限定視点を生成する叙述 野浪正隆 1 • 鮎太と祖母りょうの二人だけの土蔵の中の生 活に、冴子という十九歳の少女が突然やって 来て、同居するようになったのは、鮎太が十 三になった春であった。 • 事態+説明 • 語り手 • 事態説明 2 • 冴子という名前は、それまでに祖母の口から 度々聞いていたが、鮎太が彼女の姿を見た のは、その時が初めてであった。 • 事態+説明 • 語り手 • 事態説明 3 • 鮎太はなんとなく不可ないものが、静穏な祖 母と自分の二人だけの生活を攪乱しにやって 来たような気がした。 • 心理+記述 • 語り手 or 鮎太 • 心理記述 4 • そうした冴子への印象は、彼女の初対面の 時の印象から来たものか、冴子という少女に 対する村人の口から出る噂がそうした余り香 しくないもので、それがいつとはなしに、鮎太 の耳に入ってきたことに依るのか、それは はっきりしなかった。 • 心理+説明 • 語り手 or 鮎太 • 心理説明 5 • • • • あるいはその両方であったか知れない。 心理+説明 語り手 or 鮎太 心理説明 6 • その日、鮎太が学校から帰って来ると、屋敷 と小川で境して、屋敷より一段高くなっている 田圃の畔道を両肘を張るようにして、ハーモ ニカを吹いて歩いている一人の少女の姿が 眼に入った。 • 行動記述 + 知覚描写 • 鮎太 • 眼に入った 7 • • • • 少女と言っても鮎太よりずっと年長である。 人物説明 or 心理描写 語り手 or 鮎太 判断「年長である」が鮎太の心理描写である 可能性あり 8 • • • • 村では見掛けない娘であった。 人物+説明 or 心理+描写 語り手 or 鮎太 「村では見かけない」 視点の移動 それまでの「記述」「説明」から、6文の 「描写」 へという叙述法の変化と、「眼に入った。」という 知覚の描写とによって、語り手の視点から鮎太の 視点(限定視点)に移動し、その鮎太の視点が 「屋敷と小川で境して、屋敷より一段高くなってい る田圃の畔道を両肘を張るようにして、ハーモニ カを吹いて歩いている一人の少女の姿」をとらえ ている。という効果が生じている。 限定視点を生成するしかけ 1 • 語り手視点からの (限定視点)人物の恒常 的状態 の 記述・説明 • 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさん がありました。おじいさんは山へ芝刈りに、お ばあさんは、川へ洗濯にいきました。 限定視点を生成するしかけ 2 • 語り手視点からの (限定視点)人物の特定 時の状態行動 の 描写・記述 • ある日のこと、おばあさんが川で洗濯をして いると、 限定視点を生成するしかけ 3 • 語り手視点から 限定視点人物の特定時の 心理の描写 • おばあさんは「不思議だなぁ」と思いました。 限定視点を生成するしかけ 4 • 限定視点人物からの 特定時の現象の描写 • 河上から大きなモモがどんぶらこどんぶらこ と流れてくるのが見えました。 限定視点を生成する叙述 まとめ 1. 語り手視点からの (限定視点)人物の恒常 的状態 の 記述・説明 2. 語り手視点からの (限定視点)人物の特定 時の状態行動 の 描写・記述 3. 語り手視点からの 限定視点人物の特定時 の心理の描写 4. 限定視点人物からの特定時の現象の描写
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