医療制度の維持・充実に向け “医薬協働”の体制構築を

寄稿 富山県から発信する現行制度の問題点
医療制度の維持・充実に向け
“医薬協働”の体制構築を
アモール 代表取締役社長 橋場 元氏
富山県の医療体制は、各市町村
に配置された公的医療機関が中核
を担っています。一方、逆に民間
の急性期病院が少なく、その他は
慢性期病院とクリニックが地域医
療の主体となっています。また、
にもなっている『あんしん在宅ネ
ットにいかわ』
(注1)や『富山型
デイサービス』(注2)など、他の
都道府県に先駆けた、特徴のある
医療・介護サービスも行われてい
ます。
ていく様子も見てとれます。私自
身、寝たきりの祖父を自宅で十数
年間介護してきた両親の姿をみて
きましたので、自宅で介護を続け
ることの大変さは十分に理解で
き、この点からも「現行制度をさ
らに良いものにしていかなくては
ならない」と痛切に感じています。
さらに、富山県は世帯収入が全
国3位(総務省統計局『社会・人
救急医療体制についても、救急車
到着時間が全国2位であることか
ら考えても1~3次救急までしっ
かりとしたシステムが構築されて
弊社では現在、地域医療に積極
的な医師からの要請を受け、在宅
患者を受け持っています。その中
には、車がすれ違えないような山
口統計体系』(2010))ではありま
すが、それでもお金の問題により
十分な医療、介護を受けられない
方も見られます。そのような場合
いると思います。
このような充実した医療体制の
道を通らなければたどり着けない
山間部の集落に、1人で住まわれ
のセーフティーネットをどうする
かなど、考えなければならないこ
もと、在宅医療、介護に関しては
他都道府県と比べて若干異なった
状況といえそうです。公表データ
からは、人口10万人当たりの在宅
ている高齢者も少なからずいらっ
しゃいます。その様な姿を目の当
たりにしますと、前述したような
充実した医療体制である富山県で
とは多岐にあがります。
今年度は5年ごとに見直される
地域医療計画の策定の年に当たり
ます。在宅医療に関しては、国立
療養支援診療所数が全国47位、在
宅療養支援病院数が全国23位、介
さえも、へき地医療・介護サービ
スに関しては、いかに現場の医療、
長寿医療研究センターが中心にな
って取りまとめた『在宅医療体制
護施設サービスの利用率が全国2
位であるなど、施設系の医療・介
護サービスの充実が目立ちます。
その一方、厚労省のモデル事業
介護従事者の良心に支えられてい
るかを強く感じさせられます。
また、長く看護を続けている患
者宅へ行くと、ご家族が疲弊され
構築に係る指針案』を参考にする
方針となっていますが、富山県の
実情に合ったきめ細かい医療計画
の策定が期待されます。
現場の医療・介護従事者の良心に支えられる医療制度
2012年12月号
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平成24年卒業の富山県出身薬学生はわずか30数人
薬学生は30数人とのこと。富山県
の人口が全国のおよそ1%である
弊社は今年の5月より日本保険
薬局協会(NPhA)の理事会社と
なりましたが、私は NPhA に限ら
ず、日本薬剤師会、日本医師会、
日本歯科医師会等、医療に携わる
富山県といえば『くすり』をイ
と同様に深刻です。薬剤師の業務
ことからすると、かなり少ないと
いえます。原因はいろいろあるの
でしょうが、薬剤師のことをよく
メージされる人も多いと思いま
す。私の祖父も売薬をしていて、
北海道へも行っておりました。ま
種別割合では、薬局の従事者は全
国平均を大きく下回っています
(薬局の従事者:全国50.7%、富山
解っている人が多いからこそ、将
来に危惧を抱いて、子供に薬学部
への進学を奨めていないのかもし
全ての会派が皆保険制度を維持す
ることについては賛成であると認
識していますので、この点におい
た製薬会社も数多くあり、現在、
