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凝縮系物理学特論 III
「低次元量子磁性体、冷却原子系におけるトポロジカル秩序」参考文献
単行本ほか
磁性、電子相関
G1 金森順次郎 『磁性』培風館 1969
磁性の基本的な問題について、難しい技法を使わずに解説してある本。
G2 永宮健夫 『磁性の理論』吉岡書店.
G3 芳田奎 『磁性』岩波書店.
遍歴電子の磁性に詳しい良い教科書だが、絶縁体の磁性、統計力学的側面の記述もあり。程度は高め。
G4 小口武彦 『磁性体の統計理論』裳華房 1971.
少し古いため、今となっては割愛してよい部分もあるが、統計物理寄りの視点から、スタンダードな知識
がまとめてある。とくに、中盤のスピン波の記述や2次元イジングモデルの厳密解の説明は丁寧である。
G5 久保健、田中秀数『磁性 I』(朝倉物性物理シリーズ)
新しい教科書。前半は実験家による絶縁体中でどのように磁気モーメントが形成され、それらの相互作用
がどのように決まるかの丁寧な解説、後半は理論家による統計物理的な視点からの量子磁性の解説。こ
のレベルの教科書には珍しくフラストレーション系の要領の良い解説も出ている。
G6 上沼、菅野、田辺『配位子場理論とその応用』(裳華房 物理科学選書)
G5 の前半のような内容が詳細に議論されている信頼できる本。
G7 斯波弘行 『電子相関の物理』岩波書店;
強相関電子系の物理のさまざまなモダンな話題をコンパクトにまとめたかっちりと書かれた本。
G8 永長直人 『物性論における場の量子論』岩波書店 1995; 『電子相関における場の量子論』岩波書店 1998。
最近の、経路積分を使ったモダンな物性理論のスタンダードなテキスト。『物性論...』の前半にスピンの
経路積分、『電子相関...』には、シグマ模型の話も出ている。
G9 P. Fazekas “Lecture Notes on Electron Correlation and Magnetism” World Scientific.
遍歴電子系の物性の良い教科書。他の本では殆ど触れられていないが、実はいちどはちゃんと押さえて
おいたほうがよい重要で基礎的な話題などについても丁寧に解説してあり役に立つ。第 6 章に反強磁性
体のいくつかの話題の簡潔な紹介がある。
G10 D.C. Mattis, “The Theory of Magnetism Made Simple” World Scientific
昔 Springer-Verlag から出ていた 2 巻物の教科書の改訂版。数理的、統計力学的な話題に詳しい。
臨界現象・相転移、平均場
A1 P.M. Chaikin and T.C. Lubensky “Principles of condensed matter physics”
いわゆるソフトマター寄りの立場から書かれたとても良い教科書。特に相転移専門の教科書というわけ
ではないが、中盤に相転移や臨界現象の優れた説明がある。熱力学・統計力学の復習から始めて、位相的
欠陥の話などまでがバランス良く書かれている。とくに、第4章には平均場近似の話がいろいろな例に
ついて詳しく書かれており、第1日の前半の Landau 理論をさらに詳しく勉強したい場合に役立つ。(日
本語訳が吉岡書店から出ているが、訳がかなりまずいので原書で読むことをおすすめする)
A2 J.L. Cardy “Scaling and renormalization in statistical physics” (Cambridge university press)
臨界現象と場の理論の境界領域で数多くの重要な仕事をしてきた著者によって、平均場、くりこみ群、低
次元系の臨界現象、ランダム系、共形場理論といったたくさんの話題が、一章 20 ページ前後のペースで
簡潔に解説されている本。特定の項目を手っ取り早く概観したいときには便利な本。
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A3 J.B. Kogut, “An introduction to lattice gauge theory and spin systems” Rev. Mod. Phys. 51, 659-713
(1979)
場の理論やくりこみ群に興味のある理論志望の人の必読文献。適度な長さで多くの重要な事柄について
学ぶことができる良いレビュー。toric code の親戚である Z2 ゲージ理論の性質、相転移についても要領
よく書かれている。
スピン経路積分、低次元量子磁性など
経路積分は、モダンな物性理論では必要不可欠な道具になりつつある。経路積分一般では、講義で挙げた FeynmanHibbs の古典的教科書や、Feynman の「Statistical Mechanics」が参考になるが、実際の応用例をもう少し詳
しく知りたいときには、
B1 吉川・崎田: 「径路積分による多自由度の量子力学」(岩波)
がとても良い教科書。
経路積分や非摂動的な(モダンな)場の理論の物性への応用についてのテキストは最近では上で触れた [G8]
以外にもいろいろある:
B2 E. Fradkin “Field Theories of Condensed Matter Systems” 第2版, Cambridge University Press 2013.
