女子大学新入生における「食事づくり力」と 習慣的な食物摂取の関連

博士論文内容の要約
女子大学新入生における「食事づくり力」と
習慣的な食物摂取の関連
The
Association between the Meal Preparation Competency
and Habitual Dietary Intake
a m o n g F i r s t - Ye a r ‐ F e m a l e U n i v e r s i t y S t u d e n t s
2015 年
指導教員
武見ゆかり教授
1202001
氏名
駒場
千佳子
KOMABA、 Chikako
女
子
栄
養
大
学
食 生 活 に お い て 、食 事 を 自 分 で つ く る か 加 工 食 品 や 外 食 を 利 用
するかは、時間的制約、調理技術、手作りに関する価値観、加工
食 品 の 入 手 環 境 な ど 様 々 な 要 因 に よ っ て 決 定 さ れ る 。加 工 食 品 や
外 食 の 利 用 は 、食 物 摂 取 内 容 の 偏 り な ど 食 生 活 上 の 問 題 に 関 連 し
て いる と の 報告 が みら れ る 。栄養 学 の目 的 は 、その 実 践に よ り 望
ま し い 食 物 摂 取 を 実 現 し 、健 康 を 維 持 増 進 す る こ と に あ る 。今 後 、
食 の 外 部 化 が 一 層 進 む と 予 測 さ れ る 社 会 の 中 で 、栄 養 学 の 実 践 に
お け る 食 事 づ く り の 意 義 を 明 確 に す る た め に も 、食 事 を つ く る こ
とと望ましい食物摂取内容との関連を検討する必要がある。
そ こ で 、本 研 究 で は 、女 子 大 学 生 が 自 ら 自 立 し た 食 生 活 を 送 る
た めに 必 要 な「食 事 づく り 力 」を簡 便 に測 定 す るた め の質 問 紙 を
開 発し 、信 頼 性と 妥 当性 を 検 証す る とと も に 、習慣 的 な食 物 摂 取
内 容 と の 関 連 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。「 食 事 づ く り 力 」
を「 自 分 の 心 身 に あ っ た 食 事 を 構 想 し 、 整 え る 力 」と 定 義 し 、
「調
理の知識・技術」と「作ろうとする食事のイメージを描く力」の
2 つ で 構 成 さ れ る も の と し た 。研 究 対 象 を 女 子 大 学 生 と し た 理 由
は、今後、家族の主たる食事づくり手になっていく存在であり、
調理の知識・技術向上の必要性が高い集団と考えたからである。
第Ⅰ章では、修士課程で開発した質問紙の信頼性と妥当性を、
栄 養 学 を 専 攻 す る A 大 学 1 年 生 219 名 ( 回 収 率 69.3% ) を 対 象
に検討した。探索的因子分析の結果、因子Ⅰ「中学高校時代の主
体 的 な 食 事 づ く り 経 験 」( 7 項 目 )、 因 子 Ⅱ 「 小 学 校 時 代 の 食 事 づ
く り の 手 伝 い 」( 4 項 目 )、 因 子 Ⅲ 「 食 事 づ く り の イ メ ー ジ を 描 く
力 」( 4 項 目 )、 因 子 Ⅳ 「 調 理 に 対 す る 家 族 の 積 極 的 な 態 度 」( 3 項
目 ) の 4 因 子 構 造 18 項 目 が 得 ら れ た 。 ク ロ ン バ ッ ク の α 係 数 は
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全 体 で 0.901 と 高 く 、 ま た 再 検 査 法 に よ る 再 現 性 も よ く 、 信 頼 性
が 確 認 さ れ た 。確 証 的 因 子 分 析 に よ り 、G F I = 0 . 9 1 0 、A G F I = 0 . 8 8 1 、
RMSEA=0.049 と 良 好 な 適 合 度 指 標 が 得 ら れ た 。ま た 、34 料 理 か
ら な る「 一 般 的 な 料 理 作 成 能 力 」得 点 と「 食 事 づ く り 力 」得 点( 5
肢 で 回 答 を 求 め 、 各 項 目 1~ 5 点 で 算 出 、 最 低 18-最 高 90 点 ) の
関連から、構成概念妥当性も確認された。
第 Ⅱ 章 で は 、 実 際 の 調 理 技 能 と の 関 連 か ら 、「 食 事 づ く り 力 」
質問紙の妥当性を検討した。栄養学を専攻する女子大学生(A 大
学 ) 59 名 と 、 他 専 攻 の 大 学 生 ( B・ C・ D 大 学 ) 52 名 を 対 象 に 、
文 部 科 学 省 後 援 家 庭 料 理 技 能 検 定 2 級 の 試 験 基 準 を 基 に 、調 理 技
能として切り方と献立調理の 2 種の評価を行い、調理技能得点
