外来化学療法に対する薬剤師の介入 -「がん患者指導管理料3」の 算定

外来化学療法に対する薬剤師の介入
-「がん患者指導管理料3」の
算定に向けた取り組み-
荏 原
病 院
荏原病院
テーマ名
外来化学療法に対する薬剤師の介入
―「がん患者指導管理料 3」の算定に向けた取り組み―
サークル名 外(来)指(導)獲得
メンバー名 薬剤科 ◎○金井亮太 真柴友紀 剣持幸代
吉岡由理 加藤法子 石井瑞
乳腺外科 日野眞人
内科 中嶌賢尚
外科 吉利賢治 医事課 高橋範行
1 テーマ選定理由
平成 26 年度診療報酬改定において、
「がん患者指導管理料 3」が新設された。これは、患者の同意を得て、
要件を満たした薬剤師または医師が抗悪性腫瘍剤について文書による説明を行った場合、200 点の算定ができ
るものである。
従来、薬剤師による外来化学療法室での抗悪性腫瘍剤の説明は行われていたが、十分とは言えなかった。こ
の算定を開始するにあたり、外来化学療法に関わる薬剤師の業務を見直し、患者が今まで以上に安心して治療
を受けられる環境を実現することを目指し、このテーマを選定した。
2 現状と問題点
(1) 荏原病院で使用している化学療法の同意書には「薬剤師による説明を行う」という旨の記載はなく、診療
報酬は改定されたが、「がん患者指導管理料 3」の算定はできない状態であった。
(2) 従来、外来化学療法室での薬剤師による説明は、薬剤科作成の説明書やメーカー作成のパンフレット等を
利用して行っていたが、レジメン及び抗がん剤の特性に応じた副作用やその発現時期などについて的確に
説明できるものではなかった。
(3) 外来での薬剤師の説明は、調剤や病棟業務の合間に行うことが多く、十分な時間の確保ができずに指導漏
れしてしまうケースが散見された。
(4) 算定を行うための医事課との確実な連絡手順を確立する必要があった。
3 改善策
平成 26 年 5 月のがん化学療法委員会で同意書の見直しを行い、修正を行った。
薬剤師が使用する説明書はレジメン毎に「スケジュール説明書」
、
「副作用説明書」を作成した。また、共通
の「骨髄抑制について」という説明書も作成した。これらの説明書はがん化学療法委員会で了承された。
外来指導の体制は、外来化学療法担当薬剤師を配置することで十分な指導時間の確保を行った。
管理料の算定は、①電子カルテのツール(医学管理料なび)を用いつつ、算定防止のため②薬剤科で作成し
た手書きの連絡票の 2 種類をしばらく併用とした。
4 今後の取り組み(結果)
今回の取り組みで「がん患者指導管理料 3」の算定を平成 26 年 6 月より開始することができた。また、業
務の見直しや説明書の改訂を行ったことにより、指導患者人数は増加し、継続的に介入することも可能となっ
た。
今後は現在使用している説明書や治療日誌の評価・修正、外来で支持療法など処方提案する体制の構築、リ
ュープロレリンやゴセレリンなどのホルモン剤や経口抗がん剤のみの使用患者への算定開始、がん化学療法の
認定薬剤師の育成を行っていく。
荏原病院
テーマ名
外来化学療法に対する薬剤師の介入
―「がん患者指導管理料 3」の算定に向けた取り組み―
サークル名 外(来)指(導)獲得
メンバー名 薬剤科 ◎○金井亮太 真柴友紀 剣持幸代
吉岡由理 加藤法子 石井瑞
乳腺外科 日野眞人
内科 中嶌賢尚
外科 吉利賢治 医事課 高橋範行
1 テーマ選定理由
近年、がん罹患患者の増加、入院診療報酬の包括化及び外来化学療法加算制度の導入等により、がん化学療
法は入院治療から外来治療へシフトしている。そのため、薬剤師が外来において治療スケジュールや副作用の
説明、副作用マネジメントなどへの参画が求められている。特に、副作用は居宅時に経験されることが多いた
め、発現時期や対策について的確に説明することが重要であり、治療成功の鍵となる。
