第 11 回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表・対象者プロフィール「鈴木さん」 皆さんは、E 特別養護老人ホームに、1ヶ月前に入職したばかりです。 対象者の鈴木さんは、フロアを変わったばかりで、まだ皆さんに慣れておらず、 皆さんとは、まだあまり親密ではありません。鈴木さんは、以下のような方です。 基本情報 鈴木明子さん(80歳代・女性) 要介護4 認知症高齢者の生活自立度 Ⅱ 家族状況 夫と二人暮らしだったが、夫は10年前に死去 息子2人と娘1人 疾患名: 脳梗塞後遺症(左片麻痺) 老人性振戦 現病歴:H.16年○月、脳梗塞発症し、A病院に緊急入院。リハ目的で○月~○月B病院 に入院、以後 C 老健・D老健に入所。 (平成 20 年、現在の E 特別養護老人ホームに入居した。) 他職種からの情報 生活相談員:息子・娘とも、県内に在住している。キーパーソンは次男で、週に1回 は必ず面会に来ている。長女は夫の両親と同居しており、義母の介護と 子育てで多忙なため、面会の頻度は少ない。 入居まで老健を転々としており、そこで出来た友達に手紙を書くのが楽 しみの一つ。長女に、ここでの生活について、よく手紙を書いている。 フロアを変わったのは、希望していた窓際の部屋が空いたため。 看護師:血圧は 150~140/80 で安定している。 左上肢~手指にわたって痛みがあるが、これは麻痺による不動と感覚障害に よるもの。湿布等の対応で本人も落ち着いている。 右手に老人性振戦が見られ、少しずつ悪化している。 最近は食欲が低下しており、体重も減少傾向。徐々に体力が落ちてきており、 トイレで排泄時、姿勢を保てず横に倒れてしまっていたことが、最近2~3 回あった。 介護支援専門員:徐々にレベルダウンしてきている。本人は「手紙を書くことをずっ と続けていたい。友達とおしゃべり出来る毎日を過ごしたい」と希望されて おり、家族も「出来るだけ今の状態を維持したい」と考えている。 個人因子 ◆生活歴~現在まで: 東北地方 A 県の出身。7人兄弟の長女として生まれる。小さい頃は大人しかったが学校 の成績は良く、裕福だったこともあり、高校まで進学する。19歳で見合い結婚。夫の 仕事の都合で35才頃より東京に移り住む。 子育てが一段落してからは、地域の婦人会などの役員を長年担う。夫婦揃って非常に世 1 −220− 話好きで、仲人経験も多かった。人の役に立つことが、生きがいだった。 夫は 10 年前に亡くなり、 その後一人暮らしをしていたが、平成16年脳梗塞を発症し、 車椅子生活となる。本人は自宅へ帰りたい気持ちが強かったが、子世帯との同居は困難 であったため、平成20年 E 特別養護老人ホームに入居となった。 ◆ 趣味:手紙を書くこと・歌を歌うこと・聞くこと 昔は映画を見ることも好きだった。 スポーツをテレビで見るのも好き。今年のロンドンオリンピックは、興味があ る。 ◆ 性格:世話好き おしゃべりが好き 世話好きで、いつも人に囲まれて生活していた。仲人をした人たちとの交流も続い ており、またこれまで入居していた老健での同室者とも、今でも交流があり、その 人たちに手紙を書くのが楽しみだった。相手から手紙が来ると、とても嬉しそうで あり、職員に渡して読むよう勧めることもある。 同じ麻痺を持つ人には、 「こうやったら良いよ」と身体の使い方をアドバイスしてお り、世話を焼き、頼られていた。 最近、以前からあった右手の震え(老人性振戦)ひどくなり、小さい字が書けなく なり、それを歯がゆく思っている。また、同じ頃から食事量が減り、疲れやすく、 ベッドで横になっている時間が増えた。 環境因子 現在、E 特養に入所中。3階・4人部屋の窓側のベッドである。 ベッドには移動用バーがついている。 