第8号 別刷 2 9 8 2 0 0 9 8 原 著 フェノフィブラートとエゼチミブの 併用効果について 井上 郁夫 ライフ・サイエンス :∼ 原 著 フェノフィブラートとエゼチミブの 併用効果について 井上 郁夫* 加えてCADを有する患者,糖尿病患者,マルチプルリ はじめに スクを集簇している患者の個々の1年間のリポ蛋白の 近年,食の欧米化や日常生活の近代化により,生活 詳細な解析調査をも報告する. 習慣病の1つである高コレステロール血症に加えて, なお,本検討は十分な説明を行い,保険診療内での 高中性脂肪血症,低高比重リポ蛋白 (HDL)血症が増加 検査項目とし,同意を得た上で実施した廃棄検体を非 傾向にある.また,高中性脂肪血症,低HDL血症は, 連結化し解析した.フィブラート系薬はベザフィブ 高コレステロール血症に加えて冠動脈疾患(以下, ラートおよびフェノフィブラートを用いた. CAD)や脳血管障害などの動脈硬化性疾患の危険因子 であり,1970年代よりフィブラート系薬で脂質異常を 是正させることで,血管系イベントの発生を抑制でき ることが,数々の海外の大規模臨床試験により証明さ 1, 2) れてきた 対象ならびに方法 埼玉医科大学病院内分泌・糖尿病内科,熊谷外科病 .しかしながら,フィブラート系薬単独で 院糖尿病センター,愛康クリニックを外来受診した患 の治療では,高コレステロール血症の改善効果は不十 者のうち,ベザフィブラート (Beza群,2 6例),フェノ 分で,症例によっては高コレステロール血症が増悪す フィブラート (Feno群, 1 4例) 投与中の一次予防患者で, る場合がある.また,最近では,高中性脂肪血症,低 低 比 重 リ ポ 蛋 白 ― コ レ ス テ ロ ー ル 値(LDL―C) 1 20 HDL血症に加えて,高血圧,糖尿病を合併した,内臓 mg/dL 以 上,お よ び 二 次 予 防 患 者 の LDL―C 100 脂肪に過剰に中性脂肪が蓄積した病態である,いわゆ mg/dL以上の脂質異常症患者にエゼチミブを追加併 るメタボリックシンドロームの患者も,日本動脈硬化 用した.患者はすべて成人男性または閉経後女性で, 学会の 『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療 膠原病,甲状腺機能障害などの二次性高脂血症患者お ガイド2 008年版』において重要視され,脂質異常症患 よび重篤な肝機能,腎機能障害患者ならびに重症な家 者のもつ冠危険因子に応じてリスクの重みづけを行い, 族性高脂血症は除外した. きめ細かい管理を目指すことを目標としている. エゼチミブの投与方法は,初回投与1日1回5mg そこで今回,フィブラート系薬治療中の患者で,高 から開始し,通常投与量1 0 mgへ変更した.血清脂質に コレステロール血症を示す脂質異常症患者を対象とし 関する検査は,エゼチミブ投与前1年間とエゼチミブ て,コレステロール吸収阻害薬エゼチミブ10 mgを 投与後1年間にわたり空腹時採血を1カ月ごとに行っ フィブラート系薬に併用投与し,1年間の血清脂質改 た(図1) .酵素法により総コレステロール値 (TC),ト 善効果とその安全性について検討したので報告する. リグセリド値(TG)を,沈殿法によりHDL―コレステ ロール値 (HDL―C)を,埼玉医科大学病院内分泌・糖尿 * 埼玉医科大学内分泌内科・糖尿病内科 病内科,熊谷外科病院糖尿病センターの施設内で受診 ― ( 2061)― 原 著 採 血 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 0 6カ月 12カ月 18カ月 24カ月 Beza群 ベザフィブラート (n=26) エゼチミブ併用 Feno群 フェノフィブラート (n=14) エゼチミブ併用 図1 投与方法 表1 エゼチミブ投与前(4 0例)の患者背景 当日に測定した.愛康クリニックでの検体は,受診当 日に血清分離を行い,後日BMLで測定した.LDL―Cは, 年齢(歳) 性別(男/女) BMI (kg/m2) 積水メディカ製キットで直接法およびFriedewaldら の方法(F式) により,それぞれ測定,算出したが,TG が40 0 mg/dL以上の症例は除外した. さらに,小型高密度LDL(small, dense LDL),および 中間比重リポ蛋白 (IDL)を 反 映 し て い る mid―band lipoproteinを,積分的に評価するためエゼチミブ投与 前1年間,エゼチミブ投与後1年間の合計2年間,1 カ月ごとに3%ポリアクリルアミドゲルディスク電気 5 68 . ±78 . 18/2 2 267 . ±41 . TC (mg/dL) TG (mg/dL) HDL―C (mg/dL) 2 409 . ±36 12 08 . ±7 8 5 73 . ±1 4 LDL―C (mg/dL) 冠動脈疾患 高血圧 糖尿病 合併症なし 14 01 . ±3 9 75 . % 325 . % 700 . % 200 . % 泳動法(LipoPhorÑ) を実施し,リポ蛋白の質・量を同 時に測定し時間的要素を考慮して解析を行った. われわれは,以前から電気泳動像を写真撮影し,電 native LDL,small LDLのそれぞれの値を反映してい 子化した画像から濃度定量する方法を確立し,3%ポ る可能性があるので,それを測定し,上記の成績とも リアクリルアミドゲルディスク電気泳動法を用いるこ 比較した.Kostapanosら6)も3%ポリアクリルアミド とで,高脂血症患者のパターン解析を行ってきた.