モダンな場の理論のテクニックの物性への応用を扱った本としては最初の頃のもので、1991 の第1版が
出版されたあと、その後の発展に関する内容を追加して大分厚くなった第 2 版が出た。第 7 章に非線型
シグマ模型やスピンの経路積分のことが書かれている。また、8 章以降に topological 相や entanglement
についても著者の関わった仕事を中心にいろいろ書かれている。
B3 A.M. Tsvelik “Quantum Field Theory in Condensed Matter Physics”(第2版)Cambridge Univer.Press
2004.
1、2 次元の物性の問題を場の理論のテクニックを使って扱うとどうなるか、ということを解説した本。
量子磁性も含めていろいろな話題(特に1次元が多い)を扱っており、各テーマの内容について概観す
るのには良い。2004 年に内容を追加した第2版が出た。
B4 A. Altland and B. Simons “Condensed Matter Field Theory’(第2版)Cambridge Univer.Press 2004.
超伝導、ランダム系からスピン鎖にいたるまで、幅ひろい物性系に対するモダンな場の理論のテクニッ
クの応用を沢山の練習問題つき(解答あり)で解説した本。第**章にあるトポロジカル項の一般論の説
明は他書にはない特色かも知れない。吉岡書店より日本語訳が出ている。
量子磁性については、上の [B2]、[B3] に主に場の理論的な興味の話題が書かれているが、それ以外には
B5 A. Auerbach “Interacting Electrons and Quantum Magnetism” Springer Verlag 1994.
低次元量子磁性体に関して、著者の仕事の周辺を中心にコンパクトにまとめた読みやすい教科書。MerminWagner の定理などの厳密な結果や、スピンの経路積分、非線形シグマ模型、Haldane ギャップなどにつ
いても詳しく書かれていて、本講義の序盤で扱った内容をカバーしている。
B6 C. Lacroix, P. Mendels, and F. Mila 編 “Introduction to Frustrated Magnetism” Springer Verlag 2011.
いわゆるフラストレーション系の話題について各話題の専門家のレビューをまとめた本。第1部が理論
家によるイントロダクション、第2部がさまざまな実験手法の解説になっており、基礎概念、手法につ
いて学べる。そこから、興味のある話題について、後半の各論のレビューを読むとよい。スピン液体な
どについてのレビューもある。
トポロジカル秩序やスピン液体の話題
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上でも述べたように、[B2] の第 8-10 章、13-14 章、17 章などにトポロジカル秩序やスピン液体に関する解説
がある。また、この手の話題の第一人者である Xiao-Gang Wen による以下の教科書は定番である:
C1 X-G. Wen “Quantum Field Theory of Many-Body Systems” Oxford 2004.
前半は、超流動、Fermi 液体、スピン密度波などの標準的な物性物理の内容をモダンな切り口で説明してお
り、中盤以降が著者の独壇場ともいえる内容になっている。量子ホール系やスピン液体の分類論などはカ
バーしているが、entanglement や tensor network とトポロジカル秩序との関連や、symmetry-protected
topological (SPT) order のようなその後の重要な進展については別の文献で勉強する必要がある。
C2 B. Zeng, X. Chen, D-L. Zhou, X-G. Wen, “Quantum Information Meets Quantum Matter”, arXiv:1508.02595.
量子情報的アプローチとトポロジカル秩序のクロスオーバーするあたりにフォーカスした新しいレビュー
(Springer の Lecture Notes in Physics に出版予定の書籍の原稿)。前半が量子情報のレビューになって
おり、第2部から topological 相と量子情報の関係についての議論が始まる。
C3 M.A. Nielsen and I.L. Chuang, “Quantum Computation and Quantum Information”, Cambridge 2000.
量子計算、量子情報に関する定番中の定番の(厚い)教科書だが、topological order などへの応用という
物理的観点からは不要な部分も多いので、適当に取捨選択が必要。
C4 J.K. Pachos “Introduction to Topological Quantum Computation” Cambridge 2012.