まだ、フロアを移動して間がないが、同室者の田中さんとは気が合うようで、居室 や食堂でおしゃべりをしている様子を見かけるようになった。 心身機能 ◆身体面: ・ 左片麻痺が重度残存していている。 ・ 左上肢は固まっており、座位では肘が屈曲し、胸に押し付けられている。 ・ 左上肢は、職員が胸より上に持ち上げると、 「痛い」と訴える。 ・ 左指も強く握りしめられている。 ・ 左下肢は股関節・膝関節は固く、膝関節は十分に曲げ・伸ばしが出来ない。そのため、 立ち上がる際、左下肢に十分に体重をかけることが出来ない。 ・ 左足関節は固まっており、十分に曲げることは出来ない。 ・ 座位では、円背で仙骨座りである。 ・ ベッド上で、右手で手すりを握っていれば、そのまま座位姿勢を 10 秒程度保つことが 出来る。 ・ 座位時、左下肢は動くが、 「足を後ろに引いてください」と言わない限り、左足はやや 2 −221− 前に投げ出したように位置している。 ・ 座位姿勢は右に傾いており、手すりを持っていても5分以上座っていると、「疲れた」 と右後方へ倒れてしまう。 ・ 舌・頬の動きが悪く、言葉はゆっくりで、やや不明瞭。 ・ 右手指には、安静時・動作時、ともに震えが見られる。 ・ やや耳が聞こえにくい ◆精神面: ・ 年相応の物忘れが見られるが、生活に支障は見られない。 ・ 不安や納得のいかないことが重なると、痛みや身体の不調の訴えが多くなる。よく話 を聞くことで解消することが多い。 活動 ◆コミュニケーション: ・ 職員や入居者に積極的に話しかける方である。自分のことを話すことが多いが、人の 話しを聞くことも好き。 ・ 口や舌・頬の動きが悪いため、ややゆっくりではあるが、職員・入居者には十分伝わる。 ・ 職員と話すことが好きで、話すと長くなるため、職員もじっくり時間をとるよう配慮し ている。 ◆基本動作: 通常姿勢:自操式の車椅子を使用。車椅子座位時、円背・仙骨座りが著明となる。左手は 身体の前面にあり、肘が曲がり体に押しつけられていることも多い。 寝返り:ベッド柵を右手で持って体を引き寄せ、体を側臥位にもってくることが出来る。 ベッド上起き上がり:声かけで頭部を右に向け、ベッド柵を右手で持ち側臥位になり、足 をベッドから下ろすことまで出来るが、動作がゆっくりであるので、起き上がりまでは 出来ず、上半身(~下半身)の起き上がりを介助している。 座位保持:きちんと座っていれば、ベッドの手すりを握らなくても 10 秒程度であれば、座 位保持可能。ただし、体力が低下しているので、長時間は難しい。また、感覚も悪く、 注意力が低下していることもあり、座位が傾いても自分で立て直そうとしない。安定し た座位姿勢の確認が必要。 靴は、右足は自分で履けるが、左足は支持なしの座位が安定しないため、介助が必要 車椅子への移乗:声かけでベッドの手すりを右手で持ち、体を前傾し、右足に体重を移す ことは出来る。右手で手すりをつかみ、右足に体重をかけて立ち上がろうとするが、左 膝・足関節の緊張が増して、身体を押してしまい、不安定になる。 そのため、左下肢を出来るだけ曲げる声かけ・介助。身体を支える介助が必要となる。 車椅子操作:右のブレーキ・フットレストの上げ下げは、自分で出来るが、左のブレーキ については声かけが必要。左膝が曲がりにくいため、左のフットレストは介助する。 円背・仙骨座りであることが多く、ひどい場合は調整する。 車椅子駆動:右手・右足を使って進もうとするが、うまく曲がることはできない。そのた 3 −222− め、手すりがある場所では、手すりを引っ張って移動している。 ◆食事:職員が食事をセッティングする。右手でスプーンを使って食べているが、震えが あるので、口元でこぼしてしまうことも多い。咀嚼・嚥下も悪いので、普通食は食べ られない。最近は食欲が無く、残すことが多くなってきている。 