食用作物学II (イネについて)

2015/10/9
地上部の形態
食用作物学II
(イネについて)
第三回 形態学的視点から
穂軸
作物学研究室 柏木純一
茎葉の発達
茎葉の形態
穂
止め葉
節
穂首節
葉身
止葉節
穂首節間
葉鞘
茎は節を持ち、節と節の間を節間
と呼ぶ
日本稲は、主茎に14-17節を有す
る
葉舌
不伸長茎部:ほとんど節間伸長を
行わない下位10節
伸長茎部:主に伸長する不伸長
茎部の上位5-6節
葉身
葉耳,葉舌とも,特に重要な機能を
担っていないが,水田雑草のタイヌビ
エと区別する時の目印となる
頴果の胚では,既に3葉原基が分化
している
要素(ファイトマー):節間を,葉,分
げつ,根の発達を考える単位とする
葉(鞘)の基部は,要素の上位より
生じる(節と連結)
葉耳
生長点
葉原基
茎の生長点で穂の原基が分化す
ると、伸長茎部が急速に伸長を始め
る
最も伸長するのは、穂首から止め
葉節間で、30cmほどになる
葉鞘
ファイトマー
食用作物、星川著
稲作大成、松尾ら編
茎葉の形態
分げつの発達
茎の横断面
不伸長茎部の各節(10節程度)に形成
(伸長茎部の分げつ芽は通常休眠している)
=1次分げつ
+2次分げつ+3次分げつ
(理論上は40茎以上の分げつ/個体)
実際栽培では、1個体5~6本(密植のため下
位節分げつ芽が休眠)
空洞
葉の横断面
一次分げつ
一次
分げつ
食用作物、国分牧衛
葉身には縦方向に並行して多くの維管束が走る
光合成をおこなう葉肉細胞は,上位の葉ほど多い
→上位の葉ほど高い光合成能力を有する
機動細胞:乾燥に敏感で,水分が欠乏すると収縮する
→葉が巻く
→ケイ酸体を蓄積する(プラントオパールとして考古学試料となる)
維管束鞘細胞:葉緑体が少ない
茎の中央:空洞(竹のように節部ごとに閉じている)
茎最外層:硅質化した表皮で,その内側に小維管束があり,そ
の内側の柔組織(木化していない細胞)には大維管束がある
葉鞘
有効分げつ:穂をつける分げつ
無効分げつ:穂をつけない分げつ(生育後
半に出現したもの)
• 最高分げつ=有効分げつ+無効分げつ
• 有効茎歩合=有効分げつ / 最高分げつ
同伸葉同伸分げつ理論
N葉が抽出した時に、N-3葉の葉腋から分げ
つが抽出する
食用作物、国分牧衛
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2015/10/9
穂の発達
幼穂:穂の原基が分化してから出穂するま
での穂の名称
出穂:止め葉から穂が出現すること
最高分げつ期:茎の生長点で止め葉の分
化が完了して,穂の原基が分化し始める
=栄養生長期から生殖生長期へ
(生育相の転換)
穂の発達
*生育相転換の引き金
生長点
葉原基
基本栄養生長性+
日長:イネは短日植物
温度:積算温度
茎上の生長点が穂の原基へと分化し幼
穂を形成
幼穂は止め葉の葉鞘の中を伸長して,
出現する
6月上旬
稲作大成、松尾ら編
8月上旬
5月上旬
9月中旬
6月下旬
出穂
穂孕み
etchttp://naozane.seesaa.net/article/125958305.html
根の形態
根の形態
破生組織(通気組織)
内鞘より内側が、中
心柱で通導組織(導管,
篩管)を含む維管束が
ある
イネの根はどこから出現するのか?
種子根:種子の胚中にある幼根
から分化(イネでは1本)
冠根:茎にある根原基から分化
(イネではこれが主役)
主茎のみで,200本以上形成される
不定根(幼根およびそこから分枝し
た根以外の根)に分類される
中心柱の外側は,皮
層で、デンプンなどの貯
蔵器官となる
http://www6.plala.or.jp/abejun/donguri/02.htm
イネの皮層は,老化
すると,皮層を構成する
細胞の一部が崩壊して
破生組織を形成する
同一要素(ファイトマー)の上位根、
下位根は,同時に生長する
皮層の外側は,表皮,
外皮で,これらは丈夫な
細胞壁を有し,根を外
部環境から保護してい
る
•下位根は,太く,下方伸長の傾向
•上位根は,細く,分枝が多く,横方
向伸長の傾向
稲学大成、松尾ら編
水の通り道
根の形態
分裂域:細胞分裂により細
胞数が増加している領域
表皮,外皮,皮層,中心柱等
が形成される.ここで根の太さ
が決定される.
伸長域:細胞が長軸方向に,
数倍~数十倍に伸長する領域.
根の物理的伸長が起こってい
る場所.
a)アポプラスト径路:細胞間隙を通るため通導抵抗が少ない
成熟域:細胞の分裂・伸長が
終了した領域.表皮細胞から
根毛(5-6μm径、100-200μm
長)や,分枝根が発生する
b)シンプラスト径路:原形質連絡(細胞膜)を通るため通導抵抗が大きい
c)トランスセルラー通路:細胞質+液胞を通るため通導抵抗が大きい
稲作大成、松尾ら編
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2015/10/9
水稲も水ストレスに陥る
水ポテンシャル小
(乾いている)
水の移動
土壌水分→根(根端,表皮)→茎→葉(気孔)→
大気
水移動の駆動力
水ポテンシャル(水分保持力)の勾配
水移動の抵抗
根内横断時(根の表皮→導管)
導管内の上昇時(根→茎→葉)
葉内横断時(導管→気孔)
水ポテンシャル大
(湿っている)
これらの抵抗により「吸水」が「蒸散」に追いつ
かないことがある(夏の昼間など)
→稲植物体(特に葉)で水ストレスが生じる
水ポテンシャル(Ψ)
ある水のもつエネルギーと,大気圧下の標準状態にある水の持つエネルギーとの差
• 単位は圧力:Pa
• 大気圧下の標準状態での水ポテンシャル:0Pa
• 水ポテンシャルは負圧で示される
• 水の移動しやすさを示し,水ポテンシャル大→水ポテンシャル小(絶対値の大きい負の
値)方向に水は移動する
水ポテンシャルは水中よりも大気中で大きい
水温25℃の死海(塩分濃度25%, g/v)の水の水ポテンシャルは?
• Ψ=ー1・(nvRT/V)
→NaClのモル重量:58.5g mol-1
• n:溶質のモル数
• v:モルあたりのイオン数 →2
Ψ=
→8.31 J K-1 mol-1
• R:気体定数
ー4.27×2×103×8.31×298
→273+25=298
• T:絶対温度(K)
→m-3あたり
• V:体積
Ans:-21.1×106Pa
湿度80%で気温25℃の大気の水ポテンシャルは?
• Ψ=(RT/Vw)・loge(RH)
• RH:相対湿度
→ln(0.8)≒ー0.22
Ψ=
• R:気体定数
→8.31 J K-1 mol-1
(8.31×298/1.8・10-5)×ー0.22
• T:絶対温度(K)
→273+25=298
• Vw:体積(モル)
→ 1.8×10-5 m-3mol-1
Ans:-30.2×106Pa
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