5章-6章の復習 ●外界と系(孤立系、閉じた系、開いた系) ●熱化学反応(発熱反応、吸熱反応) ●熱力学第一法則 ●エンタルピー ●水素結合 ●ブレーンシュテッド酸塩基 ●ルイス酸塩基 ●配位結合 ●ハメットのシグマ 外界、 孤立系、 閉じた系、 開いた系 図5.2 孤立系、閉じた系、開いた系 外界 孤立系 エネルギー 外界 閉じた系 エネル ギー エネルギー 外界 開いた系 エネル ギー ●閉じた系:外界の間で物質のやりとりはないが、エネルギーのや りとるが系を閉じた系(closed system)という。この系での化学反 応での発熱、吸熱などは系の温度、圧力を変化させない。 化学 で勉強するのは、この系。 系に出入りするエネルギーは熱(heat)+仕事(work) ●熱化学方程式: 化学量論数にしたがって、反応物、生成物、エ ネルギーを記す 熱化学反応、平衡状態、状態量 ●25℃、1 atm(現在は100 kPa)での反応熱が熱化学方程式に用いら れ、化合物1molが同一の温度、圧での成分から生じるときの反応熱を 生成熱(heat of formation、発熱or吸熱)という。 ●熱量の単位 J(ジュール) 1N(ニュートン)の力で物質を1m移動さ せるに必要なエネルギー 1 J = 1 N・m = 1 kg ・m2 ・s-2 1 cal = 4.184 J ●系が平衡状態(equilibrium state)の時、一義的に定まった値を 持つ物理量を状態量(quantity of state)と言う。 ●状態量として、物質量に比例する示量性の状態量(体積V、質量 m、熱qなど)と、物質量に無関係な示強性の状態量(圧力P,温度T, 密度r)がある。 熱力学第一法則、内部エネルギー、エンタルピー ●系が外界から吸収する熱・・q 系の体積変化により外界から系にされる仕事・・w 系の内部エネルギー(internal energy)Uの増加・・q + w DU = q + w (5.2) ●熱力学の第一法則 「内部エネルギーの増加DUは、変化前と変化 後の平衡状態に依存し、途中の経路は関係しない」 ●化学反応が一定温度、一定圧力で起こると、仕事wは外界の圧P による系の縮小(w = PDV)で、定圧での吸収熱をqpとすれば、 DU = qpPDV ●エンタルピー(enthalpy)の定義・・ H = U + PV 定圧(DP=0)でのエンタルピー変化DHは DH = DU + PDV = qp (5.4) (5.3) ●標準生成エンタルピー:標準状態で単体から化合物1モルが生成 するときのエンタルピー変化 DfH ○ ●一般に、固体、液体ではDV=0でありDH ≈ DU、 また反応で気体の量がDnモル増加すると DH ≈ DU+DnRT (5.5) 気体の法則 ●アヴォガドロの法則(Avogadro's law)とは、同一圧力、 同一温度、同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含 まれるという法則である。NA = 6.022 x 1023 mol-1 ●ボイルの法則:一定温度において、一定量の気体の体積Vは圧力 Pに逆比例する: PV = 一定、 P1V1 = P2V2 (5.6式), P vs. V, V vs. Pは双曲線(等温線)。 ●シャルルの法則:一定圧力において、一定量の気体の体積は絶 対温度T に比例する:V/T = 一定、 絶対温度T1 Kの体積V1、T2 Kで の体積V2とすると V1/T1 = V2/T2 (5.7式)。 ●ボイル-シャルルの法則:一定量の気体の体積は圧力に反比例 し、絶対温度に比例する: PV = nRT, P1V1/T1 = P2V2/T2 (n: mol) (5.8) R:気体定数 8.314 kPa dm3 K-1 mol-1 = 8.314 J K-1 mol-1 = 0.08206 atm dm3 K-1 mol-1 ●ドルトンの分圧の法則:混合気体の全圧は成分気体の分圧(成 分気体が混合気体と同じ体積を占めた時の圧力)の和に等しい P = Spi (5.9) ●ヘスの法則:化学変化の前後の状態を定めると、その間に出入 りする熱量の総和は一定で、変化の経路に無関係 熱力学第一法則以前に見出された(別名 総熱量保存の法則) ●熱力学の第一法則 「内部エネルギーの増加DUは、変化前と変化後の平衡 状態に依存し、途中の経路は関係しない」 問題 ボルン・ハーバーサイクルからNaClの格子エネルギーUを求めよ Na+(g)+e-+Cl(g) I : イオン化エネルギー 496 KJ mol-1 Na(g)+Cl(g) E : 電子親和力 -349 KJ mol-1 Na+(g)+Cl-(g) ½ D 解離エネルギー Na(g)+ ½Cl2(g) Na(s)+ ½ Cl2(g) 122 KJ mol-1 S :昇華エネルギー U :格子エネルギー 107 KJ mol-1 F : 生成熱 401 KJ mol-1 NaCl(s) 7 水素結合(Hydrogen-bond) ●水素原子は、その1s軌道の電子の数により原子(ファンデルワール ス、イオン)半径が、H+で10-5 Å、H•で1.2 Å、H-で1.54~2.08 Åと、 大きく変化するきわめて興味深い粒子である。 ●水素結合の形成が可能ならば、分子の詰め込みは悪くとも、水素結 合エネルギーで利得のある、異方性をもった結晶構造を取る。 ●OH基やNH2基をもつ分子は多くの水素結合が形成されるように結 晶化し易く、方向性を持つことから多形が見られる・・・・生体系。 ●水素結合のエネルギー: 10~30 kJ mol-1 (水で33 kJ mol-1)で、 ファンデルワールスエネルギーと大差はない。 水素結合の例: 水、生体は水素結合の集合体 蟻酸(formic acid)、酢酸(acetic acid)、蓚酸(oxalic acid)(, 型)、安息香酸(benzoic acid)、分子内水素結合のサリチル酸 (salicilic acid) CH3CONH2 アセトアミド( acetoamide) プロトン移動と酸・塩基 ブレンシュテッド-ローリーの酸・塩基 ● 1923年: 酸はH+を供与する分子(HAA-+H+)、塩基はH+を受 容する分子(B+H+BH+) 酸・塩基反応 HA + B ⇌ A- + BH+ (6.2) ●水中では、H2Oが塩基または酸として働く。 酸 HA + H2O ⇌ H3O+ + A- pKa=-logKa (6.3) (6.4) 塩基 B + H2O ⇌ HB+ + OH- pKb=-logKb (6.5) (6.6) ●共役酸・塩基で pKa + pKb = 14.0 (6.7) ●気相での絶対的な値は、反応AH ⇌ A-+H+の反応熱DH0で示され、 DH0を内在的酸性度(intrinsic acidity)という 内在的酸性度からわかること 1) ハロゲン化水素の気相での酸性度は HI>HBr>HCl>HFで、ハロゲンの電気引性度の順 I< Br < Cl < Fの逆 2) アセトンはHFより少し強い酸である。 3) CH2(CN)2 (malononitrile、マロノニトリル)はHClと同 程度の強い酸である。 一対の非結合電子対(:で示す)をもつ3配位の炭素陰イオ ンをカルバニオン(カルボアニオン、carbanion)という。 ルイスの酸-塩基 ●1923年、八偶説(オクテット則)を提唱したルイスにより提案された ●酸は共有結合を形成するため他の物質から一対の電子対をもらう もの(電子対受容体、ルイス酸)であり、塩基(電子対供与体、ルイス 塩基)は電子対を与え、酸および塩基は希ガス型電子配置をとる。 ●配位結合:結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が 分子軌道に提供される化学結合。電子対供与体(ルイス塩基)となる 原子から電子対受容体(ルイス酸)となる原子へと、電子対が供給さ れてできる化学結合でり、ルイス酸とルイス塩基との結合でもある。 ●オキソニウムイオンR3O+(簡単なものヒドロキソニウムイオン H3O+ ) ●他アンモニウムイオン、三フッ化ホウ素アンモニア錯体 ハメットのσ ●置換基の電子吸引や電子供与の能力を示すパラメータ ●基準とする酸は安息香酸(HA0)で、置換基Xをもつ安息香酸をHAと の間での酸・塩基平衡 HA + A0- ⇌ A- + HA0 の、平衡定数 KHA-A0のうち、O-H結合に関与する部分のみを比較。 ● DG = RTlnKHA-A0 = DH TDS 生成エンタルピー(DH)は結合に関与、 生成エントロピー(DS)は溶媒の種類、反応粒子数、 オルト、メタ、パラ置換体などの立体因子に関与 ・・ DSが影響しない実験条件で比較 ● < 0 水素に比べベンゼン核へ電子密度を増加させる置換基(電 子供与基)で、塩基性↑ 酸性↓ HOMO↑(Ip↓)~ドナー性↑ ● > 0 水素に比べベンゼン核の電子を引きつける置換基(電子吸引 基)で、 塩基性↓ 酸性↑ LUMO↓(EA↑)~アクセプター性↑ ここで、矢印の↑、↓は各々増加、減少を示す。 