財政学Ⅱ 1 第1回 財政とは何か?財政学とは何か?(財政学Ⅰのおさらい) 2015年10月2日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 2 財政とは何か?(1) 財政(public finance):国や地方自治体などの政府が、租税(税金)や公債によって貨幣を調達し、そ れを財源として国民や住民に財・サービス(公共財)を提供する活動。 公共財の例:道路、橋、水道、公立学校、公立病院、年金、介護保険、健康保険、生活保護、警察、消防、防衛… 公債:政府が借入れを行う際に発行する「借用証書」。 なぜ財政が必要なのか? 市場(民間企業)によっては提供できない、あるいは提供することが難しい財・サービス(純粋公共財)の存在。 例:道路、橋、警察、消防、防衛… さまざまな理由から、政府が提供することが望ましいと考えられる財・サービス(価値財)の存在。 例:公立学校、公立病院、年金、健康保険… さまざまな理由:国民としての最低限の権利の保障、格差の是正、社会的弱者への配慮… 財・サービスを、非排除性と非競合性という二つの基準に基づいて分類することが可能(スライド3)。 非排除性:特定の消費者をその財・サービスの消費から排除することが不可能であること。 非競合性:特定の消費者がその財・サービスを消費しても、他の消費者の消費量が減少しないこと。 3 財政とは何か?(2) 非競合性 クラブ財 純粋公共財 排除性 非排除性 価値財 私的財 出所:神野直彦『財政学 改訂版』80頁。 競合性 財政とは何か?(3) 4 財政は、政治システム、経済システム、社会システムという社会の三つの「サブシステム」を媒介し、そ れらを維持することにより、社会統合を実現する役割を担う(スライド5)。 政治システム:強制力に基づいて経済システムと社会システムの維持を図る。 経済システム:市場を通じて財・サービスの生産・分配を行う。 社会システム:共同体的な人間関係に基づいて人間の生活を保障する。 財政の誕生 共同体の内部では充足できないニーズに対応するために、共同体を超える強制力が必要となり、国家が誕生。 政治システムが社会システムから分離。 異なる共同体の間で、生産物を交換する生産物市場が誕生。また、それまで政治システムが保有していた土地・労 働・資本という「本源的生産要素」が、私的所有権が設定されることによって政治システムから解放され、それら が自由に交換される要素市場が誕生。 経済システムが社会システム・政治システムから分離(市場社会の成立)。 経済システムが政治システムから分離したことにより、国家は本源的生産要素を失ったため、政治システムを維持 するための費用を経済システムから租税の形で調達せざるを得なくなり、財政が誕生。 家産国家から無産国家・租税国家へ。 5 財政とは何か?(4) 政治システム 公共(強制) 有償労働 忠誠 信頼 租税 財 無償労働 政 民間(自発) 公共サービス 公共サービス 経済システム 出所:池上岳彦編『現代財政を学ぶ』12頁。 社会システム 競争 営利 協力 非営利 財政とは何か?(5) 6 家計 民間財 政府 企業 出所:池上岳彦編『現代財政を学ぶ』15頁。 生産物市場 公共サービス 租税 労働力 土地 公共サービス 租税 要素市場 人件費 用地費 物件費 投資的経費 7 財政学とは何か?(1) 財政学の起源は、17世紀前後にドイツ・オーストリアで発展した官房学。 主に王室財政の安定のための、王室財産の適切な管理・経営に関する技術的な知識体系。 国民経済との関係や、国民全体の福祉に対する観点は希薄。 しかし、家産国家から租税国家に移行すると、王室の外部にある経済システムから租税を調達しなければ ならなくなるため、経済学的な観点が必要に(財政学の誕生)。 イギリスで発展した古典派経済学。「経済学の父」アダム・スミスは、『国富論』で財政について論じる。 