活動的で協同的で反省的な 読書コミュニティ(IRC)の創出 学生

活動的で協同的で反省的な
読書コミュニティ(IRC)の創出
学生一人ひとりが想像の翼を広げる教養教育を目指して
水野邦太郎
福岡県立大学
IRC プロジェクトの目的
Reading books から Sharing
books へ
本を紹介し語り合う読書コミュニティの創出
個人主義的・認知主義的な読書から、社会的実
践としての読書活動を実践する
入学後 英語が好き (30%)
IRCプロジェクトの背景
問題意識 : これまでの学校教育では、個人の認
知(individual cognition)に焦点化
思考を「個人の頭の中」の出来事とし
個人がいかに効率よく効果的に知識をアタマ
の中に蓄積し適切に引き出せるか
個人の能力の向上を指向する
認知主義・個人能力主義の学習観 (石黒 1990,
1998; 佐伯 1998; 佐藤 1996; 佐藤 1999)
教師・教科書中心主義の授業
教師・教科書中心主義の授業(リーディング)
ヴィゴツキーの三角形の行為モデル
学生にとって教科
書が難しすぎる・
興味関心がない
【主体】
■学生
【道具】 ■教師から与えられた一冊の教科書
【対象】
■問題を解く
■個人が高得点・試験合格・単位
主体 VS 道具
英語=試験科目(交換価値)
道具に問題がある
英語・教科書=心理的抵抗
【道具】 ■教科書
難しい
面白くない
苦痛,憂鬱
個人の能力・性格に原因?
【主体】
【対象】
■学生
■訳す
■問題演習
学習者中心主義(Learner-centeredness)
新しい道具
■ Graded Readers
■ 絵本・児童書(国語の教科書の原文)
■日本の小説の英訳 ■漫画・アニメの英訳
3つの心理的欲求
(Deci & Rian, 1995)
【介入】
【道具】 ■本
? ??
【主体】
■学生
自律性
有能性
読書
【対象】
■読書
関係性
「学びの共同体」創り (佐藤, 1999)
「勉強」の文化から決別して、「学び」型授業への転換
① 世界づくり
② 仲間づくり
3つの対話的実践
③ 自分づくり
教師は、①②③が互いに響き合うように授業をデザイ
ンし、 「学びの共同体」への「参加」を誘う
洋書読書を媒介とした学びの共同体(①②③)
いかにデザインできるか?
読書コミュニティ創りの全体構造の可視化
<コンセプト>
<心理的道具>
■学びの共同体
■マルチ・コンピタンス
■英語
■日本語
エンゲストローム(1987)
<物理的道具>
<テクノロジー>
■洋書(GR, 絵本,児童書,漫画)
■付箋 ■教室 ■図書館
■パソコン ■インターネット
■Amazon.co.jp
■IRC(http://ilc.eknowhow.jp)
【道具】
【成果】
■ Reading for pleasure
■ 読書コミュニティの創出と拡張
■学生 (一人の読者)
【主体】
【対象】■洋書読書
■授業外読書
■1冊/週
■Reaction Report
■コメント投稿
■教室で本の紹介
【ルール】
■授業のデザイン(教師) ■本の紹
介(学生) ■本の執筆・出版(出版
社) ■本の購入・管理・授業サ
ポート(司書) ■サイトの管理・運
営(企業)
【コミュニティ】
■クラス ■他のクラス ■他大学 ■出版社
■図書館 ■ eラーニングの企業
【分業】
Interactive Reading Community
Since 1999
「教室」と「インターネット上」に、IRC をどのよ
うに創出してきたか
IRC プロジェクト
『大学生になったら洋書
を読もう』アルク , 2010
(教員・学生 総勢40名)
人間社会学部(180名)
1年生
必修授業
Reading & Listening
他大学が参加
(山形,大東文化,慶応
上智,日大,学習院,同
志社,福岡大学,福岡
県立大学,熊本,宮崎
県立看護,琉球)
利用の活性化
(800冊/月)
教室での活動の手順
研究室と大学図書館に置かれた洋書1800冊(絵本
300冊、Graded Readers 900冊、日本の高校生・
大学生のために書き下ろされた本300冊、宮崎 駿
、手塚治虫、井上雄彦、尾田 栄一郎など漫画の英
訳300冊)
自分が読みたい本を選んで借り、「毎週1冊のペー
ス」で本を読んでいく(30km以上の本は、2・3週間か
けてよい)。
教室での活動の手順
教室では、毎週メンバーを変えて4人グルー
プをつくり
それぞれが「今週読んできた本」を紹介し合
う(一人あたり3分)
Joint attention (Tomasello, 1999)
他者のいる読書環境
教室で仲間にこの本を紹介するという状況に
埋め込まれた読書活動
グループの仲間に自分の<読み>を物語る
ことができるかどうかを通じて、自分のその本
に対する理解度をチェックすることができる。
Peer Evaluation Sheet
アイ・コンタクト
1 2 3
段取り力 (話の手順 & 発表時間)
1 2 3
