解説 - 京都女子大学

2010 年度 京都女子大学 HP 用過去問題解説 化学
今回の化学の問題は 2010 年度一般入試前期 B 方式(1/31)の大問Ⅲを取り上げました。この
問題は酸化還元滴定に関する問題です。酸化還元反応を利用する計算は,
「時間がかかる」,
「計算
が大変」などの理由で,後回しにしたり,避けてしまったりしがちですが,上手に計算を進めて
いくことで,スムーズに解答できるようになります。しっかりと,
“解答の方法”をマスターしま
しょう。
【設問及び解答方法】
各記述をしっかりと読みとることが大切です。本問題では中和反応と酸化還元反応に関する出
題です。中和反応では「何が酸で何が塩基か」
,酸化還元反応では「何が酸化されて,何が還元さ
れたか?」ということを考えるとよいでしょう。
中和反応では「酸と塩基を見つける」酸化還元反応では,
「酸化剤と還元剤を見つける」ことが
大切です。
問題文では前半が中和反応,後半が酸化還元反応となっています。それぞれの内容に目を向け
ながら,解説していきます。
【シュウ酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の中和反応】
前半では,シュウ酸水溶液を標準溶液とした水酸化ナトリウム水溶液の濃度決定です。
(1)
標準溶液 A(シュウ酸水溶液)中でのシュウ酸の物質量は,シュウ酸二水和物の物質量と等し
い。
37.8
126
= 1.2m ol/L
250 エ 10- 3
(2)
問題文では「標準溶液 A を…はかり取り…およそ 100mL にした」と記されていますが,水
を加えただけで,標準溶液 A に含まれるシュウ酸の物質量には変化がないことに注意しましょう。
(a) ここでは,実験の結果ではなく,計算値として水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を求め
ることを要求しています。
1.92
40
= 0.48m ol/L
100 エ 10- 3
(b) ここでは,実験の結果による水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度の算出を要求しています。
(a)と(b)の問題文の違いをしっかりと考えてください。
水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を x〔mol/L〕とすると,
水素イオン(H+)の物質量
1.2×
10.0
× 2 =0.024mol
1000
1
水酸化物イオン(OH−)の物質量
x×54.0×10−3×1mol
∴x=0.44mol/L
(c)
(a)と(b)では同じ水酸化ナトリウム水溶液の濃度を求めているにもかかわらず,濃度が異な
ります。これは,水酸化ナトリウムには潮解性があるため,大気中の水蒸気を吸収したり,強塩
基であるため,大気中の二酸化炭素を吸収してしまうという特徴が原因で,大気中に放置された
水酸化ナトリウム水溶液は,はかりとった水酸化ナトリウムの質量から算出される濃度と実験値
が一定しなくなります。
解答:・潮解性があるため空気中の水分を吸収している。
・強塩基であるため空気中の二酸化炭素を吸収している。
【シュウ酸水溶液と過マンガン酸カリウム水溶液の酸化還元反応】
後半は,酸化還元反応を利用した過マンガン酸カリウム水溶液の濃度決定です。過マンガン酸
カリウムは酸化剤としての働きしかしないため,シュウ酸は還元剤として働きます。
(3)(a)
酸化数の決定の方法は教科書や資料集などに記載されていて,馴染みがあるかもしれませ
ん。
シュウ酸の化学式は H2C2O4 ですので,(+1)×2+C×2+(−2)×4=0 ∴C=+3(+Ⅲでも
可)
二酸化炭素の化学式は CO2 ですので,C+(−2)×2=0 ∴C=+4(+Ⅳでも可)
(b) 過マンガン酸カリウムは酸化剤としての働きをします。
溶液が酸性であるときの過マンガン酸カリウムの酸化剤としての働きは,次の通りです。
MnO4−+8H++5e−→Mn2++4H2O
この反応式は頻出ですので,しっかりと書けるようにしておきましょう。
(c) この滴定では,過マンガン酸カリウム水溶液の赤紫色が残ったところで,酸化還元滴定は
終了となります。
【解答】MnO4−の紫色が消えなくなる。
