ICO<無断複写・複製を禁じます> 受験番号 1 2 局 名 番 号 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 第 4 問 答案用紙<1> (会 計 学) 評 点 問 1 (1) 第1法は、付与したポイントと商品との将来の交換を、そのポイントを付与する元となった当初売上取 引の構成要素として取り扱わず、むしろ顧客への商品の販売促進に資する別個の取引として取り扱う考え 方であり、第2法は、付与したポイントと商品との将来の交換を、そのポイントを付与する元となった当 初売上取引において、値引きやリベートと同様に考慮すべき販売条件の1つとしてとらえる考え方である。 (2) 利息費用は、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過 により発生する計算上の利息である。期待運用収益は、年金資産の運用により生じると合理的に期待され る計算上の収益である。これらの要素は、賃金の後払いである退職給付を支払うことに伴う財務活動に係 るものと考えられるため、営業損益計算の区分とは別の営業外損益の区分に表示することが認められる。 (3) 第1法は、将来にヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、ヘッジ手段に係る損益の認識を遅らせるの に対し、第2法は当期にヘッジ対象に係る損益を認識するため、ヘッジ手段に係る損益の認識を遅らせる 必要はなく、当期に認識し、両者の損益は同一の会計期間に認識される。 したがって、第1法においては、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を将来の同一の会計期 間に認識させるためにヘッジ手段に係る損益を繰り延べるのである。 問 2 〔設問1〕 【ケースⅠ】では、営業活動によるキャッシュ・フローが+450 であるため、資金的裏付けのある当期 純利益となっているのに対し、【ケースⅡ】では、営業活動によるキャッシュ・フローが△150 であるため、 資金的裏付けのない当期純利益となっているため、両者の当期純利益は意味が異なる。 - 1 - ICO<無断複写・複製を禁じます> 受験番号 2 2 局 名 番 号 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 第 4 問 答案用紙<2> (会 計 学) 〔設問2〕 現行制度会計においては、現金の収支に関係なく、実現主義による期間収益から発生主義による期間費 用を差し引いて期間利益を算定し、それを当期純利益として表示する。このように算定された当期純利益 は、利益関係者に有用な業績測定尺度となる点で両者は共通している。 問 3 (1) 〔設問1〕 A 法的形式 B 比較可能性 〔設問2〕 「平成 19 年リース会計基準」では、資産の所有に伴うリスクと経済的便益のほとんどすべてが実質的に 借手に移転している場合には、ファイナンス・リース取引として売買と同様の会計処理を行い、そうでな い場合には、オペレーティング取引として賃貸借と同様の会計処理を行い、異なる事実には、異なる会計 処理が適用される。他方、IASBにおける主張では、リース取引における借手は契約におけるリース物 件を使用する権利とその対価を支払う義務に基づき資産と負債を認識して会計処理がなされるため、ファ イナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かにかかわらず、あらゆるリースから生じる資産 と負債が貸借対照表に反映され、同様の事実には同一の会計処理が適用される。 (2) <第1法>セール取引とリースバック取引とを売却取引及びリース取引として別個の取引と考え、譲渡し た資産の認識を中止するが、両取引の対象資産が同一であるため固定資産売却益は未実現として繰り延べ られ、新たなリース期間にわたり償却される。 <第2法>セール取引とリースバック取引とを売却取引及びリース取引として別個の取引と考え、売却取 引により譲渡した資産の認識を中止して固定資産売却益を譲渡時に計上し、リース取引ではリース物件を 使用する権利とその対価を支払う義務として認識する。 <第3法>セール取引とリースバック取引とを一連の金融取引と考え、譲渡人(借手)は譲渡した有形固定 資産の認識を中止せず、譲渡代金を負債(借入金)として認識する。 - 2 - ICO<無断複写・複製を禁じます> 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 第 4 問 全体講評 本問は、 問1 (1)ポイントに関する会計処理の理論問題、(2)退職給付に係る会計基準に関する理論 問題、(3)その他有価証券の価格変動リスクをヘッジした場合の会計処理に関する理論問題、 問2 〔設 問Ⅰ〕各ケースの当期純利益の意味が異なる理由、〔設問Ⅱ〕両ケースの当期純利益に共通する意味の説 明、 問3 (1)〔設問 1〕リース取引に関する会計基準の経緯に関する穴埋め問題、 〔設問 2〕リース取引 に関する会計基準と国際会計基準審議会(IASB)における主張の相違の説明問題、(2)セール・アンド・ リースバック取引の 3 通りの会計処理に関する理論問題、でした。 問1 、 問2 及び、 問3 〔設問 1〕は、会計基準等を学習していれば難なく解答できた簡単な内容でしたが、 問3 (1) (1)〔設問 2〕 及び(2)はリース会計に関する論点の整理といった会計基準以外からの出題でしたので、面食らった受験 生も多かったと思います。 合格ライン 6 割の 42 点(満点 60 点) ICOフィードバック解説 問1 (1) 【ケース 11:ポイント引当金に係る会計処理】 (d) 会計処理の考え方 我が国では、顧客が商品又は役務を購入した際に企業が顧客に対して一定のポイントを付与 し、顧客が一定の条件を満たすことを条件にそのポイントと交換に商品又は役務を無料又は割引 額で購入できるような制度を導入している場合がある。