作業療法ガイドライン実践指針(2013年度版)

作業療法ガイドライン実践指針
(2013 年度版)
一般社団法人
日本作業療法士協会
目
次
序 文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
Ⅰ
作業療法の基本的な枠組みと考え方
1. 国際生活機能分類(ICF)と作業療法との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2. 作業療法と生活行為向上マネジメントとの関連・・・・・・・・・・・・・・・・4
3. 作業療法の対象と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
4. 作業療法士が関わる時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
5. 作業療法が関わる場所・領域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
6. 作業療法士の起業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Ⅱ
作業療法の実際
1. 作業療法の治療・指導・援助項目と具体的対象・・・・・・・・・・・・・・・・12
2. 作業療法の過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
Ⅲ
作業療法の実践事例
1. 作業療法によるシームレスな支援と多職種連携の重要性・・・・・・・・16
2. 実践事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
Ⅳ
作業療法と関連法規
1. 作業療法業務に関連する法制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2. 作業療法と医療・介護・福祉・教育制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
3. 作業療法実践を支える基本的枠組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
Ⅴ
作業療法と生涯教育
1. 学会、研修会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2. 生涯教育制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
3. 事例報告登録制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
4. 課題研究助成制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
1
作業療法ガイドライン実践指針改訂にあたって
作業療法を取り巻く社会的な環境は、少子高齢化社会と人口の減少、社会保障費の増加と労働
人口の減少、核家族化と単身世帯の増加等々構造的な変化が進行している。一方、社会保障の側
面では、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の成立、2025年問題への対応となる公助、共
助、互助、自助機能の充実による地域包括ケアシステムの構築、病院医療から在宅医療中心に等々
大きな方針が提示されている。これらは、これからの作業療法を考える上での基本的な骨格であ
り常に意識しておかなければならない。とりわけ、人口の減少は作業療法を目指す学生の減少と
相まって、将来の作業療法の質を担保する上で大きな影響因子であり、より優秀な人材確保とい
う意味でも、今後一層の良質な作業療法を提供し魅力ある職業として存在しなければならない。
リハビリテーションについては、大きな期待が寄せられているところである。それは、本年4
月の診療報酬改定で示されている。つまり、急性期病棟へのリハビリ専門職の配置、認知症病棟
へのリハビリ専門職の配置、回復期リハビリテーション病棟における、入院前後1週間以内での
訪問評価、心大血管リハビリテーション料への作業療法の職名記載等々である。国は大きな期待
を寄せている、これに応えることが作業療法士の務めである。
さて、作業療法ガイドライン実践指針の改訂である。本ガイドライン実践指針は、作業療法の
アイデンティティーを示す重要なものであると認識している。改定の骨子は、大きくは前段で述
べた社会情勢の変化と2012年のガイドラインとの整合性を図りつつ、第二次作業療法5カ年戦略
の下、作成されている。
具体的には、「第1章 作業療法の基本的枠組みと考え方」で、「作業療法と生活行為向上マ
ネジメント」の項目を設け、「生活行為向上マネジメント」に関する協会の取り組みを記述して
ある。また、作業療法のかかわる時期の中で、予防期と生活期に生活行為向上マネジメントを生
活支援方法の一つとして活用を挙げている。今後、教育及び臨床において普及することを切に願
っている。
作業療法の広がりという視点では、作業療法の枠組みの中に、「作業療法士の事業展開」が項
目として取り上げられたことは、協会が進める、第二次作業療法5カ年戦略を推進する上で重要
なことである。これを契機に、身近な地域に作業療法士の「拠点」の設置が推進されることを期
待している。
最後に、現在協会では「理学療法士法及び作業療法士法」改正に向けて、関係省庁に働きかけ
ている。その意図は、先に述べた社会情勢を鑑み、作業療法の対象、目的、作業等の見直しであ
る。過去、50年近くも改正されていな法律は稀である。改正に向けて更なる努力を積み重ねてい
くが、改訂ガイドライン実践指針がその基礎を築く礎となると確信している。
編纂に当たられた、学術部の方々に心より感謝申し上げます。
一般社団法人日本作業療法士協会
会
2
長
中 村 春 基
Ⅰ.作業療法の基本的な枠組みと考え方
1.国際生活機能分類(ICF)と作業療法との関連
作業療法は、対象者の心身機能の障害を改善・軽減するのみでなく、対象者の生活障害の軽減
を図り、本人がより満足のできる生活を構築(再編)していけるよう、様々な治療・指導・援助
を行うという特徴がある。作業療法の過程では、基本的能力、応用的能力、社会的能力という視
点から対象者の生活機能を捉え、制度や社会資源の利用等、対象者の個人特性に応じた治療・指
導・援助を重視している。これらの視点は、それぞれ ICF における「心身機能・身体構造」「活
動」
「参加」
「環境因子」
「個人因子」に対応させて考える事ができる。図 1 に作業療法の評価およ
び治療・指導・援助内容と ICF の概念枠組みとの関連を、表1に ICF 項目毎の作業療法の目的を
示した。
心身機能の状態がその人の活動と参加の状態に影響し、活動または参加の状態がその人の心身
機能に影響するように、人の基本的能力、応用的能力、社会的能力は相互に影響を及ぼし合う。
このため作業療法では、対象者の健康状態を高めるために生活機能を総合的に捉え、目的に応じ
て基本的能力、応用的能力、社会的能力に働きかける。また、応用的能力や社会的能力を発揮す
る上で環境や資源の果たす役割は大きく、その整備と調整が重要である。例えば、脳卒中等によ
って基本的能力、応用的能力、社会的能力に支障をきたした場合に、家屋改修、リハビリテーシ
ョン関連機器の活用、自助具や福祉用具の導入、義肢・装具の評価適合等を行うなど、環境や資
源を調整することにより、応用的能力や社会的能力を高め、これが基本的能力にも好ましい影響
を与えることになる。また、対象者の職歴や家庭での役割、趣味や楽しみなどの個人特性は、対
象者がしたいと思う生活目標を設定する上で重要である。
図1
ICF と作業療法の評価および治療・指導・援助内容との対応
作業療法の過程では、基本的能力、応用的能力、社会的能力という視点から対象者の生活機能を捉え、制度や
社会資源、対象者の個人特性等の背景因子とともに、それらの相互関係について考慮する。
3
表 1 ICF 項目と作業療法の目的
対
象
1.基本的能力
( ICF : 心 身 機
能・身体構造)
目
ICF 項目
的
精神面・感覚面・発声・循環器・代謝系・
排泄生殖系・運動面の機能
神経感覚系・神経筋骨格等の構造
2.応用的能力
(ICF:活動と参
加・主に活動)
生命の維持と基本動作等、日常生活
に必要不可欠な心身機能を回復・改
善・維持することと、失った身体構
造を補完する
対象者の個々の日常生活に必要と
される活動能力を回復・改善・維持
する
3.社会的能力
(ICF:活動と参
加・主に参加)
対象者が暮らす在宅・地域内での社
会的活動、就労などの社会参加に必
要な能力を回復・改善・維持する
4.環境資源
活動および参加に必要な環境を回
(ICF:環境因子) 復・改善・調整・維持する
社会生活・人生
場面への関わり
レベルにおける
右記項目
生産品と用具、支援と関係、家族親族の
態度、サービス・制度・政策
5.作業に関する 生活再建に関わる作業に影響を与
個人特性
える心身機能以外の個人特性の把
(ICF:個人因子) 握・利用・再設計
ライフスタイル、習慣、役割、興味、趣
味、価値、特技、生育歴、病歴、作業歴、
志向性、スピリチュアリティーなど
個人の遂行レベ
ルにおける右記
項目
学習と知識の応用、
一般的な課題と要求、
コミュニケーション、
運動・移動、セルフケ
ア、家庭生活、対人関
係、主要な生活領域、
社会生活など
2.作業療法と生活行為向上マネジメントとの関連
生活行為向上マネジメント(Management tool for daily life performance;MTDLP)とは、
日常生活活動(ADL)や手段的日常生活活動(IADL)など、人が生活を営むうえで必要な生活
全般の行為を向上させるために、その行為の遂行に必要となる要素を分析し、計画を立て、それ
を実行する一連の手続きであり、支援の手法を指す。生活行為向上マネジメントで実践する内容
は作業療法そのものといえるが、このような一連の手続きを他の職種や行政、一般の人達にも広
く理解してもらい活用してもらうために、あえて「作業」または「作業療法」という表現をせず、
生活行為、生活行為向上という言葉で表したものである。
日本作業療法士協会は、生活行為向上マネジメントを作業療法士が実践における共通の物差し
として活用し、普及啓発の基本方針として、1)生活行為向上マネジメントを自立支援型医療・介
護を具体化する一つの手法として位置づける、2)生活行為向上マネジメントが制度に組み込まれ
るよう働きかける、3)他の職種も使える分かりやすいものにする、4)都道府県作業療法士会で
の取り組みを支援することを挙げている。
3.作業療法の対象と目的
作業療法の対象と目的を ICF に沿って表1に示す。
1)対象
作業療法の対象は「身体又は精神に障害のある人、またはそれが予測される者」であり、対象
者の生活と、その生活を支える対象者の「基本的能力」「応用的能力」「社会的能力」「環境資源」
「作業に関する個人特性」などが、作業療法が関わる領域となる。また、作業療法士が対象者に
4
