人間の感覚と対数

平成22年度
高等学校授業力向上研修
実践記録
人間の感覚と対数
-数学Ⅱ「対数関数」の指導を通して-
県立十日町高等学校
Ⅰ
山田
勉
指導構想
本単元における「研究テーマ」に迫るための視点
対数に入ると、高校の授業では主に計算を中心にして教授することになる。しかし、
化 学 で 扱 う pH で あ っ た り 、 地 震 の 規 模 を 表 す マ グ ニ チ ュ ー ド で あ っ た り 、 わ れ わ れ の
生活の中に対数が使われていることは多い。その中でも、人間の感覚そのものが対数的
に判断されていることを実験から導き出して、対数が単なる計算に終わらないというこ
とを理解させる。
Ⅱ
学習指導案
1
単 元 名 (題 材 名 )
数学Ⅱ
2
「対数関数・指数関数」(対数)
対象クラス
2年7,8,9組
3
25名(習熟度別展開の発展クラス)
指導目標
「対数」は生徒にとってもいきなり出てきた計算方法であり、計算はできるが、
日常生活とはもっとも遠い分野に思われがちである。この対数と日常での生活、ま
た、人間の感覚が密接に関わっていることを学ぶことがこの時間の目標である。
4
指導と評価の計画(全7時間)
①
②
③
④
5
対数の性質
1時間
対数の計算
2時間
対数方程式・対数不等式
常用対数の利用
2時間
2時間
本 時 の 計 画 (7/7時 間 )
( 1 ) ねらい
人間の感覚が対数的な判断によるものであることを体験し、感覚を値
で表現する方法を考え、計算する。
(2)本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想
高校の授業は主に知識の教授に終わってしまうが、これでは体験的な活動ができ
ないので、実験を中心に授業を進めていく。
(3)展開
評価の観点:◎関心・意欲・態度, ○数学的な見方や考え方, □表現・処理, △知識・理解
ねらい
指導内容・学習活動
留意点及び評価
導入(5分)
対数と人間の感覚とは密接な関係があるので、本時
はそれを調べてみることを告げる。
人間の感覚というも
の が 、実 は 対 数 で 表 せ
ることを実験を通じ
て発見させる。
(◎□)
○
展開(45分)
人間の感覚を数値化してみよう。
班ごとに次のような実験をする。
(今回の実際の授業では、代表生徒一人に前に出て
きてもらって実験した。)
≪実験≫
手にひらに100gのおもりをのせ(これを刺激値
とする)、そこに少しずつおもりを載せていき、変
化を感じたら合図をしてもらう。この変化を感じた
おもさを次の感覚段階への「しきい値」ということ
にする。
その後、手のひらに200gのおもりを載せたら、
このしきい値はどうなるか?
例えば、刺激値が
1 0 0 g の と き 、し き
い値が10gになっ
た場合、刺激値を
2 0 0 g に し て も 、し
きい値は10gなの
か 、そ れ と も 変 わ る の
か。
(◎)
ここで、「例えば、100gのときのしきい値が
10gであるとき(ここは実際の値で説明する)、
人間の感覚が常に一定のものであれば(絶対的なも
のであれば)、200gの刺激値に対しても、10
gで変化を感じるはずである。」と説明を加える。
300gにしたら、どうなるか。
結果をもとに表を作る。
(例)
刺激(g) 100 200
しきい値
10
20
(実際の授業での実験値)
刺激
100 200 300
しきい値
7
14
20
次の重さへの変化を
感 じ 取 る 感 覚 は 、何 g
増 え た か で は な く 、比
に依存しているのか
と考えられる。
(◎○△)
300
30
…
500
50
…1000
100
本当はもっと多くの
結果から実証する。
(◎)
1000
75
ここから「感覚」を数式化することを考えてみる。
い き な り 、連 続 的 な 感 覚 量 を 求 め る の は 難 し い の で 、
感覚量を離散的な値として考え、感覚段階の変わり
目を考える。
上の例では、しきい値(次の段階として認められる
重さとの差)は刺激の10%(実験値では7%)で
あることが想像できる。仮にこれが正しいとして、
考える。100gの刺激を感覚段階1としてスター
トする。しきい値は「次の段階として認められる重
さとの差」だったので、次の感覚(感覚段階2)と
してとらえられるのはそのときのしきい値を加えた
110gである。
刺 激 を I 、感 覚 量 を S
と す る と 、I と S に は
どんな関係があるの
かを考える。
(□△)
その値に対して、しきい値が相対的に計算される
ので、現在の刺激値に対して、計算されたしきい値
を足すと、次の段階が導き出される。そのように考
えると、次の対応が得られる。
刺 激( g ) 1 0 0 1 1 0 1 2 1
133 …
しきい値
+10 +11 +12.1 …
感覚量
1
2
3
4
こ こ か ら 、感 覚 量 S を
求めるにはどうする
か考える。
(□△)
感覚というものは、本来連続的なものであるから、
上の表から連続的にとらえられるように数式化をす
ることを考える。
刺激をI、感覚量をSとすると、
I  100  1.1S 1
→
I
 1.1S 1
100