このような制度に関する会計処理の考え 方としては、以下の2つが考えられる。 1つは、付与したポイントと商品や役務との将来の交換を、そのポイントを付与する元となっ た当初売上取引の構成要素として取り扱わず、むしろ顧客への商品又は役務の販売促進に資する 別個の取引として取り扱う考え方であり、実務上、多く見受けられるものである。この考え方に よれば、収益を当初売上取引額の総額で認識するとともに、将来、ポイントと交換される商品又 は役務を販売費及び一般管理費として見積もり、負債計上することとなる。この場合には、当該 負債の測定値として、将来、商品又は役務と交換される義務の履行に伴う見積コストを用いてい る。 もう1つは、付与したポイントと商品や役務との将来の交換を、そのポイントを付与する元と なった当初売上取引において、値引きやリベートと同様に考慮すべき販売条件の1つとしてとら える考え方である。この考え方によれば、将来、ポイントと交換される商品又は役務は、実質的 には当初販売価額の一部減額、将来、交換される商品又は役務の対価の前受金という性格を有す るため、売上高から控除するとともに前受金として繰り延べることになる。 本事例では、以下のような仕訳となっている場合が多いと考えられる。 〔我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)〕 - 3 - ICO<無断複写・複製を禁じます> 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 (2) 利息費用とは、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時 の経過により発生する計算上の利息をいう。 〔退職給付に係る会計基準 一4〕 「期待運用収益」とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益をいう。 〔【参考】「退職給付に係る会計基準」等からの改正点 10〕 個別意見書は、退職給付の性格に関して、賃金後払説、功績報償説、生活保障説といったいくつか の考え方を示しつつ、「企業会計においては、退職給付は基本的に労働協約等に基づいて従業員が提 供した労働の対価として支払われる賃金の後払いである」という考え方に立っている。 〔退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書 三2〕 (3) ヘッジ会計の方法 (1)ヘッジ取引に係る損益認識時点 ヘッジ会計は、原則として、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッ ジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法による(注13)(注14)。 ただし、ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることにより、そ の損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識することもできる。 なお、純資産の部に計上されるヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、税効果会計を 適用しなければならない。 〔金融商品に関する会計基準 Ⅵ4(1)〕 問2 (1) 解答参照。 (2) 解答参照。 問3 (1) 〔説問1〕 我が国のリース取引に関する会計基準としては、平成5 年6 月に企業会計審議会第一部会から改正 前会計基準が公表されている。改正前会計基準では、ファイナンス・リース取引については、通常の 売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされており、その理由として、「リース取引に係 る会計基準に関する意見書」(企業会計審議会第一部会平成5 年6 月17 日)では、「我が国の現行 の企業会計実務においては、リース取引は、その取引契約に係る法的形式に従って、賃貸借取引とし て処理されている。しかしながら、リース取引の中には、その経済的実態が、当該物件を売買した場 合と同様の状態にあると認められるものがかなり増加してきている。かかるリース取引について、こ れを賃貸借取引として処理することは、その取引実態を財務諸表に的確に反映するものとはいいがた く、このため、リース取引に関する会計処理及び開示方法を総合的に見直し、公正妥当な会計基準を 設定することが、広く各方面から求められてきている。」と記載されている。 〔リース取引に関する会計基準 28〕 改正前会計基準では、法的には賃貸借取引であるリース取引について、経済的実態に着目し通常の 売買取引に係る方法に準じた会計処理を採用しており、これはファイナンス・リース取引と資産の割 賦売買取引との会計処理の比較可能性を考慮したものと考えられる。また、改正前会計基準は、リー ス取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類する点や、借手がリース - 4 - ICO<無断複写・複製を禁じます> 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 資産を固定資産として計上する点など、国際会計基準及び米国会計基準と平仄を合わせるものであっ た。 〔リース取引に関する会計基準 29〕 〔説問2〕 〔一般的制約となる特性(2): 比較可能性〕 会計情報が利用者の意思決定にとって有用であるためには、会計情報には比較可能性がなければな らない。ここで比較可能性とは、同一企業の会計情報を時系列で比較する場合、あるいは、同一時点 の会計情報を企業間で比較する場合、それらの比較に障害とならないように会計情報が作成されてい ることを要請するものである。