関わりをもつ時期は次第に拡大し、特に保健領域では健康寿命が求められるようになった。その
ため、近年、生活障害を予防するための作業療法が重要視されてきている。
2)目的
作業療法の目的は、対象者が主体的な生活を獲得することにある。また、作業(作業活動)が
文化や対象者の個人特性の影響を受けることから、特定の作業(作業活動)が遂行できるように
なること自体が、目的になりうることもある。
4.作業療法が関わる時期
健康寿命が求められるようになり、保健領域では生活障害を予防するための作業療法が重要視
されている。作業療法士が対象者に関わりをもつ時期を表 2 に示す。
表 2 作業療法士が対象者と関わる時期
時期
内
容
予防期
日常の生活に支障をきたさないように疾病や障害を予防する。加齢やストレスなどで
心身機能の低下を引き起こしやすくなった人に、作業療法の視点からアプローチを行
う(医療としての作業療法で関わるには、診断が必要)。健康状況の変化にも対応す
るよう、障害をもたない人に対しても健康増進の観点から関与する。
急性期
発症後、心身機能が安定していない時期を指し、医療による集中的な治療が中心とな
る。救命救急と安静が必要な時期を脱した亜急性期から、二次的障害の予防や、回復
期への円滑な導入に向けて早期から関わる。
回復期
障害の改善が期待できる時期。対象者の心身機能・身体構造、活動、参加の能力の回
復や獲得を援助する。
生活期
疾病や障害の回復が一定レベルに達し固定化した時期。疾病の再燃や再発を予防す
る。対象者の社会、教育、職業への適応能力の回復・獲得を援助するとともに、社会
参加を促進する。
終末期
人生の最期の仕上げとしての関わりが重要となる時期。ホスピスケアを含み、死と対
面することもあるが、対象者の心身機能、活動、参加の維持を図るとともに、尊厳あ
る生活への援助や家族への支援を行う。
1)予防期
対象者が健康でいられる状態を理解し、その健康状態を保つための関わりをすることで疾病に
かかりにくくすること、および疾病から引き起こされる障害を軽減させるような関わりをもつ時
期である。高齢者の活動と参加の維持、増進は周囲からも期待されている作業療法の重視課題で
ある。その関わりは生活に身近な地域で行われることが多く、各市町村保健センターが行う健康
教室、地域包括支援センターが行う介護予防事業、あるいは健康な高齢者を対象とする老人クラ
ブやデイサービス等からの依頼による健康指導の講師等、多岐にわたる。また、作業療法士とし
て常勤していない事業所での関わりになる場合もあり、対象者個々のニーズを短時間のうちに捉
えて応えるという技術が必要になる。健康高齢者を対象に予防的介入を計画するには、対象者が
5
どのような生活行為(人が生きていく上で営まれる生活全般の行為)に支障・不自由を感じてい
るかを把握する必要がある。日本作業療法士協会では、予防期からの作業療法における生活支援
方法の一つとして「生活行為向上マネジメント」を推奨している。
2)急性期
疾病の発症に伴い、心身機能に急激な変化のある時期であり、それまでの生活機能が失われる
ことになる。生命に関わる心身機能・身体構造の安定を第一に図るため、医学的管理体制が整っ
ている病院・医療機関での関わりとなる。また、安静状態の間にも進行する廃用症候群等による
二次的障害に対して、医師、看護師等と連携しながら、将来の生活状況を予測しつつ迅速かつ的
確に対応する時期でもある。この時期には、医学的知識に裏付けられた適切な作業療法の提供が
必要となり、対象者の基本的能力への関わりが中心となる。
3)回復期
急性期に急激に変化した心身の状態が徐々に落ち着いてくる段階で、疾病によっては少しずつ
自然回復や症状の改善が認められる。この時期には対象者の予後予測に基づき、生活上必要な機
能や活動能力を獲得するために到達可能な具体的な目標を設定する。立案した作業療法の計画に
沿って治療・指導・援助を実施し、基本的能力と応用的能力の回復・獲得を目指す。
この時期にはセルフケア能力を向上させることが重要である。セルフケア能力の向上は、生活
様式や生活環境の変化を少なくすることにもつながる。セルフケア能力の回復状態を把握し、よ
り自立的な生活や活動を可能にするために、生活環境の改変・整備を行い、家族等の協力者との
連携・調整を図る。並行してこれまでの生活や活動がどの程度可能で、どの程度の生活様式や手
段・方法の変更が必要かといった情報収集と評価を行う。これらの関わりを成功させるためには、
作業療法士による対象者のセルフケアや ADL 能力の見きわめが重要となる。
この時期の関わりは、回復期リハビリテーション病棟、精神科一般病棟、総合療育センター等
をもつ医療機関で行われることが多いが、対象者の状態によっては退院前に在宅での訪問指導を
行ったり、介護老人保健施設や身体障害者リハビリテーションセンター等の介護・福祉施設等で
行ったりすることもある。
4)生活期
この時期は疾病や障害像の変化が安定し、疾病や障害の再燃・再発、悪化を予防するとともに、
回復期で獲得されたセルフケア等の ADL 活動を実際に生活場面で実施する時期である。対象者の
生活活動の範囲拡大に伴い、社会的能力のなかでも IADL 等の個人生活への適応能力、対人関係
や社会参加等の社会生活における適応能力向上への援助が必要となる。
対象者の復帰先が種々の理由により施設になる場合もあるが、以前に生活していた場所に戻る
ことが多い。この時期は、対象者の視点からみれば生活を再獲得、あるいは再構築する時期とも
いえる。対象者や家族のなかには、疾病やその後の障害と現実の生活との差異に戸惑い、新たな
生活を展望することが難しかったり、現実の生活に容易に適応できなかったりする場合もある。
このため、対象者の状態に応じた柔軟な対応が必要となり、疾病や障害に対して意識を向け、そ
6
こから離れられない対象者や家族にとっては、趣味の開発や日々の時間の使い方、生活活動が円
滑に行えるための環境整備等について具体的に提案・指導していくことが、新たな生活への適応
を援助する有効な手段となる。
この時期に対象者が生活する場所と利用するサービスは、在宅、介護老人保健施設や介護老人
福祉施設等の介護保険施設、身体障害者療護施設や知的障害者施設等の障害者自立支援施設、精
神障害者生活訓練施設、デイサービス等多岐にわたり、対象者の状態とニーズに応じて様々な場
面において作業療法が提供される。
協会が推奨する「生活行為向上マネジメント」では、対象者が大切にしている、本人にとって
意味のある生活行為に焦点をあてており、生活期における作業療法の生活支援方法の一つとして
位置づけている。このなかでは、本人がしたいと思う生活行為を実現するために、生活行為アセ
スメントとして対象者の心身機能・構造、活動と参加、環境因子、個人因子に関連する諸課題の
分析を行い、基本的プログラム、応用的プログラム、社会適応プログラムからなる生活行為向上
プランを作成・提供する。
5)終末期
終末期注
1)は疾病や障害による基本的能力、応用的能力、社会的能力の低下があっても、その
人らしい人生の仕上げができるよう、個人の QOL を保障し、尊厳のあるケアが提供される時期
である。
がんを中心に緩和ケアが行われているが、がん以外にも進行性疾患等で終末期を迎える対象者
もおり、疾患の別を問わず対象者の QOL をどう高め、あるいは維持していくかが課題となる。
作業療法では、加齢や疾病、認知症等により心身機能が重度に障害され、活動制限や社会参加が
著しく困難となっている対象者への関わりも重要である。
終末期には疾患を治癒する、機能回復・向上を目標とするよりむしろ対象者の満足や価値とい
った視点からの関わりが求められる。それまで行ってきた生活が困難になった対象者が、今まで
の人生を肯定的に捉え、残された時期を少しでも意義深く過ごせるような関わり、側にいること
が安心感をもたらすような関わりが求められる。
この時期における関わりは、疾病や障害の状態から緩和ケア病棟や一般病院等の医療施設、介
護老人保健施設や介護老人福祉施設等の保健・福祉施設の他、対象者や家族の希望により在宅で
行われる場合もある。
終末期:医学的には余命 6 ヶ月の状態を指し、治療よりも対象者の心身の苦痛を和らげ、穏やかに
注 1)
日々を過ごせるよう配慮する。がんを中心とした終末期ケアは緩和ケアと呼ばれ、世界保健機関
(WHO)では「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期よ
り痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な、魂の)問題に関してきちんとし
た評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティ・オブ・
ライフ(QOL)を改善するためのアプローチ」
(特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会訳)と
定義している。
7
5.作業療法が関わる場所・領域
作業療法士が対象者と関わる場所は、保健、医療、福祉、教育、職業関連という領域に区分す
ることができ、作業療法は対象者の居宅、病院、地域における各種施設等のさまざまな場におい
て提供される。協会の「第二次作業療法5ヵ年戦略(2013 − 2017)
」では、重点的スローガンを
「地域生活移行・地域生活継続支援の推進〜作業療法5G O!・5G O!計画〜」とし、入院医療を
中心とした医療の領域に 5 割、保健・福祉・教育等の領域を含めた身近な地域生活の場に 5 割の
作業療法士を配置することを、先の 5 カ年戦略に引き続き目標としている。図 2 は 2013 年 3 月
時点での会員の配置数を示している。
また、対象者はその状態に応じて、同時期に複数の領域において作業療法サービスを受けるこ
ともある。保健、医療、福祉、教育、職業関連のそれぞれの領域に勤務する作業療法士は、相互
に緊密な連携をはかり、対象者のニーズに応じて基本的能力、応用的能力、社会的能力の獲得・
改善への治療・指導・援助を行う必要がある。作業療法士は、対象者の回復支援、社会参加・地
域生活支援を総合的に行うことにより、生活機能の拡大に貢献することができる。保健、医療、
福祉、教育、職業関連という作業療法が対象者と関わる各領域における作業療法の目的と、評価、
相談、治療、助言、指導等、作業療法を提供する際の留意点を以下に示す。
図 2 「地域生活移行・地域生活継続支援の推進〜作業療法5G O!・5G O!計画〜」会員配置数
1)保健領域の作業療法
この領域の作業療法の目的は、疾病の予防と健康の保持増進である。近年の高齢社会にあって
は、要介護状態を予防し、健康の保持増進を推進する活動が重視されてきている。作業療法士は
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これらの活動に直接的、間接的に貢献することができる。
これらの活動に対して作業療法士は 2 つの方法で取り組む。そのひとつは、対象者を直接的に
指導する方法である。健康教室、介護予防事業等で対象者一人ひとりの健康状態について評価し、