Topological 相の研究に端を発する「topological 量子計算」の基礎についてかかれた本。エニオンのよ
うな粒子がどのように topological 量子計算に活かされるのか、また、そのような粒子を生む微視的模型
(Kitaev の toric code とハニカム模型)についての要領の良い説明や、topological entanglement entropy
の説明もある。
その他、レビューなど
Haldane 相とその周辺
• I. Affleck: J.Phys.condensed matter 1(1989) 3047.
一次元のハイゼンベルグスピン系に関するいわゆる「Haldane 予想」と関連する話題のよくまとまった
レビュー。著者のスタイルを反映して、場の理論的アプローチについての説明が詳しい。
• 田崎晴明, 物性研究, 5 月号 121 (1992)
低次元量子磁性体、特に一次元 Heisenberg モデルの Haldane 予想の物理を中心に、正確にわかっている
こと、厳密にわかっていることに的を絞って解説した講義ノート。上の Affleck のレビューとは相補的。
Lieb-Schultz-Mattis の定理の1次元版も詳しく解説してある。(KURENAI のリポジトリ
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/94910 から入手可能)
• 日本物理学会編 物理学論文選集 VIII “Haldane Gap–スピン系におけるマクロな量子現象” には、1990
年代中盤までの一次元整数スピン鎖の理論、実験の代表的論文と詳細な文献リストがある。
スピン液体、トポロジカル秩序とその周辺
• M.P.A. Fisher, “Exotic quantum phases and phase transitions in correlated matter”, Physica A, 369,
122-142 (2006); arXiv:cond-mat/0511516
スピン液体について、その背景、直観的描像から始めて、主に場の理論、ゲージ理論からのアプローチ
について、あまりテクニカルにならない範囲でレビューしたもの。
• L. Balents, “Spin liquids in frustrated magnets”, Nature, 464, 199-208 (2010)
スピン液体への微視的模型からのアプローチの観点から書かれたレビューで、上とは相補的。制限され
た配位空間における創発的現象という立場から、古典スピン液体、量子スピン液体、その候補物質など
について要領よくまとまっている。
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• R. Moessner and K.S. Raman, “Quantum Dimer Models”, in Introduction to Frustrated Magnetism
Springer 2011, chapter 17; arXiv:0809.3051.
上のレクチャーノート集の中にある quantum dimer model のレビュー。Quantum dimer model(QDM)
は、短距離 RVB に対応するスピン液体を出す微視的なモデルであり、現実的な SU(2) 対称なスピン模型
との関係は自明でないが、さまざまな場面で有効模型として現れる。QDM がどのような topological な
性質を持つか、その相図、スピン液体との関係などについて書かれている。
• G. Misguich and C. Lhuillier, in Frustrated Spin Systems edited by H.T. Diep, World Scientific (2004)
2 次元の量子磁性体、特にフラストレーション系におけるスピン液体などの非磁性状態について著者らの
成果を中心にまとめられたレビュー。(arXiv:cond-mat/0310405 から入手可能).
• G. Misguich, “Quantum Spin Liquids”, proceedings of Les Houches 2008, Session LXXXIX, Exact Methods in Low-Dimensional Statistical Physics and Quantum Computing, chapter 15; arXiv:0809.2257
上の2つはもう少し、理論家むけの専門的内容。
• SPT については、手頃なレビューがあまりないが、
X. Chen, Z-C. Gu, and X-G. Wen, “Classification of gapped symmetric phases in one-dimensional spin
systems”, Phys.Rev.B 83, 035107 (2011)
• X. Chen, Z-C. Gu, Z-X. Liu, and X-G. Wen, “Symmetry protected topological orders and the group
cohomology of their symmetry group”, Phys.Rev.B 87, 155114 (2013)
は必読文献。ただし、読みやすい論文ではない。
• Entanglement の長距離、短距離とトポロジカル秩序の関係については
X. Chen, Z-C. Gu, and X-G. Wen, “Local unitary transformation, long-range quantum entanglement,
wave function renormalization, and topological order”, Phys.Rev.B 82, 155138 (2010)
の前半で詳しく論じられている。
tensor network, MPS
• F. Verstraete, V. Murg, and J.I. Cirac, “Matrix product states, projected entangled pair states, and
variational renormalization group methods for quantum spin systems”, Adv.Phys. 57, 143 - 224 (2008)
tensor network の基本である entanglement entropy の面積則から始めて、アイデアの背景にある考え方
が詳しく書かれているレビュー。自分で実験をしながら読めるように、MATLAB のコード例がついて
いる。
• R. Orús, “A practical introduction to tensor networks: Matrix product states and projected entangled
pair states”, Ann.Phys. 349, 117-158 (2014).
