1 小澤光利先生退職記念号に寄せて 経済学部長 牧 野 文 夫 小澤光利先生は,1973年に北海道大学大学院博士課程において単位取得 ののち,同大経済学部助手等を経て,1975年に本学部に経済原論(現在の 社会経済学)担当の助手として着任されました。その後,1976年には助教 授,82年からは教授に昇進されておりますので,わが経済学部において40 年の長きにわたって教鞭をとってこられたことになります。 その間,1990年9月から10月にはドイツ,ベルリンのフンボルト大学に 交換研究員として,また1991年4月から1992年11月まではイギリス,カン タベリィのケント大学にて上級研究員として在外研究をされました。 また本学部での行政職務として,多摩キャンパス移転直前時の1983年度 に教授会副主任,1994年度には教授会主任をお務めいただき,学部運営に 貢献されました。 小澤先生の研究テーマは,マルクス経済学体系における恐慌論であり, その中でも恐慌論史といわれる領域です。恐慌論史という研究対象はわが 国において,体系的な研究蓄積が非常に少ない分野であります。先生は, 1970年代の大学院時代にこの分野のご研究に取り組まれ,それを1960年代 から70年代にかけてヨーロッパに沸き起こった「マルクソロジー」の方法 に依拠して研究されました。それは,恐慌論の領域においては,「ソ連・東 欧文献において伝統的な」マルクスにおける「恐慌論の完成説」という「教 条の呪縛」を退けるということで,いわばマルクスの相対化とも言えると 2 思います。 その研究成果は, 1981年にご著書『恐慌論史序説』として上梓され,1986 年にはそのご研究にたいして法政大学より博士号が授与されております。 本書において先生は,マルクスのプラン問題における恐慌認識を検討する とともに,マルクス以後の,ツガン・バラノフスキー,ローザ・ルクセン ブルク,グロスマン,シュピートホフなどの景気循環論,経済変動論を検 討することによって,マルクス以後の恐慌学説の形成を理論的に分析され ておりますが,本書はわが国において恐慌学説を研究するさいに,必ず参 照される必読文献となっております。このような先生の研究の特徴は, 1991年から1992年にかけて在学研究の地にえらばれたのが,西欧マルクソ ロジーの泰斗,デイヴィド・マクレランがいたイギリス,ケントのカンタ ベリィ大学であったことからもわかります。 小澤先生の研究姿勢は,研究の初発より現在まで決してぶれることはあ りませんでした。物静かな紳士でありながら,一本芯が通ったお人柄にも 通ずるように思われます。 小澤先生の講義や演習についても,学生を大変大切にされていると思い ます。先生の講義は厳格でごまかしが効かないということを学生からよく 聞いておりますが,先生は,社会経済学の講義にさいしても,講義の教材 や練習問題などをホームページからダウンロードできるように準備されて おりますし,内容を反復しながられ丁寧に進められております。また,演 習生は, 「日本学生経済ゼミナール」に参加しているということです。そし て毎年一回,日本各地で開催されるインター大会のために,入念な準備を して報告,討論に臨んでいるということです。演習生の楽しみでもあるよ うです。小澤先生はその記録を,写真とともにホームページに掲載してお られます。いかにも学生思いの先生らしいなと感心いたしました。 小澤先生は退職直前に一時体調を崩されましたが,幸いにも現在は回復 されたようですが,退職後はしばらく静養に努められ,さらに恐慌史の研 究を深化させていただければと思います。
© Copyright 2024 ExpyDoc