受動素子による連結構造圧電振動子の振動制御

1-10-19
受動素子による連結構造圧電振動子の振動制御∗
○黒田淳, 及川靖広, 大内康裕, 山崎芳男 (早大理工)
1
はじめに
動子は圧電素子の面が分かりやすいように、音響放
ユニモルフ振動子やバイモルフ振動子など、曲げ
振動を使用する圧電振動子は、基本的に圧電素子と
金属板を張り合わせた振動板により構成される。1 つ
の振動板のみにより構成される圧電振動子の問題点
として、振動による電気的接続部の故障および、各
部の接着による機械的品質係数の低下がある。前者
の電気的接続部は、圧電素子の分極の両極に駆動回
路を接続するものであり、通常はリード線等を半田付
けすることにより構成するが、振動への影響を最低
限にするために、細径のリード線を使用し、また半
田量も少なくするなどの製作上の工夫が必要となる。
そのため、電気的接続部の機械的強度は非常に弱く、
振動子の振動により破損しやすい。また、後者の振動
子の接着については、振動板を支持するための低弾
性材の接着、圧電素子と金属板を接着がある。接着を
行うための接着剤の塗布量が多いほど、振動子の機
械的品質係数は低下する。しかし、接着部分の機械的
強度を十分に保つためには、十分な接着剤の塗布量
が必要となる。
上記の 2 点の課題が解決手段として、圧電素子と
金属板からなる 1 番目の振動板にさらに別の 2 番目
の振動板を接続し、2 番目の振動板のみを振動させる
ことが考えられる。本報は、圧電振動子の電気駆動回
路内にインダクタを接続することにより、上記課題の
解決が可能となることを報告するものである。
2
設計課題及び設計手法
2.1
連結構造圧電振動子
本報における、圧電振動子の前提条件は下記のと
おりである。
1. 圧電振動子はユニモフルフ構造もしくはバイモル
フ構造の振動板 1、及び振動板 1 とほぼ同等のスティ
射される面を机上において撮影している。Fig. 1 の
振動子において、振動板 1 は圧電素子と金属板を貼
り合わせて構成されているユニモルフ振動子である。
振動板 2 は、振動板 1 と同一の寸法と金属により構
成されている。振動板 1 は、通常、低弾性材により基
本振動姿態の節をフレームに支持される。半田付け
されたリード線により圧電素子の分極両極から電気
的に接続されている。振動板 1 と振動板 2 は、樹脂
により構成されたロッドにより接着により接続され
ている。振動板 1 と 2 の金属をリン青銅、半径を 1.5
cm、厚さを 1.55 mm とすると、その基本共振周波数
は共に 40∼45kHz 程度となる。また、上記の前提 2
のようにロッドを樹脂にて構成すると、振動子の 2 つ
の共振周波数は 40 kHz から 60 kHz の間に生じる。
上記の 3 つの前提を満たす Fig. 1 に示すような
連結構造を持つ圧電振動子の全振動変位の総和は、
Lagrange-Maxwell 方程式により、下記の通り常微分
方程式にてあらわすことができる。[1, 2, 3, 4]
ここで、物理定数に付与する添え字として、3 つの
部材、すなわち振動板 1、ロッド、振動板 2 を表す記
号として α、β 、γ を用いることとする。
£
mα Φ̈α + rα Φ̇α + sα Φα + sβ (ζα Φα − ζγ Φγ )
³
´¤
+rβ ζα Φ̇α − ζγ Φ̇γ = Fzα
(1)
£
mγ Φ̈γ + rγ Φ̇γ + sγ Φγ − sβ (ζα Φα − ζγ Φγ )
³
´¤
+rβ ζα Φ̇α − ζγ Φ̇γ = 0
(2)
ここで、mα 、mγ 、sα 、sγ 、rα 、rγ を振動板 1 と
2 の質量面密度、スティフネス、摩擦損失とする。
また、ロッドは樹脂で構成されていることから、そ
の質量を無視して、スティフネスと摩擦係数を sβ 、rβ
フネス、質量密度および寸法を有する振動板 2 から
を連結した構造により構成される。
2. 2 つの振動板を連結する材料を樹脂や接着剤にて
構成する。
3. 振動板 1 を低弾性材により基板やフレームに支持
した構造とする。
上記の前提により設計された連結構造を有する圧
電振動子の例を Fig. 1 に示す。Fig. 1 において、振
∗
Fig. 1 Picture of piezoelectric transducer having
double-linked structure.