医薬品の生産金額は埼玉、静岡に
次いで全国3位となっています
29.8 %。 医 薬 品 関 係 企 業 の 従 事
者:全国17.8%、富山27.4%)。ま
た、全国的に薬学部離れが進んで
れません。
このような現状を打破するた
め、弊社では薬学部、薬科大学への
進学を奨める活動も行っています。
て一同団結し、意見を発信すべき
と考えます。
最後になりますが、私はふるさ
と富山県が大好きで、富山県のた
(平成23年度)
。
その一方で、薬剤師不足は他県
いるといわれていますが、富山県
でも平成24年卒業の富山県出身の
大手チェーン企業だからこそできる全国統一条件でのデータ収集
薬局は多くの女性が活躍してい
る職場です。富山県は共働き率が
全国1位です。
その背景としては、
保育園の待機児童が0%であった
り、3世代同居または近くに住ん
でいるため子供の送迎をお願いで
きるなどの理由があります。しか
し、1番の大きな理由は女性が働
くことへの理解と協力があること
でしょう。
日本は今後、労働人口が減少す
るため今まで以上に女性の活躍が
期待されます。女性が働くための
社会全体の意識改革と環境整備が
必要です。私たち薬局業界がこの
分野で日本をリードすることも、
社会に認められる要因の1つとな
り得るのではないでしょうか。
前述の通り、富山県の山間部へ
行くと、1人住まいの高齢者の方
がたくさんいらっしゃいます。都
市と地方では医療の在り方が全く
違っていることも現実です。おそ
らく、都市でも地方とは違った問
題があることと思います。大手チ
ェーン様にはぜひ、都市と地方の
違いを考慮した情報収集を行って
いただきたいと思います。全国各
地に店舗を持つチェーン企業だか
らこそ、統一した条件での隔たり
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2012年12月号
の少ないデータ収集が可能である
と考えるからです。
私は今後、必要なことは医薬分
業から『医薬協働』への転換であ
ろうと考えています。チーム医療
が求められている現在、患者様を
中心とし、医科、歯科、薬局、介
護がチームとなって互いに補完し
合うことは大変意義のあることで
すし、また、医療制度の維持、充
実という側面からも医科、歯科、
薬局がタッグを組むことで、国民
から今まで以上の理解が得られる
と考えるからです。
医療に携わる全ての者が団結し皆保険制度維持に注力
弊社がいわゆる『調剤薬局』を
開始した昭和60年は、富山県にお
いてはほとんど医薬分業が行われ
ていなかった時代です(分業率1.1
%=昭和61年度)。以来、薬局に求
められる役割が変わってくる中
で、弊社も地道に、おごることな
く努力を続けてきました。中でも
処方医との積極的なコミュニケー
ションを心がけ、処方箋からだけ
ではなかなかくみ取れない処方意
図を共有することによって、薬剤
師の職能を十分発揮できるように
心掛けてきました。
しかしながら、たくさんある医
療機関全ての医師の処方意図の情
報を1つの薬局で得ることは大変
です。今後は IT を利用して、医
療機関と薬局の双方向で情報の共
有ができるようなインフラ整備も
必要と考えています。実際、国も
『どこでも MY 病院』
(注3)を推
進しようとしています。これをう
まく活用し、双方向の情報共有が
可能なシステムになるよう、働き
かける必要があるのではないでし
ょうか。
私たちの行う医療は、国の政策
に影響を受けることが多いことは
周知の通りですし、時代の変遷と
ともに薬局に求められる役割も変
化してきました。この役割の変化
は国民にできるだけ均等に、充実
した医療を受けていただくために
は必要不可欠であると思います。
しかしながら、薬局に求められ
てきたことの大きさに比べて、
「私
たちが十分な責任を果たしてきた
自然と街が調和された富山県(背景は立山連峰)
のか」と問われれば、まだまだ不
