平成27年2月17日 「腎臓について気にしたことはありますか?」 筑波大学附属病院 水戸地域医療教育センター 水戸協同病院 腎臓内科 錦 健太 司会:まず腎臓はどこにあってどんな働きをしているのでしょうか? 錦 :腎臓は握りこぶし大のソラマメのような形をした臓器で、お腹の中とい うよりも腰の辺りに左右1個ずつあります。主に全身の血液を浄化する フィルターのような働きをしています。 司会:腎臓が悪くなるとどういった症状が出てくるのでしょうか? 錦 :血液の成分をこしとって尿を作っていますから、腎臓が弱ると血液の中 に不要なゴミや水分が残って溜まってくるということが起こります。そ れが「尿毒症」や「むくみ」という症状になります。 司会:尿毒症とはなんでしょうか? 錦 :尿に出て行くべき毒素のようなものが血液中つまり体に溜まってきてお こる様々な症状ですが、具体的には「全身倦怠感」「気分不快」「食欲不 振」「呼吸苦」などがあります。思考力の低下といったことや性格変化 などを来たすこともあります。 司会:では、むくみとはどのようなものでしょうか? 錦 :一般にむくみというと足が太くなるという認識が多いかと思いますが、 私たちは特に足のすねの前のほうを押してみて、へこんだままになるよ うなものを「むくみ=浮腫」とよんでいます。靴下の痕がつくような状 態です。このような状態が続けてみられる時には腎臓で何らかの障害が 起きていることが考えられます。 司会:では、それら尿毒症やむくみの症状が出てきたら病院などで腎臓につい て診てもらうようにすればよいのですね? 錦 :いえ、それでは遅いこともあるのです。腎臓が障害を受けてもすぐには 症状が出ません。腎臓は機能が元の50%になっても症状は無く、20%以 下になるまで体調変化や異常を感じることはありません。そのため、ず っと進んだ状態になってから尿毒症やむくみといった症状が出るので、 早期発見早期対処ということを考えると症状が出てからではなく、検査 で異常を指摘されたら早めに腎臓を診てもらうべきだと考えています。 司会:検査とはどういったものですか?どこでいつ受けたらよいのでしょう か? 錦 :血液と尿の検査になります。血液検査での「クレアチニン」、尿検査で の「蛋白尿」を診ます。一般的に多くの健診でも行われていると思いま すし、多くの医療機関で検査が出来るものです。「クレアチニン」とは 体から出てくるゴミの1種とも言えますが、腎臓が障害を受けるとこれ が血液中に増えてきます。「蛋白尿」は本来、尿に漏れてはいけない蛋 白という栄養の1種が出てきたものです。これら「クレアチニンの上昇」 や「蛋白尿の出現」で腎臓の障害を判定します。どちらか、もしくは両 方が続く状態を「CKD」と呼んで近頃非常に重要視しています。 司会:その「CKD」とは何のことで、またそれが重要視されてきているのはな ぜですか? 錦 :「CKD」とは英語で chronic kidney disease 日本語で慢性腎臓病となり ます。実はこの「CKD」状態にあると腎臓が悪くなりやすいだけではな く、心筋梗塞予備軍、脳梗塞予備軍として大変危険だと分かってきたの です。その危険度は健康な人の2から3倍になると分かってきました。 「CKD」のはじめは検査でしか分からないもので症状が出ないものです から、自分でも知らないうちに「CKD」だったということがあります。 それは自覚しないで腎臓の障害があるだけではなく、命に関わる心臓や 脳血管の危険性を持っているかも知れないということなのです。 司会:どのくらいの人に「CKD」の危険があって、そして「CKD]や腎臓の障害 はどういったことからもたらされるのでしょうか? 錦 :「CKD」は2008年の統計で日本人の8人に1人、1330万人もいるとされてい ます。あまり知られていませんが非常にたくさんの人に危険性のある身 近 な病気なのです。症状がなくても血液や尿検査で異常を指摘される のが「CKD]で、そういった人を早めに見つけて対処していくことが重要 だと考えています。 次に「CKD」がもたらされる理由ですが、の原因としては、腎臓自体の 病気である慢性糸球体腎炎といったもの以外に、糖尿病や高血圧も腎臓 に障害をもたらすことが知られています。糖尿病や高血圧の方は特に、 血液検査での「クレアチニン」や尿検査での「蛋白尿」について注意し ておいてほしいと思います。それらが出てきたり進行する時には腎臓も 診てもらうようにしてください。 司会:どのように診ていただくのがいいのでしょうか? 錦 :一般の方は健診などを受けた際の「クレアチニン」や「蛋白尿」をみて 下さい。異常が出ていたらかかりつけの先生もしくは最寄りの腎臓内科 の医師に相談して下さい。定期的に高血圧や糖尿病でみていただいてい る方は、その方の病気や状態にもよるのですが、1ヶ月から1年に1回程 度の割合で同じように「クレアチニン」と「蛋白尿」を診ていただくと よいでしょう。「CKD」を早めに察知して、そこから進ませないように対 応することが大切です。 司会:「CKD」と気付かずに症状が出るまで腎臓の障害が進行するとどうなるの ですか? 錦 :腎臓はフィルターとしての機能以外にも「血圧の調節」や「造血ホルモ ンの分泌」や「骨を作るミネラルや筋肉を動かすミネラルの調節」など も行っています。それらに異常を来たすことになるのです。つまり高血 圧がひどくなったり、貧血になったり、骨折しやすくなったり、しびれ やけいれんそして最後には心臓麻痺を起こしやすくなったりするのです。 それらが表立って出てこなくても徐々に腎臓の障害が進行していくとい よいよ「尿毒症」になり、「倦怠感」や「気分不快」「食欲不振」「呼吸 苦」などが出てくることになります。そうなると「透析治療」が必要に なります。 司会:透析ですか?それはどういった事ですか? 錦 :腎臓が障害を受けて最後の段階まで来ると透析という治療が必要になり ます。これは体にたまった老廃物や水分を人工的に取り除こうとする治 療です。「血液透析」といって病院に2日に1回通っておよそ半日かけて 血液を浄化する方法と、「腹膜透析」といって毎日自宅でお腹に液を出 し入れしてすすぎ洗いのような事を行う方法に代表されます。 それ以外にも腎臓移植や在宅での血液透析、また夜間の血液透析などの 方法もありますが、いずれにせよ生活の負担や変化をもたらすために、 それら透析はできるだけ避けて、できるだけ先送りしたいというのが当 たり前の感覚だと思います。その「透析を先送りしたい」ということを 目指すためにも「CKD」という腎臓の障害を早期に発見して早期に対応 をしていくことが大切だと考えています。 司会:「CKD」の発見、そして対応を早くしていくためには、先ほど話があった 血液検査での「クレアチニン」と尿検査での「蛋白尿」が大切だという事 ですね? 錦:そのとおりです。気分不快やむくみといった症状がなくても腎臓は障害を 受けていることがあり、早期の発見の為には血液検査と尿検査が大切だと いう事です。症状が出るまで放っておくと透析間近までになっていること があり、また知らずに心筋梗塞や脳梗塞の危険が高まっていることもある のです。 今日の話では「CKD」「クレアチニン」「蛋白尿」というキーワードを是非 覚えておいていただきたいと思います。ありがとうございました。
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