遮蔽部硬化性UV硬化樹脂

P
C
erformance
116
活 躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
hemicals
遮蔽部硬化性UV硬化樹脂
電子材料研究部 ユニットマネージャー
向井 孝夫
[紹介製品の問い合わせ先]電子材料産業部
紫 外 線(UV)硬 化 技 術 は、
熱をかける必要がなく短時間、
UV 硬化樹脂の利用分野
ても広く使用されるようになっ
た。1990 年 代 に は 光 フ ァ イ
UV 硬化樹脂は 1960 年代後半
バーコーティング材に代表され
環境負荷の少ない硬化技術とし
に初めてコーティング分野の木
るようなエレクトロニクス関連
て知られている。熱をかけるこ
工用塗料原料として実用化され
の 用 途 向 け が 著 し く 成 長 し、
とが困難な用途や無溶剤である
た。そ の 後、1970 年 代 に 反 応
2000 年以降はフラットパネル
ことが利点となる分野で実用化
性に富んだアクリレート系が広
ディスプレイ関連材料(各種レ
され、今や欠かすことのできな
く採用され始めると、光源や装
ンズなど)、精密機械分野など
い技術となっている。この技術
置の開発にも後押しされて印刷
にも適用されている。
を利用した UV 硬化樹脂の使用
分野の製版材料、インキなどの
される分野は、その特長により
用 途 へ も 展 開 さ れ た。さ ら に
大きく二つに分けられる。一つ
1980 年代には安全性が高い多
は高速硬化性・無溶剤化を利用
種多様なモノマー・オリゴマー
一般的には UV 硬化型モノマー
したコーティング・成型分野、
や高性能な開始剤が開発された
で あ る 多 官 能 モ ノ マ ー、希 釈
もう一つは UV(光)が照射さ
ことに加え、カチオン硬化型樹
モ ノ マ ー(低 粘 度 化 で き る た
れた部分のみが硬化するという
脂が実用的に展開され、フィル
め、材 料 の 無 溶 剤 化 が 可 能)
特長により、パターン形成が可
ムを中心としたプラスチックお
を主成分とし、UV 硬化型オリ
能なことから主としてエレクト
よび缶のコーティング材料とし
ゴマーおよび光重合開始剤
無溶剤で生産可能なことから、
UV 硬化樹脂の構成成分
UV 硬 化 樹 脂 の 構 成 成 分 は、
ロニクス関連で用いられるレジ
表1
スト分野である。
UV硬化樹脂の重合型別構成成分
ラジカル重合型
カチオン重合型
UV硬化型モノマー
アクリレートモノマー
ビニルエーテルモノマー
UV硬化型オリゴマー
ウレタンアクリレート
ポリエステルアクリレート
エポキシアクリレート
アクリルアクリレート
ビニルエーテルオリゴマー
脂環式エポキシ樹脂
グリシジルエーテルエポキシ
光重合開始剤
ベンゾフェノン系
アセトフェノン系
チオキサントン系
スルホニウム系
ヨードニウム系
3級アミンなど
̶
本稿では、UV 硬化樹脂につ
いて最近のトピックスとして独
自の開始剤を利用し、光が直接
しゃ へい ぶ
当たらない部分(遮蔽部)まで
硬化することを可能にしたラジ
カル重合型 UV 硬化樹脂につい
て紹介する。
増感剤
添加剤
三洋化成ニュース
重合禁止剤、
各種フィラー
(充填材)
、染料、顔料、
レべリング剤、
流動性調整剤、消泡剤、可塑剤など
❶ 2015 夏 No.491
表2
平均
官能
基数
2
当社UV硬化型モノマー
『ネオマー』
シリーズ
製品名
組成
外観
粘度
mPa・s
(25℃)
皮膚
刺激性
特徴
ネオマー PA-305
ポリプロピレングリコールジアクリレート
淡黄色液状
15
1.0
粘度低下効果大。
耐溶剤性と可とう性良好
ネオマー NA-305
ネオペンチルグリコール
(PO)
nジアクリレート
淡黄色液状
18
2.0
硬化収縮率が小さく、
可とう性良好
ネオマー BA-641
ビスフェノールA
(EO)
nジアクリレート
淡黄色液状
1,100
0.0
皮膚刺激性が小さく、
耐摩耗性良好
ネオマー TA-401
トリメチロールプロパン
(EO)
nトリアクリレート
淡黄色液状
83
0.3
皮膚刺激性が小さく、
低粘度で硬化速度が速い
ネオマー TA-505
トリメチロールプロパン
(PO)
nトリアクリレート
淡黄色液状
95
0.0
硬化収縮率が小さく、
可とう性良好
ネオマー DA-600
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