Vibration control of piezoelectric vibrator having linked diaphragms with passive device. by KURODA,
Jun, et al. (Waseda University)
日本音響学会講演論文集
- 571 -
2015年3月
とする。Φα 、Φγ は、振動板 1 と 2 の振動変位の総和
総和に占める、ロッド接合部の振動変位の総和の比で
改めると、前述のとおり、振動板 2 の並列共振周波数
fp2 においては、振動板 1 からは振動板 2 が非常に高
いインピーダンスに見える。さらに Fig. 4 において、
ある。Eq. (1)、(2) は、Fig. 2 の通り、機械素子のみ
Lc と C0 が、fp2 にて共振を起こす場合、すなわち、
を表す。ζα 、ζγ は、振動板 1 と 2、各々の振動変位の
の等価回路に表すことができる。
Fig. 3 は、ロッドを 5 mm 角のアクリル樹脂とし
た場合の、等価回路の Branch 1 と Branch 2 にかか
る電圧を計算したものである。これらは、振動板 1 と
振動板 2 のロッド接合部中心にかかる圧力に対応す
る。曲げ板に対する集中加振力が増加すると振動変
位も増加することから、このロッド接合部の圧力の増
加に伴い振動板の振動速度も増加する。[5, 6]
Fig. 3 において、振動板 1 のみ 52 kHz に大きな
ディップが存在する。このディップは、等価回路 Fig.
2 における Loop 3 のみで共振が起こり、振動板 1 を
表す Branch 1 から見れば振動板 2 の Branch 2 が並
列共振を起こして見えることにより発生する。この
並列共振周波数は、
s
1
sγ + ζγ sβ
fp2 =
(3)
2π
mγ
となる。振動板 2 の並列共振周波数 fp2 を利用するこ
とができれば、本報の設計課題が解決される。
2.2
1
√
= fp2
2π Lc C0
(4)
となるように、直列に接続するインダクタ Lc を設計
すれば、振動板 1 から見て、電気素子側も非常に高い
インピーダンスに見える。結果として、振動板 1 を表
す Branch 1 には電圧がかからず、電流も流れないと
大胆に近似すれば、制動容量と Branch 2 は Branch
1 を介してイマジナリーショートしているとみなせる
ので、Branch 1 をナレータに置き換えて記述できる。
上記の条件を満たす周波数 fp2 における等価回路をナ
レータを用いて Branch 1 を表し、全て電気回路側に
換算して、Fig. 5 に示す。ただし、Fig. 5 は、本報
の課題解決策としての設計を模式的に表すのみであ
り、計算精度を欠くので、詳細の回路計算には使用し
ない。Fig. 5 にて、本報での設計課題に対する解決
策はより明確に明示されている。すなわち、振動板 1
を動かさないという条件がナレータによって表され、
そのことの実現は、Fig. 5 の電気素子と振動板 2 に
点線で示された 2 つのループ Loop 3 と Loop 4 に同
一周波数で並列共振を起こさせることにより可能と
電気駆動回路
Fig. 2 の機械素子のみの等価回路に、圧電素子の
制動容量 C0 を含め、直列に接続するインダクタおよ
びその直流抵抗 (DCR) を加え、mα 、mγ 、sα 、sγ 、
rα 、rγ を電気回路の慣習に従い L、C 、R にて書き
なる、という設計内容が明示されているのである。
2.3
回路定数の設計
Fig. 5 に示した、周波数 fp2 における並列共振を
有意義に活用するために重要な設計課題は下記のと
おりである。
Fig. 2
Schematic of equivalent circuit of transducer
having double-linked diaphragms (mechanical components only).
Fig. 3 Frequency response of applied pressure at
junction of rod.
日本音響学会講演論文集
Fig. 4
Schematic of equivalent circuit of transducer
having double-linked diaphragms with inductor.
Fig. 5 Schematic of equivalent circuit of transducer
having double-linked diaphragms with inductor at
parallel resonant frequency of diaphragm 2.
