楕円曲線の等分点

楕円曲線の等分点
Akio Arimoto
2/13/2015
1.楕円曲線
複素数 g 2 , g3   に対して   g 23  27 g32  0 となるとき C : Y 2  4 X 3  g 2 X  g3
で定まる曲線を楕円曲線という([2]
9 章)。条件   g 23  27 g32  0 は 3次方
程式 4 X 3  g 2 X  g3  0 が重根をもたない条件である。つまり、異なる 1 ,  2 ,  3
  があり、 4 X 3  g 2 X  g 3  4  X  1  X   2  X   3  と因数分解できる。楕円
曲線の上に加法群の構造を入れるには、上で書いた C という記号を改めて集合
として次のように表す。
C
 x, y      y
2

 4 x 3  g 2 x  g3   ,  
ここで、  ,   は C 上に定義される加法演算  の単位元 0 である。すなわ
ち加法の単位元とは、任意の点 P  C に対して P  0  0  P  P を成り立たせ
る元である。 C 上の加法  は次のように定義できる。楕円曲線 C 上に2点
P   x1 , y1  , Q   x2 , y2  をとり、P と Q を結ぶ直線
l とすると、l
はC と
ちょうど3点(接するところでは重複して数える)で交わるので、それを
R   x3 , y3  とする。すなわち、 C  l   P, Q, R である。つぎに点 R と無限遠点
 ,   (Y 軸に平行な直線が共通の1点  ,   を通ると考える)を結ぶ、実際は
Y 軸に平行な R をとおる直線を考え再び C と交わる点 R '   x3 ,  y3  をとり、この
R ' を P, Q の和と定義して P  Q  R ' とおく。 R ' は P, Q から一意的に C の
点として確定する。この和  は P, Q, R  C について交換法則、P  Q  Q  P 、
結合法則
定める。
 P  Q   R  P  Q  R 
を満たし、C 上の加法群(アーベル群)を
上の図で P   x1 , y1  、 Q   x2 , y2  と置くとき P  Q  R ' は R '   x3 ,  y3  として、
次式から求められる。
加法公式
P  Q のとき

y2  y1
として
x2  x1
1 2

 x3    x1  x2
4

 y3    x1  x3   y1

2倍公式
P   x, y  で 2 P   x3 ,  y3  とおくとき
y  0 のとき、  
12 x 2  g 2
として
2y
1 2

 x3    2 x
4

 y3    x3  x   y

(1.1)
y  0 のとき、 2 P   ,   = 0 とする。
また加法  の逆、つまり P  P '  0 となる P '   x,  y 
は、上の加法の図を参照
すれば P   x, y  に対して x 軸に対称な点を表し  P と書くことにする。
逆元の公式
P   x, y  とするとき、  P   x,  y  である。
2.等分点
C
 x, y      y
2

 4 x 3  g 2 x  g3   ,   上の点 P に対して自然数 n につ
いて nP  0 となるとき、その P は C 上の n 等分点と言われる。ただし、 nP と
いうのは n 個の P の和、つまり nP  P  P    P で定義されるものである。
また、 P   x, y  について逆元  P   x,  y  であった。自然数 m について m 個の
逆元  P の和を  mP  (  P )    P       P  と書く。また、0P  P    P  で
あるが、和 P    P  はy軸に平行になるので 0P  0 となる。これらにより引き
算を含む演算、すなわち整数 m, n に対して、 mP  nP   m  n  P がわかる。次
のことに注意しよう。m が n で割り切れるとき、nP  0  mP  0 であるので、
n 等分点は m 等分点でもある。
2.1
1等分点
1P  0 すなわち P  0   ,   となり1等分点とは無限遠点のことである。
上の注意から、1等分点は任意の自然数 n につての n 等分点になる。
また、1等分点でない C 上の点 P   x, y  は y 2  4 x 3  g 2 x  g3 を満たす。
以後、いいまわしさの面倒を避けるため、 n  2 のとき n 等分点と言えば1等
分点は除外する。
2.2
2等分点
2P  0
すなわち P   P でありこれを座標で表すと、 x, y    x,  y  すなわち
y  0 である。逆に y  0 のとき  x, y    x,  y  であるので、
(2.1) P が2等分点  0  4x 3  g 2 x  g3
となり、グラフで言えば楕円曲線と x 軸の交点となる。例を2つ挙げる。
上の図において2等分点を赤点で表している。左の図では2等分点は
 1, 0  ,  0, 0  , 1, 0 
、右の図では2等分点は  1, 0  である。2次元 x  y 座標で
表すとき、 x, y を実数として考えた結果2等分点はグラフにより3個になった
り1個になったりしているが、このように個数がグラフにより異なるのはグラ
フでは3次方程式 0  4x 3  g 2 x  g3 の実数根だけしか表示できないためであり、
複素根まで考えると実は3根あり、複素根である2等分点も含めると実は3個
みつかることになる。すなわち、右の楕円曲線 C 
の1等分点でない2等分点は  1, 0  ,