淡黄色液状
7,000
0.2
皮膚刺激性が小さく、
架橋密度が高い
3
5
(以 下、開 始 剤)、場 合 に よ っ
酸とのポリエステル化技術を組
ら近年では、UV 硬化樹脂その
ては増感剤およびその他添加
み合わせることで、皮膚刺激性
ものの物性を満たすだけでな
剤が配合される。
の小さいポリエーテル変性タイ
く、各ユーザーで使用する部材
UV 硬化樹脂は反応機構から
プの UV 硬化型モノマー『ネオ
(充填材、基材など)との組み
ラジカル重合型とカチオン重合
マー』シリーズを上市し好評を
合わせまで考慮し、複合部材と
型に分類できる。現在は種類の
得てきた(表 2)。
して必要性能を発現させる要求
じゅう てん
豊富さ、コスト面、供給面から
アクリレートモノマーが主に選
当社のUV硬化樹脂システム
が強くなってきている。そのよ
うな要求を満足させるために、
択され、ラジカル重合型が主流
多彩な産業分野でのニーズ
当社ではモノマー、オリゴマー
となっている。ラジカル重合型
に 応 え る た め、当 社 は、モ ノ
合成技術に加え、界面活性剤の
の開始剤(ラジカル開始剤)は
マ ー、オ リ ゴ マ ー や 開 始 剤 な
開発で培った界面制御技術を導
UV を吸収し励起状態になり、
どを配合した UV 硬化樹脂シス
入することで、UV 硬化樹脂と
ラジカルを発生させ重合の引き
テ ム『サ ン ラ ッ ド』シ リ ー ズ
充填材あるいは基材とのぬれ性
金とする化合物(ベンゾフェノ
などの販売も行っている。『サ
をコントロールし、各種用途に
ン系など)である。一方、カチ
ンラッド』シリーズでは、『ネ
適した UV 硬化樹脂システムを
オン重合型の開始剤(カチオン
オ マ ー』シ リ ー ズ に 加 え て、
開発してきた。さらに金型表面
開始剤)は UV によりカチオン
ウ レ タ ン、エ ポ キ シ、ポ リ エ
に選択的に移行する独自設計の
を発生させ、それを引き金とす
ステルなどの合成技術を導入
特殊離型剤を導入し、基材との
る 化 合 物(ス ル ホ ニ ウ ム 系 な
した特長ある各種オリゴマー
密着性を維持しながら金型との
ど)で あ る。表 1 に UV 硬 化 樹
を利用している。
離型性の優れる UV 硬化樹脂シ
れい
き
特に、ウレタン合成技術に関
ステムを開発するなど、UV 硬
しては、種々のポリオールの分
化樹脂システムの設計技術を蓄
子設計から分子量の制御に至る
積してきた。これらを応用した
当社は界面活性剤メーカーと
までさまざまな設計ノウハウを
『サンラッド』シリーズは、フ
して従来から培ってきたポリ
保持しており、所望の物性発現
ラットパネルディスプレイのレ
エーテル変性技術および種々の
を可能にしている。しかしなが
ンズ用樹脂およびレンズの貼り
脂の重合型別構成成分を示す。
当社の UV 硬化型モノマー
三洋化成ニュース
❷ 2015 夏 No.491
表3
当社UV硬化樹脂システム『サンラッド』
シリーズ
項目
性状
サンラッド A
サンラッド B
サンラッド C
備考
外観
淡黄色液状
淡黄色液状
淡黄色液状
目視
ハーゼン単位色数
70
130
70
̶
粘度
(mPa・s)
4,000
9,000
2,800
B型粘度計、25℃
屈折率
1.55
1.56
1.50
アッベ屈折率計
透過率
(%)
90
90
90
400nm∼700nm
硬化物
ヘイズ
0.6
0.3
0.3
̶
密着性
100/100
100/100
100/100
PET/碁盤目試験
接着力
(N/cm)
̶
̶
20
オートグラフでのT剥離試験
(PET/PET)
離型性
(mN)
15
17
̶
オートグラフでの金型剥離試験
プリズムレンズ、
フレネルレンズ、
拡散レンズなど
推奨用途例
レンズ貼り合わせ用
接着剤
塗布
UV照射
遮蔽物
UV樹脂
貼り合わせ
UV照射
スマートフォン
カバーガラス
ラジカル開始剤
(反応が速い)
ラジカル開始剤
組立
ラジカル
遮蔽部は
硬化しない
基板
基板
図1
通常のラジカル重合型
UV硬化樹脂システム
(遮蔽部は硬化しない)
図2
カバーガラスと基板の貼り合わせ工程
合わせ用接着剤として好評をい
UV 硬化樹脂が用いられている
ど、煩雑な製造プロセスが必要
ただいている(表 3)
。
スマートフォンのカバーガラス
となる(図 2)。
遮蔽部硬化の必要性
の貼り合わせ用接着剤(OCR)
一 方、遮 蔽 部 ま で 硬 化 す る
や液晶シール材などの接着剤用