プログラムを定め、あるいは集団活動の利用を通して対象者に合目的的な活動を提供する。もう
ひとつの方法は、より広い集団に対しての教育的活動である。例えば、腰痛にならないためには
どうしたらよいか、心の健康を保つためにはどのような生活を送ったらよいか等、健康の保持増
進に関するテーマについて講演や講義・実技指導をするなどである。この方法は、対象者の問題
を直接的に解決するものではないが、より広い集団に対して介入・指導できるという利点がある。
保健領域における対象者の多くは、疾病や障害の影響がそれほど緊急性をもたないため、本人
の生活ペースに応じた自立支援がしやすい。そのため、本人の現在の生活様式や価値観、性格等
の個人特性に応じて、その能力を最大限活かすことを方針とし、指導内容を組み立てることにな
る。細かな指導を逐一行っても生活状況によっては達成されないこともあり、対象者にとって無
理のない目標を設定し、具体的な方法についてポイントを絞って指導・援助することが必要とな
る。また、この領域では保健師等の他職種との協業も多く、専門的知識・技術に立脚しつつ、幅
広い視点から他職種と連携する能力が求められる。
2)医療領域の作業療法
この領域に勤務する作業療法士は多い。医療領域では対象者の重症度や発症や受傷からの回復
状態によって目標とする治療・指導・援助の内容が変わってくるため、医学的な知識と専門的な
医療技術がより強く求められる。また、医学的知識や医療技術の発展は日進月歩であり、作業療
法においても、知識・技術を高めていくために自己研鑽が強く求められる。自らの専門性を向上
させ、対象者の状態に応じて、基本的能力の回復や改善、応用的能力の改善と促進、福祉機器・
用具等の活用や住環境整備等による社会的能力促進への適切な介入を行うことが重要である。
また、現在、医療施設では病床の機能分化が進んでおり、施設や病棟の機能に応じた作業療法
と、チーム医療への参画が求められている。急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟、訪問
リハビリテーションや外来作業療法等、治療形態に応じた作業療法の実践と、チーム医療におけ
る作業療法の機能や役割を明確化するために、臨床研究や事例報告を積み重ね、作業療法の実施
内容とその理由(リーズニング)、成果を示していくことが課題となっている。
3)福祉領域の作業療法
福祉領域における作業療法では、障害の軽減を図る医学モデルに加えて、対象者の生活を維持・
向上させる生活モデルの理念と実践がより一層求められる。福祉領域で業務を行う場合、周囲に
は他に医療職が少ないことも多く、対象者のもつ機能・能力障害について医学的視点からの判断
を求められることも多い。医療職種が少ない職場では、対象者の状態像に応じて適切な医療技術
を提供しうる作業療法士の役割は重要である。
近年、市町村圏域においても作業療法士が障害程度区分の認定審査委員となったり、市町村が
行う障害福祉計画の策定に関与したり、都道府県の障害者介護給付等不服審査会などに関わる機
会も徐々に増えてきている。対象者の生活状況に応じて適切なサービスが提供されるよう、都道
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府県圏域や市町村圏域の障害福祉施策に積極的に関与する姿勢が必要である。
地域で対象者に福祉サービスを提供する施設や事業所では、対象者本人を中心に、複数の関連
職種が関与しサービスを組み立てるケアマネジメントの手法が取り入れられている。本人、家族、
地域の支援者、関連職種等との効果的な連携を図るためには、チームの一員としてケアマネジメ
ントの技術を高めていく必要がある。この際にも、作業療法士は生物・心理・社会的な視点から
対象者を理解することのできる専門職種としてチームに貢献することが期待される。
4)教育領域と作業療法
近年、学習障害や注意欠陥・多動性障害をもつ児童の増加が指摘されており、教育領域におけ
る作業療法士の関与が求められている。これまで学齢期の対象者は、肢体不自由児が中心であり、
作業療法は教育的な関わりというより療育機関のなかで医療的な関わりをもつことが多かった。
しかし、現在では、対象とする障害の範囲が広がったこと、ノーマライゼーションの考え方が普
及したこと等により、対象者の生活の場が施設から在宅へと移行し、自宅から通学する子どもが
増え、特別支援教育のみでなく、普通学級にも障害をもつ子どもたちが通うようになった。しか
し、普通学級では医学的な知識をもつ専門家が少なく、教師に対する支援も求められている。
現代の社会では、子どもの心身の健康状態や、これに影響をおよぼす親子関係の在り方等、学
校教育を行う上で留意すべき課題も多く、一人ひとりの子どもに合った適切な教育を保障するた
めに、医療機関・福祉機関・教育機関の相互理解と連携がますます重要になってきている。
2007(平成 19)年度より現行の養護学校が特別支援学校として再構成され、基本的に障害区別
毎の学校体系ではなくなり、同時に各小・中学校でも特別支援教室を設置し、個別指導計画に基
づく教育を推進することが義務付けられた。個別教育計画 Individualized Educational Program
(IEP)等の実施を通して、教育領域への作業療法士の関与と活躍が求められている。
5)職業関連領域と作業療法
障害をもつ者が就労し仕事を継続するためには、基本的な生活リズムに加えて、基礎体力・作
業耐久性、作業習慣、対人関係技能、状況判断等の能力が必要となる。また、就労には労働の対
価として報酬を得るという一般的な意味合いと、社会的な役割をもつことで自己の社会的存在感
を認識し、自尊心を回復させるという意味合いがある。
障害者自立支援法(2005 年)および障害者雇用促進法の改定(2006 年)以降、相談支援や定
着支援等、就労に向けた支援メニューも増え、ハローワークや地域障害者職業センターの他、市
町村圏域で就労支援をサービスに掲げる事業所も増えつつある。身近な事業所の就労支援担当者
と連携を図ることで、スムーズな就労移行支援が可能となりつつあり、作業療法士が就労支援ワ
ーカーとして勤務する事業所もある。
作業療法士は医療職種のなかでも職業リハビリテーションと最も深い関連をもつ職種である。
心身に障害をもつ人の就労を支援するにあたり、対象者の心身の耐久性や作業遂行の特徴、対人
交流技能等の職業準備性を把握し、作業分析の視点から本人に適した業務内容や就業環境につい
て提言することのできる作業療法士の役割は大きい。特に精神障害や高次脳機能障害等、認知機
能に障害がある対象者の場合には、仕事を行う現場で、業務の遂行に直接必要となる知識や技術
10
を習得させる訓練(on-the-job training)が有効であり、現在、職業関連領域では就労支援ワーカ
ーやジョブコーチとして活躍することのできる作業療法士が強く求められている。
6.作業療法士の事業展開
図 2 に示したとおり、作業療法士の活躍の場は多岐に渡る。しかし現状では、作業療法士の多
くが医療法人や社会福祉法人等が設置する施設・事業所、独立行政法人、大学法人等に勤務して
いる。一方、地域に暮らす対象者のニーズに応えるために、僅かずつではあるものの、作業療法
士によるサービス事業所等への事業展開が増加してきている。最近では、低資本で株式会社の設
立が可能となり、株式会社のみならず、合同会社や合資会社、または、1998 年に成立した特定非
営利活動促進法により、特定非営利活動法人(NPO 法人)の法人格を得た団体が、訪問看護ステ
ーションや通所介護を代表とする介護保険サービスや、就労支援事業所等を運営することが可能
となっている。
こうした事業所では、既存の診療報酬や介護報酬、または、障害者総合支援法の枠組みのなか
で、圏域の市町村からの委託を受けて地域住民のニーズに応じたサービスを提供することになる。
高齢者の増加とともに、市町村が地域の健康高齢者を対象に実施する介護予防事業は、今後、ま
すます重要性が増してくると予測される。介護予防事業は、生活行為向上マネジメントの手法が
最も活用しやすい場でもあり、積極的に圏域市町村と連携し、住民ニーズに応える事業を展開す
る作業療法士が増えることが期待される。
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Ⅱ.作業療法の実際
1.作業療法の治療・指導・援助項目と具体的対象
作業療法では治療・指導・援助の手段または目的として様々な作業を用いる。その具体例を表
3 に示す。また、協会が取り組んできた「作業療法の見える化」のツールとして「生活行為向上
マネジメント」があるが、詳細は協会発行のマニュアル(作業療法マニュアル第 57 巻「生活行為
向上マネジメント」
)を参考にしていただきたい。
表 3 作業療法で用いる作業の具体例
対
象
1. 基本的能力
(ICF:心身機
能・身体構造)
2. 応用的能力
(ICF:活動と参
加・主に活動)
3. 社会的能力
(ICF:活動と参
加・主に参加)
作業療法で用いる作業
具
体
例
感覚・運動
物理的感覚運動刺激(準備運動を含む)
、トランポリ
ン・滑り台、サンディングボード、プラスティック
パテ、ダンス、ペグボード、プラスティックコーン、
体操、風船バレー、軽スポーツなど
生活行為、セルフケア、
ADL、IADL
食事、更衣、排泄、入浴などのセルフケア、起居・
移動、物品・道具の操作、金銭管理、火の元や貴重
品などの管理練習、コミュニケーション練習など
創作
絵画、音楽、園芸、陶芸、書道、写真、茶道、はり
絵、モザイク、革細工、籐細工、編み物、囲碁・将
棋、各種ゲーム、川柳や俳句など
仕事・学習参加
書字、計算、パソコン、対人技能訓練、
生活圏拡大のための外出活動、銀行や役所など各種
社会資源の利用、公共交通機関の利用、一般交通の
利用など
4. 環境資源
用具の提供、環境整備、
(ICF:環境因子)
相談・指導・調整
自助具、スプリント、福祉用具の考案作成適合、住
宅等生活環境の改修・整備、
家庭内・職場内での関係者との相談調整、
住環境に関する相談調整など
5. 作業に関する
個人特性
(ICF:個人因子)
生活状況の確認、作業のききとり、興味・関心の確
認、対象者にとって意味のある作業の提供に利用、
価値のある作業ができるように支援、ライフスタイ
ルの再設計など
把握・利用・再設計
2.作業療法の過程
作業療法は、通常、図 3 のような過程を経て実施される。評価、計画立案、実施は、経過のな
かで必要に応じて反復して行われる。いずれの段階においても、対象者へのインフォームドコン
セントの手続きがなされていること、十分なクリニカルリーズニング注
2)に基づき作業療法介入
(治療・指導・援助)が行われることが重要である。過去の事例に基づいたクリティカルパス注 3)
12
を活用することも考慮する。
注 2)
クリニカルリーズニング:臨床推論と訳されるが,臨床ではそのままクリニカルリーズニングと呼ぶ
ことも多い.作業療法におけるクリニカルリーズニングとは,作業療法士が特定の対象者と接する臨
床場面において,作業療法士の判断や行動を導く思考であり,その道筋である.