あまりテクニカルにならない範囲で、MPS や PEPS のアイデアや、実際に計算する時にはどうするか
といった点まで具体例を挙げながら書かれている読みやすいレビュー。これら2つは、tensor network
の概念を理解するのによい。この他、N. Schuch のレビュー arXiv:1306.555 や、J. Eisert のレビュー
arXiv:1308.3318 には fermion 系に対する応用についても簡単に触れられており、文献をたどれる。
• U. Schollwöck, “The density-matrix renormalization group in the age of matrix product states”,
Ann.Phys. 326, 96-192 (2011).
DMRG のエキスパートである著者が、DMRG や関連の手法への MPS の考え方の応用について述べた
レビュー。具体的に何かの計算をしたい人に役立つテクニックに詳しい。
• J. Eisert, M. Cramer, and M.B. Plenio, “Colloquium: Area laws for the entanglement entropy”,
Rev.Mod.Phys. 82, 277 (2010).
entnaglement entropy の面積則とその周辺の話題に絞ったレビュー。
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SU(N ) 冷却原子の周辺
• I. Bloch, J. Dalibard, and W. Zwerger, “Many-body physics with ultracold gases”, Rev. Mod. Phys.,
80, 885 (2008)
光格子中の冷却原子気体に関する定番のレビュー。
• M.A. Cazalilla and A.M. Rey, “Ultracold Fermi gases with emergent SU(N ) symmetry”, Rep. Prog.
Phys., 77, 124401 (2014).
冷却原子気体では時折高い対称性が現れることがあるが、アルカリ土類原子気体では、fine tuning なし
で SU(N ) 対称性が現れる。これにより、SU(N ) フェルミオン系の物性という新しい問題が生まれるが、
2 次元、3 次元での SU(N ) フェルミ原子系の物理のさまざまな話題についてバランスよくまとまったレ
ビュー。
• S. Capponi, P. Lecheminant, and K. Totsuka, “Phases of one-dimensional SU(N ) cold atomic Fermi
gases –from molecular Luttinger liquids to topological phases”, arXiv:1509.04597.
上の Cazalilla-Rey のレビューと相補的な、一次元の SU(N ) 冷却フェルミ気体の理論に的を絞ったレ
ビュー。SPT についても議論している。
• S. Sugawa, Y. Yakasu, K. Enomoto, and Y. Takahashi, ”Ultracold ytterbium: Generation, many-body
physics, and molecules”, in Annual Review of Cold Atoms and Molecules, World Scientific, 3-51 (2013).
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Yb と 173 Yb の2つのフェルミオン同位体はそれぞれ SU(N ) フェルミ原子系を実現するが、これらの
系の実験についてまとめたレビュー。Sr については、以下がある:
S. Stellmer, F. Schreck, and T.C. Killian, “Degenerate quantum gases of strontium”, in Annual Review
of Cold Atoms and Molecules, World Scientific, 2, 1-80 (2014); arXiv:1307.0601
• I. Bloch, J. Dalibard, and S. Nascimbène, “Quantum simulations with ultracold quantum gases”, Nat.
Phys., 8, 267 (2012).
1982 年の Feynman の論文に端を発する「古典コンピュータのかわりに、よく制御された量子系を用い
て量子力学の問題をシミュレートする」というアイデアは冷却原子系のさまざまなテクニックの発展の
おかげで実現に近づきつつある。この方面の最近の進展に関するレビュー。
• C. Gross and I. Bloch, “Microscopy of many-body states in optical lattices”, in Annual Review of Cold
Atoms and Molecules, 2015, 181-199, World Scientific (2015); arXiv:1409.8501.
冷却原子の分野では、単一サイトレベルでの原子操作、観測が可能になってきている。この分野の最近
の進展のミニレビュー。