(d) 酸化剤と還元剤の,それぞれの電子の物質量を考えます。
求める溶液のモル濃度を xmol/L とする。
酸化剤(KMnO4)が受け取る電子の物質量:x×60×10−3×5mol
還元剤(H2C2O4)が放出する電子の物質量:1.2
×20×10−3×2mol
∴x=0.16mol/L
2
中和反応とは「酸と塩基が互いの性質を打ち消す反応」をいいます。
H++OH−→H2O …が起こる反応です。
計算上は,水素イオン(H+)の物質量=水酸化物イオン(OH−)の物質量となるように計算をする
ことが重要です。
酸化還元反応とは,「物質間で電子の授受がある化学反応」をいいます。
“酸化反応”と“還元反応”は別個独立しておこらず,常に同時に起こります。
例:2Cu+2O2→2CuO
これを「酸化反応である」と言ってはいけません。この化学反応式は次のような意味が込め
られています。
・銅は酸素に酸化された。
・酸素は銅を酸化した。
・酸素は銅に還元された。
・銅は酸素を還元した。
このこのように「酸化する」,「酸化される」,「還元する」,「還元される」では,全然意味が
違いますので、言葉での理解も大切です。
計算上では,酸化剤が受け取った電子の物質量=還元剤が放出した電子の物質量となります。
ここでいう“酸”,“塩基”は,アレニウスの定義の酸と塩基です。
酸…H+を電離する物質
塩基…OH−を電離する物質
酸,塩基の定義だけでなく,酸と塩基の強弱関係も知っておきましょう。
《酸強度》
OH
>
H2SO4>HCl>HNO3 >H3PO4>R–COOH>H2O+CO2
リン酸 カルボン酸
炭酸
フェノール
《塩基強度》
アルカリ金属の水酸化物
アルカリ土類金属の水酸化物
NH2
>NH3>
酸化剤…反応する相手を酸化して,自分は還元される物質。(電子を受け取る物質:Mn++ne−
→M)
→酸化剤としての働きをする物質:KMnO4,K2Cr2O7,O2,O3,ハロゲン単体,硝酸,
熱濃硫酸など
還元剤…反応する相手を還元して,自分は還元される物質(電子を与える物質:M→Mn++ne−)
→還元剤としての働きをする物質:H2,C,CO,H2S,C2O42−(シュウ酸イオン),ハロ
ゲン化物イオン,金属単体,アルデヒドなど
3
標準溶液とは,水酸化ナトリウム水溶液のように,大気中の水蒸気や二酸化炭素を吸収して,
濃度が一定しない溶液の濃度を決定するために用いる,濃度が変化しない溶液をいいます。この
溶液によって,濃度不明の溶液の濃度から,滴定実験の結果までを支配するので,その滴定実験
の基準値となる溶液という意味で標準状態と名付けられています。
酸化数の決定方法については,次のような規則があります。
酸化数
0
単体分子中の原子
例
Cl2 の Cl
0
Na+の Na +1
陽イオン
イオンの価数
S2−の S
陰イオン
−2
化合物中の酸素
−2
H2O の O −2
化合物中の水素
+1
H2O の H +1
過酸化物中の水素
−1
H2O2 の O −1
金属水素化物中の水素
−1
NaH の H −1
化合物中の酸化数の総和
0
【勉強方法のアドバイス】
中和反応や酸化還元反応を得意にするためには,まず,この両反応が違うものであるという認
識が大切です。酸と塩基,酸化剤と還元剤では,それぞれ異なる反応が起こります。次に,それ
ぞれの計算上の注意点をしっかりと頭に入れて計算を行うと,余計な化学反応式を書かなくて済
みます。酸,塩基の種類,酸化剤になるもの,還元剤になるものなどをしっかりとチェックして
おきましょう。
この時期は,計算分野と無機化学分野の強化をすべきです。学校によっては,有機化学の学習
がまだスタートしていないかもしれません。ですから,これまでの学習箇所についての復習とし
て,計算分野とそれに関連する知識(無機化学分野)の強化が重要になると思います。闇雲に問題を
解こうとしてもうまくいきません。問題文を読んでみて,どんな現象が起こっているのかを考え
ながら,焦らずに,解答しましょう。酸と塩基,酸化剤と還元剤の識別は,色ペンなどを活用し
て見分ける工夫をすると,今後の学習に効果的といえます。
まだ余裕のある時期かもしれませんが,自分のペースを定めて,しっかりとがんばってくださ
い。
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