心エコー検査が発見の契機となった先天性左側心膜欠損症の一例 独立行政法人国立病院機構浜田医療センター 臨床検査科 1、同循環器内科 2 金海奈奈 1 小杉晴香 1 小林妙子 1 五歩池加奈 1 遠藤竜也 1 中井稔 1 明石晋太郎 2 1. はじめに 心膜欠損症は比較的稀な疾患であり、以前は剖検や開胸時に偶然発見されることが多かっ た。近年、心エコー検査による報告も多くなっている。今回我々は、心エコー検査にて偶 然発見した先天性左側心膜欠損症例を経験したので報告する。 2. 症例 60 代男性、前胸部不快感・呼吸困難にて当院循環器内科受診となった。 来院時身体所見:脈拍 58 回/分、血圧 125/55mmHg、SpO2 99%、体温 36.7℃ 来院時心電図所見:HR69bpm、左軸偏位、全胸部誘導にて R 波増高不良、PAC 二段脈、 Ⅰ誘導にて ST 上昇 心エコー所見:左側臥位で左室が中部から心尖部にかけて下垂し心室中隔は奇異性運動を 呈していた。患者を仰臥位にすることで正常なエコー像が得られ、心膜欠損症が疑われた。 心臓 CT 検査所見:冠動脈有意狭窄所見は認められなかった。左側心膜の欠損像を認めた。 3. 考察 心エコー検査で傍胸骨長軸像にて左室中部から心尖部の下垂、M モード法にて心室中隔の 奇異性運動が本疾患を疑うきっかけとなった。心室中隔の奇異性運動の原因となる右心負 荷所見などはエコー上認められなかったため、本疾患を疑い患者を右側臥位で評価したと ころ心室中隔の奇異性運動は改善し、本疾患に特徴的な所見を得ることが出来た。したが って、原因不明の心室中隔の奇異性運動を認めた際には、本疾患を念頭に積極的に患者の 体位変換を行い評価することが重要である。 4. 結語 今回我々は、心エコー検査が発見の契機となった先天性左側心膜欠損症を経験した。左室 心尖部の下垂や原因不明の心室中隔の奇異性運動が見られた場合には、本疾患を疑い体位 変換し評価を行なうことが重要である。 心エコー検査が発見の契機となった 先天性左側心膜欠損症の一例 NHO 浜田医療センター 臨床検査科1 同循環器内科2 金海奈奈1 難波美樹1 小杉晴香1 前田陽子1 小林妙子1 藤原晃子1 五歩池加奈1 遠藤竜也1 中井稔1 明石晋太郎2 【 はじめに 】 心膜欠損症とは、心膜とそれを覆う肺の臓側胸膜との形成不全から欠損口を生じる比較的稀な疾患である。以前は剖検や開胸時に偶然発見 されることが多かったが、近年では心エコー検査による報告も多くなっている。 今回我々は、心エコー検査にて偶然発見した先天性左側心膜欠損症例を経験したので報告する。 【 症例 】 【 血液検査データ(第1病日) 】 【患者】 60代男性 CRP 0.05 mg/dL BNP CK 560 IU/L WBC 88.5 10^2/μL 13 IU/L RBC 264 10^4/μL 20.2 10^4/μL 【主訴】 前胸部不快感・呼吸困難 【現病歴】 末期腎不全(他院にて血液維持透析中)、高血圧 【家族歴】 特に無し CK-MB 【来院時身体所見】 BUN 56.7 mg/dL PLT 脈拍58回/分、血圧125/55mmHg、SpO2 99%、体温36.7℃ CRE 7.84 mg/dL Hgb 【 胸部レントゲン(第1病日・臥位) 】 【 心電図(第1病日) 】 123.8 8.5 pg/dL g/dL 【 心エコー所見(第2病日) 】 ・LVDd 45mm ・LVEF 64% (Teichholz) ・IVSth(base)=11mm ・LVDs 29mm ・FS 35% Parasternal View ・PWth=16mm ・Moderate TR TR-PG=43mmHg ・IVC 9mm R.C.(+) Apical 4ch M mode RV LV LA RA Left Lateral Position Parasternal View M mode M mode Right Lateral Position Supine Position 【 CT画像 】 RV LV 拡大像 健常者の心膜像 【 考察 】 心膜欠損症は左側に生じる場合が多く欠損部分の範囲は様々であるが、ほとんどが無症状で経過する疾患である。しかし中には心臓の 一部が欠損部位に嵌頓することにより胸痛や失神発作を起こすことがある。したがって、このような症状を訴える症例では本疾患も念頭に 置き、検査を進める必要がある。 心室中隔の奇異性運動は本疾患以外にも心房中隔欠損症のような右心容量負荷疾患、WPW症候群、左脚ブロック、開心術後など多岐に わたる。したがって、これらを鑑別することが本疾患への診断の足掛かりとなることから、心エコー所見のみならず心電図所見、聴診所見など 多方面からアプローチすることが重要であり、本疾患が強く疑われた際には、積極的に右側臥位での評価を行う必要がある。 本疾患に特徴的な心室中隔の奇異性運動は右側臥位で描出に苦慮する症例も少なくない。その際には、心窩部アプローチなど多角的な 評価が必要である。 National Hospital Organization Hamada Medical Center
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