放射性廃棄物処分におけるセメントおよびセメント・モンモリロナイト接触系の特性評価 Characterization of cement and cement-montmorillonite system for nuclear waste disposal 北大院工 ○濱中 孝之 HAMANAKA Takayuki 岡島 大 OKAJIMA Dai 佐藤 正知 SATO Seichi 小崎 完 KOZAKI Tamotsu 地下環境におけるセメントおよびセメント・モンモリロナイト接触系の長期的挙動についてモンモリロナイト中の pH 分布とセメントの表面変質の時間依存性および雰囲気依存性を調べた。 キーワード:セメント、モンモリロナイト、pH、EPMA 1.目的 放射性廃棄物処分において構造材であるコンクリートが地下水と接触すると、高アルカリ環境が生じる可 能性がある。これによって緩衝材であるベントナイトの性能低下が懸念される。放射性廃棄物処分の長期安 全性を評価する上で、処分環境における各材料の特性評価を行う必要がある。本研究では、コンクリートの 主成分であるセメントの溶解過程と、セメントとモンモリロナイト(ベントナイトの主成分はモンモリロナ イト)を接触させた系で、N2 雰囲気と CO2 雰囲気におけるモンモリロナイト間隙水の pH 分布の時間依存性 を調べることを目的とした。 2.実験方法 セメントの溶解実験 普通ポルトランドセメントを水/セメント比(重量比)0.45 で 10 分間混練し、ポリ プロピレン製容器(φ24×48.3 mm)に入れ一ヶ月以上室温で養生させた。その後、ダイヤモンドカッター で厚さ 10 mmに切断した。切断面を#1200 のエメリー紙で研磨し、エタノール中で超音波洗浄した。これ を室温、真空中で乾燥させた。この試料を温度 25 ℃、N2 ないし CO2 雰囲気で 200 ml のイオン交換水に浸 漬した。1 週間後に試料を取り出し、溶液の pH を測定した。試料は室温、真空中で乾燥させ、導電性樹脂 で固化した後、試料表面に垂直に切断し、EPMA により表面付近の元素濃度分布を求めた。 モンモリロナイト間隙水のpH 分布 アクリル製セル内で直径 20 mm、高さ 20 mm のカラム状に成型し た乾燥密度 1.0 g/cm3 の圧縮モンモリロナイトをイオン交換水で1ヶ月膨潤させた後、温度 25 ℃、N2 ない し CO2 雰囲気でφ25 mm、厚さ 2 mm の円盤状にしたセメントと接触させた。1ないし2週間後、圧縮モ ンモリロナイトを接触面から深さ方向に 1.0 mm ずつ切り分け、切断片のそれぞれについて液固比を 170 に した懸濁液の pH を測定した。 3.結果と考察 セメントの溶解実験 図.1 に N2 雰囲気での元素分布を示す。このときの接触させた溶液の pH は 12.5 で あった。セメント表面に Si の濃度が高い層が薄く存在しており、そのすぐ内側の数 10μm までは Al、Ca、 Si は溶解によってほぼ消失している。図ではわかりにくいが∼300μm で Ca/Si の低い層が形成されている のが確認できた。これは表面付近の Ca(OH)2、C-S-H ゲルが溶解することにより溶液の pH が上昇し、Ca、Si が飽和状態になり、内部から拡散してきた Si が表面で析出したと考えられる。P. Faucon らは表面付近で Ca/Si が低下し、Fe イオンや Al イオンが濃縮することを報告しているが、今回の実験では Fe、Al の濃縮は 見られなかった。また、高 pH では Ca(OH)2 は安定なのでこれ以上の溶解は抑制されていると考えられる。 図.2 の CO2 雰囲気の場合は、溶液側の pH は約 6.5 であった。Ca、Si、S の溶解が進んでいる部分が認め られる。S に関してはほぼ完全に消失していることから、S を含むエトリンガイト、モノサルフェートは消 失したと考えられる。Fe、Al に関してはどの領域でも均一に存在していた。よってC4AF(フェライト層) やC3AH6(ハイドロガーネット)が溶解せずに残っている可能性が高い。 データなし Al Ca Fe Si 図.1 EPMA によるセメント表面の元素分布(N2 雰囲気) Al Ca Si S Fe 図.2 EPMA によるセメント表面の元素分布(CO2雰囲気) モンモリロナイト間隙水のpH 分布 11.8 図.3 に窒素雰囲 11.6 11.4 るモンモリロナイト懸濁液の pH 分布を接触期間 1 週間と 2 11.2 週間のものの比較を示す。これによると、いずれの pH も接 11.0 触面から約 2 mm までのところで急激に減少している。プロ pH 気でセメントとモンモリロナイトを接触させた試料におけ 1週間 2週間 10.8 ファイルの形状は全体的には大きな変化は見られなかった。 10.6 図.4 は接触期間を2週間とし、N2雰囲気とCO2雰囲気 10.4 における pH を比較したものである。CO2雰囲気のほうが 10.2 N2雰囲気に比べ全体的にpH が低い。これは HCO3-がモン モリロナイト内部に侵入したためと考えられる(アニオン 時間依存性(N2雰囲気) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 接触面からの距離/mm 図.3 モンモリロナイトスライス片の懸濁液の pH 分布 なので拡散係数が大きい) 。接触面付近において pH の低下 11.8 が大きいのは図.2 に見られるように Ca(OH)2 が溶解しモン 11.6 モリロナイト中に拡散するが、反対方向から HCO3-が侵入し、 H+を放出するためと考えられる。接触面の pH 低下が進行 N2 CO2 11.2 pH するとセメントの溶解挙動に影響することも考えられる。 5.まとめ 雰囲気依存性(2週間) 11.4 11.0 10.8 10.6 セメントの溶解挙動は雰囲気に依存して異なる。N2 雰囲 10.4 気ではセメントと接触している溶液は高 pH かつ Ca およ 10.2 び Si が飽和状態に達するのでセメントは比較的安定で、溶 解が抑制される。地下環境に近い CO2 雰囲気での実験では セメント表面は溶解するが、HCO3-が拡散により供給される 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 接触面からの距離/mm 図.4 モンモリロナイトスライス片の懸濁液の pH 分布 影響でそれと接触しているモンモリロナイトの pH は低下する。このように、セメント・モンモリロナイト 接触系の特性評価では、CO2 の存在が大きく影響する。 参考文献 (1)大門 正機:セメントの科学、内田老鶴圃(1989) ( 2 ) P. Faucon et al.: Long-term behaviour of cement pastes used for nuclear waste disposal: Review of physico-chemical mechanisms of water degradation, Cement and Concrete Research Vol.28.No.6 (1998).
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