特 ゲル電気泳動法 (Lipoprint LDL system:Quantimet- に,IDL は mid―band lipoprotein で 評 価 し,加 え て rixÑ) でAUCを求め,同様な方法でリポ蛋白を評価し small, dense LDLおよびnative LDLは,以前われわれ ているが,ゲルの長さおよび泳動時間が長いことがわ 3) が報告した方法と同様に行った .簡単に説明すると, れわれの方法と異なる.Kostapanosら6),およびわれわ 3%ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法を実 れ3)が用いているAUCは,VLDLのピークの移動度を 施し,その後,常光製のデンシトメータ(Densitron 0,HDLのピークの移動度を1とするが,われわれは Finger Printer:Jokoh,Japan) で,超低比重リポ蛋白 特にmid―band lipoproteinは01 . 0から01 . 8まで,native (VLDL),mid―band lipoprotein,native LDL,small LDLは01 . 8から04 . 0まで,small LDLは04 . 0以上を,それ LDLのそれぞれの曲線下面積(area under the curve: ぞれのAUCとした.これらのAUCは,超遠心で得られ AUC)の割合(%) を算出し,TCに乗じてそれぞれの値 たsmall, dense LDLのコレステロール量とよく相関す (mg/dL)と し た.ま た,F 式 か ら 得 ら れ た LDL―C ること,および臨床的に広く使用されている沈殿法に (mg/dL)がIDL,native LDL,Lp (a) などを反映すると よるHDL―CおよびLDL―Cとよく相関することを以前 4, 5) 報告されている .したがって,F式から得られた 報告した3). LDL―Cに,mid―band lipoprotein,native LDL,small また,肝機能,腎機能の血液生化学検査も併せて実 LDLに対するそれぞれのAUCを10 0%とした際の, 施し,臨床症状ならびに副作用の有無を追跡した.す mid―band lipoprotein,native LDL,small LDLのそれ べての血清脂質の比較はpaired t―testで行い,有意水 ぞれの割合(%) を乗じた値も,mid―band lipoprotein, 準は両側5%とし,測定値は平均値±標準偏差 (Mean ― ( 2062)― * LDL−C TG HDL−C * LDL−C TG HDL−C 12% −15% −10% 12% −19% * −10% * ** ** ベザフィブラート+エゼチミブ(n=26) フェノフィブラート+エゼチミブ(n=14) * :p<0.05,**:p<0.001 vs エゼチミブ投与前 図2 エゼチミブ併用1年後の血清脂質の変化率 2,000 ±SD)で表記した. A native LDL 成 績 1.患者背景 表1に,対象となった患者背景を示す.年齢は53歳 mç/dL×Month * :p<0.05 vs Before * 1,000 から65歳(平均568 . 歳),男性1 8例,女性2 2例の計4 0例で, BMI (body mass index) の平均は2 67 . kg/m2であった. 0 基礎疾患として糖尿病 (700 . %),高血圧 (3 25 . %)があり, Before エ ゼ チ ミ ブ 投 与 前 の TC の 平 均 値 は24 09 . mg/dL, LDL―Cの平均値は1 4 01 . mg/dL,TGの平均値は1 208 . 200 B small, dense LDL mg/dLで,HDL―Cの平均値は5 73 . mg/dLと比較的高 2.結 果 1)エゼチミブ併用による血清脂質の変化 図2に血清脂質およびリポ蛋白中の脂質値の推移を 示す.エゼチミブ10 mg投与により,1年後のBeza群, * mç/dL×Month 値であった. After Ezetimibe treatment :p<0.05 vs Before * 100 Feno群のTC,LDL―C,TG,HDL―Cはそれぞれ有意 に改善し,Beza群,Feno群のそれぞれのLDL―Cは1 5% 0 Before (1402 . ±231 . →1191 . ±98 . ,p<00 .0 1),1 9% (1 3 05 . ±2 25 . After Ezetimibe treatment →1058 . ±93 . ,p<00 . 01) ,TGは10% (1 8 22 . ±1 85 . →1 639 . 150 ±123 . ,p <00 . 5) ,10% (17 85 . ±1 55 . →1 6 06 . ±94 . ,p < C mid−band lipoprotein * 00 . 