( 1 0 0 点 満 点 )と し た 。居 住 形 態 を 調 整 し た 共 分 散 分 析 に よ り「 食
事 づ く り 力 」得 点 3 分 位 別 に 調 理 技 能 得 点 を 比 較 し た 。栄 養 学 専
攻 学 生 の 3 群 別 調 理 技 能 得 点 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 は 、「 食 事 づ く
り 力 」 高 群 61.2±14.0、 中 群 53.0±12.0、 低 群 44.4±15.7 で 、
高 群 は 低 群 に 比 べ 有 意 に 高 か っ た ( p = 0 . 0 0 4 )。 一 方 、 他 専 攻 学
生 で は 、 調 理 技 能 得 点 は 「 食 事 づ く り 力 」 高 群 48.0±10.9、 中 群
4 2 . 7 ± 11 . 9 、低 群 4 0 . 7 ± 1 0 . 5 で 、有 意 な 群 間 差 は み ら れ な か っ た 。
以上より、
「 食 事 づ く り 力 」質 問 紙 は 、栄 養 学 を 専 攻 す る よ う な 、
栄 養 や 食 に 関 心 が 高 く 、あ る 一 定 程 度 の 調 理 技 能 を 持 っ て い る と
考えられる女子大学生の「食事づくり力」を捉える尺度として、
調理技能の面からも妥当性を有することが確認された。
第 Ⅲ 章 で は 、「 食 事 づ く り 力 」 と 習 慣 的 な 食 物 摂 取 の 関 連 を 明
ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。栄 養 学 を 専 攻 す る 女 子 大 学 生( A ・
D・ E 大 学 ) 438 名 を 対 象 に 「 食 事 づ く り 力 」 質 問 紙 と 、 簡 易 型
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自 記 式 食 事 歴 法 質 問 票 を 用 い た 調 査 を 実 施 し た 。「 食 事 づ く り 力 」
得 点 で 3 分 位 に 分 け 、 自 炊 学 生 ( 140 名 ) と 自 宅 学 生 ( 298 名 )
に 分 け て 検 討 し た 。暮 ら し 向 き 、栄 養 を 考 え て 食 事 を す る 重 要 性 、
栄養を考えて食事を整えるセルフエフィカシーを調整した共分
散 分 析 の 結 果 、 自 炊 学 生 で は 、 野 菜 類 ( 高 群 223g>低 群 131g、
p = 0 . 0 2 、 以 下 、 重 量 は 密 度 法 に よ る 1 0 0 0 k c a l 当 り の 量 )、 藻 類
( 高 群 6 . 8 g > 中 群 3 . 9 g 及 び 低 群 2 . 5 g 、 p = 0 . 0 0 1 )、 き の こ 類 ( 高
群 8.7g>中 群 4.6g 及 び 低 群 3.2g、 p <0.001) で 高 群 の 摂 取 量 が
有 意 に 多 か っ た 。栄 養 素 摂 取 で は 、食 物 繊 維( 高 群 > 低 群 、p = 0 . 0 1 )、
ビ タ ミ ン K( 高 群 >低 群 、 p = 0.03) で 高 群 が 低 群 に 比 べ 有 意 に
摂 取量 が 多 かっ た 。ま た 、調 整 前 の 一元 配 置 分散 分 析で は 有 意差
がみられなかった食塩相当量に調整後に有意差がみられ(高群
5 . 5 g > 中 群 5 . 1 g 及 び 低 群 5 . 1 g 、 p = 0 . 0 0 2 )、 高 群 で 食 塩 相 当 量 が
多 か っ た 。自 宅 学 生 で は 、共 分 散 分 析 の 結 果 で は 食 品 群 別 摂 取 量 、
栄養素摂取量ともに有意な群間差はみられなかった。
以上 3 つの研究より、女子大学生が自らの心身にあった食事を
構想し、整える力を捉える「食事づくり力」質問紙の信頼性と妥
当 性 が 検 証 さ れ た 。妥 当 性 は 実 際 の 調 理 技 能 と の 関 連 で も 確 認 さ
れた。また、家族と同居していない自炊学生において、この質問
紙 を 用 い て と ら え た「 食 事 づ く り 力 」の 高 い 者 は 、野 菜 類 、藻 類 、
き の こ 類 な ど 副 菜 の 主 材 料 と な る 食 品 の 摂 取 量 が 多 く 、関 連 す る
栄 養 素 の 摂 取 も 多 い と い う 良 好 な 面 と 、一 方 で 食 塩 相 当 量 の 摂 取
が多いという課題を有することが明らかになった。
これらの結果は、女子大学生等若年女性の食物摂取の改善に向
け て 、「 食 事 づ く り 力 」 の 重 要 性 を 改 め て 示 唆 す る も の で あ る 。
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