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これからの
ビジネスリーダーに
必要な
「聴き方」
講座
第 1 章 「聴き方」の重要性
1-1 「聴く力」は個人も企業も成長させる
1 「聞く」と「聴く」の違いについて
2 仕事の問題解決と聴く力
1-2 聴き上手となるために
1 聴き取りによって、磨かれる集中力、理解力、忍耐力とは
2 権限によらない問いかけのリーダーシップ
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第 2 章 信頼関係の構築を基本とした「聴き方」
2-1 ありのままを受け止める
1 自分の置かれた情況を受容する
2 ありのままを受け止める責任意識を持つ
3 共感とは心のスキルではない
2-2 相手の前で偽りのない心でいること
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第 3 章 「聴き方」基本編
3-1 自らの態度で信頼関係を構築しよう
傾聴の方法
1 視線から目線へ
2 身体言語(ボディーランゲージ)
3 声
4 言語的追跡(相づち等)
3-2 相手とのやりとりで信頼関係を構築しよう
観察の方法
1 相手についての非言語的・言語的観察
2 建設的・肯定的フィードバックを心がける
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CO N T EN TS
第 4 章 「聴き方」応用編
4-1 質問はリーダーシップの技術です
質問のねらいは何か
1 質問のマナーとルール
2 質問の種類・方法
3 話しやすい環境を作る
4-2 効果的な質問法を自分で研究する
話し合いの途中で流れを転換して発展させていく方法
1 相手の真意を汲み取る(本当に言いたいことはなにか)
2 本音を引き出す(展望を明らかにする)
3 気づきを呼び起こす(行動変容のきっかけをつくる)
相手の状況に応じた問いかけのポイント
1 相手が目標を見失った時
2 意見が対立している時
3 相手が感情的な時
4 解決策を求めてきた時
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第 5 章 「聴き方」事例編
事例
事例
事例
事例
事例
事例
事例
❶ 後輩がミスした理由の聴き方
❷ 同部署の社員が冷たく後輩が落ち込んでいる
❸ 上司から人事考課についてフィードバックをもらう時の聴き方
❹ プロジェクトで関係部門間の折り合いが悪くなり仲裁する
❺ 新規訪問でのヒアリング
❻ 顧客からクレームがあった時の受け止め方
❼ 後輩が自分の将来を描けなく悩んでいるときのかかわり方
1 キャリアについて
2 キャリアを支援するためのキーワード
3 キーワードを見つけるための効果的な聴き方
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第1章
「聴き方」の重要性
本章では、コミュニケーションの原点に立ち返って、リーダーが
仕事の上で 情 報をどう扱うべきかについて学びます。ここでい
う情 報とは、人から発せられた言葉そのものと言葉にこめられ
た人間の思いを指します。生きた情 報をどのように仕事で活用
していくかが、仕事の成否を分けることをよく理解していきまし
ょう。
第1章
1-1
「聴く力」は個人も企業も成長させる
人は生まれてから 20 年で成人し大人の仲間入りをしますが、物理的な成長と同
時に精神的な成長を遂げます。小さな身体が大きくなるように、この世に生まれて
からずっと様々な情報に接することで、自我を確立し、自分の価値観や人生の意義
をその人なりに理解し、将来の夢やビジョンを持ち、自分の活動する世界をつくり
上げながら活躍していきます。同じように、企業も設立から活動を続ける間、自ら
が提供したモノやサービスに情報を載せて発信し、顧客からの信頼を獲得します。
長年かけて構築した信用(ブランドが含まれる)も付加価値情報として、企業の存
立を確かなものにします。
以上のように、人間の行動や企業の活動は、情報のインプットとアウトプットの
過程そのものであり、情報なくしては、人間の社会的活動は成り立ちません。