注 3)
クリティカルパス:もともとは生産工程やプロジェクトを管理する手法で,開始から終了までの時間
的流れを指していたが,医療・福祉分野にも応用され,検査・治療・リハビリテーション・退院など
の計画を明示し,在院日数の短縮,診療計画,チーム連携,患者への情報提供などの目的で使用され
ている.クリニカルパス,ケアマップと呼ばれることもある.
1)作業療法の処方・依頼・紹介
2)対象者との関係作り(説明と同意)
3)作業療法評価
4)目標設定と作業療法計画の立案
実施方法
の見直し
(チーム連携)
5)作業療法の実施と再評価
未回復・未改善
その他必要に応じて
6)回復・改善・目標達成、モニタリング
7)退院、退所
8)フォローアップ
図 3 作業療法の過程
13
1)作業療法の処方・依頼・紹介
医療であれば主治医からの処方、保健・福祉の現場であればケアマネジャーや行政機関、その
他の関連職種・機関からの紹介や依頼により、作業療法士は対象者本人や家族と出会うことにな
る。例えば医療の場で処方・依頼を受けるときには、医師や関連職種の方針、本人や家族の希望、
生活状況など、紹介までの経緯を把握することで対象者への理解が深まる。
2)対象者との関係作り・説明と同意
作業療法が何を目的とし、どのように役立つのかを対象者本人及び家族に説明し、作業療法を
進めるうえでの協力関係を築く。対象者の基本的能力や応用的能力などを把握するために必要と
なる情報の提供と、作業療法への参加について同意を得る。
3)作業療法評価
主に次のような方法で評価を行う。
・ 情報収集:カルテや記録、カンファレンス、他部門からの情報などを整理する。
・ 観察および面接:生活場面や作業療法場面での行動観察、本人及び家族等との面接を行い、
対象者の基本的能力・応用的能力・社会的能力・環境要因・個人特性などを把握する。
・ 検査/調査:標準化された検査測定や、生活関連技能・心理社会的要因などの調査を行う。
・ これらの情報を統合し、対象者と対象者を取り巻く環境の全体像を把握する。
4)目標設定と作業療法計画の立案(医療場面を想定した例)
①目標
・ リハビリテーションゴール:本人及びリハビリテーションチーム全体で目指す到達可能な最
終目標。
・ 長期目標、最終目標(上位目標)
:作業療法終了時の目標、長くとも6ヵ月後のもの。
・ 短期目標(下位目標)
:数週間で達成可能な目標、長くとも2ヵ月後のもの。短期目標は長期
目標への経過を示すもので治療計画に包含される。
②目標設定の進め方
疾病後に想定される潜在能力(potentiality)と障壁(barrier)を勘案して目標を設定する。た
とえば、片麻痺だけであれば杖歩行が可能となる潜在能力があっても、古い大腿骨折による膝関
節拘縮が障壁となれば目標は車いす移動になることもある。リハビリテーション医療のなかでは、
回復レベルや回復速度が対象者により異なり、対象者の取り組む意欲が変動することも多い。そ
のため、厳密すぎる目標は具体的な場面では役に立たないこともある。むしろさまざまな不測の
事態への対応を考慮すべきである。目標設定はチームとして共同作業を促進する側面をもつ。チ
ームの作業の目安とするため、不確かな点があっても作業仮説として可能な限り到達レベルと達
成期間についての目標設定を行う。楽観的目標、悲観的目標、現実的目標などを設定して、少し
幅のある目標を設定する方法も有用である。楽観的目標は理想的な過程をたどった場合の目標で
あり、悲観的目標は最悪でも実現可能な目標であり、現実的目標はそれらの目標の中間にあって
最も実現しそうな目標である。どの目標が実現した場合でも対応策を前もって検討しておくこと
14
が重要である。種々の事情で長期目標が設定できないときには短期目標のみを設定することもあ
る。短期目標のみの設定例としては、目標設定時までに情報が十分得られない(発症時点の情報
がない、疾患名が不明)
、疾患の経過を予測困難な場合(廃用症候群の改善度や経過、意識障害の
継続期間)
、疾患治療の効果をまつ(例えば、抗パーキンソン病薬の効果を見る、正常圧水頭症へ
の減圧治療の効果を見る)などがある。
③計画立案
作業療法で用いる活動の具体例を表 3 に示した。計画立案では、活動の頻度、1 回あたりの時
間なども併せて設定する。また、作業療法士の関わり方および禁忌事項などを計画し記録に残す。
④チーム連携・ケアマネジメント
作業療法の評価結果は、他職種チームとの連携や協業に役立てる。また、チームのなかで作業
療法士が対象者のケアマネジメントを担う場合もある。
5)作業療法の実施と再評価
クリニカルリーズニングに基づいて作業療法を実施する。実施にあたっては評価を定期的に行
い作業療法の効果を測定する。一定期間が過ぎても目標に近づかず、回復や改善がみられない場
合には治療・指導・援助の方法を見直す。治療・指導・援助の効果には作業療法以外の要因も影
響を及ぼすため、チームカンファレンス等で対象者の回復状態や生活状況を多面的に評価する。
6)フォローアップ
退院、退所時には作業療法の経過をサマリーにまとめ、成果を本人・家族と共有する。対象者
が利用する施設やサービスが決まっている場合には、本人の了解を得たうえで関係者にわかりや
すい申し送りを行う。可能であれば退院前に自宅(退院先)を訪問し、本人、家族、地域の支援
者を交えたケア会議を行いシームレスな移行支援を提供する。また、入院治療から外来通院に切
り替わる場合には、改めて処方(依頼)を受けるなどして新たな目標を設定しフォローアップを
継続する。
なお、
「生活行為向上マネジメント」では、対象者が医療機関から退院した後も、引き続き生活
行為向上プランに沿った支援が続けられるよう、
「生活行為申し送り表」が作成されている。退院
した後に対象者が在宅支援サービスなどを利用する場合でも、このようなツールを利用し、本人
がしたいと思っている生活行為が向上し実現するよう、継続して支援が提供されることが大切で
ある。
また、作業療法士は対象者への治療・指導・援助の過程で得られた成果を蓄積し、今後の対象
者サービスに活かしたり、クリティカルパスに反映させたりして、常に作業療法の質の向上に務
める視点が必要である。
15
Ⅲ.作業療法の実践事例
1.作業療法によるシームレスな支援と多職種連携の重要性
作業療法ガイドライン(2012 年度版)および本ガイドライン実践指針で述べた通り、対象者と
関わる時期または場所によって作業療法の対象と目的は変化する。しかし、図 4 に示すように、
如何なる時期、場所においても、作業療法士は対象者のライフステージを時間軸に沿ってイメー
ジし、求められる支援を実践できることが必要である。また、近年、重要視されている多職種連
携においては、作業療法の目的と同様に、チームの目的もまたシームレスに設定することが重要
である。
特に生活期においては、
24 時間 365 日継続する対象者の生活行為をチーム全体が共有し、
本人・家族が望む生活の実現にむけて優先順位の高い課題から順に介入することが望まれる。
作業療法士が関与する計画も、各時期によって変化する。急性期・回復期(病院)ではクリテ
ィカルパスやリハビリテーション総合実施計画書など他職種と共同で作成する計画の一部として
個別の作業療法計画が存在する。予防期・生活期(在宅・施設)の介護保険領域では、ケアマネ
ジャーが作成する居宅サービス計画書(いわゆるケアプラン)をもとに個別の作業療法計画の作
成または生活行為向上マネジメントを実施する。対象者の転院や退院をきっかけにサービスが移
行される場合は、過不足の無い情報提供が重要となる。そのために、生活行為向上マネジメント
では「生活行為申し送り表」が作成されている。このようなツールを利用し、対象者の生活行為
の継続に配慮することが必要である。
以下に、作業療法によるシームレスな支援を行った事例を提示する。対象領域ごとの具体的な
事例については、「事例報告登録システム」および「作業療法事例報告集」、今後、発行が予定さ
れている「疾患別ガイドライン」
、
「作業療法マニュアル」シリーズを参照願いたい。
作業療法士が対象者と関わる時期
予防期
急性期
回復期
生活期
終末期
健康増進/疾病・障害予防
基本的能力の回復
作業療法の
目的
応用的能力の回復
社会的能力の改善
環境資源の調整
個人特性の再設計
チームの
目的
病状の安定
自宅への復帰
本人・家族が望む生活
職場への復帰
24時間365日の生活行為向上
生活行為向上マネジメント
計画
クリティカルパス
リハビリテーション総合実施計画書
居宅/施設サービス計画書(ケアプラン)
リハビリテーション実施計画書
個別作業療法計画
図 4 作業療法によるシームレスな支援:対象者と関わる時期別の作業療法目的
16
2.実践事例
1)事例紹介
40 歳代の女性で、脳出血(左視床出血)により右片麻痺を呈していた。要介護は 2、寝たきり
度は B1、認知症自立度は正常であった。既往症はてんかん発作、妊娠中毒症であった。
X 年 6 月にバイクで出掛けている途中倒れているところを発見され救急搬送された。搬送先の
A 病院での入院加療となり、8 月から回復期リハビリテーション病棟へ転棟となった。X+1 年 2
月に B リハビリテーションセンターへ転院した。その後、四点杖と AFO で自立歩行可能な状態
となり、5 月に両親と同居の自宅へ退院となった。退院時の状態は、麻痺側上肢は廃用手レベル、
片手(左)動作でセルフケアは自立レベルであったが、入浴は家族の介助を必要とし、また通所
リハビリテーション利用時も入浴を実施していた。
生活環境は、居室や水回りは 1 階、寝室は 2 階であった。2 階へ行き来する階段昇降は手すり
を使用して自立していた。日中は 1 階で過ごすことが多く、通所リハビリテーションを利用する
以外は、日中テレビを観て過ごしていた。 X+1 年 11 月に親世帯と別居し、夫と娘の 3 人世帯で
の生活が開始された。
2)急性期/回復期における考え方
この時期の目標は、
「自宅復帰、ADL の自立度向上」であった。麻痺側(右)上下肢に対して
自動、他動運動の範囲拡大に向けたアプローチを実施したが、右上下肢の運動麻痺は重度で大き
な改善が認められなかった。そのため、右上肢の管理方法を指導するとともに、非麻痺側(左)
上肢を使用した ADL の練習を実施した。
更衣動作では、ズボンの着脱動作は獲得できたが、時間を要するため、本人の意向もありスカ
ートを着用することとした。その他の ADL は自立となった。歩行能力の向上にあわせて家事動作
(洗い物、洗濯物たたみ、アイロンかけ)の練習を実施した。また、塗り絵やビーズ手芸、折り
紙などの趣味活動も取り入れ、自宅での日中の活動方法を指導・援助した。高次脳機能は、注意