ここからSを求めるには、対数を使えばよい。
I
S  log1.1 (
) 1
100
人間の感覚は対数に
変換されていること
を知る。
(◎△)
これは、現在「ウェーバーフェヒナーの法則」とし
て、知られる関係式であることを告げる。
他 に も 身 近 な 例 で 、計
算をしてみる。
(○□△)
まとめ(5分)
2時間目
ねらい
他 に も 、音 の 単 位 で あ る dB( デ シ ベ ル )や マ グ ニ チ
ュ ー ド や 、 1 年 の と き に 習 っ た pH も 対 数 で あ る こ
とを説明する。次の時間の最初に、対数を使って、
それらの計算をすることを連絡して終了。
身の回りには対数で
表されるものが多い
ことに気付く。
(◎△)
◎関心・意欲・態度, ○数学的な見方や考え方, □表現・処理, △知識・理解
指導内容・学習活動
留意点及び評価
導入(5分)
前
が
で
算
回
、
計
練
、
実
算
習
感覚量というものを対数で表してみた
際に生活に関わっているもので、対数
されている例を見てみる。そして、計
をしてみることを告げる。
よ く 音 の 大 き さ の 単 位 と し て dB( デ シ ベ ル )と い う
単位を聞くが、これも対数で計算される。
どういうものがある
か知る。(◎△)
音の大き さが対数
で計算さ れている
2
I 0 ( W / m ) と い う 音 の エ ネ ル ギ ー を 基 準 に し て , こ と を 知 る 。( △ )
I
( W / m 2 ) と い う 音 の エ ネ ル ギ ー の 相 対 的 な dB
は次のように計算される。
通 常 の dB を 計 算 し た い 場 合 は 、人 間 が 聞 く こ と の で
き る 最 小 可 聴 値 を 0dB と し 、 こ の 音 の エ ネ ル ギ ー を
I0 と お く 。
音 の 大 き さ P (dB)は
P  10 log10
I
I0
ここで問を出す。
(問1)
式が作れ るかどう
3dB あ が る と 音 の エ ネ ル ギ ー は も と の 何 倍 に な る か 。 か を 見 る 。( ○ □ )
ただし、
log10 2  0.3 と す る 。
( ヒ ン ト ) 0dB の 音 の エ ネ ル ギ ー を
エネルギーを
I
I0
3  10 log10
log10
I
I 0 、 3dB
の音の
とすると、どうなるか。
も
れ
て
(
し、わ からなけ
ばヒン トを出し
様子を見る。
△□)
数
印
ル
解
(
値から 得られる
象と実 際のエネ
ギーの 違いを理
する。
◎△)
から
I
 0.3  log10 2
I0
よって
I
 2 か ら I  2I 0
I0
と な り 、 よ く 掃 除 機 の 宣 伝 で 3dB 違 う よ う な 宣 伝 文
句があるが、その違いは音のエネルギーは 2 倍変わ
ることがわかる。
(問2)
57dB の 音 を 出 す 機 械 が あ る 。
① 0 d B の と き の 音 の エ ネ ル ギ ー を I 0 、 57dB の
と き の 音 の エ ネ ル ギ ー を I と す る と き 、 I は I0 の 何
倍 か 。 た だ し 、 log 10 2  0.3 と す る 。
② こ の 機 械 を 2 台 使 っ た と き の 音 は 何 dB に な る か 。
(解答)
①
57  10 log10
I
I0
から
log10
I
 5.7
I0
I
 10 5.7
I0
I  10 5.7 I 0
I  10 5.7 I 0 で 止 め ず
ここで、
log10 5  log10
よ り 、 10
0.7
計算の処 理の仕方
を考える。
(◎△□)
10
 1  log10 2  0.7
2
 5とわかるから、
10 5.7  10 5  10 0.7  10 5  5  500000
よ っ て 約 50 万 倍 。
に、対数を使うと、
10 0.7  5 く ら い で あ
ることも計算で出せ
ることを教える。
(○△)
P  10 log 10 (
②
500000 I 0 500000 I 0

)
I0
I0
P  10 log10 10 6  60
よ っ て 60dB
57dB の 音 源 が 2 つ に な っ て も 、 音 の
大きさは単純に 2 倍にはならないこ
とがわかる。
(問
ー
位
ド
3
ド
は
を
)
も
J
M
他
、
(
と
に
地
ジ
す
も
震
ュ
る
地
を
ー
と
対
す
的
る
に
れ
(
数によ って計算
ること で、感覚
にはわ かってい
ことで も、数値
よって 確かめら
ることを知る。
○△)
震の規模を表すマグニチュ
起こすエネルギーをE(単
ル))とし、マグニチュー
、
log10 E  4.8  1.5M
と表される。この式によると、マグニチュードが
1あがると、そのエネルギーは何倍になる
だろうか。
た だ し 、 log10 3.2  0.5 と す る 。
(ヒント)マグニチュードが1あがると、
log10 E は 1.5 あ が る 。
( 解 答 )も と の エ ネ ル ギ ー を
エネルギーを E とすると、
log10
E 0 、あ が っ た あ と の