14 7章 共有結合と共有結合結晶 出典 有機物性化学の基礎 斉藤軍治 化学同人(2006) Wikipedia 復習と目標 ●共有結合の典型である水素分子の分子軌道とそのエネ ルギー:結合性軌道と反結合性軌道 ●ベンゼン分子の軌道とエネルギーを、電子間クーロン反 発相互作用を無視した1電子問題として解く。これらの計算 を厳密に解くのは非常に困難であり,解法の流れと得られる 図を重視して説明する。シグマ軌道とパイ軌道 ●sp3、sp2、sp混成軌道 15 7.1) 水素分子と共有結合 7.1.1) 分子軌道の波動関数 ●2つの水素原子H・(HA, HBとし、プロトンをa, bとし、それらの間の距 離をRとする)が1個ずつ電子(1,2とする)を出し合い、それを共有して 結合をつくり水素分子ができる(図7.1)。 1 ● ra1 a rb1 R b 図7.1 H2+の陽子a, bと電子1 ●考えられる状態 1)中性の状態:電子1がHAに、電子2がHBに配置されたHA(1)••HB(2) と、その逆のHA(2)••HB(1) 2)イオン性の状態:電子が一方から他方に移ったHA+••HB(1,2)と HA(1,2)••HB+、イオン性の状態は等しい頻度であらわれるので電荷 が静的に偏在することはなく、イオン結合性はない。 16 ●目的: 電子軌道、そのエネルギーを求める ●方法:2つの近似法(分子軌道法、原子価結合法)がある。 分子軌道法がわかり易い。 ●仮定:近似を行うため 1. 電子は分子軌道に入る。 2. 位置の定まらない2電子間に働くク-ロン斥力を考慮するのは 非常に面倒なので、無視する・・・ 1電子近似。 すると、電子1は、プロトンaおよびbからのクーロン引力ポテンシャル {(e2/40)[(1/ra1)+(1/rb1)]} のみを受け、H2+(図7.1)の電子状態となり、1電子問題としてシュレ ディンガー方程式を解くことができる。 電子2についても同じである。 1 ● ra1 a rb1 R b 図7.1 H2+の陽子a, bと電子1 17 3. ●分子軌道の波動関数を, 水素原子A、Bの原子軌道波動関数a、 bの線形結合で近似する(原子軌道の線形結合 linear combination of atomic orbital LCAO, 7.1式) = caa + cbb (7.1) ca2: 電子がaに見出される確率、 cb2: 電子がbに見出される確率 ●今考えているaとbは、ともに同じ電子状態の波動関数(ここでは1 s軌道)であるから、確率ca2とcb2は等しく、7.2式が成立する。 ca = cb (7.2) 従って、7.1式は 1 = ca(a + b) 2 = ca(a b) (7.3) (7.4) ●7.3式、7.4式の係数は、規格化条件(空間の微小体積をdとして) 18 (7.5) * d 1 より求まり、 1 1 ( a b ) 2(1 S ) 1 2 ( a b ) 2(1 S ) (7.6) (7.7) ●前者は対称分子軌道、後者は反対称分子軌道である。Sは重なり 積分で、原子軌道aとbの重なりを示し、aに属す電子がbに沁み込 む確率振幅である。 (7.8) S * d a b ●水素の1s軌道関数(=(a03)1/2 exp (r/a0)、a0 = h2/42me2 = 0.529108 cm)と重なり積分S = exp (R/a0)[1 + R/a0 + (R/a0)2/3]、 プロトン間の距離R = 1.06 Åを用いて 1(7.6式)と電子の存在確率1*1 = |1|2を図7.2aに、また、2(7.7式) の場合を図7.2bに示す。 19 a) b) 図7.2. a) H2+の対称 分子軌道1と電子 密度|1|2、 b) H2+の非対称分 子軌道2と電子密 度|2|2 結論:1では2つのプロトン間の電子密度は大きく、電子はかなり の時間にわたって2つのプロトンから同時に引力をうけるので結 合エネルギーが増加し(結合軌道, bonding orbital)、電子エネ ルギーは安定化する。一方、2では2つのプロトン間の中点で電 子密度はゼロであり、2つのプロトンの外側にはじき出され、電子 密度は分子軌道を作る前より減少し(反結合軌道, antibonding 20 orbital)、電子エネルギーは不安定化する。
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