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モノアルキルリン酸塩の吸着性. 浸入性および混合性に関
する界面化学的研究( Abstract_要旨 )
半田, 哲郎
Kyoto University (京都大学)
1977-01-24
http://dx.doi.org/10.14989/doctor.r3234
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
author
Kyoto University
悼
学 位 記 番 号
訂L
節
学
88
1
郎 朋士 号
1
S博
だ
薬
論
学 位 の 種 類
田
㍑薬
名
哲
半
氏
1
68
学位授与の 日付
昭 和 52 年 1 月 24 日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5粂 第 2項 該 当
学位論文 題 目
モ ノア ル キ ル リン酸 塩 の 吸 着 性 ,浸 入性 お よび 混 合性 に関 す る
界 面化学的研 究
(
主
論文調査 委員
査)
教 授 中垣 正幸
論
文
内
教 授 岡田寿太郎
容
の
要
教 授 大 崎健 次
旨
本論文は リン酸 と高級 アル コールのモノエステルであるモノアルキル リン酸 の界面化学的性質に関する
ものである。生体膜中にはフォスファチジ ン酸や フォスファチジルセ リンな どの酸性 リン脂質が存在 して
いるが, これ等の酸性 リン脂質は脂質膜 の電荷を形成 し,又,特定の条件下において他の脂質 よ り相分離
しモザイ ク膜を形成す る事 も知 られている。 モノアルキル リン酸は酸性 リン脂質の機能に とって重要 な リ
ン酸基を有す るが, これは又,不溶性単分子膜 を形成 し,酸性 リン脂質の良いモデル物質であると考え ら
れ る。
一方,モノアルキル リン酸の 2ナ トリウム塩は水に よく溶け,普通 よく用 い られ る 1価型 とは異なる 2
価型 のアニオ ン性界面活性剤であ り,水溶液中 よ り気水界面に吸着 し,吸着単分子膜を形成す る。
従来 よ り不溶性単分子膜,吸着単分子膜 はそれぞれ研究 されて釆たが,両者の相互作用に関す る研究は
極めて少 ない。本研究は この点を明らかにす る為に,先ず吸着単分子膜 と不溶性単分子膜 をそれぞれ研究
し, さらに可溶性成分の浸入に よ り形成 された混合単分子膜に関 して検討 した。
2
のモノ ドデ シル リン酸 2ナ トリウム
本研究 の第 1部においてほ,炭素数 1
(
S
DP)を合成 し,その水溶
液の安定性の検討を した。 この結果, リン酸基 とラウ リルアル コールの間のエステル結合の加水分解速度
はアルカ リ添加量が少ない時は非常におそ く,水溶液は安定である事がわかった。次に
面張力を
S
DP水溶液の表
S
DPの濃度 (
C
)や添加塩 としての Na
Cl濃度 (
C′
)を変化 させて測定 した。 C が一定 の時,C
′
を増加 させ ると表面張力は低下す る。又,臨界 ミセル濃度 も小 さ くなる。 この低下の仕方が 1価型の活性
剤 に比 して大 きいのは
S
DPが 2価型 のアニオ ン活性剤である為 と結論 した。
S
DP)の水溶液中の活動度 (a) と吸着量の間には
第 2部においてはモノ ドデ シル リン酸 2ナ トリウム (
La
ng
mui
r吸着式が成立す る事がわかった。 しか し,
C と吸着量 の関係は必ず しもそ うではな く,特に C
′
′に関係な くaが一定値に
の小 さい場合には S字塑吸着等温線を得た。 一方, ミセル形成は添加塩濃度 C
達 した時に生ず る事がわか った。 この様に表面への吸着や ミセル形成を aを用いて統一的に説 明 した。 さ
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4-
らに,モノテ トラデシル リン酸 2ナ トリウム (
STP)
, モノ-キサデシル リン酸 2ナ トリウム (
SHP)につ
いても同様な研究をおこなった。又 ,SDP と SHPの混合水溶液か らその表面への混合吸着や混合 ミセル
形成に開 し検討 した結果,吸着相や ミセル相では両成分が理想混合 している事がわか った。
第 3部では先ず SHP水溶液 の表面において コレステ ロール (
CH)
,そのアセテー ト(
CA)
,お よびその
プロピオネー ト (
CP)の うちの 2成分づっを選びそれ等の混合膜 の研究を した。 これ等の物質の一成分の
みか らなる単分子膜は単一 の崩壊を示すが,混合膜 は 2段階の崩壊をす る事がわか った。高表面圧側 の崩