「聴く力」は、情報のインプットを処理する過程での力量をいいます。同じ情報
に接しても、人によって活用の仕方が違うように、「聴く力」は、人が自分の周囲
の人とどのように接してきたかによって決定づけられ、かつ社会的行動の蓄積に
よって培われてくる大事な能力です。属にいう「賢い人」とは、物事の処し方が上
手な人を指します。これは、生まれ育った環境が自分以外の人(家族や友人も含めて)
と十分な接触と交流を実現できるという意味で恵まれ(金銭的にではない)ていた
ために、若年であっても精神的な成長を早く遂げたことにあります。
この後天的な能力を意識して高めていくためには、自分の目の前に現れる物理的
な現象から自分なりの意味を読み取る訓練をおこなうことにはじまり、日常のあい
さつレベルのことでも自分以外の人との間で取り交わすコミュニケーションの質を
高めようと努力することが大事です。
その人が成長したかどうか、ある企業が成長したかどうかは、情報の活用度合い
によって見ることができるといってよいでしょう。なぜならば、人間や企業の活動
をどうしていくかを判断するために必要な情報を適切に処理し、正しいと思われる
判断を導き出す力(聴く力)が情報の活用によって養われるからです。正しい判断
は、人間の行動の自立と統御を可能とし、たとえ困難に直面しても状況を打開する
ための知恵を生み出す元になります。そして、知恵を生み出し続けることができる
ならば、未知のものに対して既知のものを手がかりにし、対処していくこともまた
可能となります。情報を活用し続けることが、常に成長し続けること(ゴーイング・
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第1章 「聴き方」の重要性
第1章
コンサーン)につながるのです。
1 「聞く」と「聴く」の違いについて
コミュニケーションの学習において“傾聴”などと言う場合、よく「聞く」と「聴
く」の違いを比較することがあります。耳に音が「聞こえる」ことを「聞く」とい
い、「聴く」については漢字をあてて「心で聴く」、すなわち、相手の気持ちに共感
することをいいます。ここでは、さらに一歩踏み込んで見ていくことにしましょう。
下図は氷山のモデルです。海面に浮かんでいる氷の塊の部分が、耳に聞こえる部分
になります。人間はまず、音声や眼に映る文字など具体的な記号として形になった
ものを、五感を使ってキャッチします。
「氷山のモデル」
言語化・記号化されて発信した情報
メッセージ
目に見える
目に見えない
意図・ホンネ・願い・動機 文脈
そこから踏み込んで、海面の下にある表には出ない部分を読み取っていきます。
この海面下にある部分が、話し手の本当の願いであり意図です。これをよく観察し
て分析してくのが、仕事で求められる「聴く力」になります。もちろん相手の感情
のケアも行いながら、聴き取りをおこないます。したがって、心のセンサーも含め
て五感を駆使しながら、自らの経験則に照らし合わせ、分析と総合を繰り返す知的
作業が「聴く」ことなのです。
話し手は、自分の本当の思いが何なのかもわからないまま、メッセージを発信し
てきます。ただし、すでにこの段階で、人は何らかの交流を周囲とおこなっていて、
「期待価値」を自分の心の中に芽生えさせ始めています。将来獲得できる報酬を自
分なりのものさしで値踏みした結果、得られる想像上の成果レベルが「期待価値」
となります。これを人から強制されるのではなく自由な意思で値踏みできるから、
人は積極的になれ、結果はやってみなければわからないのですが、チャレンジする
気持ちや、いわゆるやる気(モチベーション)も起こってくるのです。逆に期待価
値がマイナスなら、人は動機づけられません。人間は具体的な報酬に対しても、自
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第1章
分なりの意味を持たせながら値踏みをしています。ここでいう価値は相対的なもの
で、金銭でいう報酬の絶対額とは必ずしも一致しません。また、現在価値だけでなく、
将来価値(期待度)も含めて値踏みされます。それほど、人の持つ価値判断は複雑
なのです。時には自分にとってつらい事や不利な条件でも、期待価値が認められれ
ば人は納得します。
これは、人間の成長欲求と一致した社会行動と捉えるとよいでしょう。誰しも、
