有機体としての経済

有機体としての経済
工藤昌宏(東京工科大学)
経済システム(再生産構造)やそれが引き
起こす諸現象についての分析は、経済学の
主要課題をなす。だが、分析視角や接近の
方法は多岐にわたり、そのため分析結果も
さまざまである。しかも、中には既存理論
を固定的に捉えそれに固執したり、あるい
は経済実態を軽視ないし表面的に捉える論
考が見受けられる。両者は、いずれも経済
どの国にも共通して妥当性を持つことにな
る。
だが、実際の経済システムは、歴史的条
件、自然的・地理的条件などの複雑・微妙
な変化の影響を受け、時代によっても国に
よっても大きく異なっている。つまり、経
済システムは絶えず変化、変動を余儀なく
されているということである。そのため、
実態とそこで生じている諸問題から目を背
けているという点で共通している。
だが、このような姿勢は客観性や論理性
を軸にする科学的な姿勢とは全く無縁のも
ので、解決を要する諸問題を前に無力であ
るばかりでなく議論を混乱させ、問題を曖
昧にさせるものでしかない。そればかりで
はない。実際の経済政策がこのような姿勢
や方法に依拠して立案・遂行されれば、そ
れは単に的外れであるばかりでなく、問題
経済政策も国や時代によって一様ではなく
経済システムの構造変化に対応した柔軟な
ものであることが要求される。だが、経済
システムの構造変化を無視した認識・方法
では、どの国にも時代を超えて一様の政策
がとられることになり、その結果、時には
旧態依然の効果が期待できないばかりかむ
しろ弊害すらもたらす経済政策を誘導する
ことになる。
そこで、問題はまずは経済システムをど
を先送りし、その結果、問題をさらに深刻
化させ、やがて経済全体や国民生活に深刻
な打撃を与えることになる。2013 年に本格
始動したアベノミクスは、その典型である
といってよい。
分析の姿勢や方法、経済政策の違いの根
底には、そもそも経済システムとはなにか、
どのようなものと捉えるのかという認識上
の違いが横たわっている。上記の経済実態
軽視の姿勢・方法の根底にも、独特な認識
が横たわっている。それは、経済システム
のようなものと捉えるべきか、ということ
になる。このことは、経済実態を理解する
だけでなく、誤った経済政策を是正、回避
するための大前提となる。そこで、本稿で
はまず第 1 に、各国経済システムを社会シ
ステム(世界政治経済システム、各国政治
経済システム)にどのように位置づけるべ
きかを考える。このことは、経済学がその
責務を果たすだけでなく、社会変革への道
筋を考える上でも避けられない問題である
ように思われる。第 2 に、各国経済システ
は変化・発展を免れた機械的・固定的な構
造物であるといったような認識である。こ
の認識では、経済システムの変化はせいぜ
い規模の拡大・縮小という程度のものでし
かない。そして、このような認識では、程
度の差こそあれ経済理論はいつの時代にも、
ム自体をどう理解すべきかを考える。そし
て最後に、実際に国際社会の政治経済と複
雑に絡み合っている現在の日本経済システ
ムについてその論理と実態について考察す
る。