(3 年度(終了)班) 課題番号:24-12 研究課題名:精神神経疾患の原因

(3 年度(終了)班)
課題番号:24-12
研究課題名:精神神経疾患の原因・関連遺伝子に関する基盤的開発研究
主任研究者:星野幹雄(国立精神・神経医療研究センター(NCNP), 病態生化学)
分担研究者:貝淵弘三(名古屋大学)、中島欽一(九州大学)
、岩本和也(東京大学)
油谷浩幸(東京大学)
、内匠透(理化学研究所)
松尾勲(大阪府立母子保健総合医療センター)
深田優子(生理学研究所)
、永井拓(名古屋大学)、今吉格(京都大学)
太田深秀(NCNP・第三部)、井上高良(NCNP・第六部)
須藤文和(NCNP・微細構造研究部)
1研究目的
精神神経疾患は、遺伝要因と環境要因の
両者が連関し影響し合って惹起されると考
えられている。それ故に、その病態の理解
のためには、「ゲノム」及び「エピゲノ
ム」の両側面からのアプローチが必要であ
る。本研究では、友班である後藤班(バイ
オリソース班:H21〜H23 年度研究開発費)
及び星野班(エピゲノム班:H21〜H23 年度
研究開発費)によって蓄積されてきた精神
神経疾患に関する「ゲノム」および「エピ
ゲノム」情報を統合し、個々の疾患の原
因・関連遺伝子のいかなる異常が疾患の発
症や病態を惹起するのかについて、モデル
動物の作製と解析や in vitro 実験などの
基盤的研究によって明らかにする。さら
に、様々な精神神経疾患のモデル動物でヒ
ト精神神経疾患様の症状が認められた場
合、その情報を後藤班へと還元し、その遺
伝子の異常によって引き起こされる新たな
ヒト疾患の同定に努める。
2研究方法
後藤班のゲノム情報あるは星野班のエピ
ゲノム情報によって、精神神経疾患との関
連が疑われた遺伝子について、その生理的
機能とその破綻による発症機構について調
べるため、モデル動物を活用する。
倫理面への配慮
DNA 組換え実験に関しては、カルタヘナ法
の精神に基づいて、研究計画を立案し、各々
の組換え DNA 実験安全委員会による審査、
承認を受けた上で実施する。ヒトの検体を
用いた研究については、文部科学省、経済産
業省合同により告示された「ヒトゲノム・遺
伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守し、
各施設の倫理委員会の承認を得た承諾書を
用いて採取した材料を使用する。動物実験
については、
動物愛護法の 3R の精神に則り、
各施設の動物実験倫理指針に基づいて研究
計画書を提出し、動物実験倫理委員会の承
認を得て行う。
3研究結果及び考察
精神・神経疾患のエピゲノム解析
エピゲノム解析は、
(岩本)精神疾患患
者死後脳におけるエピジェネティック変異
の検索と解析をし、良好な結果を得た。
(油谷)種々のヒト組織の DNA メチル化を
比較することによって組織特異的メチル化
マーカーの探索を進めた。(松尾)ヒスト
ンアセチル化修飾が異常になると、神経管
閉鎖不全を引き起こすことを見出した。
精神・神経疾患モデル動物の作製と解析
精神神経疾患のモデル動物の解析として
は、自閉症・発達障害・ADHD(内匠、今
吉、須藤、井上、星野)
、統合失調症(貝
淵、永井、太田)
、レット症候群(中島)
、
てんかん(深田、星野)の解析を進めた。
加えて永井は、マウスの行動解析・神経化
学的解析を(星野、貝淵、今吉)らとの共
同研究で進めた。また、井上は、遺伝子改
変マウスの作製を(星野、中島)らとの共
同研究で進めた。これらの解析で、モデル
マウスからヒト精神神経疾患様の症状が認
められた場合、後藤班の症例ライブラリー
を用いて検索を試みる。
ヒト精神神経疾患に関するバイオマーカー
の探索
後藤班の作製した「発達障害を伴うてん
かん」のバイオリソースを活用することで、
基礎研究で得られた成果を臨床応用発展さ
せた。
(星野)新規に同定した“てんかん発症関
”の異常を後藤班の症
連遺伝子(Epi-IER)
例ライブラリーを用いて探索し、複数の発
現低下・遺伝子変異の患児を見出した。従
って、Epi-IER の遺伝子状態を調べれば、
てんかん発症に関与するバイオマーカーに
なりうる可能性が示唆された。さらに、
“自閉症発症関連因子 Auts2”の遺伝子異
常の解析も進めた。
班員各々の技術を提供することで、作製
した疾患モデルマウスの解析、精神・神経疾
患関連遺伝子の作用機序の解明を試みた。
その結果、ゲノム・エピゲノムの両側面から
のアプローチすることで、各遺伝子と精神
神経疾患の病態との関連を解明する道筋を
作れたと考えている。
4結論
これまでに、国内外のいくつかの大規模
スタディにより、精神神経疾患の原因・関
連遺伝子の候補が数多く同定されてきた。
また、疾患患者における全遺伝子的なエピ
ゲノム情報のデータも蓄積しつつある。し
かし、それらの情報を統合した研究はまだ
緒についたばかりである。本研究班では、
後藤班で同定された疾患原因・関連遺伝子
について、ゲノム異常およびエピゲノム異
常の二つの観点から徹底的に調べ、また疾
患モデル動物を作成することによって、精
神神経疾患の発症、病態進展機構を明らか
にしつつある。本研究班は終了するが、今
後も密に連絡を取り合い、研究を進めてい
く。
5研究発表
口頭発表:70 件
原著論文:81 件
(深田)Nature Medicine, 21, 2015
(貝淵)Nature Neuroscience, 5, 2015
(星野)Cell Reports, 2014
(岩本)Neuron, 81, 2014
(今吉)Science, 342, 2013
6知的所有権の出願・取得状況
1件
7自己評価
1)達成度について
研究班として、良好な結果を得られてい
る。また、精神神経疾患の原因遺伝子/遺
伝視座のモデル動物の作製やエピジェネテ
ィックな遺伝子発現も検討したことから、
研究目標はほぼ達成できたと考えている。
さらに、基礎から得られた情報を、臨床応
用に繋げられた点は満足している。
2)学術的、国際的、社会的意義について
精神神経疾患は、染色体異常や遺伝子異
常など扱うだけではもはや理解できない。
そのため、精神神経疾患に関するエピゲノ
ム解析法を整備した点は社会的意義のある
ものであると考えている。また、多くの研究
成果を国際会議や一流紙に報告したことか
ら、本研究の学術的・国際的な評価は高いの
でないかと考えている。
3)行政的意義について
本研究班によって、モデル動物を使った
精神・神経疾患の発症機構の解明、並びに、
疾患組織におけるゲノムのエピジェネティ
ックな変化が解明されれば、診断・治療への
応用と共に厚生労働行政に活かされると期
待される。
4)その他特記すべき事項について
特になし