技術解説 花きの土壌管理と施肥

平成 27 年 春号
第 332 号(3)
和歌山県JA花き情報
花きの土壌管理と施肥
県農営農対策部 技術参与 辻 圭索
を目的にする場合は、ピートモスやバー
ク、オガクズ、モミガラなど繊維質が入
ったよく腐熟した堆肥を使用します。バ
ーク、オガクズ、モミガラなどの入った
切り花は花のみの鑑賞価値だけではな
堆肥の未熟なものを使用するとチッ素成
く、葉、茎を含めた全体のバランスが品質
分を取り込み、作物にチッ素欠乏が発生
の良否に大きく影響します。商品価値の高
することがあるので注意が必要です。
い高品質切り花を安定して生産するために
は、「土づくり」と適正な「肥培管理」に
よる生育に好適な根圏環境づくりが重要と
なります。
2)土壌の酸度矯正(土壌pH)
花き類は種類が多く、栽培に好適な酸
度条件はそれぞれ異ります。主要切り
花の場合pH5.5~6.5 の弱酸性から微酸
性でよく生育します。
1 健康な土壌づくり(土づくり)
土壌は、養分、水分、空気の供給源で、
これらのうちいずれが不足しても生育に悪
しかし、土壌の性質、乾湿等の条件に
よっては、この適正範囲(表 1)が少し変
わることもあります。
影響がでます。「健康な土壌」とは、根が
支障なく張れ、植物が必要とするときに必
要な量の養分を滞りなく吸収できる状態、
さらに有害物質や病害虫、過剰な水分(地
下水位)や硬いすき床などの生育阻害要因
がない状態の土壌のことです。
高品質花きの安定生産は、
土壌の物理性・
化学性・生物性のよい土壌状態を保つため
の土壌管理の継続が基本です。
表 1 花き類の好適酸度
酸性(pH)
の程度
強酸性
(5.5 以下)
弱酸性
(5.5~6.0)
微酸性
(6.0~6.5)
微酸性~中性
(6.5~7)
適する花きの種類
ツツジ、アザレア、リンドウ
シダ類、ベゴニア類など
コスモス、ヒマワリ、マリーゴールド
プリムラなど
キク、バラ、スターチス、ストック
カーネーション、ユリなど
アスター、ガーベラ、スイートピー
カスミソウ、トルコキキョウなど
3)深耕と排水性の改善
多くの花きは湿気を嫌うため、排水の
悪い場所では根の張りが悪くなり生育や
品質不良の原因になります。排水の悪い
水田などで栽培する場合は、明渠の設置
や高畝栽培などをにするとともに、深く
耕うんして下層の通気性や透水性を良く
するよう心がけてください。
2 施肥の基本的な考え方
切り花の施肥は、収量だけでなく茎の硬
さや葉の大きさなどの外観形質、さらに日
1)有機物の施用
施用目的は様々ですが、物理性の改善
持ち性などに大きく影響します。高品質な
切り花を安定生産するためには、各肥料成
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分の特徴、特に肥料の三要素といわれるチ
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3 養分吸収を考慮した施肥
ッ素、リン酸、カリの一般的な特徴や栽培
切り花に用いられている花きは種類が多
品目の養分吸収特性を充分理解することが
く、施肥方法は多肥栽培のものから少肥栽
重要となります。
培のものまであります。切り花の作型や各
a.チッ素
生育ステージによっても養分吸収のパター
生育、開花への影響が三要素の中で最も
大きい要素です。
チッ素の過不足は、開花の遅れ、草姿の
乱れによる品質低下をまねくとともに、切
り花の日持ち性を悪くします。
b.リン酸
ンが異っています。
今回は、本県で栽培されている主要切り
花について、養分吸収特性とその施肥方法
の基本的な考え方を紹介します。
○スターチス・シヌアータ
定植後約1ヶ月はチッ素の肥効を高める
窒素に次いで影響の大きい要素ですが、
ことにより栄養生長を促し、株を充実させ
吸収量が三要素の中で最も少ないため、必
る必要があります。この間に抽苔してくる
要量以上の施用はリン酸の集積をまねき、
花茎は、高温期で切り花品質が悪いことも
生育の抑制や Fe、
Mn 等の微量要素欠乏等の
