TKA患者へのOT介入の効果

はじめに
当院施行の人工膝関節形成術(TKA)患者に対し、在宅生活を見据えた
ADL指導を主目的に作業療法(OT)介入を試みた。その効果について、FIM
を中心に前年同時期と比較した。また、これに関するPT、OTの意見をアン
ケート形式で聴取できたので合わせて報告する。
対象・方法1
1)当院TKA施行後の退院患者(救急搬送・治療目的転院患者は除く)。OT
介入期間の平成26年6~12月の21名と前年同時期の平成25年の16名を比較。
H25年6~12月
TKA患者16名
VS
H26年6~12月
TKA患者21名
年齢、入院期間、FIM利得、FIM効率など
OT
あり
対象・方法2
2)患者1の中から術直後と術後1ヶ月のFIMを計測できた患者を抽出し、そ
の回復度を比較。
H25
術後
1M H25⊿
H25
術後
1M H25⊿
H25
術後
1M H25⊿
1食事
1食事
1食事
2整容
2整容
… 2整容
…
…
18記憶
18記憶
18記憶
FIM運動
運動FIM
運動FIM
FIM認知
精神FIM
精神FIM
FIM総合
総合FIM
総合FIM
H25年9名
H26
術後
1M H26⊿
H26
術後
1M H26⊿
H26
術後
1M H26⊿
1食事
1食事
1食事
2整容
2整容
… 2整容
…
…
18記憶
18記憶
18記憶
FIM運動
運動FIM
運動FIM
FIM認知
精神FIM
精神FIM
FIM総合
総合FIM
総合FIM
VS
H26年11名
OT
あり
PT・OTへの説明資料(OT介入前)
平成26年5月現在
TKA・THA患者へのOT介入
OT介入の目的
機能面を考慮して、ADL、IADL、認知面を中心に目的的に介入する。
具体的には…
経過・リスク
PTから機能面伝達
(ROM、リスク等)
OTは可及的理解
(目的に応じて)
起居動作 ベッドまわり動作 トイレ動作
着替え 入浴 IADL 余暇活動 など
※付随する上肢・体幹の治療・マッサージ含む
ルール
・抜釘後(術後14日程)以降のOT介入とする。
・基本的にROM拡大はPTが行う。
・基本的にPT6単位、OT3単位の介入とする。
PTにお願い!事前にOT介入の説明をお願いします。患者さんの心の準備手助けしましょう!
□2週以後(抜鉤後)リハビリ1日2回が1日3回になります。
□術直後は手術したところ中心のリハビリでしたが、2週以後(抜釘後)は生活に即したリハビ
リも必要になります。それにはOTという専門職種が対応します。
□着替え、お風呂、料理、洗濯など生活に即したものや、それに必要な身体・肩・手の治療・
マッサージも可能です。
結果1
年齢
入院日数
FIM利得
FIM効率
1患者平均単位
(1日あたり)
H25
H26
差
有意差
78.57
74.56
5.14
0.505
6.27
75.60
65.95
5.30
0.680
6.94
-2.97
-8.61
0.16
0.175
0.67
ns
ns
ns
ns
0.05>
●入院日数は平均で8.61日短縮したが、有意差はみられなかった。
●TKA患者は入院時歩行可能、ADL自立している方が多く、術後一時的に
ADL低下するものの、2か月以後退院するときには入院時の状況にほぼ回復し
ていることが多い(もしくは痛み軽減により若干ADL向上している)。
FIM合計(平均)の変位
125.0
H26
H25
120.0
115.0
110.0
105.0
100.0
95.0
術前
術直後
1ヶ月目
2ヶ月目
結果2
H25
FIM項目
術直後
1M
H26
回復度
術直後
1M
回復度
H26-H25 有意
回復度
差
3入浴
5.40
6.10
+0.70
4.73
6.09
+1.36
+0.66
ns
4更衣上半身
6.10
6.50
+0.40
6.09
6.73
+0.64
+0.24
ns
5更衣下半身
5.20
6.00
+0.80
5.55
6.09
+0.55
-0.25
ns
6トイレ動作
5.80
6.70