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2015年3月
1. 振動板 2 とロッド接合部の圧力、及び振動速度を
向上させる。
2. 振動板 1 とロッド接合部の圧力、及び振動速度を
となる。
抑制する。
定することになる。ここでは、重要なパラメータの
この 2 つの設計課題を達するためにどのように回
路素子を設計すべきかを明確化するため、等価回路
Fig. 4 を用いて、振動板 1、振動板 2 への加振力 (等
価回路上は Branch 1 と Branch 2 の電圧) を計算す
ることとする。
等価回路 Fig. 4 において、Kirchhoff の電圧則
(Kirchhoff’s Voltage Law, KVL) より、調和電圧電
流に対するフーリエ変換領域において下記の 3 本の
代数式が成り立つ。
V0 − jωLc Ie − Rc (Ie + AIα ) − V = 0
(5)
jωLα Iα + Rα Iα + Rβ (ζα Iα − ζγ Iγ )
1
1
+
Iα +
(ζα Iα − ζγ Iγ ) − AV = 0 (6)
jωCα
jωCβ
jωLγ Iγ + Rγ Iγ − Rβ (ζα Iα − ζγ Iγ )
1
1
+
Iγ −
(ζα Iα − ζγ Iγ ) = 0
jωCγ
jωCβ
ラメータに対する変化を確認しながら、最適値を決
1 つである容量比および制動容量について考察する。
Eq. (8)、(9) から、振動板 1 と 2 の周波数 fp2 にお
ける振動速度は、制動容量 C0 に比例することがわか
る。よって、設計課題 1 の振動板 2 のロッド接合部の
圧力を向上させたければ、制動容量に加えてさらに外
付けで並列にコンデンサを接続するなどすればよい、
しかし、Eq. (12) から、振動板 1 と振動板 2 のロッ
ド接合部の圧力の比は制動容量 C0 にかかわらず一定
となることから、振動板 2 の振動速度をむやみに増
大させると、設計課題 2 が満たせなくなる。また、制
動容量 C0 をむやみに大きくすると、電気素子に流れ
る電流 Ie が増大し、無用な電力を消費することにな
るので注意が必要である。
2.4
数値計算例
圧電振動子に対して、インダクタ Lc を直列に接続
(7)
ここで、V = 1/(jωC0 )(Ie + AIα) である。さて、
設計課題は、振動板 2 の並列共振周波数 fp2 におい
てであり、制動容量 C0 と直列に接続するインダクタ
Lc もこの周波数で共振するように Lc を設計してい
ることから、Lc = 1/[(2πfp2 )2 C0 ] であることに注意
し、また計算を簡単にするため Rc = 0 とすると、Eq.
(5)、(6)、(7) は、振動板 1 と 2 のロッド接合部の圧
力 (電圧) Vα 、Vγ は、下記の通りとなる。
s
C0 V0 ζγ Cγ + Cβ
Vα |f =fp2 = jZα |f =fp2
(8)
A
Lγ Cβ Cγ
Vγ |f =fp2
実際の設計においては、Eq. (8)、(9)、(12) の各パ
C 0 V0 ζ α
= −jZγ |f =fp2
ACβ (Rβ ζγ + Rγ )
s
"
#
ζ γ Cγ + Cβ
+j
·
−Cβ Rβ
Lγ Cγ Cβ
(9)
することにより、Fig. 5 に概念図を示した電気素子
の並列共振ループ Loop 4 と振動板 2 の並列共振ルー
プ Loop 3 がイマジナリーショートされているのに近
い状態を作り出すことにより、上記の設計課題 1 と 2
が解決されることを数値計算により示す。
Table 1 に振動子を構成する部材の寸法を示す。
Table 2、Table 3 に振動子を構成する金属板とロッ
ドの物理定数をそれぞれ示す。 また、圧電材料は日本
セラテック社の C 材を想定する。Table 4 に C 材の代
表的使用を記載する。圧電素子の制動容量および容量
Table 1
Dimensions of diaphragm and rod.
Diaphragms
radius
thickness
7.5 mm
1.55 mm
PZT
thickness
0.1 mm
Rod
Height = Side
5.0 mm
なお、Zα |f =fp2 、Zγ |f =fp2 は、Branch 1、Branch
2 の周波数 fp2 におけるインピーダンスであり、
1
Zα |f =fp2 = j2πfp2 Lα + Rα +
j2πfp2Cα
1
Zγ |f =fp2 = j2πfp2 Lγ + Rγ +
j2πfp2Cγ
Table 2
Physical properties of the diaphragm.
