n - 静岡大学

電磁界解析における時間領域有限要素法の陽解法・陰解法に関する考察
静岡大学工学部システム工学科
浅井研究室 5011-3013 及川 陽平
近年,自動車の電子化が急速に進み,車載電子機器から発生する不要
ダイポール
アンテナ
(0.5λ m)
1. 背景
10 m
2.5 m
電磁放射や機器自身の電磁耐性が問題となっている.よって,自動車の
設計において,それらを考慮した電磁環境両立性(EMC : Electromagnetic
反射器
(0.52λ m)
は開発コストの増加や開発期間の長期化につながるため,数値計算を用
観測点
完全導体
5m
Compatibility)の検証が注目されている.しかし,実測による EMC 検証
4.48 m
いた電磁界解析による効率的な検証方法が強く求められている.
2.5
m
1.754
m
完全
導体
図 1.解析対象(λ=c0 / f, c0:光速).
EMC 測定環境は,寸法や形状が大きく異なるマルチスケールかつ複雑
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
な構造物を含む.したがって,非構造メッシュを用いることができる時
間領域有限要素(FETD : Finite-Element Time-Domain)法が有効である.
電磁界解析における FETD 法は,扱う方程式と時間に関する差分法の種
類によっていくつかの手法に分類することができる.本研究では,Ⅰ.
Maxwell の方程式に基づく陽解法,Ⅱ. 波動方程式に基づく陽解法,Ⅲ.
図 2.3 手法の電界強度.
波動方程式に基づく陰解法の 3 手法について,2 次元マルチスケール問
題における有効性の検証を行う.
2. 時間領域有限要素法(FETD 法)
FETD 法は,偏微分方程式の近似解を得る手法の 1 つであり,空間に
関する離散化に重み付き残差法を用いることにより,偏微分方程式から
時間に関する連立常微分方程式を導く.さらに,時間に関しての差分法
図 3.時間刻み幅を変化させた場合のⅢの電界強度.
を適用することで,線形連立方程式形式で解の更新式を得る.得られた
表 1.3 手法の解析時間とメモリ使用量.
更新式を繰り返し解くことで過渡解析を行う.
Ⅰ. Maxwell の方程式に基づく陽解法
Ampère-Maxwell の法則と Faraday の法則に重み付き残差法を適用する
と,電界の時間微分を含む連立常微分方程式と,磁束密度の時間微分を
含む連立常微分方程式が得られる.時間微分の離散化には,leapfrog 法を
が得られる.Newmark-  法は無条件安定な陰解法であるため, t の大
用いる.leapfrog 法では,電界と磁束密度の計算点を半ステップずらして
きさに依らず,常に安定な数値解が得られる.
配置することで得られる更新式
3. 数値結果
M e en 1  t S bn 1 / 2  M e en 1
(1)
Mb bn1 / 2  tS T en  Mb bn1 / 2
(2)

を用いる.ここで,[-]は係数行列,eは電界ベクトル,b は磁束密
EMC 測定環境の 1 つである残響室を想定し,図 1 に示すような解析空
間を考える.ダイポールアンテナに周波数 f  300 MHz ,振幅 1 V の
正弦波を励振源として与え,観測点での電界を観測する.
ⅠとⅡが安定に解析できる場合の最大の t  2.5 1011 を用いたと
度ベクトル,t は時間刻み幅,n はタイムステップ, は誘電率, は
きの CPU 時間とメモリ使用量を表 1 に示す.表 1 より,Ⅱが最も高速で
り,小さなメッシュが含まれるほど t は小さくなるため計算効率は低下
時間とメモリ使用量がⅡとほぼ同じであるのは,磁束密度の更新式の係
する.
Ⅱ. 波動方程式に基づく陽解法
行列の非ゼロ要素がⅡより多くなるため,解析時間とメモリ使用量共に
n
透磁率,  t ntである.また,t は数値安定条件に制限されてお
電界に関する波動方程式に重み付き残差法を適用すると,時間に関す
る 2 階微分を含む連立常微分方程式が得られる.波動方程式に基づく陽
2
(3)

を得る.
また,t はⅠの手法と同様に数値安定条件によって制限される.
Ⅲ. 波動方程式に基づく陰解法
Ⅱの手法と同様の重み付き残差法により得られる連立常微分方程式を
考える.時間の差分化には,Newmark-  法を用いることで,更新式
M   t   S e  2M   t  1  2 S e
 M   t   S e
n 1
2
2
n 1n
2
数行列が対角行列のためであると考えられる.また,Ⅲは更新式の係数
大きいと考えられる.図 2 に示す電界の波形から,3 手法の精度は同程
度であることが分かる.
図 3 は,Ⅲを用いた解析において t を変化させた場合の電界強度を示
解法では,時間に関して中心差分法を用いることで,更新式
M en 1  2M en  M en 1  t  M en
メモリ使用量も少ないことが分かる.変数の数がⅡよりも多いⅠの CPU
n
(4)
している. t を大きく取ると誤差が増加する一方,6t 程度であれば
精度を保った解析が可能であるといえる.このときの解析時間は 2.817
秒であり,Ⅱと比べて 5.4 倍高速な解析が可能となった.
4. 結論
本研究では,EMC 測定環境を想定した 2 次元マルチスケール問題に対
して,3 つの FETD 法の有効性を検証した.数値検証により,波動方程
式に基づく陰解法が最も有効であり,時間刻み幅を 6t とすることで,
精度をそれほど劣化させることなく高速な解析が可能であることを示し
た.