1-7 カムイユカㇻ「エパウ」解説 語り手:貝澤とぅるしの 聞き手・解説:萱野茂 萱野:私は一匹の黒狐でありました。 貝澤:男たって。 萱野:私の仲間たちが、アイヌの所へ神様と、まあ、maratto〔宴の客〕として かな。神様として行くとたくさんのお土産をもらって帰ってくる、それを 見て、私も一度だけでいいから、アイヌの村へ、お客として行ってみたい な。そんな風に考えておっても、私の住んでおるところは、ずーっとアイ ヌの住んでおる所から遠い遠い海を隔てた土地なので、何とか渡りたい と、そんな風に考えて、何日か何年か、過ごしておった。ある日の事、ど うしてもアイヌの所へ行きたくなったので、 貝澤:cikuni〔薪〕ないな、家に。 萱野:いや、あるある。草で舟を作ったと、それも少ない数でなく60艘の舟を 作ったと。そしてそれにまた草で、たくさんの人間を作って、それに乗り こませて、 貝澤:top aynu〔竹の人間〕だからおっきいのさ。 萱野:乗り込ませて、私も一緒に乗って、アイヌの村をさして漕ぎ出した。何日 も何日も漕いでおるうちに、大しけにあって、もう右へ揺れ左へ揺れして おるうちに、草で作った舟なので、その舟はたちまち壊れてしまった。私 も、どうかどうかしておるうちに、すっかりもう、舟も壊れちゃったので、 海へ落ちて、どうか泳いだり流れたりしながら、 貝澤:ukirare ya hawe(?)さ。 萱野:波に打ち上げられるように、海辺へ浜辺へ寄せられた。そして、もう半死 半生になっているところへ、一人のアイヌの立派なおじいさんが出てき て、黙って私の方を見るので、何とか助けてほしいということは、その狐 の考えは、アイヌの所へお客として行きたいんだということを言いたい んだけれども、さっぱり言葉として言うこともできない。こう、鼻先をア イヌの村の方へいくらかビクビク動かしたら、 「まあ、用事あるんならお れの後へついてこい」と、そのおじいさんが言いながら、歩き出したので、 おじいさんの後をついて行った。 そうすると、浜辺のちょっと奥まった所で、大きな村、何十軒かの村が あって、その村の一軒の家へ入って、私はすぐにその家の裏を回って、 inawcipa〔幣場〕という祭壇の所へ行っておった。そしたら、今一緒に来 た爺さんが、火の神様へ話ししたらしく、火の神様が出てきて、 「お前が アイヌ部落に行きたいという理由もわかった。神様にするから、少しお待 ちください。」と、火の神様が言いましたと。 それで私は黙って待っていると、家の中から弓と矢を持った人が出て きて、私を弓で射殺してくれた。そして、たくさんのたくさんのごちそう を、イナウやもちやたくさんのお土産をもらって、私は神の国へ帰ること ができました。 それから、まあ見て私にたくさんのイナウをくれたアイヌの所へはた くさんのまだ授けものですから、狩猟に恵まれるように見守って、いつま でもいつまでも、私はアイヌの神様として、過ごすようになりました。と、 黒狐が言いました。これは kamuyyukar〔神謡〕でした。 貝澤:ほんとに kamuyyukar〔神謡〕よ、これ。 萱野:kamuyyukar はいいね。おばさん。 貝澤:あれ、あの木はくべたらいいの。まるっきり火ない。
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