このような状況の中で、平成 26 年度診療報酬改定において、
「がん患者指導管理料 3」が新設された。これ
により、患者の同意を得て、要件を満たした薬剤師または医師が抗悪性腫瘍剤について文書による説明を行っ
た場合、200 点の算定ができるようになった。
今回この算定の開始にあたり、従来より実施している外来化学療法室での薬剤師業務を見直し、服薬指導を
充実させることで、患者が今まで以上に安心してがん化学療法を受けられる環境を整備することとした。
2 現状と問題点
(1) 「がん患者指導管理料 3」を算定するためには患者の同意を得て、文書による説明を行う必要がある(表
1)。しかし、荏原病院(以下、当院)で使用している化学療法の同意書には「薬剤師による説明を行う」
という旨の記載がなかった。
(2) 文書による説明は薬剤科作成の説明書やメーカー作成のパンフレット等を利用して行っていたが、レジメ
ン及び抗がん剤の特性に応じた副作用やその発現時期、予防・対策などについて、的確に説明できるもの
ではなかった。さらに、当院でがん化学療法を受けている患者は高齢化が進んでおり、文書の長い説明書
では適切な説明ができず、視覚的に分かりやすい説明書を作成する必要があった。
(3) 外来化学療法室での薬剤師の説明は、調剤や病棟業務など業務の合間に行うことが多く、十分な時間の確
保ができていなかった。そのため、初回患者やレジメン変更患者への説明に行けないことが多々見られ、
また、2 回目・3 回目と継続した患者への関わりも不十分であった。
(4) 算定を行うための医事課との確実な連絡手順を確立する必要があった。
表 1 がん患者指導管理料 3(抜粋)
医師又は薬剤師が抗悪性腫瘍剤の投薬又は注射の必要性等について文書により説明を行った場合 200 点
(ア) 薬剤の効能・効果、服用方法、投与計画、副作用の種類とその対策、日常生活の注意点、副作用に対応す
る薬剤や医療用麻薬等の使い方、薬物相互作用等について文書により説明。
(イ) 指導した薬剤師は副作用の評価を行い、必要に応じて副作用に対応する薬剤、医療用麻薬等又は抗悪性腫
瘍剤の処方に関する提案等を行う。
(ウ) 指導内容は診療録又は薬剤管理指導記録に記載。
(エ) 患者 1 人につき、6 回まで算定可能。
3 改善策
(1)化学療法説明・同意書の改訂
「がん患者指導管理料 3」の算定に向け、平成 26 年 5 月のがん化学療法委員会で同意書の見直しを行い、
改訂を行った(表 2)。
表 2 同意書の主な変更点
変更箇所
旧
同意書
5. その他
新
同意書
医師・看護師・薬剤師等により、治療・薬剤
に関する説明・療養指導を必要に応じて行い
ます。
同意内容欄
私は、化学療法の必要性とその内容、これに
私は、医師より化学療法の必要性・薬剤・投
伴う副作用について十分な説明を受け、理解
与方法・副作用等について十分な説明を受け
しましたのでその実施に同意します。なお、
理解しましたので、治療を受けることおよび
実施中に緊急の処置を行う必要が生じた場合
有害事象発生時に必要な処置を受けることに
には、適切な処置を受けることについても同
同意します。また、医師・看護師・薬剤師等
意します。
の説明と療養指導を受けることに同意します
(2)薬剤師が使用する説明書の改訂・充実、治療日誌の作成
薬剤師が使用する説明書は、レジメン毎に「スケジュール説明書」と「副作用説明書」とした(図 1、図 2、
表 3)。
「スケジュール説明書」には主に 1 クールの期間、投与日、休薬期間、点滴時間及び薬の名前・薬効を
記載した。
「副作用説明書」は副作用を「自分で分かる副作用」と「採血で分かる副作用」に分けて記載した。
また、カレンダー形式にし、副作用発現に注意が必要な時期を色づけして視覚で分かるようにした 1)。高齢患
者へ説明する場合は、説明書を拡大して配布できるように工夫した。