5)低下し,HDL―Cは1 2% (4 96 . ±42 . →556 . ±53 . ,p< :p<0.05 vs Before . 2) 2)ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル デ ィ ス ク 電 気 泳 動 法 (LipoPhor Ñ) での解析(エゼチミブ投与前後の全例 (40例) mç/dL×Month * 00 . 5), 12%(538 . ±28 . →603 . ±45 . ,p<00 . 5) 上昇した (図 100 50 での解析) エ ゼ チ ミ ブ 投 与 前 後 の 全 例(4 0例)に お け る mid― 0 band,small, dense LDL,native LDLを,以前われわ Before と比較したところ,良好な相関が得られ (mid―band: After Ezetimibe treatment れが報告した方法とF式から求めたLDL―Cからの成績 図3 エゼチミブ投与前後における積分的解析結果 ― ( 2063)― 原 著 相関係数09 . 79,p<00 .0 01;small, dense LDL:相関係 ており,フィブラート系薬とエゼチミブの併用が一般 数09 . 69,p<00 .0 0 1;native LDL:相関係数09 . 60,p< 的となっている. 00 .0 01),今回得られた高TG血症,低HDL血症患者にお 今回われわれは,フィブラート系薬投与下で,高リ いても以前のわれわれの成績と一致した7).次に,TG スク群のLDL―C 12 0 mg/dL以上および二次予防群の 400 mg/dL以下でのエゼチミブ投与前後の全例(4 0例) LDL―C 10 0 mg/dL以上の脂質異常症患者40例を対象 におけるLDL―Cとsmall, dense LDL,mid―band lipo- とし,エゼチミブを投与し,よりきめ細かい診療を行 8) proteinと時間的要素 を考慮した積分的解析の関係を うための管理とリスク低減を目標として,エゼチミブ 示す.エゼチミブ投与前後で,有意にLDL―C曝露量 5mgから投与開始し,10 mgへ増量してフィブラート (LDL―C濃度×曝露時間),small, dense LDL曝露量 系薬とエゼチミブの併用の安全性と効果について検討 (small, dense LDL濃度×曝露時間),mid―band lipo- を行った.対象症例におけるエゼチミブ投与前のTC protein曝露量 (mid―band lipoprotein濃度×曝露時間) の平均値は2 4 09 . mg/dL,LDL―Cも14 01 . mg/dLであっ が有意に低下した(図3) . た.エゼチミブを投与することによりLDL―Cを管理 3.副作用および臨床検査値異常 目標値である,高リスク群の1 2 0 mg/dL未満まで,二 臨床検査値は,肝機能,腎機能検査値の臨床上有意 次予防の1 0 0 mg/dL未満まで低下させることが可能で, な変動を認めず,特に肝胆道系酵素の異常は認めな その達成率は1 0 0%であった. かった. フィブラート系薬での脂質低下不十分例に対する過 去のエゼチミブ併用時の成績としては,脂質変化率に 考 おいてTC (−1 8%) ,LDL―C (−1 5%)で追加低下効果 察 が認められている9,10).今回の検討においても,TC, 今日の日常診療においては,高中性脂肪血症,低 LDL―Cが有意に低下し併用効果が認められた.また, HDL血症に対して,フィブラート系薬が高脂血症治療 それぞれのフィブラート系薬を投与した血清脂質の変 薬の第一選択薬として使用される場合が多く,高中性 化率も,LDL―Cが15%,19%と,ベザフィブラート, 脂肪血症,低HDL血症是正効果はほぼ証明され,安全 フェノフィブラートとの併用により,同程度の脂質改 性についても確立されている.一方,実地医家が日常 善効果が得られることが示された.HDL―Cについては, 診療において比較的高頻度に診療する高コレステロー 対象症例の投与前値が5 73 . mg/dLと高値であったに ル血症患者には,HMG―CoA還元酵素阻害薬が頻繁に もかかわらず,エゼチミブ併用による増加が認められ 使用されるが,フィブラート系薬とHMG―CoA還元酵 た. 素阻害薬の併用は,横紋筋融解症,腎障害,肝障害を HDL粒子はコレステロール逆転送系 (reverse cho- 考慮すると慎重に行う必要がある.また,高血圧や糖 lesterol transport)において,末梢組織からのコレステ 尿病患者は,CADの危険因子を有する場合があり,し ロールを汲み出す役割を有し,HDL―Cは虚血性心疾患 ばしば高コレステロール血症,高中性脂肪血症,低 と負の相関をもつことが知られている11).また,最近 HDL血症を有している.その場合,フィブラート系薬 フェノフィブラートによる2型糖尿病患者97 , 95例を の単独,通常用量では効果が不十分な場合が多い.日 対象とした大規模介入試験の結果が報告されている. 