障害が初期に認められたが時間の経過と共に改善した。しかし、自発的に行動することやプラン
ニングの低下は残存した。
3)チーム内の各職種の役割
(1)医師:脳出血の診断、治療の選択、服薬調整
(2)看護師:病状観察、身体機能回復までのセルフケアの援助、病棟内での ADL 練習
(3)ケースワーカー:自宅復帰のための家族面接、家族状況の把握、介護保険の申請の援助、
ケアマネジャーとの退院調整の連絡
(4)理学療法士:自宅内の歩行自立を想定した歩行練習
(5)言語聴覚士:言語障害の有無の確認、嚥下障害の確認
(6)作業療法士:麻痺側(右)上肢の管理方法の指導、ADL・IADL 練習、趣味活動の導入
*各職種共通:退院時サマリーの送付
4)予防期/生活期における考え方
病院を退院後、週に3回の通所リハビリテーションを利用する以外は自宅内で座って過ごすこ
とが多く、家事全般は高齢の両親が行っており、本人の活動性は低下していた。
17
X+1 年 11 月(退院後半年)より親世帯と別居することとなり、家事を行う必要性に迫られた。
本人から「家事がもう少しできるようになりたい」という希望があったため、作業療法士による
訪問リハビリテーションが開始となった。活動・参加面では、自宅内は装具を着用し、四点杖を
使用して移動が可能で、転倒歴はなくバランス能力は良好であった。左手での物品操作能力も良
好で、入浴以外のセルフケアはほぼ自立していた。また、コミュニケーション能力も良好であっ
た。環境面では、転居先は集合住宅の 1 階で屋内外共に段差が少なく、以前の住居よりも屋外へ
のアプローチが容易となった。以上の評価を基にし、
「調理活動の一部を支援者と一緒に行う」と
いう目標を立て本人と合意した。
5)チーム内の各職種の役割
(1)本人:作業療法士と共に調理に必要な身体と道具の使用方法を学習する。
(2)家族(夫)
:調理に必要な材料を揃えるため、本人と一緒に買い物に行く。自宅内での入浴
に関しては一部介助を行う。
(3)ケアマネジャー:作業療法士の情報提供から調理活動の重要性を把握し、居宅サービス計
画に訪問介護を導入する。
(4)通所リハビリテーション:週3回の利用。関節可動域練習(麻痺側)と歩行練習を実施す
る。また入浴動作の自立度を向上するための練習を実施する。
(5)訪問リハビリテーション:月 2 回の頻度で作業療法士が訪問する。本人と共に調理の練習
を実施する。
(6)訪問介護:作業療法士が実施していた調理活動を引き継ぎ、週 1 回の頻度で訪問する。本
人と共に調理活動を実施する。また近所の店舗へ歩いて買い物に行く。
6)結果
入院中は自宅内の生活を想定して IADL 練習や趣味活動を実施したが、自宅退院後は練習の甲
斐なく活動性の低い生活を送ることとなった。しかしながら両親世帯と別居したことを機に調理
活動を開始し、美味しい食事が出来たことに加え、家族(娘)から賞賛されたことなどが契機と
なり、徐々に調理活動への参加が積極的になった。ピーラーでの皮むき、包丁でのカッティング、
具材を混ぜる、フライパンで炒める、両手鍋で煮込むなど、本人が遂行できることも段階的に広
がりをみせた。また、夫が休日の際には一緒に買い物に出掛けるようになった。
その他の IADL(掃除、洗濯)も意欲的に取り組むようになり、主婦としての役割を徐々に取
り戻し、活動性の向上が認められた。
7)考察
本事例が病院から自宅生活に移行した後に活動性が低下した原因として、退院時に有効な情報
伝達が行われなかったことと、入院中に在宅生活のイメージを本人や家族が十分に持てなかった
ことなどが考えられる。家事を行う必要に迫られたことを機に、具体的な生活行為の向上が目標
にとして共有され、チーム連携と訪問によるシームレスな作業療法支援によって、主婦役割を担
えたことが活動性の向上につながったものと思われる。
対象者の生活機能の維持・向上を図るためには、医療機関から在宅へ移行する際に、本人・家
族とともに、支援するチームが生活のイメージ作りに配慮する必要性を示唆する事例といえる。
18
Ⅳ.作業療法と関連法規
本章では作業療法に関連する法律と『作業療法ガイドライン』
(2012 年度版)の資料欄にある
作業療法の定義、倫理綱領、業務指針等、協会の定める作業療法実践を支える枠組みとの関連を
示す。
1.作業療法業務に関連する法制度
医療、保健、福祉、教育等の各種制度を規定する法令は、
「法律」
「政令」
「省令」の順に効力が
強く、これらの改定がされた場合には常に新しいものが優先する。また、法令以外にも地方公共
団体が法律の範囲内で独自に制定する「条例」
、公的機関が指定または決定等の処分を行った場合
にその内容を広く知らせる「告示」
、官公署が所轄事項について発信する「通知」等があり、それ
ぞれの事業やサービスを規定する。
作業療法業務に関連する主な法律を表 4 に示した。理学療法士及び作業療法士法(1965 年、法
律第 137 号)では、作業療法の定義と作業療法士の資格、免許、試験、業務、罰則等が定められ
ている。他に示した法律は、作業療法士が勤務する施設の機能や役割、作業療法士が関与する制
度、事業、サービス等の根拠となるものであり、直接・間接的に作業療法業務に影響を及ぼす。
作業療法の実践には複数の法律や制度が関連しており、関連のある法制度についての理解を深め
ることが重要である。
表 4 作業療法業務に関連する主な法制度
制定年
1947
昭和 22
1948
1949
1950
昭和 23
昭和 24
昭和 25
1951
1960
昭和 26
昭和 35
1963
1965
1970
1982
1987
昭和 38
昭和 40
昭和 45
昭和 57
昭和 62
1994
平成 6
法
名
児童福祉法
学校教育法
医療法
身体障害者福祉法
精神衛生法
生活保護法
社会福祉事業法
精神薄弱者福祉法
障害者の雇用の促進等に関す
る法律⇒身体障害者雇用促進
法
医療金融公庫法
老人福祉法
理学療法士及び作業療法士法
心身障害者対策基本法
老人保健法
精神保健法
障害者雇用促進法
地域保健法
ハートビル法
概
要
児童福祉施設最低基準、関連事業等
障害児の分離別学(特殊教育)
病院、診療所、診療科等の区分、医療計画等
身体障害者更生施設、身体障害者手帳等
都道府県に精神病院を設置、私宅監置の廃止等
生活の保障、自立を助長
社会福祉事業の規定
現・知的障害者福祉法
身体障害者の雇用の促進等
私立精神科病院設立を助長
特別養護老人ホーム、老人福祉センター等
免許、試験、業務、罰則等の規定
国及び地方公共団体の責務等(精神障害は除外)
保健事業、老人保健施設、老人訪問看護制度等
旧・精神衛生法、社会復帰施設規定等
知的障害者も法の適用対象
旧・保健所法、地域保健対策の推進
高齢者・障害者が円滑に利用できる建築物建造
19
1995
1997
1998
2000
平成 7
平成 9
平成 10
平成 12
精神保健福祉法
介護保険法
知的障害者福祉法
交通バリアフリー法
2001
2004
平成 13
平成 16
児童虐待防止法
高齢者住まい法
発達障害者支援法
2005
平成 17
障害者自立支援法
心神喪失者等医療観察法
2006
平成 18
障害者雇用促進法(改正)
学校教育法(改正)
バリアフリー新法
高齢者虐待防止法
2010
平成 22
2011
平成 23
医療スタッフの協働・連携に
よるチーム医療の推進につい
て(通知)
障害者虐待防止法
高齢者住まい法(改正)
2012
平成 24
障害者総合支援法
障害者優先調達推進法
2013
平成 25
障害者差別解消法
の促進
旧・精神保健法、保健福祉施策の充実
要介護者・要支援者への保険給付
旧・精神薄弱者福祉法
高齢者・障害者の公共交通機関を利用した移動
の円滑化促進
児童虐待の定義、住民の通告義務等を明記
高齢者の居住の安定確保
自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、
学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達支援
福祉サービスの一元化、地域生活と就労の促進
心神喪失の状態で重大な他害行為を行った者の
医療及び観察等
旧・障害者の雇用の促進等に関する法律、精神
障害者に対する雇用支援策の充実
盲・ろう・養護学校が特別支援学校に一本化、
特別支援教育の推進
ハートビル法と交通バリアフリー法の統合化
高齢者の虐待防止に関する国の責務、虐待を受
けた高齢者の保護措置、養護者の高齢者虐待防
止のための支援措置を明記
理学療法士及び作業療法士法第2条第1項の「作
業療法」に含まれる業務を明記
障害者虐待の防止等のための責務と障害者虐待
を発見した者の通報義務
医療、介護と連携し、高齢者が安心できる住環
境づくりの推進
地域社会における共生の実現に向けて新たな障
害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備
に関する法律
障害者就労施設等が供給する物品等に対する需
要の増進を図るための必要な事項等を明記
障害を理由とする差別の解消の推進に関する基
本的な事項、差別を解消するための措置等を明
記
注:法改正時に名称変更のないものは制定年を示した
2.作業療法と医療・介護・福祉・教育制度
社会保障制度は、疾病や老齢、労災、失業等による所得の喪失や減少、あるいは疾病や多子等
の理由で一定期間に生活費用の増加による経済的困窮やその恐れのある場合に、国家的見地から
保障をする総合的な施策体系であり、医療・保健・福祉・教育に関する制度もこれに含まれる。
作業療法が直接関係する制度は、医療、介護、福祉、教育等に関わるものが多く、とくに医療・
介護保険制度に関しては、施設の基準、対象疾患、診療や介護の報酬とその算定要件等が定めら
れており、これらは作業療法業務に直接関係することになる。また、こうした制度や基準等は、
20
例えば、近年の少子高齢化に伴う財源不足と老人医療費の高騰のように、わが国の経済・社会構
造の変化に影響を受けやすく、たびたび制度や算定基準等の見直しが行われるため注意を要する。
時代の変化に応じて法律が制定あるいは改定され、それを根拠とする医療・保健・福祉・教育
の制度や施策も変化している。最近では発達障害者支援法、障害者総合支援法、心神喪失者等医
療観察法の制定と、障害者雇用促進法の改定、医療および介護保険制度の改定等の影響を受け、
作業療法業務を取り巻く状況は大きく変化してきている。とりわけ高齢社会となった現在、持続
可能な社会保障制度の構築が喫緊の課題となっている。2013 年 8 月に社会保障制度国民会議から
報告された将来世代へのメッセージ等を作業療法士も十分に認識しながら、あるべき日本の社会