もっと満足を得たい、自分がよくなりたいと思って人と関わりを持ち、これに応答
しながら相互に信頼関係を結びます。これがビジネスに必要な信用の元となり、あ
る時には提供者、またある時には受益者という具合に立場を変えながら、価値交換
をおこないます。これがビジネスの社会的側面です。つまり、社会は様々な商業的
取引によって成り立つので、企業は価値提供の主役として存在する以上は社会的責
任を負うのです。この責任を果たす活動(例えばメーカーが製造中止になった品物
のパーツを修理用に保管していることなど)で信用を作り出し、信用は期待価値を
プラスにしていくので、お互いに積極的に関わろうとして相互交流するのです。
交流は相互依存を生み出し、活発化するほどビジネスが発展していきます。相互
依存の関係が共存共栄へと発展していくならば、磐石でゆるぎない体制が整うとい
えます。いわば、交流の骨格はお互いを信頼し、期待を込めた情報の発信と受信の
やり取りによって形作られるのです。
ところが、定型業務を流すだけの調子で、仕事をやっているつもりになっている
場合は、相手の期待をキャッチした心の交流などどこかへ飛んでしまいます。つま
り「聞く」だけの世界であって表面的にしか物事を捉えず、お互いの係わり合いは
形式的、機械的で、脆弱なものとなってしまいます。この状態では、仕事を通じて
人が成長したり会社が発展することもありません。まず、「信頼あっての仕事」と
肝に銘じておきましょう。また、人と交流するには、心のゆとりとともに物理的な
時間のゆとりを作り出すことが求められます。ただ忙しさにかまけて、業務処理的
に仕事を終わらせてしまいがちな場合には、注意が必要です。
2 仕事の問題解決と聴く力
話し手の本当の思いは何なのか、それを「聴く」ことによって明らかにしていき
ますが、最終的に明らかにするものは、次図にある全体の構造です。
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第1章 「聴き方」の重要性
現状
ギャップ
ビジョン
構想
シナリオ
問題
時間軸
話し手でさえ、自分にとって本当は何が問題なのか、よくわかっていないことの
ほうが多いのです。なぜならば、図のように本当の問題は、現状の不満やトラブル
などではなく、本来はどうありたいのかという自分の理想の姿と現状との間に生じ
たギャップをいうからです。したがって、ありたい姿を膨らませば、問題はいくつ
でも生じてきます。これを一つひとつ整理して、何から取り組んでいけばよいかを
整理することが相談なのです。この全体構造のうち、前述の氷山の海面に姿を現し
ているのは、そのごく一部であることがほとんどなので、これを明らかにしていく
ことが、「聴き取り」になります。以上が、仕事の世界でよく言われる「情報共有」
=「見える化」の本質なのです。ITだけに偏った情報共有では、氷山のうち海面
の上に出た部分のみをカバーするところにとどまりますので、そこから先は、人間
的なコミュニケーションの技術によって、海面下の情報を明らかにし、共有するの
です。そのためにわざわざ足を運び、話し合いの「場」をつくり、面談によって対
話をおこないます。この「場」は物理的なものだけではなく、話し易い雰囲気づく
りも含めた「場」づくりをおこないます。したがって、日頃の人間関係(相手に対
する信頼の度合い)も場づくりに影響してきます。
また、この構造は問題解決のための基礎的な設計図ですので、聴き取りによって
浮かび上がってきた像はちょうど自分が住みたい家のように、人によって一つひと
つ違います。たとえば、1階が現実で、2階がありたい姿だとしたら、そこに到達
するための階段をつくらなければならないのですが、その階段の幅や高さ(踏み面、
け上げという)は利用者の足にあったものになっていなければ、簡単に上れなかっ
たり、途中で階段を踏み外すことになります。また、エレベーターで直接上りたい
人もいます。このように、本来は顧客ニーズとは個別に違ってあたり前なのです。
実際の行動場面では、顧客は明らかな自分のニーズを元にお店へ出かけ、そこに並
んでいる商品やサービスから最も自分にフィットしていると思われるものを選択し
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第1章
ありたい
姿