本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防のための脂質 その成績によれば,HDL―Cが有意な上昇を示し一定の 異常症治療ガイド2 0 0 8年版』においても,脂質異常症 効果が得られているが,今回のわれわれの成績によれ 以外の危険因子にも十分に配慮し,それらのリスクが ば,エゼチミブと併用することでさらなるHDL―Cの上 集約されたマルチプルリスクを把握することに重点を 昇が期待でき,心血管イベント予防に大きく寄与する 置いており,実際の治療においてはCADの有無や主要 可能性がある.今回データに示していないが,特に なCADの危険因子の数などを加味して脂質管理目標 ベースラインのHDL―Cが35 mg/dL以下の患者におい 値を設定し,よりきめ細かい診療を行うための管理と ても,エゼチミブ併用時におけるHDL―Cの変化率に リスク低減を目標としている.既に米国では,高コレ フィブラート系薬での差を認めず,フィブラート系薬 ステロール血症,高中性脂肪血症を合併した「複合型 の違いによる影響を認めないことが示唆された.わが 脂質異常症」に対してエゼチミブを用いる際, 「フェノ 国のように比較的HDL―Cが高値の患者群においても, フィブラートとの併用療法」の効能・効果が承認され HDL―Cをさらに上昇させることにより,フィブラート ― ( 2064)― 系薬およびエゼチミブの動脈硬化予防の相乗作用が期 床所見は認めず,肝胆道系酵素の異常もなく,むしろ 待される.また,TGについても,エゼチミブ投与前後 低下傾向を示し,フィブラート系薬とエゼチミブ併用 で有意な低下が認められた. の一定の安全性と効果が認められた.したがって,長 なお,服薬回数ではベザフィブラートは1日2回, 期併用継続可能なフィブラート系薬とエゼチミブ併用 フェノフィブラートは1日1回であり,1日1回服用 に よ り,LDL―C 曝 露 量 (LDL―C 濃 度 × 曝 露 時 間) , のエゼチミブと併用する際には,服薬コンプライアン small, dense LDL曝露量 (small, dense LDL濃度×曝露 スの面で同じタイミングで服薬できるフェノフィブ 時間) ,mid―band lipoprotein曝露量 (mid―band lipopro- ラートが併用しやすいと思われる. tein濃度×曝露時間) が有意に低下したことを考慮す 今回,われわれはフィブラート系薬で治療している ると,フィブラート系薬とエゼチミブ併用によって心 脂質異常症患者を対象として,コレステロール吸収阻 血管イベント抑制効果が大いに期待できる. 害薬エゼチミブ10 mgの併用を行った症例での,CAD を有する患者,糖尿病患者,マルチプルリスクを集簇 は12 0 mg/dL未満に,それぞれ到達した個々の症例の 2年間のリポ蛋白の詳細な解析調査をも解析した.以 LDL―Cが12 0 mg/dL以上および二次予防患者のLDL― 前われわれはLDL―Cを低下させた場合,small, dense Cが1 00 mg/dL以上の脂質異常症患者を対象に,エゼ LDLおよびIDLを反映するmid―band lipoproteinが低 チミブ1日1回10 mg投与による血清脂質改善効果お 下し,small, dense LDLおよびmid―band lipoproteinが よび安全性について検討した. 消失する閾値を認め,それらをsmall, dense LDL消失 1)エゼチミブ併用投与におけるBeza群,Feno群 している患者のLDL―C値を10 0 mg/dL未満に,あるい 3) ま と め フ ィ ブ ラ ー ト 系 薬 投 与 下 で,高 リ ス ク 群 患 者 の 閾値およびmid―band lipoprotein消失閾値と名づけた . でのLDL―Cの脂質変化率は,それぞれ15%,19%であ さらに,その閾値は患者1人ひとりで異なる値を示す り,有意なエゼチミブ併用効果が認められた. 7) ことを報告している . 2)臨床上問題となる有害事象は認められなかった. 安全性において,フィブラート系薬で主にみられる 以上の成績より,エゼチミブ1 0 mg投与はフィブ 臨床検査値異常はCPK,AST,ALT,―GTP,CPK ラート系薬投与下の脂質異常症患者に対しても,十分 などの上昇であるが,投与中止するほどの副作用は調 な血清脂質改善効果と安全性を示す有効な治療法であ 査期間中1例も認めなかった.また,エゼチミブ併用 ることが明らかとなった. における副作用で最も頻度が高いのは消化器症状とい われているが,今回の検討では,臨床検査値異常は認 められず,中止した症例は1例もなかった.その他の 肝機能,腎機能の臨床検査値についても異常は認めら れず,エゼチミブに起因する副作用もなく長期投与に よる十分な安全性が認められた.なお,エゼチミブの TC低下作用の一部に肝細胞から胆汁へのコレステ ロール排泄亢進も寄与しているといわれている12).し たがって,エゼチミブ投与初期より胆汁中のコレステ ロール含量が増加し,コレステロール由来の胆石形成 が危惧される.フィブラート系薬の投与も,同様に胆 汁中のコレステロール含量が増加するとの報告もある. しかしながら,フィブラート系薬とエゼチミブの長期 にわたる併用により,結果的に糞便中のコレステロー ル排泄量は増加し,むしろ,胆汁中のコレステロール 含量が低下し,コレステロール由来の胆石形成が予防 される可能性もある. 