 1{ (z − z0 )2 + 2(z − z0 )(z̄ + z̄0 ) − (z̄ − z̄0 )2 4 を示しなさい. 問 110 (積分と極限の順序交換). 領域 D 上の連続な複素関数列 f1 , f2 , . . . が一様収束して いるとする. この時, 領域 D 内の任意の経路 C (L(C) < ∞) について ∫ ∫ ( ) lim fn dz = lim fn dz n→∞ C C n→∞ を示しなさい. 上の結果は D 上広義一様収束という弱い条件でも成立する. 1 nz 2 − 1 (n ≥ 2) を考える. 閉曲線として C : z(t) := eit , 0 ≤ t ≤ 2π を考える. 以下の問に答えな さい. 問 111 (積分と極限の順序交換). 領域 D := {z ∈ C : |z| > 1} 上で関数列 fn (z) = (a) fn はある複素関数 f に D 上一様収束する. f を求めなさい. ∫ dz (b) lim を求めなさい. n→∞ C nz 2 − 1 ∫ dz (後で習うコーシーの積分定理を用いると を直接計算で求めることもできる.) 2 C nz − 1 4.3 コーシーの積分定理 問 112. 次の二つの曲線 C1 , C2 を考える. C1 : z(t) := eit , 0 ≤ t ≤ π, C2 : z(t) := −it e , 0 ≤ t ≤ π. 各曲線 C1 , C2 に沿って以下の複素積分を求めなさい. また二つの曲線で 求めた値は一致するか述べなさい. ∫ 1 (a) dz. z ∫ (b) z 2 dz. 6 問 113. 次の曲線 C : z(t) := Reit , 0 ≤ t ≤ 2π, ただし R は正の定数とする. 以下の複素 積分を求めなさい. ∫ 1 (a) dz. 2 C |z| ∫ 1 |dz|. (b) 2 C |z| グリーンの公式とコーシーの積分定理 D ⊂ C を有界な領域 (連結な開集合) とし, その境界 ∂D は区分的になめらかな単純 閉曲線とする.(向きは反時計回り.)f (z) = u(x, y) + iv(x, y) とし, u, v は D ∪ ∂D を 含む領域で C 1 級とする. この時 ∫∫ ∫ ∂f f dz = 2i dxdy ∂D D ∂ z̄ が成立. (グリーンの公式). さらに, f を D ∪ ∂D を含む領域で正則な関数とすると ∫ f dz = 0 ∂D が成立. (コーシーの積分定理). 問 114. グリーンの公式を用いてコーシーの積分定理を示しなさい. ⋆——————————————————————— 補足 (グリーンの公式の証明) a, b を任意の正定数とし, 0, a, a + ib, ib を順に結ぶ長方形を考 える. 長方形内部を D であらわし, 周を ∂D とする. 4 つの曲線, C1 : z(t) = t, 0 ≤ t ≤ a, C2 : z(t) = a + ti, 0 ≤ t ≤ b, C3 : z(t) = (a − t) + ib, 0 ≤ t ≤ a, C4 : z(t) = i(b − t), 0 ≤ t ≤ b, を つなげた曲線が長方形の周をたどる曲線なので, (∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ) f dz = + + + f dz. ∂D ここで, ∫ ∫ C2 ∫ a f dz = C1 C1 ∫ f dz = − f (t + i0)dt, 0 C3 C3 a C4 ∫ f (a − t + ib)dt = − 0 0 により (∫ ∫ ) + C1 ∫ f dz = C3 0 a f (t + i0) − f (t + ib)dt } ∂f (t + iy) dy dt = − ∂y 0 0 ∫∫ ∂f (x + iy) =− dxdy. ∂y D ∫ a{ 7 ∫ b a f (t′ + ib)dt′ , (∫ 同様にして ∫ ) ∂f (x + iy) ∂ 1 ∂ i ∂ dxdy. ここで, = + に注意すれば, ∂x ∂ z̄ 2 ∂x 2 ∂y C4 D ∫∫ ∫∫ ∫ ∂f (x + iy) ∂f (x + iy) f dz = − dxdy + i dxdy ∂y ∂x ∂D D D ∫∫ ∂f = 2i dxdy. D ∂ z̄ + C2 ∫∫ f dz = i 一般の領域の場合も長方形で内側から近似していけばよい. 積分路変形の原理 始点と終点が同じ 2 つの区分的になめらかな曲線 C1 , C2 について, C2−1 C1 が単純閉曲 線となり, C2−1 C1 とその内部を含む領域で f が正則の時, 二つの曲線に関する複素積 分は一致する, つまり, ∫ ∫ f (z)dz = C1 f (z)dz C2 が成り立つ. したがって, このような場合は積分の値は始点と終点のみで決まり, 計算 しやすい曲線をとればよいことがわかる. 今後, 上の原理から積分路を円周にとることが多くなる. 半径 R > 0, 中心 α ∈ C の円 周に沿った複素積分をしばしば I f (z)dz |z−α|=R のように書く. 問 115 (円周のパラメータ表示). 半径 R > 0, 中心 α ∈ C の円周を表す単純閉曲線 z(t) を 与えなさい. ただし, 0 ≤ t ≤ 1, z(0) = z(1) = α + R とし向きは反時計回りとする. 問 116. 半径 ϵ, R の二つの円周 CR : z(t) := Reit , 0 ≤ t ≤ 2π, Cϵ : z(t) := ϵeit , 0 ≤ t ≤ 2π を考える. ただし, R > ϵ > 0 とする. CR と Cϵ ではさまれる円環上の領域を Dϵ,R とかく. (a) 円環上の領域を Dϵ,R を図示しなさい. (b) 二つの円周 CR , Cϵ と領域 Dϵ,R を含む領域で正則な関数 f (z) を考えるとき, ∫ f dz を示しなさい. CR H H 1 1 (c) |z|=1 z−2 dz, |z|=3 z−2 dz を計算しなさい. 両者は一致するか. 問 117. ∫ Cϵ f dz = I 1 dz, m = 1, 2, . . . ,. た m C (z − a) 1 だし, (z−a) m , m = 1, 2, . . . は z = a を除いて定義され正則である. 半径 1, 中心 a の円周上で以下の複素積分を求めなさい. 問 118. 複素平面上で原点, 2,I2 + 2i, 2i を結んでできる正方形を考える. この正方形の 1 周を C であらわす. 複素積分 dz を C にそって求めなさい. 必要に応じて, C z − (1 + i) (arctan x)′ = x21+1 を用いてよい. 8
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