成果概要(PDF 213KB

平成26年度豆類調査研究助成事業成果概要
1
調査研究課題名
小豆における生育初期耐冷性の検定条件の設定
2
調査研究組織名・研究者名
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 十勝農業試験場
研究部 豆類グループ 研究主任 堀内優貴
3
調査研究の目的
(1)小豆の耐冷性には出芽直後、生育初期、及び開花着莢期の3つがあるが、このうち生
育初期の耐冷性については、人工気象条件下での検定手法はいまだ確立していない。
生育初期耐冷性は重要な障害抵抗性であり、この抵抗性を有する品種を開発するには、
育成系統を毎年確実に評価する必要がある。
(2)人工気象条件下で生育初期耐冷性を評価するためには、自然条件と異なる環境条件
(光質、養液、培地)を改善し、小豆の生育がより安定する条件を整理する必要があ
る。さらに、健全に生育した材料を用いて、生育初期の耐冷性を評価するための検定
条件を設定する必要がある。
(3)このため、低温育種実験室を用いた好適な栽培法により供試材料の生育を安定させ
た上で、生育初期耐冷性の検定条件を設定することにより、この形質を確実に評価で
きるようになり、品種選抜の効率化等を通じて道産小豆の安定供給等の推進に資する。
4 調査研究の方法
(1)低温育種実験室における好適栽培法の検討(平成 25~26 年)
「エリモショウズ」及び「きたろまん」について、①無処理(慣行;室内ロックウ
ール水耕栽培)
、②UV 照射処理(室内ロックウール水耕栽培+UV(東芝ライテック社製
FL20S・BLB)照射)、③土耕処理(室内養液土耕栽培)④屋外処理(雨よけロックウー
ル水耕栽培)での生育(主茎長及び主茎節数)を調査した。1/5000a ワグネルポットに
2 個体栽植したものを各処理 3 ポット×2 反復供試し、実験室内の気温は芽室町の平年
値に設定した自動制御で管理した。
(2)生育初期耐冷性検定の条件設定(平成 26 年)
「エリモショウズ」
(過去の試験等により生育初期耐冷性‘中’程度と推定)、
「きた
ろまん」
(同‘弱’)、
「斑小粒系-1」
(同‘強’
)について、1/5000a ワグネルポットに 2
個体栽植し、ロックウール水耕栽培+UV 照射処理で養成したものを各処理 4 ポット×2
反復供試した。対照区の気温は芽室町の平年値に設定し、処理区は本葉 2 葉期及び 3
葉期から 2 週間の低温処理(夜 10~昼 15℃、50%遮光)を実施した。
5 調査研究の結果及び考察
(1)低温育種実験室における好適栽培法の検討
平成 25 年は、主茎長は 2 品種ともに UV 照射処理で最も長く、生育が優れた。主茎節
数は「エリモショウズ」の土耕処理及び屋外処理で少なかった。土耕処理では土壌水分
の不足により、屋外処理では強風の影響を受けたため生育が抑制されたものと考えられ
た。
平成 26 年は、主茎長は「エリモショウズ」では屋外処理、「きたろまん」では土耕処
理で最も長かった。主茎節数は、2 品種ともに屋外処理で最も多かった。防風対策を施
した屋外処理の主茎節数は圃場に近い数値を示し、生育良好であったことから、屋内に
生育を抑制する要因があることが示唆された。土耕処理では水分管理に注意する必要は
あるが、好適な水分条件下では生育は良好であった。
このことから、人工気象条件下(屋内)で安定した初期生育を確保するためには、養
液土耕栽培が有効であると考えられた。
表1 各処理における主茎長及び主茎節数
平成25年
調査項目 処理
エリモショウズ きたろまん
無処理
26.4 a
25.2 ab
主茎長 UV照射
31.4 b
27.0 a
(cm)
土耕
24.6 a
22.4 bc
a
屋外
22.6
19.0 c
無処理
8.0 a
8.8 a
UV照射
8.8 a
8.6 ab
主茎節数
bc
土耕
5.2
7.4 ab
屋外
6.4 c
7.0 b
平成26年
エリモショウズ きたろまん
31.2 a
38.5 ab
33.5 a
35.0 a
37.8 ab
57.8 c
b
42.0
44.8 b
9.7 a
11.2 a
9.2 a
11.0 a
a
8.8
11.7 a
14.0 b
14.3 b
注1)異なるアルファベット間にはTukeyの多重比較による5%水準の有意差あり。
2)調査日:平成25年9月30日、平成26年10月6日。
(2)生育初期耐冷性検定の条件設定
処理開始時期が 2 葉期からの処理では、主茎長は「エリモショウズ」及び「きたろ
まん」で有意差はなかったが、主茎節数は 3 品種ともに処理間差が見られた。処理開
始時期が 3 葉期からの処理では、主茎長・主茎節数ともに有意差は見られなかった。
いずれの処理においても、その後生育不良となったことから、生育初期耐冷性の検定
に適した処理時期は判然としなかった(表 2)。検定法の確立には、低温処理の時期、
期間、強度の更なる検討が必要である。
表2 低温処理開始時期の比較
処理時期 調査項目 処理区
対照区
主茎長
低温区
(cm)
2葉期
対照区
主茎節数 低温区
主茎長
(cm)
3葉期
主茎節数
対照区
低温区
対照区
低温区
エリモショウズ
22.1
21.4
ns
5.3
4.0
**
23.3
23.3
ns
5.5
5.2
ns
注)ns:有意差なし、**:1%水準で有意差あり。
きたろまん 斑小粒系-1
19.7
19.9
ns
6.4
5.2
**
21.7
20.2
ns
5.9
5.4
ns
23.9
19.1
**
8.0
6.3
**
29.8
23.6
**
8.5
6.9
**
以上より、小豆の生育初期耐冷性を低温育種実験室で検定するための材料を安定して養
成するためには、生育良好であった屋外水耕栽培または屋内養液土耕栽培が適していると
考えられた。しかしながら、屋外は年次により気象の影響を受ける可能性があるため、環
境条件を一定に制御できる人工気象室内での栽培がより適している。また、検定条件設定
の試験では、1 年目に最も生育の良好であった栽培法(水耕栽培+UV 照射)で養成した材料
を用いたが、生育不良により結果は判然としなかった。今後、屋内土耕栽培を中心に、初
期生育を安定させ、低温処理条件の検討が必要である。