(10)
(11)
Material
phosphor bronze
Mass density
8.80 × 103 kg/m3
Young’s modulus
1.10 × 102 GPa
Eq. (8)、(9) から、振動板 1 と 2 のロッド接合部
の圧力の比は、
¯
¯
Zγ ¯¯
Vγ ¯¯
ζα
·
=
Vα ¯f =fp2
Rβ ζγ + Rγ Zα ¯f =fp2
s
Cβ Rβ2 ζγ Cγ + Cβ2 Rβ2 + Cγ Lγ
·
ζγ Cβ Cγ + Cβ2
日本音響学会講演論文集
Table 3
Material
(12)
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Acrylic resin
Physical properties of the rod.
Mass
density
1.19 × 103 kg/m3
Young’s
modulus
3.14 GPa
2015年3月
Table 4
Physical properties of piezoelectric board.
Coupling
factor
Kr = 0.61
K31 = 0.35
K33 = 0.65
Piezoelectric
strain constant
×10−12 m/V
d31 = −160
d33 = 280
d15 = 450
Elastic
constant
×10−12 m2 /N
S11 = 15.2
S33 = 15.5
きていることが確認できる。また、Eq. (9) にて述べ
たとおり、容量比 r に対して振動板 2 のロッド接合
部圧力が単調に増加していることがわかる。一方で、
振動板 1 のロッド接合部圧力も、容量比 r の増加に
比は、各々実測値から、C0 = 16nF、r = C0 /C1 = 80
として設定する。また、圧電素子への印可電圧は 5
Vrms とする。
Table 1、2、3、4、および制動容量と容量比の数値
を用いて各振動板のロッド接合部の圧力を計算する。
インダクタを直列接続し、容量比 r を 40、80、160
と変化させた時の各振動板のロッド接合部の圧力の
周波数特性を Fig. 6、7、8 に示す。
伴い増加はしているが、その値は振動板 2 に比して
10 倍 (20 dB) 以下である。設計課題 2 の達成のため
には、不必要な振動板 1 のロッド接合部圧力の増強
を避けるため、ここで述べた例では容量比は 80 以下
とすること、つまり余分に並列なコンデンサを圧電
振動子に接続しないのが妥当な設計である。
3
おわりに
本報では、ユニモルフ振動子やバイモルフ振動子
など、曲げ振動を使用する圧電振動子の問題点とし
て、振動による電気的接続部の故障および、各部の接
着による機械的品質係数の低下を解決する策として、
連結された 2 番目の振動板を持つ圧電振動子を構成
し、その 2 番目の振動板の並列共振を利用する設計
指針について述べた。すなわち、2 番目の振動板の並
列共振は、そのままでは振動速度が小さく利用でき
ないが、外部から直列にインダクタを接続すること
により増強できることを理論計算により示した。我々
Fig. 6
Frequency response of applied pressure at
junction of rod (with inductor r = 40).
は、実験により、詳細の設計検討を行っていく。
参考文献
[1] J. Kuroda, et al., “Design of resonant frequencies of the piezoelectric actuator with integrated components,” Proc. ICA (POMA Vol.
19), pp. 030–066 (2013).
Fig. 7 Frequency response of applied pressure at
junction of rod (with inductor r = 80).
[2] R. Holland, “Analysis of multiterminal piezoelectric plates,” J. Acoust. Soc. Am., 41(4B),
pp. 940–952 (1967).
[3] J. Soderkvist, “An equivalent circuit description of two coupled vibrations,” J. Acoust. Soc.
Am., 90(2), pp. 663–699 (1991).
[4] J. Saneyoshi, et al., Handbook of Ultrasonic
Technologies (in Japanese), Nikkan Kogyo
Shimbun, Tokyo, Chap. 3, pp. 381–388 (1978).
[5] Y. Urata, “Analysis of the bending plate by the
analytical solutions,” Trans. Jpn. Soc. Mech.
Eng. (Ser. C), 68(668) (2002).
Fig. 8 Frequency response of applied pressure at
junction of rod (with inductor r = 160).
Fig. 6、7、8 と、インダクタを接続しない場合の
ロッド接合部圧力 Fig. 3 を比較すると、設計目標通
[6] T. Suzuki, et al., “Vibration characteristics of
unimorph type circular piezoelectric vibrator”
り、周波数 fp2 におけるロッド接合部圧力は、振動板
2 がより大きく増強されており、設計課題 1 が達成で
日本音響学会講演論文集
- 574 -
(in Japanese), Dynamic and Design Conference
2007, No. 07–08 (2007).
2015年3月