UV 硬化樹脂としては、カチオ
UV 硬化樹脂の主流であるラ
途では、UV が当たらない遮蔽
ン重合型が知られているが、硬
ジカル重合型 UV 硬化樹脂は、
部が硬化しないことから、接着
化が遅く、使用できるモノマー
UV を受けたラジカル開始剤か
不良となるケースがある。
種も限定されているため汎用性
OCR を用いてカバーガラス
に 劣 る(図 3)。こ の よ う な 背
そのラジカルが周囲のモノマー
と基板(タッチパネルや液晶パ
景から、当社は硬化が速く汎用
やオリゴマーと連鎖的に反応す
ネルなど)とを UV 接着剤で貼
性が高いラジカル重合型で遮蔽
る こ と で 硬 化 が 進 む。そ の た
り合わせる場合、カバーガラス
部まで硬化できる新規の UV 硬
め、UV が当たらない遮蔽部で
の周囲に施された加飾印刷部の
化樹脂システムを開発した。
は 硬 化 が 起 こ ら な い(図 1)。
裏側には UV が当たらない。そ
この特性は細かいパターン形成
のため、加飾印刷部の裏側での
を可能にするなどのメリットで
接着不良を防止するために、カ
ある反面、用途によってはデメ
バーガラスと基板とを貼り合わ
通常のラジカル重合型 UV 硬
リットともなる。
せた隙間に対して側面からの
化樹脂システムでは、UV を受
UV 照 射 を 複 数 回 繰 り 返 す な
けた開始剤がラジカルを発生さ
ら短寿命のラジカルが発生し、
例えば、主にラジカル重合型
三洋化成ニュース
❸ 2015 夏 No.491
遮蔽部硬化性に優れる
UV 硬化樹脂システム
UV照射
UV照射
UV照射
遮蔽物
ラジカル開始剤
カチオン開始剤
カチオン
(反応が遅い)
カチオン開始剤
ラジカル
(反応が速い)
拡散
活性化合物
ラジカル開始剤
遮蔽部は
硬化しない
基板
基板
図3
遮蔽物
遮蔽物
図4 (左)通常のラジカル重合型
UV硬化樹脂システム
(遮蔽部は硬化しない)
カチオン重合型UV硬化樹脂システム
(遮蔽部まで硬化するが、
反応が遅く用途が限られる)
拡散
ラジカル開始剤
ラジカル
ラジカル開始剤
(反応が速い)
ラジカル
基板
(右)
開発したラジカル重合型
UV硬化樹脂システム
(遮蔽部まで硬化する。
反応が速く汎用性がある)
UV照射
遮蔽物
露光部
遮蔽部
3mm
基板
本 シ ス テ ム は、顔 料 や フ ィ
ラーを高濃度に含み光が均一に
硬化距離
当たりにくい系でも硬化できる
開発したラジカル重合型UV硬化樹脂システム
ため、導電性フィラー(銅、銀
UV照射
遮蔽物
露光部
など)を高濃度に含有させた導
電性ペーストとして使用するこ
遮蔽部
20μm
基板
とでタッチパネル配線などへの
応用も可能となる。これらの特
硬化距離
通常のラジカル重合型UV硬化樹脂システム
図5
今後の展開
長を生かして、現在 UV 硬化樹
脂が使用されている分野だけで
露光部/遮蔽部の境界からの硬化距離
(一例)
なく、自動車、建材の塗料や印
せる。一方、今回開発した UV
維持される。
刷分野といった新規分野への展
硬化樹脂システムでは、UV を
本システムの基礎データを図
受けて生成した長寿命の活性化
5に示す。基板上にUV硬化樹脂
また、これまで培ってきた技
合物が、系内に存在する開始剤
を塗工した試験サンプルに対し
術と本システムを組み合わせる
に働きかけることで間接的にラ
て部分的に開口部のある遮蔽物
ことで、各ユーザーニーズに合
ジカルを発生させる。生成した
をかぶせてUVを照射したとこ
わせて、モノマーの種類や液粘
活性化合物は UV 照射の有無に
ろ、本システムでは遮蔽部まで
度、硬化速度、硬度等も設計す
かかわらず系中で拡散し、遮蔽
硬化することを確認できた(図
ることができる。今後は具体的
部のラジカル開始剤に働きかけ
5:上)
。一方、通常のラジカル
な用途に応じて、本システムを
ることで遮蔽部まで硬化させる
重合型UV硬化樹脂システムで
製品化につなげていく予定であ
こ と が で き る(図 4:右)。本
同様の試験を行ったところ、遮
る。
システムでは、硬化が速いさま
蔽部はほとんど硬化しなかった
ざまなモノマーが使用できるた
(図5:下)
。な お、遮 蔽 部 の 硬
め各種基材との密着性が良好と
化距離は、モノマーの種類や粘
いったラジカル重合型の利点は
度などによっても異なる。
三洋化成ニュース
❹ 2015 夏 No.491
開も考えられる。
○参考文献
UV・EB 硬化技術 IV(シーエムシー出版)