さらに、化学療法を行う上で注意が必要な骨髄抑制について共通の説明書(「骨髄抑制について」
)を作成し
た(図 3)。また、自宅での体調や副作用状況を把握するための「治療日誌」も作成し、患者に配布するよう
にした(図 4)
。
図 1 スケジュール説明書
図 2 副作用説明書
表 3 作成したレジメン毎の説明書数
癌腫
レジメン毎の説明書数
肺癌(非小細胞・小細胞)
33
乳癌
28
食道癌
3
胃癌
10
大腸癌
20
胆道癌
3
膵癌
4
泌尿器科癌
5
婦人科癌
11
合計
117
図 3 骨髄抑制について
図 4 治療日誌
(3)薬剤科業務体制の見直し
外来化学療法室での指導体制は、今年 6 月より外来化学療法担当薬剤師を午前中に配置することにした。こ
れにより、従来より長く指導時間を確保することができた(表 4)。
表 4 外来化学療法指導体制
旧 体制
新
体制
・調剤や病棟業務担当薬剤師
・外来化学療法担当薬剤師
・毎日ローテーション
(注射業務兼務であるが、外来優先)
・薬剤師は基本的に固定(がん薬物療法認定薬剤師)
(4)医事課との連絡体制の整備
「がん患者指導管理料 3」の算定は、①NEC 電子カルテシステムのツール(医学管理料なび)を用いつつ、
算定漏れ防止のため②薬剤科で作成した手書きの連絡票の 2 種類をしばらく併用とした(図 5)。
<NEC 電子カルテ>
医学管理料なび
<外来化学療法室>
<医事課>
文書による説明(薬剤師)
がん患者指導管理料 3 算定
<薬剤科作成>
算定連絡票
図 5 がん患者指導管理料 3 算定の運用方法
4 結果
(1)外来化学療法室での服薬指導の変化
平成 25 年度外来化学療法(ホルモン剤を除く)月平均件数は 64 件、薬剤師による服薬指導件数は月平均
17 件(指導実施割合 26.1%)であった。一方、平成 26 年度 10 月までの外来化学療法月平均件数は 81 件、
服薬指導件数は月平均 55 件(指導実施割合 67.3%)であり、薬剤師が外来化学療法患者へ介入する機会が増
加している(図 6)
。
120
100
件数
80
60
40
20
0
外来化学療法件数
服薬指導件数
割合%
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
※
指導実施割合(%)
図 6 外来化学療法件数と服薬指導件数の推移
(※指導実施割合(%)=服薬指導件数/外来化学療法件数×100)
また、外来化学療法初回患者及びレジメン変更患者へ指導後の継続的な介入(2 回目、3 回目)について調
べたところ、平成 25 年度(6 月~10 月)では初回(レジメン変更含む)15 件に対して、2 回目は 1 件(6.7%)、
3 回目は 6 件(40.0%)であった(図 7)
。一方、平成 26 年度(6 月~10 月)では初回 42 件に対して、2 回
目は 33 件(78.6%)、3 回目は 23 件(54.8%)であった(図 8)
。
16
14
12
10
8
6
4
2
0
40.0%
6.7%
2回目
外来初回
3回目
図 7 平成 25 年度(6 月~10 月)外来化学療法患者への継続介入件数
50
40
78.6%
30
54.8%
20
10
0
2回目
外来初回
3回目
図 8 平成 26 年度(6 月~9 月)外来化学療法患者への継続介入件数
(2)
「がん患者指導管理料 3」の算定件数
平成 26 年 6 月よりがん患者指導管理料 3 の算定を開始し、10 月までに患者 35 名(内科 19 名、外科 2 名、
乳腺外科 11 名、産婦人科 3 名)に実施した。算定件数は 93 件(6 月:1 件、7 月:11 件、8 月:14 件、9 月:
21 件、10 月 46 件)であった(図 9)。また、算定漏れは 1 件もなかった。
120