十分であったのではないでしょう
しては大多数の人にご賛同いただ
けると思います。しかし、日本が
めになることに対しての活動も行
っていきたい。同時に、今後も薬
か。
「薬局が医療の中でどのような
役割を果たしているのか?」
「単に
処方箋通りに薬を出しているだけ
ではないのか?」。現在、分業バッ
シングが起こってきていることに
対しても、私たちは今一度、
「自分
たちに何が求められているか?」
「何ができるのか?」について、し
っかりと考えなければならない時
であると思います。
私は先輩方が作り上げてきた医
薬分業の歴史を否定するつもりは
全くなく、私たちの現在の地位を
確立していただいた実績と、これ
までの努力に感謝しています。た
だし、今後は現状の医薬分業制度
をさらにバージョンアップして、
次の世代のために薬局の地位を確
超高齢化社会を迎えるにあたり、
いかに優れたシステムでも多少の
マイナーチェンジを行う必要があ
るのではないでしょうか。その際
に、私たち薬剤師が皆保険制度を
維持するための政策提言を行うこ
とが大事になります。そのために
は、薬剤師全員がもっと政治や行
政にも関心を持たなければいけま
せん。
例えば、アメリカの保険会社は
日本の市場を50兆円産業ととら
え、
「日本の TPP への参加を手ぐ
すね引いて待ちかまえている」と
も聞きます。TPP への参加につい
ては、いろいろな考えがあると思
いますが、いま私たち薬剤師は
TPP だけでなく、医療を取り巻く
局業界のため、医療業界のため、日
本のために、私たちのできること
を尽力していきたいと思います。
固たるものにする使命こそが、私
たち世代の役割であると考えてい
ます。そのためにも、現在の私た
ちの立ち位置を冷静に、そして客
問題や政治などにもっと関心を持
ち、薬局の統一の意見として発信
していく必要があります。
既にいろいろな活動を行ってい
観的に自己評価する必要があると
思います。
る人もいますし、ネット上でも優
れた意見を発信している方も多数
私たちは薬剤師であると同時
に、保険薬剤師でもあります。つ
まり、日本の保険医療制度の中に
組み込まれた一員であり、世界に
います。しかしながら、その優れ
た活動や意見が力を持つためには
絶対数が必要です。
まずは、薬局薬剤師全員が今後
冠たる皆保険制度を維持するため
に尽力する義務があります。
の医療の在り方について意見の集
約をした上で発信しなければ、い
私は、皆保険制度は日本人の気
質に合った大変優れたシステムで
あると考えていますし、これに関
かに良い意見であろうとも国には
届かないし、動かすこともできま
せん。
注1 あんしん在宅ネットにいかわ 富山県新川(にいかわ)医療圏(魚津
市、黒部市、入善町、朝日町)において
2005年より開業医が中心となって、
在宅
終末期医療や栄養管理などの検討のた
めに「新川医療連携懇話会」を立ち上
げ、終末期医療における地域連携クリテ
イカルパスを検討実施している。
注2 富山型デイサービス
高齢者、障害者、児童を区別せず、一緒
に家庭的なサービスを提供する住宅型
施設。障害者やその家族のニーズに合致
した取り組みであることから、
富山県だ
けでなく全国に「富山型デイサービス」
として広がっている。
注3 どこでも MY 病院
これまで医療機関のみで利用されてい
た患者情報を、
患者本人が一元管理して
活用することを目的とした自己医療・
健康情報活用サービスで、
内閣官房が提
唱する国民一人ひとりが自らの医療・
健康情報を電子的に管理・活用するモ
デル事業。
はしば はじめ●45歳、
富山県出身。平
成5年昭和大学薬学部薬学修士課程修
了。平成5年杏林製薬入社、
平成10年ア
モール入社、
平成21年アモール代表取締
役社長就任。日本保険薬局協会
(NPhA)
理事。
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