保障について意識しておくことと、作業療法士としてできることを整理する必要がある。
協会では、こうした時代の変化、社会的ニーズの変化に適切に応えられるよう、毎年『作業療
法が関わる医療保険・介護保険・障害福祉制度の手引き』を発行し、作業療法業務に影響を与え
る医療・介護・障害福祉の各種制度の最新情報を解説している。
3.作業療法実践を支える基本的枠組み
作業療法及び作業療法士を法的に規定しているのは理学療法士及び作業療法士法(1965 年、法
律第 137 号)である。協会では、理学療法士及び作業療法士法を基本に、作業療法の実践を支え
る基本的な枠組として、協会による「作業療法の定義」
(1985 年)
、
「日本作業療法士協会倫理綱
領」
(1986 年)
、
「作業療法士業務指針」
(1989 年)
、
『作業療法ガイドライン』
(1991 年、1996 年、
2002 年、2006 年、2012 年)
、
『作業療法士の職業倫理指針』
(2005 年)等を作成している。図 5
に協会による作業療法実践を支える基本的枠組みを示した。
「作業療法士業務指針」は協会が定めた作業療法士の業務指針であり、
『作業療法ガイドライン』
は作業療法の基本的枠組みを示したものある。『作業療法ガイドライン実践指針』(本書)はガイ
ドラインに沿って行う作業療法実践の指針を示すもので、
『作業療法ガイドライン』と作業療法の
専門技術を解説する『作業療法マニュアル』との中間に位置する。
「倫理綱領」と『作業療法士の
職業倫理指針』では、作業療法士が業務を遂行する際の指針、遵守すべき倫理的事項を定めてい
る。
「臨床作業療法部門自己評価表」
(1997 年、2008 年)は、臨床活動に従事する会員が作業療
法業務を振り返り自己点検するための評価表である。
協会では作業療法士(会員)の倫理的な問題に対応し、高い倫理感を啓発する部門として倫理
委員会を設置している。また、表 4 には示していないが、情報化社会に対応するために個人情報
保護法(2003 年)が制定され、対象者のプライバシーと個人情報を保護する組織的な取り組みが
求められている。臨床業務に携わる作業療法士は、厚生労働省の定める「医療・介護関係事業者
における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」
(2004 年)に従い、個人情報の適切
な取り扱いを厳守しなければならない。
なお、現在わが国では少子高齢化を基本背景とする保健医療福祉の制度改革が進められており、
作業療法には、これまで以上に活躍の場を地域に拡げ、国民の生活を支援する役割が期待されて
いる。このような時代の要請を鑑み、協会では医療、保健、福祉、教育、就労、行政などのさま
ざまな場で一貫性のある作業療法を実践・提供し、さまざまな対象者に作業療法(士)の広範に
21
渡る職能をわかりやすく説明できるよう、「作業療法の定義」の改定に向けた行動計画を作成し、
検討を開始している。
理学療法士及び作業療法士法(1965 年,法律第 137 号)
作業療法の定義(第 2 条第 2 項)
作業療法の業務(第 15 条〜第 17 条)
協会による作業療法の定義 1985 年
日本作業療法士協会倫理綱領 1986 年
作業療法士業務指針 1989 年
作業療法士の職業倫理指針 2005 年
作業療法ガイドライン
1991,1996,2002,2006,2012 年
臨床作業療法部門自己評価表
1997,2008 年
作業療法ガイドライン実践指針
作業療法事故防止マニュアル 2005 年
2008,2013 年
*法律以外は
(一社)日本作業療法士協会が作成
作業療法マニュアル 1993 年~
第 34 巻(2007 年現在)
図 5 作業療法実践を支える基本的枠組み
協会による作業療法の定義、日本作業療法士協会倫理綱領、作業療法士業務指針、作業療法士
の職業倫理指針、臨床作業療法部門自己評価表(第 2 版)は、作業療法ガイドライン(2012 年度
版)に資料として収録されている。また、作業療法事故防止マニュアルは会員の所属する施設に
配布されている。
『作業療法マニュアル』は他の資料とともに協会ホームページに案内され、会員
に有料配布されている。
22
Ⅴ.作業療法と生涯教育
本章では、
「作業療法ガイドライン(2012 年度版)
」の第Ⅲ章 3 に示した「生涯教育」について
より詳細に説明する。とくに生涯教育制度との関連から、作業療法の学会・研修会、事例報告登
録制度、課題研究助成制度の概要を示す。
作業療法士は実践能力の維持・向上を図るために自己研鑽を継続しなければならない。自己研
鑽の方法は職場での勉強会や各種研修会への参加、専門領域の学会活動への参加等が考えられる
が、協会では生涯教育の視点から独自にいくつかの自己研鑽の機会を提供している。
近年、我が国の作業療法教育は、養成校の新設により入学定員が急激に増加しており、養成校
によっては教員の不足や臨床実習施設の不足が問題視され、作業療法教育の質の低下が危惧され
ている。また、一方では、高齢者人口の増加や地域生活支援の要請、あるいは多職種との連携や
新たな制度・資源の有効利用など、時代の変化や社会的ニーズの変化に応じた作業療法サービス
の量と質の充実が求められている。養成教育で学ぶ基礎的な知識と技術だけでは、もはや社会か
ら求められている役割や、作業療法としての高い専門性を維持することは難しくなっており、こ
れまで以上に卒後研修による自己研鑽の重要性が増している。
1.学会、研修会
1)学会・研究会
日本作業療法学会は、協会が主催する作業療法の学術集会である。毎年 6 月(2016 年度からは
毎年 9 月)を基本に開催される。会員数の増加に伴い、年々参加人数と演題数は増加している。
学会では毎回テーマが定められ、演題発表のほかに教育講演やワークショップなど、経験年数の
少ない作業療法士に向けた教育・研修目的の企画も含まれている。2013 年度は大阪府にて 6 月
28〜30 日に第 47 回日本作業療法学会が開催された。
5,000 人規模の学会を開催できる施設は全国数カ所に限られる。このため、2016 年度以降は開
催可能な施設を想定し、全国を数カ所の地域ブロックに分け、協会の学会運営委員会が開催地と
なるブロックの担当者と連携し、演題発表を主軸とする学会を企画・運営することになっている。
こうした大規模学会の開催にも限界があり、協会では第二次 5 カ年戦略のなかで学会の専門分化
(細分化)を検討し始めている。
作業療法の国際学会は、世界作業療法士連盟 World Federation of Occupational Therapists
(WFOT)の主催する World Congress of Occupational Therapists が 4 年に 1 回開催されてい
る。前回は、2010 年にはサンディエゴ(チリ)にて第 15 回 WFOT 大会が開催され、2014 年に
は横浜(日本)にて第 16 回 WFOT 大会が開催される。この大会は第 48 回日本作業療法学会を
兼ねている。
世界 60 か国から 3,000 を超える演題が登録され、審査を経て国内からは 1,200 演題、
海外からは 1,400 を超える演題が報告される。
WFOT 加盟国のうち、アジア太平洋地域で組織する国際学会 Asia Pacific Occupational
Therapy Congress(APOTC)が 1995 年より WFOT 大会と時期をずらして開催されておる。2011
23
年にはチェンマイ(タイ)にて第 5 回 APOTC が開催された。第 6 回大会は 2015 年にニュージ
ーランドでの開催が予定されている。国際学会においても日本の作業療法士による演題発表が増
加しており、今後も国際的な学術交流の活性化が期待される。
国際学会や日本作業療法学会以外にも、各都道府県の作業療法士会が主催する学会や、近隣の
都道府県作業療法士会が共催する学会等がある。地方学会は地元の新人会員が参加しやすく、身
近な研究発表の場となっている。また、作業療法に関連する特定の専門領域をより深く研鑽する
研究会 Special Interest Group(SIG)も多数組織されており、定期的に大会や研修会が開催され
ている。学会や SIG は参加資格を作業療法士に限定しないものも多く、他の専門職種との意見交
換も活発である。SIG には協会が生涯教育制度の基礎ポイント付与の対象研修として認めている
ものも多い。詳細は協会ホームページ(http://www. jaot.or.jp/post_education/sig.html)で確認
できる。
その他、日本リハビリテーション医学会、日本精神障害者リハビリテーション学会、日本発達
障害ネットワークなど、各専門領域でリハビリテーションに関連する学会や研修会が多数開催さ
れている。こうした関連領域の学会や研修会の情報については、協会誌や関連雑誌等で案内され
るほか、協会ホームページにリンクされている関連団体や学会のホームページ
(http://www.jaot.or.jp/link.html)からも情報を入手することができる。作業療法士自らがこれ
らの情報にアクセスし自己研鑽の機会を求めていく姿勢が望まれる。
2)研修会
協会では、作業療法に関連するテーマを掲げた全国研修会を年 2 回開催している。全国研修会
の目的は、最新情報の提供や作業療法の啓発・普及であり、会員には作業療法の知識と技術を研
鑽できる機会を提供し、一般市民や他職種には公開講座を通して、作業療法を啓発する機会を設
けている。
表 5 に協会内の各種委員会が 2014 年度に計画している研修会を列挙した。
重点課題研修は、新たなる制度・施策への対応や、強化すべき作業療法技術の修得と普及啓発
等を目的とする研修会で、内部障害・うつ病・認知症・がんに対する作業療法研修のほか、介護・
診療報酬改定、
(会員の)復職への不安軽減などの研修会がある。また、2025 年に導入が予定さ
れている地域包括ケアシステムへの対応を見据え、認知症初期集中支援チーム、生活行為向上マ
ネジメントを推進する目的で、全国都道府県士会と連携しながら研修会を開催している。
養成
教育関連の研修会は、教員向けの研修や臨床実習指導の充実を目的に臨床実習指導者研修を開催
している。また、生涯教育制度に関連する研修会は、表 5 に示したもののほかに、各都道府県作
業療法士会が行う現職者共通研修及び現職者選択研修がある。
これらの研修会の案内は、毎年 4 月に配布される「研修受講生募集案内」に掲載されている。
また、協会ホームページには「研修案内」
(http://www. jaot.or.jp/post_education/kenshuuunei.