E
E
 1.5 だ か ら
 101.5  10  10 0.5
E0
E0
計算の仕方。
(○□)
ここで
log10 3.2  0.5 よ り 10 0.5  3.2 だ か ら
E
 32
E0
つまり
E  32 E 0 と な る 。
マグニチュードが1しかあがらなくても、
地震のエネルギーは32倍になっている。
まとめ
対数は大きな値を小さく表現できるので、
いいところもあるが、勘違いする場面も
あるということを伝える。
対
ト
て
解
(
数を使 うメリッ
と、そ れによっ
生まれ やすい誤
を理解したか。
◎△)
Ⅲ
授業の実際
実験から理論式を出すということで、普
段の知識の教授のような授業とは違った授
業 だ っ た 。し か し 、生 徒 は 飽 き る こ と な く 、
最後まで集中を切らさずに取り組んでい
た。
理論を導き出すところでは、教員側が一
方的に進める場面が多く、生徒の参加する
部分がなかったので、実験だけはグループ
学習にして、多くの生徒が体験できるよう
にす る べ き で あ っ た 。
実 際 の 授 業 で は 、代 表 者 を 一 人 選 ん
で 実 験 を し た が 、実 験 デ ー タ は ほ ぼ こ
ち ら の 意 図 し た も の に な り 、計 画 通 り
に 授 業 を 進 め る こ と が で き た 。こ の 授
業 内 容 は 、こ の 実 験 デ ー タ が す べ て で
あるので、こちらの意図に合わない結
果になったときの進め方も考える必要
もある。
Ⅳ
実際の授業風景
実践の考察とまとめ
この授業は実験のデータによるところが大きいのだが、研究授業での実験で
は、理想通りの流れになった。研究授業では、1人だけ前に出して実験を行っ
たが、体験してもらうことで、「対数的な判断」を実感できるので、班を作っ
て、何人かでデータを作ってみることもできたのではないかと思う。
この実験では、おもりとして、上皿天秤で使う分銅を利用したが、ひとつ
とつが小さく、目をつぶって手のひらに載せても、載せた感覚がわかってし
う恐れもあった。そこで、分銅ではなくて、封筒など平らなものに砂などを
めて基準となるおもりを作り、重ねて載せていけるようなものを用意してお
といいと思う。
実験の際、注意する点としては、載せるときは少しずつ載せていくのでは
くて、加算したおもりは載せるたびごとにすべて取り除き、一度に加えてい
ないといけない。例えば、100gの刺激値に対して、1g載せたあと、2
にしたければ、1gのおもりを取り除き、2gとして改めて載せないと、刺
値101gに対して、1gを載せたことになってしまい、意図した結果とは
うものを調べることになってしまう。
ひ
ま
つ
く
な
か
g
激
違
作業の方は、黒板をノートにうつすことが主な活動になってしまったので、
ワークシート(※)を用意しておく方が時間を有効に使える。
教科書にはない対数の使い方が体験できたので、生徒にはいい刺激になった
ようである。
V
参考文献
人間の五感は対数に変換されている。
( http://www.rd.mmtr.or.jp/~bunryu/5kanlog.shtml)
※ ワークシートは最後に参考として載せておくが、下線部は授業の中で生徒に
書いてもらう部分である。
【考えてみよう】
人間の感覚量を式で表してみよう!
~対数と人の感覚の関係~
○
刺激値としきい値の関係はどうなっただろうか。
【本日の目的】
もとからあった刺激値に対して、相対的にしきい値が決まってくる
など
今日は次のような実験をして、人間の感覚を式で表す方法を考える。
○ 重さを感じた感覚に段階をつけるとする。「しきい値」は次の重さを感じる境目だったので、
次の段階の重さとして認識されるのは、
【実験】
目隠しをして、手のひらにある重さのおもりを載せる。そこに少しずつおもりを載せ、重さを増
やしていく。目隠しをしている人は「最初から載っているおもりより重くなった」と感じたら、
「は
「今の刺激値」+「しきい値(刺激値より相対的に計算)」
い」と言う。
(注)おもりを増やすときは、前に加えたおもりをすべて取り除き、新しく加えるおもりは一緒に
で計算されると考える。
載せるようにすること。
例えば、1g載せて反応がなくて、次にもう1g加えて2gにして載せたい場合は、先に載せ
た1gを取り除き、1g加えて、2g一緒に載せる。つまり、常に「基準の重さ」に対して、
最初の刺激を 100gとして、表を埋めてみよう。
感覚段階
1
刺激値(g)
100
2
3
4
5
6
+αとなる形でおもりを増やすようにする。
○
このとき、刺激値としきい値を次のように定義する。
しきい値
刺激値……
最初に載せるおもりの重さ
しきい値…
「重くなった」と感じたときに加えたおもりの重さ
+(
)
+(
)
+(
)
+(
)
+(
)
○ 上の表をもとに式を作ってみる。
(1) 刺激値を I、感覚段階を S とすると、I と S にはどのような関係が成り立つだろうか。
【実験をしてみよう】
実験をした結果を下の表にまとめてみよう。単位(g)
刺激値
しきい値
100
200
300
(2) (1)の関係式から感覚段階 S を I で表してみよう。
400
500
1000