体力が落ちてきているので、右手の震えがひどい場合は、本人に聞いて介助を行うこ ともある。 なんとか好きなものをお出しし、 「食べたい」と思っていただきたい。彩りの良いもの、 季節のものなど、工夫のある食事は食べようと思うようだ。 ◆排泄:尿・便意ともにあり。 起立介助・ズボンの上げ下ろし等の介助を行う。 最近下剤が合わず、便の失敗が数回あり、本人も気にしている。 ◆更衣: 以前はスカートしか着たことが無かったが、車椅子生活になってズボンを履くように なった。 靴下は脱いで寝ている。 右手が震えるので、小さなボタンなどは苦手。 朝は身体がこわばっており、着替えると疲れてしまうので、朝食が終わって、日中に 着替えるのが習慣。 「出来る更衣は自分で行う」というのが職員と一緒に決めた課題。しかし、不安なこ とがあると身体の痛みや疲れ・震えになり、出来ることも出来なくなってしまう。 ◆入浴 座位で可能な浴槽を使用して入浴している。 座位が不安定なので、洗体・洗髪はほぼ全介助。 最近は体力が落ちているので、入浴後は居室ベッドで横になって休む。 参加 ・ 以前は、日中、入居者・職員とおしゃべりするか、手紙を書いて過ごしていたが、 最近はベッドで横になっていることが多くなってきている。 4 −223− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表プロフィール「田中さん」 基本情報 田中菜穂子さん(80歳代・女性) 要介護4 ◆ 家族状況 認知症高齢者の生活自立度 Ⅱ 夫と二人暮らしだったが、夫は 15 年前に死去。以降独居 県内に娘(長女・次女)夫婦が在住 ◆ 疾患名: 変形性膝関節症(両) 左大腿骨頚部骨折 ◆ 入居まで: K 県出身。高校卒業後、上京し会社員の夫と結婚、2人の娘をもうける。 夫婦仲が良く、夫の退職後は、日本中を夫婦で旅することが夢だったが、 平成4年夫は脳梗塞で倒れてしまう。その後、夫を自宅で介護するが、変 形性膝関節症が悪化。杖~押し車が無いと歩けなくなる。平成9年、夫の 状態が急変し亡くなり、以後独居となる。 平成18年、自宅のトイレで転倒、左大腿骨頚部骨折し、車椅子生活とな る。自宅で一人暮らすのは不安、という本人の希望もあり、平成 22 年 E 特別養護老人ホームへ入所となった。 ◆ 趣味:旅行・読書・歌を歌うこと。 新聞は毎日読むのが今でも習慣。 体を動かすことも好きだった ◆ 性格:穏やか・我慢強い・優しい 性格は穏やかで、入居者とトラブルを起こしたことはない。 やや耳が遠いけれど、人とおしゃべりするのは好き。 文句やグチを言わないので、職員も田中さんと話すことで救われることが多い。 ◆ 生活状況 車椅子を使用。駆動・操作は自立。 立位が出来ないので、車椅子移乗には、お尻を上げる・腰を支える介助が必要。 最近同室となった鈴木さんと、仲良くなりたいと思っている。 やや難聴であるため、職員はやや大きな声で…と心がけている。 1/1 −224− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表課題 会場:501(午前の部)20分 【移動介助】の課題 ○状況 ベッド横に標準型車椅子が置いてあり、鈴木さんは毛布を掛けて寝ている。 ベッドには、ベッド柵がついている。 職員は起床の準備のために訪室する。 ○課題 鈴木さんが、朝ベッドから起きて、車椅子に移り、 ご本人の望む簡単な更衣をするまでの介助をしてください。 (鈴木さんは、元々朝食を食べてから着替える人であるため、 日中の装いは、朝食後に手伝います。) ○配置図 テーブル ※ テーブル・ 鈴木さん ・ベッドの位置は変更が有り得ます −225− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表課題 会場:502(午前の部)20分 【ノロウィルス発生時の対応 食堂】の課題 ○状況 食堂には、職員1名と利用者2名がいる。 