今回のわれわれの成績では,胆石形成を疑わせる臨 文 献 1)Inoue I, Katayama S:The possible therapeutic actions of peroxisome proliferator―activated receptor (PPAR)agonists, PPAR agonists, 3―hydroxy― 3―methylglutaryl coenzyme A(HMG―CoA)reductase inhibitors, angiotensin converting enzyme (ACE)inhibitors and calcium(Ca)―antagonists on vascular endothelial cells. 20 04;4:3 5―52. 2)井上郁夫,高橋慶一,片山茂裕:耐糖能異常にみられ 7 8. るリポ蛋白異常.日本臨牀 19 96;54:26 72―26 3)Nakano T, Inoue I, Seo M, et al:Rapid and simple profiling of lipoproteins by polyacrylamide―gel disc electrophoresis to determine the heterogeneity of low―density lipoproteins(LDLs)including small, dense LDL. Recent Pat Cardiovasc Drug Discov 20 09;4:3 1―36. 4)Bachorik PS, Ross JW;for the National Cholesterol Education Program Working Group on Lipoprotein Measurement:National Cholesterol Education Program Recommendations for Measurement of Low― ― ( 2065)― 原 Density Lipoprotein Cholesterol:Executive Summary. Clin Chem 19 95;4 1:1414―1420. 5)井上郁夫,粟田卓也,片山茂裕ほか:LDL―C測定試薬 の特異性評価.医学と薬学 2008;60:553―557. 6)Kostapanos MS, Milionis HJ, Lagos KG, et al:Baseline triglyceride levels and insulin sensitivity are major determinants of the increase of LDL particle size and buoyancy induced by rosuvastatin treatment in patients with primary hyperlipidemia. Eur J Pharmacol 2 0 0 8;590:3 27―332. 7)Inoue I, et al:Quantitative and qualitative effect of ezetimibe and HMG―CoA reductase inhibitors on LDL―cholesterol:Is there disappearance thresholds for small dense LDL and IDL?(submission) 8)井上郁夫:家族性複合型高脂血症.日本臨牀 20 07; 65 (増7) :309―320. 著 9)Farnier M, Freeman MW, Macdonell G, et al;for the Ezetimibe Study Group:Efficacy and safety of the coadministration of ezetimibe with fenofibrate in patients with mixed hyperlipidaemia. Eur Heart J 5. 200 5;26:89 7―90 1 0)McKenney JM, Farnier M, Lo KW, et al:Safety and efficacy of long―term co―administration of fenofibrate and ezetimibe in patients with mixed hyperlipidemia. 87. J Am Coll Cardiol 200 6;47:1 58 4―15 11)Gordon DJ, Rifkind BM:High―density lipoprotein― the clinical implications of recent studies. N Engl J 16. Med 198 9;32 1:13 11―13 12)井上郁夫:エゼチミブの作用と効果.Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌200 8 (金沢康徳,武谷雄二,関原 3. 久彦ほか編),中外医学社,東京,20 08;pp. 88―10 ― ( 2066)―
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