html)にて最新情報を閲覧できるほか、都道府県士会が行う現職者選択研修の情報は、毎月発行
される協会誌(日本作業療法士協会誌)にて確認することができる。
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表 5 日本作業療法士協会が開催する研修会等(2014 年度計画)
企画関連部署
研修運営委員会
研修会種別
重点課題研修
保険対策委員会
福利厚生委員会
国際委員会
養成教育委員会
生涯教育委員会
教員研修
臨床実習指導者研修
認定作業療法士取得研修
専門作業療法士取得研修
認定作業療法士研修
研修概要
内部障害、うつ病患者、認知機能と社会生活、発達
障害、脳卒中、認知症、精神障害領域アウトリーチ
支援、終末期、訪問作業療法、生活行為向上マネジ
メント、喀痰吸引、認知症初期集中支援、地域包括
ケアシステム
診療報酬・介護報酬等の改定
復職の不安軽減
国際技術セミナー・国際交流セミナー、プレゼンタ
ー育成セミナー
作業療法教育の基礎、教育現場の問題、教育実践
中級、上級研修
共通研修(18 講座):教育法、研究法、管理運営
選択研修(14 講座):身体・精神・発達・老年期
専門基礎研修:7 分野
専門応用研修:3 分野
組織マネジメント等
2.生涯教育制度
協会では作業療法士の質の向上を目的とし、1998 年度に「生涯教育単位認定システム」を創設
した。その後、2003 年に現行制度である「生涯教育制度」へと改定した。また、協会がもつ資格
認定制度として 2004 年度に「認定作業療法士制度」を、2009 年度には「専門作業療法士制度」
を創設し運用している。生涯教育制度は定期的に見直しを行い、制度のメンテナンスを行うこと
としている。時代の流れ、とくに医療保健福祉を取り巻く社会情勢の変化に対応できるように、5
年ごとの改定を行っている。最近では、2008 年度、2013 年度に改定を行っている。
1)「生涯教育制度」の理念と目的
生涯教育制度の理念については、各会員に配布される「生涯教育手帳」の最初のページに、
「協
会員がこの制度を活用し、知識、技術・技能を向上させ、よりよい作業療法を社会に提供すると
ともに、人格の陶冶を目指すことを期待します」と記されている。会員には、本制度を利用・活
用することにより作業療法技能を向上させ、その結果として対象者、国民の生活・健康に寄与す
る役割が期待されている。
生涯教育制度の目的は次の 3 点である。
①作業療法士の知識、技術・技能(臨床実践力)の水準の保証と質の向上
②認定制度による実績評価と人材育成、専門性の追求
③後輩育成と社会貢献
2)生涯教育制度の概要
協会の生涯教育制度(2013 年度改定)は、基礎研修制度、認定作業療法士制度、専門作業療法
士制度の 3 つの制度によって構成されている(図 6)
。
25
図 6 生涯教育制度の構造
① 基礎研修制度
基礎研修制度は、現職者研修(必修)と自由選択の基礎ポイント研修で構成されている。現職
者研修は、現職者共通研修および現職者選択研修からなる。現職者共通研修は、卒後間もない会
員が、今後の臨床実践に必要となる共通基礎的な内容を学習すること、また、現職者選択研修は、
臨床場面で多様な視点をもち、複数の領域に対応可能な作業療法士としての基本的な視点を学習
することを目的としている。作業療法士の資格取得後、比較的早期に受講することが望ましく、
必修研修として位置付けている。
ⅰ現職者共通研修
協会が定める 10 テーマ(表 6、1 テーマ 90 分以上)の研修会を受講する。研修の企画運営は
各都道府県士会が行う。所属士会以外で開催される研修会を受講することもできるが、修了確認
は所属士会にて行う。研修の詳細は協会ホームページに掲載する「現職者共通・選択研修 研修
シラバスおよび運営マニュアル 第 2 版」にて確認できる(http://www.jaot.or.jp/wp-content/
uploads/2013/11/genshokusha-shirabasu-manyuaru2013.pdf)
。年次カリキュラムや受講修了年
限の規定は設けていない。
表 6 現職者共通研修
1.作業療法生涯教育概論
6.作業療法の可能性
2.作業療法における協業・後輩育成
7.日本と世界の作業療法の動向
3.職業倫理
8.事例検討と事例研究
4.保健・医療・福祉と地域支援
9.事例検討
5.実践における作業療法研究
10.事例報告
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ⅱ現職者選択研修
協会が定めた 4 つの領域(身体障害領域、精神障害領域、発達障害領域、老年期領域)のうち
2 領域を選択して受講する(1 領域 4 コマ:1 コマ 90 分以上)。研修の企画運営は各都道府県士会
が行う。所属士会以外で開催される研修会も受講できるが、修了確認は所属士会にて行う。研修
の詳細は協会ホームページに掲載する「現職者共通・選択研修 研修シラバスおよび運営マニュア
ル 第 2 版」にて確認できる。年次カリキュラムや受講修了年限の規定は設けていない。
② 基礎ポイント研修
協会または各都道府県作業療法士会が主催する学会・研修会、または協会が認めた他団体・SIG
等の学会や研修会に参加・受講すること、あるいは臨床実習指導を行うことなど、さまざまな自
己研鑽により 4 または 2 ポイントを取得することができる。協会が認めた他団体・SIG 等の一覧
は協会ホームページ(http://www.jaot.or.jp/post_education/sig.html)に最新版を掲載している。
3)認定作業療法士制度
協会は 2004 年度に認定作業療法士制度を創設した。約 10 年を経過し認定作業療法士 243 名を
養成してきた。また、特例で認定を受け、その後、資格を更新した認定作業療法士が 459 名いる。
2013 年 11 月 1 日現在、計 702 名の認定作業療法士を資格認定している。協会活動の公益性の観
点から、認定作業療法士は氏名と所属を協会ホームページ等で公開している
(http://www.jaot.or.jp/post_education/shougai.html#ninteiOTlist)
。
認定作業療法士制度は、教育、研究、管理運営および臨床実践において、一定水準以上の能力
をもつ作業療法士を育成し認定することを目的としている。協会は、認定作業療法士の資格取得
を生涯教育制度の中心に据え、強く推進している。作業療法士が所属する施設に 1 名以上の認定
作業療法士がいること目標とし、近い将来、全国に 2,000 名の認定作業療法士を養成することを
大きなビジョンとしている。また、養成校の教育水準を審査する基準のなかで、教員のうち認定
作業療法士の資格をもつ教員が 1 名以上いることを定めている。
認定作業療法士の取得には、表 7 に示した取得研修の共通研修 3 講座、および選択研修 2 講座
以上の受講と、事例報告登録制度(後述)による事例登録(3 事例)などの要件を満たす必要が
ある。認定作業療法士取得選択研修は現職者研修の修了および作業療法士の実務経験 5 年以上が、
認定作業療法士取得共通研修は基礎研修の修了がそれぞれ受講の要件となる。3 事例の報告につ
いては、1 事例以上を事例登録し、残りの 2 事例の報告を ISSN/ISBN に登録された雑誌・書籍
等への報告で読み替えることも可能である。事例報告の登録は入会直後から可能である。
表 7 認定作業療法士取得研修
認定作業療法士取得
共通研修
1)教育法、2)研究法、3)管理運営
選択研修
1)身体障害領域、2)精神障害領域、3)発達障害領域
(3 講座)
認定作業療法士取得
(2 講座以上)
4)老年期領域
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4)専門作業療法士制度
専門作業療法士制度は、生涯教育における最上位概念として位置づけられ、2009 年度に資格認
定制度が創設された。専門作業療法士制度は、
「特定の専門分野において優れた実践能力を有する
作業療法士を認定することにより、その専門性をもって国民の保健・医療・福祉に寄与すること」
を目的とする。そのため専門作業療法士は、
「認定作業療法士である者のうち、特定の専門分野に
おいて高度且つ専門的な作業療法実践能力を有するもの」と定めている。制度開始当初は、
「認知
症」
「手外科」
「福祉用具」の 3 分野でスタートした。その後分野を増やし、現在では 7 分野で専
門作業療法士が誕生している(表 8)
。
表 8 専門作業療法士の分野
専門分野名
開始年度
概
要
1)認知症
2009
認知症患者に対する作業療法の高度な臨床実践
2)手外科
2009
疾病、外傷等による手の機能障害に対する高度な作業療法の臨床
実践
3)福祉用具
2009
福祉用具を用いた高度な作業療法実践
4)特別支援教育
2010
特別支援教育の対象障害に対する高度な作業療法の臨床実践
5)高次脳機能障害
2010
高次脳機能障害に対する高度な作業療法の臨床実践
6)精神科急性期
2011
精神科急性期における作業療法の高度な臨床実践
7)摂食嚥下
2012
食事をするという人の生活行為(機能)全般にわたる障害に対す
る高度な作業療法の臨床実践