声の大きさ
1 2 3
要約力 (質 & 量)
1 2 3
パッション
1 2 3
コメント力 (オリジナリティ& 切り口) 1 2 3
引用力
1 2 3
Peer Evaluation Sheet
Interesting (おもしろい),educational (ためになる),
moving (感動的な),heart-moving (心温まる),
motivating (やる気を起こさせる),stimulating (良い刺激
になる),exciting (ワクワクする),wonderful, fantastic,
excellent (すばらしい),informative (情報量の多い),
influential (影響力のある) entertaining (楽しめる),
thought-provoking (考えさせる),well-prepared (よく準
備できた),well-though-out (よく考えられた),wellorganized (しっかりした構成の)
Comment
評価の仕方
単位取得の必要条件 (1km/400語)
10冊以上 or 100km (ただし8冊以上)
A 取得の必要条件
13冊以上 or 130km (ただし10冊以上)
RR と コメントの質・量
ベストプレゼン賞の回数
洋書のPOPづくり
読書コミュニティ創り
インターネット上で、IRC を媒介に、読書コミ
ュニティをどのように創出していけるか?
Interactive Reading Community
(2009年、2010年)
九州・沖縄
福岡県大,福岡大学
熊本大学、宮崎県立看護大学
熊本保健科学大学、琉球大学
関西
同志社大学
関東
上智大学,明治大学
東北
山形大学
各本に専用のBBSを設置 (現在3500個)
Book data
Genres
EPER Level
Reading Distance
Levels of difficulty
Book Rankings
Book Description
Reaction Report
Comment
Reaction Report
Reaction Report
Reading Fan Club
お気に入りの人を通した本との出会い
自分のお気に入りの人が見
つかったら、その人を My
Page 登録して,その人の最
近の投稿をすぐにチェックで
きる
自分の投稿を、毎週、楽し
みにしている人がいることは
,モチベーションに繋がる
B さんのファンになる
B さん
B さんの最新の投稿
A さん
状況の自動告知
コメント
読破距離数を現在進行形で視覚化する
読破冊数を現在進行形で視覚化する
洋書 POP 大賞 (2012)
アイデア賞 (2012)
IRC への参加
学生にとっての意味
世界づくり
仲間づくり
自分づくり
170名にアンケート(92項目)
世界づくり
洋書との出会いと対話
理解・解釈 (スコアのためでなく)
理解力
書く → 深く読む(理解)
解釈力
書く → 深く読む(解釈)
仲間づくり
読書コミュニティ創りへの「参加」
文化的実践共同体への「参加」としての学
び (佐伯, 1998)
コミュニティの一員として「参加」
互恵的な関係づくり
自分づくり
自分のもの見方・感じ方を吟味する
本の読み方は十人十色
本の読み方は十人十色
入学後 英語が好き (30%)
IRC 受講後 苦手意識が減る
教養教育の一環としての IRC の存在意義
“Culture” as the “ growth of the
imagination in flexibility, in scope, and in
sympathy (Dewey, 1915, p.56).”
教養とは想像力の成長ということであり,
柔軟性に富み,見通しを持ち,共感感情
を持つことができるような方向へと成長し
(p.124 『学校と社会・子どもとカリキュラム』
市村尚久)
Culture の語源
“Culture” etymologically means “ the
tilling of land ”.
教養(想像力)を cultivate する
「読書」を通じて実践する
学生の言葉
私はこのIRCを通して本から学びとったもの を RR
を書くことによっていろいろな人と共有できたと思い
ます。またRRを書いた人が学びとったことや感じた
ことも、私がそのRRを読むことで私の中に還元され
てきたと思います。
それによって、皆それぞれ違った考えを持ち、違っ
た考えの在りかたがあることを知り、自分の考えの
在り方についても多くの影響を与えました。
学生の言葉
本と自分との関係性を、閉じた関係のみにと
どめず、もっと開けた関係性として他の者にも
紹介し、異なる国、異なる世代、異なる言語を
持った人たちが一堂に会し、最終的にはそう
いった関係の円環性によって、本と人、人と
人とがつながればいいな、と思いました。
洋書の読書を通じて
「想像の翼(the wings of imagination)」 を広げる