利用者の「鈴木さん」と「田中さん」は穏やかに話しをしている。 利用者同士の仲は良いのですが、同じ居室では無い。 職員は食堂で片付けをしている。 ○課題 夕方4時過ぎ、食堂で「鈴木さん」と「田中さん」が穏やかに過ごされていた時、 突然、鈴木さんが嘔吐されました。 事業所周辺ではノロウィルスが流行しているため、 ノロウィルスによる嘔吐症状と考えます。 鈴木さんと田中さんの気持ちに配慮しながら、 ノロウィルス感染拡大を防ぐ対応をしてください。 ○留意点 施設で実際に行っていることを発表してください。 (ただし、「居室に誘導して衣類を着替える」ことまでは不要です。) ○配置図 職員 鈴木 田中 ※ 利用者の位置は変更が有り得ます。 −226− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表課題 会場:501(午後の部)30分 【ノロウィルス発生時の対応 居室】の課題 ○状況 ナースコールが鳴ったので訪室してみると、 利用者の鈴木さんが、ベッドに横になっており、 口元~枕周囲には吐瀉物が飛び散っている。 田中さんの他に、居室には3人の方が就寝中だったが、 うち1人が起きており、鈴木さんの様子を心配そうに窺っている。 ナースコールは、起きている同室者の田中さんが押してくれたようだ。 ○課題 夜間帯(午後10時頃) ナースコールが鳴ったため訪室してみると、 利用者の鈴木さんの口元~枕元には吐瀉物が飛び散っていました。 事業所周辺ではノロウィルスが流行しているため、 ノロウィルスによる嘔吐症状と思われます。 鈴木さんや同室者の田中さんの気持ちに配慮しながら、 ノロウィルス感染拡大を防ぐ対応をしてください。 ○配置図 鈴木さん 職員 田中 −227− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表課題 会場:502(午後の部)30分 【レクリエーション】の課題 ○状況 食堂と機能訓練室を兼ねたスペースに 利用者8名(独歩2名・杖歩行3名・車椅子3名)が集まっている。 利用者の多くは認知症があるが、ゆっくり説明すると理解出来る。 車椅子利用者2名と杖歩行者1名は片麻痺の障害があり、片手しか使えない。 利用者はレクリエーションを楽しみにしており、非常に協力的である。 自己紹介・ウォーミングアップの体操・手遊びなどは終わっている。 難聴のある方も数名います。( 大きな声であれば聞こえます) ○課題 利用者の方、全員が一緒に楽しめるようなレクリエーションを行ってください。 レクリエーションには、鈴木さん・田中さんが参加します。 施設から道具を持参することは構いませんが、 あまり高価な道具は汎用性に欠けます。 どの施設でも使えそうなレクリエーションを行ってください。 ○配置図 サブ リー ダー ※ 配置図は、皆さんで決めていただいて結構です −228− 第11回かながわ高齢者福祉研究大会 介護技術発表課題 会場:502(午後の部)20分 【介護食の展示と食事介助】の課題 ○状況 スタート地点は食堂入り口の設定。 テーブル・椅子が置いてある鈴木さんの席まで誘導をするところから始める。 食事は別のテーブルに準備してある。 鈴木さんは、朝食はしっかり食べている。 ○課題 朝食後居室で過ごした鈴木さんを、食事の席まで誘導し、 昼食を美味しく食べていただけるよう、介助をしてください。 また、鈴木さんの食事(献立・器・食形態等)に関する工夫点も説明してください。 ○配置図 鈴木さんの食事が準備してある テーブル 食堂 入り口 鈴木さんの 食事用の席 ※ 配置図は、あくまでイメージです −229−
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