そのためには、同様の事実(対象)には同一の会計処理が適用され、 異なる事実(対象)には異なる会計処理が適用されることにより、会計情報の利用者が、時系列比較 や企業間比較にあたって、事実の同質性と異質性を峻別できるようにしなければならない。 〔財務会計の概念フレームワーク 第2章 本文 11〕 比較可能性が確保されるためには、財務諸表の報告様式の統一はもちろん、企業において同一の会 計方法が継続的に(首尾一貫して)適用されなければならない。さらに、その変更に際しては、利用 者の比較作業に資するための情報の開示が必要となる。また、会計基準が変更された場合の移行措置 を検討したり、注意喚起のために注記で開示すべき項目や内容を決めたりする場合にも、比較可能性 が考慮されなければならない。しかし、比較可能性は必ずしも、形式基準を求めるものでも、画一的 な会計処理を求めるものでもない。事実の差異が会計情報の利用者の比較にとって必要であり、それ を知ることが利用者の意思決定に役立つのであれば、その差異に応じて、異なる会計処理(方法)が 必要とされる。 〔財務会計の概念フレームワーク 第2章 本文 12〕 我が国及び国際的な会計基準における現行の取扱い 我が国及び国際的な会計基準では、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・ リース取引に分類し、基本的に、資産の所有に伴うリスクと経済的便益のほとんどすべてが実質的に 借手に移転している場合には、ファイナンス・リース取引、そうでない場合にはオペレーティング・ リース取引とされる。また、ファイナンス・リース取引については売買と同様の会計処理を行い、オ ペレーティング・リース取引については賃貸借と同様の会計処理を行うこととされ、異なる2つの会 計処理を使い分けることとされている。 〔リース会計に関する論点の整理 11〕 IASB及びFASBのEDにおける提案 IASB及びFASBのEDでは、リース取引における借手は、契約におけるリース物件(以下「原 資産」という。)を使用する権利とその対価を支払う義務に基づき資産と負債を認識し、会計処理す ることが提案されている(以下「使用権モデル」という。 )。この使用権モデルでは、リース取引開始 日に、借手は、貸借対照表8上で次の資産と負債を認識することになる。 (1) 使用権資産(リース期間9にわたって原資産を使用する権利を表す資産) (2) リース料支払債務(原資産を使用する権利と交換にリース料を支払う義務を表す負債) また、損益計算書上では、上記(1)に係る償却費や(2)に係る利息費用などを認識することになる。 〔リース会計に関する論点の整理 12〕 IASB及びFASBにおける議論と当委員会における検討 この使用権モデルは、リースに関する現行の国際的な会計基準における問題点への対処として提案 されているものであり、IASB及びFASBのEDでは次のような長所があるとしている。 (1) ファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かにかかわらず、あらゆるリー スから生じる資産と負債が貸借対照表上に反映される。これにより、比較可能性の向上につな がり、また、取引を仕組む機会を減少させることが可能となる。 - 5 - ICO<無断複写・複製を禁じます> 平成 23 年度論文式本試験解答・会計学〔午後〕 ・第4問 (2) IASBやFASBの概念フレームワークにおける資産及び負債の定義と整合する。使用権 資産は、リース契約の締結という過去の事象によって借手が支配する資源であり、当該資源か ら将来の経済的便益が借手に流入することが見込まれることから資産の定義を満たす。一方、 リース料支払債務は、リース契約の締結から生じる借手の現在の義務であり、その決済により、 経済的便益を有する資源が借手から流出することになると見込まれることから負債の定義を満 たす。 〔リース会計に関する論点の整理 14〕 (2) 【論点5】その他の論点 [論点5-1]セール・アンド・リースバック取引 検討事項 譲渡人(借手)が、所有する資産を譲受人(貸手)に譲渡し、譲受人から同一の資産のリースを受 ける取引は、通常、セール・アンド・リースバック取引と呼ばれる。セール・アンド・リースバック 取引については、金融取引として扱うか、売却取引及びリース取引として扱うかが論点となる。金融 取引として扱う場合、譲渡人(借手)は譲渡した資産の認識を中止せず、譲渡代金を負債として認識 することとなる。一方、売却取引及びリース取引として扱う場合には、譲渡した資産の認識を中止し、 売却損益を譲渡時又はリース期間にわたって認識することとなる。 IASB及びFASBのEDでは、使用権モデルに基づく会計処理を前提に、この取引に関する会 計処理の取扱いを見直しており、現行の我が国及び国際的な会計基準における取扱いと異なる提案が なされている。ここでは、それらの取扱いについて整理し、検討する。 〔リース会計に関する論点の整理 255〕 我が国及び国際的な会計基準における現行の取扱い 我が国の現行の会計基準では、セール・アンド・リースバック取引における譲受人(貸手)から譲 渡人(借手)へのリース取引がファイナンス・リース取引に該当する場合、原資産(リース物件)の 売却に伴う損益を長期前払費用又は長期前受収益として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合 に応じ減価償却費に加減して損益に計上される。一方、リース取引が、オペレーティング・リース取 引に該当する場合の取扱いは明示されておらず、一般に、通常の売却の会計処理とオペレーティン グ・リース取引の会計処理が行われることが想定される。 〔リース会計に関する論点の整理 −以 - 6 - 256〕 上−
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