政府の活動は有益であるが「不生産的」。そのため財政は、国防、司法、公共事業、君主の尊厳の維持に限定され るべき。 租税は市場経済の動きを歪めてはならない(中立性)。 公債は、生産的な支出に向かうはずの民間の財源を、不生産的な国家の支出に振り向けてしまうので避けるべき。 その後、19世紀後半に発展したドイツ財政学。イギリスの古典派経済学とは逆に、政府の活動は「生産 的」であるとする。 公債の発行も積極的に肯定。 貧富の格差に対処するために、租税を用いて所得再分配を行うべきとする。 8 財政学とは何か?(2) 1930年代の世界大恐慌と「ケインズ革命」を受けて、政府が景気安定化のために経済に積極的に介入する ことを主張する「フィスカル・ポリシー」の財政学が誕生。 マクロ経済学を基盤とする。 外部性の概念を用いて、政府が租税を用いて経済に介入することを主張する「厚生経済学」的財政学。 「炭素税」や「環境税」の理論的背景となる。 ミクロ経済学を基盤とする。 後に「公共経済学」へと発展。 財政を、政治システム、経済システム、社会システムを包摂する社会全体の変化の中で分析しようとする 財政社会学。 マルクス経済学的観点から、財政を資本主義経済の歴史的変化の中に位置づけようとする「福祉国家論」 的財政学。 9 財政学の重要概念 財政の三機能(マスグレイブ) 資源配分機能:公共財や価値財を提供する。 所得再分配機能:所得格差を是正するために、市場で分配された所得を、租税や社会保障を通じて再分配する。 経済安定化機能:政府支出を変化させることで、景気の安定化と経済成長を図る。 個別報償性と一般報償性 個別報償性:貨幣の支払いと財・サービスの供給が、1対1で個別に対応する(市場経済の原理)。 財・サービスは、貨幣を支払った人にのみ提供される。 一般報償性:貨幣の支払いと財・サービスの供給が1対1で対応しない(財政の原理)。 貨幣を支払ったとしても財・サービスを受けられるとは限らないが、貨幣を支払っていなくても財・サービスを受けられる可 能性がある。 「報償」の対象は国民・住民全体。 量入制出と量出制入 量入制出(入るを量って出ずるを制する):収入が先に決まり、その範囲内で支出を決定する(市場経済の原理)。 量出制入(出ずるを量って入るを制する):支出がどれだけ必要かをまず決め、そのために収入をどのようにして 調達するのかを決める(財政の原理)。 支出がどれだけ必要かは、民主主義的に決定される(されなければならない)。 財政学Ⅰで学んだこと(1) 10 予算 予算と財政民主主義 予算原則(古典的予算原則) 日本の予算制度 予算循環 予算制度改革の試み 租税 租税の根拠 租税負担配分の原則 租税原則 租税の基礎理論 課税要件(租税客体と租税主体) 税負担(比例、累進、逆進) 転嫁と帰着 租税の分類(直接税・間接税、人税・物税、所得課税・消費課税・資産課税、普通税・目的税、国税・地方税) 財政学Ⅰで学んだこと(2) 11 租税(続き) 所得税 所得をどのように捉えるか(周期説と純資産増価説) 所得額の算定(総合課税と分離課税) 所得控除 累進税率 税額控除 課税単位(個人単位か世帯単位か) 法人税 法人税の根拠(法人実在説と法人擬制説) 法人所得の算定 法人税の税率 財政学Ⅰで学んだこと(3) 12 租税(続き) 消費税(付加価値税) 消費税の体系 消費税の発展(個別消費税→取引高税→製造者売上税→卸売売上税→小売売上税→付加価値税) 付加価値税のしくみ(前段階税額控除方式と前段階売上高控除方式) 日本の消費税 世界の付加価値税 外国貿易と付加価値税(仕向地原則と原産地原則) 資産課税 資産課税の体系 資産移転課税(相続税、贈与税) 資産保有課税(富裕税、資産課徴)
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