講義資料

市場と経済A
1
第8回
需要、供給、および政府の政策(教科書第5章)
2015年6月8日(月)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
2
税金:売り手に対する課税(1)
 税の帰着:税金を課した場合に、その負担が最終的な負担者に落ち着くこと。
 需要曲線と供給曲線を用いて分析する。
 売り手に対して、商品1単位あたり定額で課税した場合(スライド3)
 課税は供給曲線にのみ影響し、需要曲線には影響しない。
 供給曲線は税額分だけ上方にシフトする。
 同じ数量を販売しようとした場合に、売り手は商品の価格を税額分だけ引き上げようとするため。
 売り手に対する課税は生産・販売の費用を高める結果、売り手は同じ価格の下における供給量を減少させるため、供給曲線が左方
にシフトすると考えてもよい。
 新しい均衡は、シフト後の供給曲線と需要曲線の交点で決まる。
 新しい均衡では当初の均衡と比べて、数量が減少するとともに買い手の支払価格が上昇する。
 しかし、売り手の受取価格は「買い手の支払価格-税額」となり、当初の均衡価格よりも低下する。その結果、税は売り手と買い
手が分担して負担することに。
3
税金:売り手に対する課税(2)
S2
アイスクリーム
1個の価格(ドル)
税があるときの均衡
買い手の
支払価格
税がない
ときの価格
売り手の
受取価格
売り手への課税は
供給曲線を税の大きさ
(0.50ドル)だけ上方に
シフトさせる
S1
3.30
3.00
税(0.50)ドル
税がないときの均衡
2.80
D1
0
90
100
アイスクリームの個数
4
税金:買い手に対する課税(1)
 買い手に対して、商品1単位あたり定額で課税した場合(スライド5)
 課税は需要曲線にのみ影響し、供給曲線には影響しない。
 需要曲線は税額分だけ下方にシフトする。
 同じ数量を購入しようとした場合に、買い手は商品の税抜き価格が課税前の価格より税額分だけ低くなければ購入しないため。
 あるいは、商品の税込み価格が課税前の価格と同じでなければ購入しないため。
 買い手に対する課税は商品の魅力を低下させる結果、買い手は同じ価格の下における需要量を減少させるため、需要曲線が左方に
シフトすると考えてもよい。
 新しい均衡は、シフト後の需要曲線と供給曲線の交点で決まる。
 新しい均衡では当初の均衡と比べて、数量が減少するとともに買い手の支払価格が上昇する。
 しかし、売り手の受取価格は「買い手の支払価格-税額」となり、当初の均衡価格よりも低下する。その結果、税は売り手と買い
手が分担して負担することに。
 結局、売り手と買い手のどちらに課税しても、税の帰着は同じになる。
5
税金:買い手に対する課税(2)
アイスクリーム
1個の価格(ドル)
S1
買い手の
支払価格
税がない
ときの価格
売り手の
受取価格
3.30
3.00
税(0.50)ドル
税がないときの均衡
2.80
D1
税があるときの均衡
0
買い手への課税は
需要曲線を税の大きさ
(0.50ドル)だけ下方に
シフトさせる
D2
90
100
アイスクリームの個数
6
税金:弾力性と帰着(1)
 税の負担は売り手と買い手のうち、弾力性が小さい(曲線の傾きが大きい)側に重く割り振られる。
 弾力性が小さいということは「状況が悪化した時に市場を離れられる可能性が小さい」ということを意味。そのため、
税が課された時にはより多く負担しなければならない(スライド7)。
 需要の価格弾力性が小さい:買い手が、特定の財を消費するにあたって適切な代替的選択肢を持たない。
 供給の価格弾力性が小さい:売り手が、特定の財を生産するにあたって適切な代替的選択肢を持たない。
税金:弾力性と帰着(2)
7
非弾力的需要と弾力的供給
S
価格
弾力的需要と非弾力的供給
2
価格
買い手の
支払価格
S
2
S
1
買い手の税の
負担は軽い
税がない
ときの価格
1
税
税
D
買い手の税の
負担は重い
税がない
ときの価格
売り手の
受取価格
売り手の税の
負担は重い
売り手の税の
負担は軽い
D
D
0
S
D
1
2
2
数量
0
数量
1
8
価格規制
 需要と供給という分析用具を用いて、政府の政策を分析する。
 その結果、政策はしばしば、その設計者が意図・予想しなかったような効果をもたらすことがあることが分かる。
 価格規制:需要曲線と供給曲線の交点で決まる均衡価格とは異なる水準で、政府が価格を規制する。
 価格の上限:法律で決められた価格の最高限度。価格をこの水準以上に上げることは認められない。
 買い手のための価格規制
 価格の下限:法律で決められた価格の最低限度。価格をこの水準以下に下げることは認められない。
 売り手のための価格規制
 政府は価格規制をしばしば「社会的正義」のために導入する。
9
価格規制:価格の上限(1)
 均衡価格よりも高い水準の価格の上限は、拘束力を持たない(スライド10)。
 価格は均衡価格に、数量は均衡取引量にそれぞれ到達する。
 均衡価格よりも低い水準の価格の上限は、拘束力を持つ(スライド10)。
 価格は均衡価格に向かって上昇しようとするが、価格の上限に阻まれて、それ以上は上がらない。
 この場合、需要量が供給量を上回り、不足が発生する。
 その結果、売り手は希少な財を多数の買い手に対して割り当てるという、望ましくない結果が生じる。
 注意:いずれのケースも価格の「上限」について考えているため、価格は最も低い水準から出発すると想定
されている。
価格規制:価格の上限(2)
10
アイスクリーム
の価格(ドル)
拘束力を持たない価格の上限
アイスクリーム
の価格(ドル)
拘束力を持つ価格の上限
供給
価格の
上限
4
均衡価格
供給
3
均衡価格
3
価格の
上限
2
不足
需要
0
100
均衡取引量
アイスクリーム
の数量
需要
0
75
供給量
125
需要量
アイスクリーム
の数量
11
価格規制:価格の下限(1)
 均衡価格よりも低い水準の価格の下限は、拘束力を持たない(スライド12)。
 価格は均衡価格に、数量は均衡取引量にそれぞれ到達する。
 均衡価格よりも高い水準の価格の下限は、拘束力を持つ(スライド12)。
 価格は均衡価格に向かって下降しようとするが、価格の下限に阻まれて、それ以上は下がらない。
 この場合、供給量が需要量を上回り、余剰が発生する。
 その結果、一部の売り手は市場価格の下で販売したいと思う量をすべては販売できないという、望ましくない結果が生じる。
 注意:いずれのケースも価格の「下限」について考えているため、価格は最も高い水準から出発すると想定
されている。
 上限にせよ下限にせよ、政府が「困った人々を助ける」といった目的で導入した価格規制が非効率を生じさ
せ、彼らのためにならないという逆説的な結果をもたらす可能性。
価格規制:価格の下限(2)
12
アイスクリーム
の価格(ドル)
拘束力を持たない価格の下限
アイスクリーム
の価格(ドル)
拘束力を持つ価格の下限
供給
供給
余剰
4
均衡価格
3
価格の
下限
均衡価格 3
価格の
下限
2
需要
0
100
均衡取引量
アイスクリーム
の数量
需要
0
80
需要量
120
供給量
アイスクリーム
の数量