ニュートリノは私たちの体を毎秒1兆個以上貫通している!?

ニュートリノは私たちの体を毎秒1兆個以上貫通している!?
Filename=neutrino-penetration-through-our-body20151110
2015 年のノーベル物理学賞の対象となったニ ュ ー ト リ ノ 研 究 に つ い て 紹 介
す る . 理由はニュートリノはいろいろな意味で原発,放射能にも地球環境にも関
係しているからである.今年のノーベル物理学賞は梶田隆章教授(東京大宇宙線
研究所長)とアーサー・マクドナルド氏に授与された.
核分裂の際に,ニュートリノも生成され,解放されるエネルギーの約4%を占
めているが,他の物質と相互作用が極めて小さいので熱エネルギーとして利用で
きない.ちなみに,最初の自立的核分裂連鎖反応を実現したフェルミがまだイタ
リアにいた 1930 年代に放射性崩壊のひとつであるベータ崩壊の理論で未知の微粒
子に中性微子という意味のイタリア語ニュートリノを使ったことに始まる.
地球の深部の熱源の約半分が地殻中のウラン 238 などの放射性物質から崩壊熱
であることもニュートリノの観測データの分析から近年分かったのである.
「(太陽からくる)ニュートリノは私たちの体を毎秒 1 兆個以上貫通している」
と言われて,本当か,と不思議に思う,いや非常に驚く人が多いと思う.この不
思議を理解する鍵はふたつ,ひとつは原子の構造と,もうひとつはニュートリノ
は電気的に中性でかつ非常に小さい粒子で,他の物質粒子(電子など)とほとん
ど相互作用をしない性質にある.ニュートリノは鉄の中でも約 128 光年という距
離を素通りするくらい他の粒子とほとんど相互作用しない.
原子はほとんどかっらぽで,その重さの 99%以上をしめる原子核が中心にあり,
正の電荷をもっている.たとえると,原子の大きさを東京の山の手線だとすれば,
原子核はドッジボール程度の大きさに過ぎない! 原子核の周囲を負の電荷をも
つ電子の集団がある規則(パウリ排他原理(注1))で「配列」されている.電子と
原子核は電気的引力が働いていて,この強さは電子と原子核の間の重力に比べて
圧倒的に大きい(注 2)
.電子同士は電気的反発力が働く.すなわち,原子はほと
んど空っぽとは言え,その内部には強烈な電気力が働くので,電気的に中性で,
非常に小さい粒子しか貫通できない.中性子とニュートリノがその条件に合って
いる.原子核の粒の一つの陽子とニュートリノを比べると、地球と米粒とを比べ
るみたいに小さい.ニュートリノについて中性微子という翻訳は絶妙である.ま
た,ほとんど空っぽの原子からなる物体が「固い」理由や手でコップをつかめる
理由も電子間の強い電気的反発力とパウリ排他原理にある.
(注1)パウリが発見した排他原理により,電子の状態は量子数という離散的
な数値の一組で指定され,1つの状態は1つの電子しか占有できない.た
とえると,2 つまたは 3 つ一組の数字記号で決まる劇場の指定席には 1 人し
か座れないようなものである.
(注2)電気的引力により原子が潰れない理由は,電子が単純な「粒子」では
なく,粒子的性質と波動的性質を併せ持つ量子的粒子であり,位置と運動
量の間の不確定性関係が成り立つことにある.この関係によれば,位置の
不確定さが小さくなる(=局所的に閉じ込められると考えてよい)と,そ
の値に反比例して,運動量の不確定さが大きくなる(=速さが大きくなる
と考えてよい)
,すなわち運動エネルギーが急激に大きくなるのである.ま
た,実は一番内側の電子は通常は決して原子核の回りを回っていない!
電子のような荷電粒子が円運動のような加速度運動をすると,短時間あた
り加速度の 2 乗に比例するエネルギーを外部に放出して,極短時間に原子
は潰れてしまうことになる.