+0.90
6.09
6.82
+0.73
-0.17
ns
10移乗 トイレ
5.80
6.30
+0.50
5.91
6.82
+0.91
+0.41
ns
11移乗 シャワー
5.40
5.80
+0.40
5.45
6.27
+0.82
+0.42
ns
13階段
2.70
5.30
+2.60
2.00
5.09
+3.09
+0.49
ns
FIM運動
73.80
82.30
+8.50
73.91
84.36
+10.45
+1.95
ns
FIM認知
33.60
33.70
+0.10
34.73
34.91
+0.18
+0.08
ns
FIM総合
107.40
116.00
+8.60
108.64
119.27
+10.64
+2.04
ns
●どのFIM項目も回復度に有意差はみられなかったものの、平成25年度と比
して平成26年度の回復度は高い(FIM総合で約2点回復度が高い)。
●項目別では入浴・移乗動作での回復度が高い。
FIM運動項目における回復度の差
1.60
1.40
H25
H26
1.20
1.00
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
食事
食事
整容
整容
入浴
更衣上
更衣下
トイレ動作
入浴
更衣上
更衣下
トイレ
動作
排尿
排尿
排便
排便
移乗
移乗
移乗トイレ
移乗シャワー
移乗
移乗
トイレ
シャワー
アンケート1
実際どのようなOT介入をしたか?(OTから)
●着替え
●調理訓練
●床上訓練
●自助具含む環境調整 ●ADLやIADL(立位・余暇活動含む)
●認知機能面
●PTと同じようにROM訓練・リラクゼーション
困ったこと(OT・PT両方から)
●患者自身OT介入を望まないことがある。
●抜鉤後(術後2週)の介入のため、信頼関係が構築しづらい。
●軽度認知機能低下や超高齢者に動作指導などOT介入の意義を感じるが、元
気なTKA患者の場合OT介入が難しいと感じる。
●OT訓練の意図・目的がわからないことがある(OTの歩行訓練等)
●OTの痛みの評価が大まかに感じる。
●患者への説明不足により、リハ時間増への不満訴えあり。
●リハ時間の調整が難しい。
アンケート2
OT介入してよかった点(OTから)
●IADLに介入できる人はいろいろな作業を提供できる。
●身体面だけでなく、環境や認知面に着目して退院後を想定してアプローチで
きる点。
●患者とADL・IADL面での目標を共有でき成果が出たとき。
OT介入してよかった点(PTから)
● ADL能力低下がある患者に重点的にアプローチできる。
●自助具提案。
●活動量があがり、耐久性が向上。
●患者対応に相談できる。
●PT自身が生活に着目するようになった。
●女性患者に対し、調理訓練などを実施・評価してもらえる。
●家事動作、農作業の相談、入浴動作の確認が行いやすい。
●家屋調査の相談ができる。
考察
■結果的に入院日数を平均で8.6日ほど短縮できたが、OT介入の効果であるか
は不明である。FIM認知項目ではほとんど差がなく、FIM運動項目で回復度が
高かったことから単位数増加、活動量増加による身体能力向上が入院日数短縮
につながった可能性がある。
■FIM項目の中の入浴、移乗動作で回復度が高くOT介入の効果が示唆され
た。OT介入において更衣動作の回復度が期待されたが、その効果は明確では
なかった。
■すべてのTKA患者にOTが必要かは疑問。身体認知が高く、元気なTKA患者
の場合、OT介入自体が不必要な場合があると考えられる。
■FIM自体でIADLを評価することが難しい。OTの良い点を拾い上げることが
できなかった可能性がある。IADLの評価表(Lawton&Brody等)も検討が必
要であった。
■調理訓練、環境調整、自助具提案、余暇活動提案など、今回のOT介入によ
り、TKA患者におけるPTの“生活をみる視点”が拡がったように感じる。
■治療としてのOT介入だけでなく、評価としてOT介入する方法も検討したい
(評価および提案)。