「すなまわり」 鶴川健吉

「すなまわり」
鶴川健吉
元行司が書いたというから、興味津々で読んだ。相撲界の見えざる一面をのぞき知ることができ
た。そして、これからは大相撲中継を見るときには、行事に注目したくなった。上下関係や師弟
関係、大部屋でのくらしなど、独特で濃い人間関係が支配する世界で、生きていくためには、己
を殺さねばならないことも多々ある。好きでなければやっていけない世界だが、見ると・入ると
は大違いといったこともあろう。
相撲に魅入られ、相撲関係の記事をスクラップにためこみ、学校では授業中は四股名を書き続け、
力士にあこがれた少年は、体が小さいために断念し、それなら行司にと相撲界に飛び込む。
とにかく筆者の描写は、微に入り細を穿つ。排水口にたまった髪の毛を流れ落ちる痰と歯磨きの
唾液のトライアングルなど、想像するに気色のいいものではないが、否が応でも目の前に浮かん
できてしまう。土俵だまりで見上げる取り組みの様子は、映像からは全く掴み取ることができな
い。力士の息遣いや筋肉の震え、呼吸の一つひとつが手に取るように伝わってくる。はだしが定
番だから、かかとはひび割れするという(7 月に採用されて、9月には割れていた)。そのひびに
は繊維や土俵の砂が入り込むと言う。想像しただけで痛くなる。
力士はもちろんだが、行司の世界も階級社会だ。位によって身に着けるものが違うから、いでた
ちでそれがわかる。幕下以下は「素足」だ。
階級
房の色
履物
a. 木村庄之助
総紫
白足袋に草履/短刀
b. 式守伊之助
紫自
白足袋に草履/短刀
1. 立行司
2. 三役格行司
朱
白足袋に草履
3. 幕内格行司
紅自
白足袋だけ
4. 十両格行司
青自
白足袋だけ
5. 幕下格行司
黒または青
素足
6. 三段目格行司
黒または青
素足
7. 序二段格行司
黒または青
素足
8. 序ノロ格行司
黒または青
素足
さて、日曜日(13 日)から秋場所が始まったが、違った楽しみ方ができそうだ。で、秋場所の見
どころは、アマチュア横綱から3場所で入幕を果たした「遠藤」、新小結の「高安」、ラマダンを
乗り切った十両の「大砂嵐」だろう。横綱・日馬富士は 4 日目はや 2 敗となり、今日負ければ進
退問題になりそうだ。