 x, y  y
1, 0 ,  1, 0

2

 4 x 3  4   ,  
の3個ある。
2.3
3等分点
3P  0 すなわち 2P   P を満たす点である。ここで、 P   x, y  において y  0
としてよい。なぜならもし y  0 とすると(2.1)の上に述べたこと により 2 P  0
であり、3P  0 かつ 2 P  0 となるので 1P  0 が導かれ、P が除外した1等分点と
なるからである。
2倍公式
P   x, y  で 2 P   x3 ,  y3  とおくとき
y  0 のとき、  
12 x 2  g 2
として
2y
1 2

 x3    2 x
4
(2.2) 
 y3    x3  x   y

逆元の公式
P   x, y  とするとき、  P   x,  y  である。
を参照すると、2P   P は、この表で  x3 ,  y3    x,  y  であることが必要十分で
あることがわかるが、他方
x3  x であれば、(2.2) の下の式より、 y3  y が
自動的に満たされる。したがって、 P   x, y  が3等分点であるためには、 x3  x
が必要十分である。つまり、
2
4
 3x すなわち y 2  4 x 3  g 2 x  g3 を用いて、
48 x 4  24 g 2 x 2  48 g3 x  g 22  0 なる関係式を得る。
P   x, y  が3等分点  48 x 4  24 g 2 x 2  48 g3 x  g 22  0
2.4 4等分点
2等分点 2 P  0 は4等分点 4 P  0 でもある。そこで2等分点でない4等分点の
条件、2 P  0 を仮定する。2 P  2 P より 2 P   ,   において   0 でなくては
ならない。言い換えれば2倍公式の(2.2)において y3  0 すなわち、P   x, y  に
 2

12 x 2  g 2
対して    3x   y  0 が成立するはずである 。  
を代入して、
2y
 4

12 x
2


 g 2  12 x 2  g 2   48 xy 2  32 y 4  0 。この式に、 y 2  4 x 3  g 2 x  g3 を代
2
入すれば x のみの6次式を得る。これが、4等分多項式となる。
3. ワイエルストラスの楕円関数 z 
定数  と有理形関数 f  z  について、等式 f  z   f  z    がすべての z につい
て成立するとき、  を関数 f  z  の周期と呼ぶ。   0 は自明な周期で、自明
でない周期をもつ関数を周期関数と呼ぶ。1つの関数の周期全体を  と書く。
いくつかの定理を[1] より引用する
定理
与えられた関数の周期全体は加法群をなす。
f  u  1   f  u  、 f  u  2   f  u  とするとき、すなわち、 1 , 2   のとき、
f  u  1  2    f
u        f u     f u 
1
2
1
より、 1  2 
また、 f  u  1   f  u  2  において、 u を u  2 に置き換えると
f  u   f  u  1  2   を得て、 1  2  を得る。  は加法群となる。
定理 [1] p.8 定数関数でない有理型周期関数の周期全体はただ1つの周期 1 で
生成されるか、商
1
が実数でない複素数となる、2つの複素数 1 , 2 によって
2
生成される。
商
1
が実数でない2つの複素数 1 , 2 を周期とする有理型関数を楕円関数と呼
2
ぶ。いま、商
1
が実数でない複素数 1 , 2 をとると、楕円関数の周期
2
  n1  m2 ; n, m   すなわち整数 n, m をとると n1  m2 がまた周期とな
りそれで周期のすべてがつくされる。そこで、
 z  