専門作業療法士の資格を取得するためには、表 9 に示す 2 つの要件を満たす必要がある。1 つ
は認定作業療法士であること。
もう 1 つは専門分野ごとに定める 4 つの実践を満たすことである。
研修実践とは、専門基礎研修、専門応用研修、専門研究開発の受講を指す。臨床実践とは、専門
分野における臨床経験年数や経験事例数などの実績である。研究実践とは、専門分野に関連する
学会発表や研究論文などの実績である。教育と社会貢献の実践では、研修会講師、専門分野の各
種事業への参画などの実績を評価する。書類審査にてこの 2 つの要件が確認されると、専門作業
療法士資格認定試験を受験することができる。試験に合格することにより、専門作業療法士の資
格が認定される。取得に向けて専門分野ごとの手引きが整備され、協会ホームページに掲載され
ている(http://www.jaot.or.jp/post_education/shougai.html)
。
表 9 専門作業療法士取得の要件
要件 1
認定作業療法士であること
要件 2
4 実践
研修実践
専門基礎研修、専門応用研修、専門研究開発、の受講
臨床実践
臨床経験年数、経験事例数など
研究実践
学会発表、論文、事例報告登録制度への登録
教育と社会貢献の実践
研修会講師、専門分野における各種事業への参画
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専門作業療法士の資格取得に向けて、大学院教育との連携を認めている。研修実践における専
門研究開発は、大学院に在籍し専門分野の論文を作成することで認められる。また、大学院教育
のカリキュラムの単位互換を制度化し、単位互換が認められた大学院を修了または科目履修を行
えば、専門基礎および専門応用研修の受講に読み替えることができる。
3.事例報告登録制度
協会では 2005(平成 17)年 9 月より web システムを使って作業療法の実践報告を集積する「事
例報告登録制度」を開始している。本制度では次の 3 点を主要目的としている。
① 事例報告の作成によって会員の作業療法実践の質的向上を図る。
② 事例報告の提示によって作業療法実践の成果・効果を内外に示す。
③ 事例報告の分析によって作業療法成果の根拠資料を作成する。
作業療法の事例報告を登録し、または登録された事例報告を閲覧することのできる者は、協会
の ID とパスワードを有する正会員である。図 7 に事例報告登録制度の概要を示した。
会員が登録申請をした事例報告は、3 名の審査員(事例審査委員会)による審査を経てデータ
ベースに登録される。登録された事例報告は、ID とパスワードをもつ会員に公開される他、協会
が発行する作業療法事例報告集に収録される。
本制度による事例登録は、生涯教育制度における認定作業療法士の申請要件である事例報告(事
例登録)を兼ねる。会員は生涯教育制度の定める各種研修会の受講有無にかかわらず、いつでも
事例報告を登録することができる。
事例登録に関する情報の詳細と「事例報告書作成の手引き」は、協会ホームページの「事例報
告登録」のページから入手することができる<http://www.jaot.or.jp/science/jirei.html>。また、
事例登録の手順を解説した「事例報告登録マニュアル」と、対象者や施設から同意を得るために
必要となる「同意説明文書」と「同意書」は、上記の「事例報告登録」のページ、および事例報
協会事務局 事例報告登録制度管理室
同意書の郵送
会 員
1) 会員との連絡
ログイン
(ID・パスワード)
定型入力シートと
本文を入力
2) 同意書・登録番号の管理
3) 審査依頼
4) 審査状況のモニタリング
受付番号・審査結果等の通知
審査依頼
審査結果
学術部・事例報告登録制度管理班
閲覧・活用
臨床
教育
研究
作業療法
1) 事例審査
事例報告
2) 事例集積、事例集の発刊
3) データベース管理
データベース
4) データ解析・資料作成
図7 事例報告登録制度の概要
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告登録システムの第 1 画面(図 8)<http://www.jaot.or.jp/info-jirei-toroku.html>からダウンロ
ードできる。この第 1 画面からは、データベースに登録されている事例報告や、毎年発刊される
事例報告集の閲覧ができる。対象領域や対象疾患など、目的に応じて閲覧する事例報告の絞り込
みができる検索機能が設定されている。また、Q&A のページには過去に登録者から寄せられた質
問とそれに対する回答が掲載されている。
図8 事例報告登録システムの第 1 画面
4.課題研究助成制度
医療・保健・福祉の制度改革のなかで、作業療法の対象領域は医療から市町村圏域における在
宅保健福祉サービスへと拡大し、それぞれの領域において作業療法サービスの有効性や介入効果
の提示が求められている。協会では、こうした時代の要請に応え、作業療法の成果根拠を作成す
る目的で、2006(平成 18)年度より作業療法効果を検証する研究を助成する「課題研究助成制度」
を開始した。本制度によって蓄積される研究成果は、作業療法の学術的基盤を強化し、実践の質
を向上させる、広く国民の健康増進に寄与するものであることが期待される。
研究課題には「研究Ⅰ」と「研究Ⅱ」がある。研究Ⅰは協会が定める作業療法の効果を明らか
にする研究で、研究期間は年間、助成額の実績は 200 万円以内である。研究Ⅱは会員が独創的・
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先駆的な発想に基づき計画・実施する研究(自由課題)で、テーマの指定はなく研究期間は 1 年、
助成額は 20~50 万円である。
募集要領は前年 6 月頃に協会ホームページと協会誌にて案内される。応募書類は協会ホームペ
ージの「学術部」ページ<http://www.jaot.or.jp/infogakujyutu.html>よりダウンロードすること
ができる。応募期間は 8〜9 月で、助成課題の決定は 12 月、助成金の交付は翌年 4 月というスケ
ジュールが組まれている。課題研究助成制度の概要を図 9 に示した。本制度の助成を受けた研究
の成果概要は協会ホームページ<http://www.jaot.or.jp/science/kadaikenkyu.html>に公表され
ている。
募集要領・応募書類
協会HPよりダウンロード
郵送(簡易書留)
協会事務局・学術部
1)課題研究助成計画書
課題研究審査委員会
2)倫理審査申請書
3)同意書・同意説明文書
課題研究倫理審査委員会
理事会
研究成果の公表
○学術誌「作業療法」他
○学術データベース
作業療法成果を
検証する課題研究
図9 課題研究助成制度の概要(研究Ⅱ)
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採択
あとがき
会員数が増加するなか、この「作業療法ガイドライン実践指針(2013 年度版)」は、新人の作
業療法士がそれぞれの場で活用することをイメージし、
「作業療法ガイドライン(2012 年度版)」
との整合性をはかり作成した。
今回の改訂の一番のコンセプトは、第二次作業療法5カ年戦略の具体的行動目標として挙げら
れた「生活行為向上マネジメントを踏まえたガイドラインとガイドライン実践指針を作成する」
ことであった。そのため、第 1 章「作業療法の基本的な枠組みと考え方」の中に、
「作業療法と生
活行為向上マネジメント」を項目として独立させ、生活行為向上マネジメントに関する協会の取
り組みについて記述した。
また、作業療法士の活躍する場が拡大している背景を受けて、新たに「作業療法士の事業展開」
を項立に加えた。さらに、関連法規、生涯教育制度等については現状に合わせた改訂を行った。
第Ⅲ章「作業療法の実践事例」は、新人の作業療法士に最も参考にしていただきたいところで
ある。1 人の対象事例について、発症からの経過を追う形で、対象者と関わる時期別の作業療法
の目的を示し、
「作業療法によるシームレスな支援と多職種連携の重要性」について述べた。これ
までは領域別に実践例を示してきたが、今回は視点を変えて対象者の生活の変化から、作業療法
士がどの時期でどのように関わればよいのかを意識できるように記述した。
作業療法の実践は、時代の流れとともに変化してきている。さまざまな拡がりをもつ作業療法
実践の基礎的指針として、
「作業療法ガイドライン」と「作業療法ガイドライン実践指針」を役立
てていただきたい。
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作業療法ガイドライン実践指針(2013 年度版)編集委員(五十音順)
石川 隆志
木村 修介
小林 正義
新宮 尚人
陣内 大輔
高見 美貴
内藤 泰男
西出 康晴
渡邉 忠義
2014 年 4 月 18 日発行
編集・著作
一般社団法人日本作業療法士協会
発 行 者
一般社団法人日本作業療法士協会
〒111-0042 東京都台東区寿 1-5-9 盛光伸光ビル
℡:03-5826-7871
©一般社団法人日本作業療法士協会 2014
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