100
80
60
40
20
0
6月
服薬指導件数
7月
8月
9月
がん患者指導管理料3算定件数
10月
外来化学療法件数
図 9 服薬指導件数とがん患者指導管理料 3 算定件数
(3)治療日誌使用状況
がん患者指導管理料 3 算定患者に対して、治療日誌の配布を開始した。配布した患者は 21 名であり、その
うち日誌を記入した患者は 5 名であった。記入できなかった理由を口頭にて確認したところ、以下のような意
見が得られた(表 5)。
表 5 治療日誌を記入できなかった理由
・手がしびれて記入できない。
・毎日書くことが難しい。
・もともと自分で作った(買った)ノートを使用している。
(4)外来化学療法患者への薬学的介入
平成 26 年 4 月から 10 月までの薬学的介入の内訳は①抗がん剤(レジメン内容、用量、スケジュールなど)
:
13 件、②支持療法(悪心・嘔吐、末梢神経障害、皮膚障害、骨髄抑制など)
:12 件の計 25 件であった。
外来化学療法患者に対して薬学的に介入した 1 症例を提示する(表 6)。
表 6 介入症例
70 歳女性 肺腺癌再発(1st line CDDP/PEM⇒PEM 維持療法
2nd line DTX)
3rd line の化学療法として、外来でビノレルビン(以下、VNR)が導入となる。
VNR 1 日目、8 日目、15 日目に投与(28 日毎)
7/X
外来にて VNR 投与。
7/X+7
VNR 投与のため受診。点滴した左腕に静脈炎(発赤の拡大と疼痛)が出現していた。
VNR は壊死性薬剤のため、静脈炎には十分な注意が必要であった。投与方法は推奨されていた急
速投与を行っていた(生食 50mL に溶解し、全開投与)
。
そこで、VNR は冷却すると、静脈炎が増悪するとの報告があるため、投与部位を温めて投与する
ことを提案し、実践した。
7/X+14 VNR を投与した右腕には静脈炎の出現はなかった。
その後も VNR を投与し、3 コースまで終了したが、静脈炎の出現はなく経過している。
5 今後の取り組み
今回の取り組みで、当院では「がん患者指導管理料 3」の算定を開始することができた。また、外来化学療
法の指導体制の見直しや説明書の改訂を行ったことにより、指導患者人数が増加し、さらに継続的に介入する
ことが可能となった。以下に今後の取り組みについて挙げる。
(1) 外来化学療法の指導は現在、主治医診察後の化学療法施行中に行っている。そのため、副作用に関する支
持療法などの処方提案がタイムリーに反映できない現状がある。施設によっては、薬剤師による面談を医
師の診察前に行い(薬剤師外来)、コンプライアンスの確認、副作用アセスメントや支持療法の処方提案
等を行っている。当院においても、今後さらに業務の見直しが必要になると考えている。
(2) 指導で利用する説明書は、副作用発現時期を視覚的に分かるようにし、患者個々のスケジュールに対応す
ることができるようになった。治療日誌は配布した患者の 2 割のみの記載となり、十分に活用できていな
い印象がある。今後患者へアンケート調査等を行い、評価・修正を行っていく予定である。
(3) 「がん患者指導管理料 3」はリュープロレリンやゴセレリンなどのホルモン剤や経口抗がん剤のみに対し
ても算定可能であるが、現在は外来化学療法室を利用している化学療法施行患者に対して行っている。当
院では、算定資格のある薬剤師は現在 1 名のみであり、さらなる業務の効率化とともにがん化学療法の認
定薬剤師の育成に取り組んでいく。
これから外来化学療法患者数は増加していくものと推測される。薬剤師ができる質の高い・安全な化学療法
を実践し、
「がん患者指導管理料 3」の算定を確実に行うことで、サービス向上と経営改善に寄与していく。
1) 大石了三、池末裕明、伊藤善規:がん化学療法ワークシート第 4 版 じほう