あり、実際の栽培では切り捨てます。その
様々な生育障害が生じます。
後は、チッ素が多すぎると、切り花の翼が
c.カリ
吸収量が最も多い要素で、不足すると葉
や茎の伸長が劣り、開花不良となります。
しかし過剰になると、カルシウム、マグネ
シウムの欠乏症を引き起こすなどの障害が
出ます。
大きくなり軟弱なものとなるため、土壌水
分を控えめにしてチッ素の肥効を抑えぎみ
に管理します。
○キク
スプレーギクでは、
チッ素が切り花収量、
品質に対して最も影響を与えます。
これら塩基類(カルシウム、マグネシウ
不足すればずボリューム不足となり、多
ム、カリ)は、適正な含有量と塩基バラン
すぎるとボリューム感がでますが、水揚げ
スに配慮する必要があります。
不良により著しく品質が低下します。
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スプレーギクは、チッ素施用量が多いほ
ど、花房の乱れが激しくなります。そのた
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○スプレーカーネーション
スプレーカーネーションの養分吸収量は、
め、基肥に緩効性肥料を利用し、初期の窒
窒素、リン酸、カリとも栽培期間中ほぼ直
素量を控え、花芽分化期から花蕾発達期に
線的に増加し、毎月ほぼコンスタントに同
かけて十分な肥効を与えられるような施肥
じ量を吸収します。そのため、養分供給は
を行います。
生育ステージ、樹勢に応じて過不足なく安
小ギクは、
草姿が長方形で、
花も大きく、
全体のバランスがとれているものが良品と
されます。そのため、生育初期からチッ素
の施用量を制限しながら、草勢を管理すれ
ば良品生産が可能となります。
○シュッコンカスミソウ
シュッコンカスミソウは無数の小花を細
い茎で支えるもので、分枝の節間が徒長す
ると、小花が垂れて切り花の草姿が乱れま
す。主として栄養生長終了時に開花し、切
り花を収穫するため、遅くまでチッ素肥料
を効かせると、栄養生長を続けて開花が遅
延します。基肥中心の施肥とし、蕾期以降
の節水で節間の伸びが抑えられます。
○ガーベラ
多肥で葉が密生してくると、花立ちが悪
くなり、品質や収量が低下してきます。
草姿、葉色、花の大きさ、花梗の太さ、
採花収量を総合的に判断しながら液肥によ
る追肥を行います。
○トルコギキョウ
定的に維持することが必要です。
○ストック
多肥栽培は葉の大きな水上げの悪い切り
花になります。
初期生育が遅いので、土壌中の養分濃度
を低く維持します。また、肥料が出蕾後ま
で効きすぎると、上位葉が大きくなりすぎ
るので注意が必要です。
○スイートピー
多肥栽培は落蕾や着花不良を起こしやす
いので、収穫開始期は肥効を少なくするこ
とで落蕾を抑えます。草勢が低下してくる
1月下旬以降には土壌中チッ素濃度を高め、
草勢の維持に努めます。
○バラ
養分吸収量は季節に関係なく一定である
とされているので、養分供給は生育ステー
ジ、樹勢に応じて過不足なく安定かつ好適
濃度に維持する必要があります。一度に多
くの肥料を与えずに、少量を分施して肥効
が一定になるような肥培管理をします。
定植後約1ヶ月の生育が極端に遅く、そ
の後の養分吸収量は直線的に増加していき
4 おわりに
ます。また、耐塩性が低いので、基肥には
花きの種類や生育ステージの養分吸収特
緩効性肥料等を利用し、生育初期の濃度障
性に応じた施肥管理は、効率的な肥効によ
害に注意する必要があります。薄い液肥を
る収量性や品質の向上が期待されるだけで
数回施用し、
EC 濃度を 0.3~0.4mSに保ち
はなく、過剰施肥による肥料の無駄をなく
ます。出蕾期以降は、液肥かん水を控える
すことにもつながります。
ことで上位節間の徒長を防ぎ、切り花が軟
弱にならないように注意します。
健康な土壌づくりで高品質安定生産と生
産コストの低減を実践してください。
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