壊点の表面圧は膜 の組成に よらず一定 であるが,低圧側の崩壊圧は組成に よ り変化 した。成分同士が よく
混 ざっている単分子膜 とお互に混 ざ り合わない固相 との熱力学的平衡の理論を導 き実験結果を よく説 明す
ることができた。
次に,HCl水溶液表面において もモノ-キサデシル リン酸 (
HPA)とコレステ ロール (
CH)の混合単分
子膜 の研究をお こなった。崩壊圧 と平衡拡張圧の組成に対す る依存性 よ り,膜 中では HPA と CH はお耳
a
t
c
h"を形成 している事がわか った。 これに 4
M の尿素を添加す
に混 ざる事な くめいめいがいわゆる "p
ると膜中で HPA と CH が よく混 ざる事がわか った。 モノアルキル リン酸は単分子膜 中でその リン酸基
問に水素結合が形成 され,分子が会合 し, この為に他 の成分 と混 ざらない と考え られ るが,尿素の添加に
よ りこの水素結合が切断 され混合性が変化 した もの と考 え られ る。 この結果 は生体膜 中の酸性 リン脂質の
挙動を考える うえに重要である。
最後に SHP 水溶液表面における CH や CA さらに CP 単分子膜 の表面圧 と分子当 り占有面積曲線に
基づ き,溶液中か らの SHP の単分子膜-の浸入を検討 した。 これは生体膜 と可溶性成分の相互作用に関
す る基礎的研究 として興味がある。単分子膜中での不溶性成分 (
CH,CA 又は CP)の濃度が一定 の時,
SHP の浸入量は膜 の種類に よ り差異があるが,いずれの場合に もその活動度 aとの関係は La
ng
mui
r型
の吸着等温線 となる。又,その飽和吸着量 (
浸入量)は表面の不溶性成分の濃度が大 きい程小 さ く,相互
作用 の強度を表わす定数の方は逆に大 き くなる事がわか った。
この様に本研究においては, まずモノアルキル リン酸 2ナ トリウム水溶液の界 面 化 学 的 研 究 をお こな
い, これ よ りイオ ン性の活性剤に対 してはその濃度ではな く活動度を用 いて吸着や ミセル形成を検討すべ
き事, さらに混合活性剤溶液に対 し吸着相や ミセル相 での理想混合 の妥当性を明 らかに した。次に この水
溶液上での コレステーロルお よびそのエステルの混合膜, さらには酸性 リン脂質のモデル物質であるモノ
アルキル リン酸 の混合膜 の研究 よ り単分子膜 の共崩壊点の存在を明 らかに し, これに対 しては熱力学的平
衡 の理論を適用 して説 明 した。特にモノアルキル リン酸 の混合膜中での成分の混合性には この物質の リン
酸基 の状態が強 く関係す ると結論 した。又,可溶性成分であるモノアルキル リン酸 2ナ トリウムはその水
溶液上の単分子膜中へ浸入 して混合 し膜 の性質を著 しく変化 させ る事を明 らかに した。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本論文は,酸性 リン脂質 のモデル物質 として興味のあるモノアルキル リン酸お よびその塩 の単分子膜に
関す るものである。
著者はまず モノアルキル リン酸 2ナ トリウムがその水溶液上に形成す る吸着単分子膜 について研究 し,
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吸着等温線が S字型になることを見 出 し, これは濃度の代 りに活動度を用いた La
ng
mui
r 吸着等温式に
よって よく説 明され ることを示 し, 2成分か ら成 る混合 吸着膜 について も同様 の取扱 いがで きることを明
らかに した。 また ミセル形成 の臨界濃度についても研究 し,吸着相お よび ミセル相において両成分は理想
的に混合 していることを見 出 した。
次に コレステ ロールお よびそのエステルの混合単分子膜 につ いて,-キサデ シル リン酸 2ナ トリウムの
浸入性 について研究す ると共に, この混合単分子膜 は圧縮 に よって 2段階に崩壊す ることを見出 し,それ
ら 2つ の崩壊圧 の測定値を用 いて相図を画 くことに よ り両成分 の混合性を研究 し得 ることを示 した。 また
これを-キサデ シル リン酸 とコレステ ロールの混合単分子膜 に応用 し, これ ら両成分は水面上では互に混
合 しないが,尿素水溶液上 では よく混合す るようになることを見 出 した。
以上 の研究は薬 品物理化学上有益 であ り,特に脂質分子膜研究 の発展に寄与す るところが大であ る。
よって,本論文 は薬学博士 の学位論文 として価値 あるもの と認め る。
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