1
1
1 
  
 2
2
2
z  \0   z     
と定義しこれをワイエルストラスの 関数と呼ぶ。その微分は
'  z  



定理
1
z 
3
となる。
[1]  関数とその微分は
 z  1   z  2   z 
'  z  1  '  z  2  '  z 
をみたす楕円関数である。
したがって、 z     z 
, '  z    '  z  , z  
また、 z    z  、'  z   '   z  が定義式より導かれ、 は偶関数。
' は奇関数である。
定理
[1]p.24  z  
は微分方程式


' 2  43  g 2 g3 を満足する。ただし、 g 2  60
 \0
1

4


, g3  140
 \0
1
6
。
そこで、  x, y   
, ' とおくと、 y 2  4 x 3  g 2 x  g3 をみたし、わたくしたちは
 x, y    z  ,'  z   という楕円曲線のパラメータ表示を得たことになる。
'  z1  '  z2 
1
定理[1] p.30 加法公式  z1  z2    2  z1   z2  、  
4
 z1   z2 
122  z   g 2
1 2
2倍公式  2 z     2 z  、  
4
2'  z 
楕円曲線上の加法公式と2倍公式がそのまま同じ形で成立している!
つまり、  x1 , y1    z1  ,'  z1   ,  x2 , y2    z2  ,'  z2   に対して、加法は
 x1 , y1    x2 , y2    z1  z2  ,'  z1  z2   。そして2倍は 2  x, y    2 z  ,'  2 z   。
逆元   x, y     z  ,'   z     z  , '  z     x,  y  などが対応する。そして、
等分点についてはもっと簡単に書ける。ただし、 z  は周期関数であるので、
複素平面全体で考えるのではなく、原点
0 と 1 , 2 , 1  2 でつくる周期
平行四辺形の上だけで考えることにする。
3.1
1 等分点
z  0 は z  の極、すなわち、
3.2
 x, y    0  ,'  0     ,   。
2等分点
z
1
2
, z
2
2
, z
1  2
2
の3点で、  x, y    z  ,'  z   は2等分点であ
2

  
  
   2  
る。実際、'  z    4  z   1    z   2    z   1
  が成
 2 
 2 
 2 

立し([1]p.22)、  x, y    z  ,'  z   は z 
分方程式
3.3.
0  4x 3  g 2 x  g3
2
, z
2
2
, z
1  2
2
において 2
を満たす。
3等分点
z
周期平行四辺形のなかで
z
1
21  2
,
3
z
1  22
3
1
3
,z 
2
3
,z 
1  2
3
,z 
21
2
,z  2 ,
3
3
において、  x, y    z  ,'  z   は3等分点となる。
ところで、
P   x, y  が3等分点  48 x 4  24 g 2 x 2  48 g 3 x  g 22  0
であった、4次方程式の解の個数は4個。個数が違うのではないか?心配いら
ない。周期性と偶関数であることを使うと
 
 
  

 2 
 1    1   1  1   1  などとなり、 x  z  で異なるのは
3
 3
 3

 3 
 1  22 
 21  2 
 
 2    
 2     2 
 1   1  , 2   2  , 1
 
 
,
3
3
 3
 3   3 
 3   3 




 2  22 
 1
 の4個である。
3


3.4 n 等分点
実はもっと詳細に調べられるのだが、ここでは大まかに述べると上にあげた例
から察せられるように
j1  k2
n
の中に n 等分点がある。
 x, y    z  ,'  z   において z 
j  0,1,, n  1 、 k  0,1,, n  1
4.おまけ
n 等分点の条件は、ポンスレの閉形定理で n 角形を作る Cayley の条件と密接
に関連しているらしい
[1]
[2]
フルウイッツ・クーラント 足立恒雄/小松啓一訳 楕円関数論
シュプリンガー・フェアラーク東京
山本芳彦
数論入門 岩波書店