水域環境保全創造事業費 アマモ場周辺域における餌料環境と二枚貝の

水域環境保全創造事業費
アマモ場周辺域における餌料環境と二枚貝の分布特性
国分秀樹・羽生和弘・畑直亜
目的
な移植実験は不可能となった.ただし、相川河口域では
昨年度までの研究成果により,アマモ場周辺域では,
秋期には,アサリ稚貝の回復が確認されたため,今年度
波浪等が押さえられ,植物プランクトン等が沈降しやす
は,放流適地を選定するための小規模移植実験を香良洲
くなることで,二枚貝の良好な生息環境と餌料環境が創
地先で実施し,来年度以降に大規模に実証することにな
出されることが明確になり,造成アマモ場を活用した小
った.相川河口域のアサリ稚貝約 100 キロ(平均殻長 14.
規模な移植実験により,アサリ稚貝の良好な放流先とし
5mm)を鋤簾を用いて採取し,図 3 に示す,放流適地とし
ての効果を明らかにした.本年度は,香良洲地先におい
て選定した,香良洲漁協周辺の 2 箇所にそれぞれ 50 キロ
て実海域スケールのアサリ移植実験を行いその効果を評
ずつ(1500 個体/m2)放流した.放流は 2015 年 2 月に実
価することを目的とした.
施し,追跡調査を定期的に実施した.
方法
1.河口域の二枚貝の分布調査
結果および考察
調査地点を図1に示す.二枚貝の調査は御殿場海域の
1.二枚貝の分布
相川と雲出川古川を調査対象とした.両河口域の 30 地点
相川河口および雲出川古川河口域におけるアサリ稚貝
で 0.25m2,深さ 15cm の堆積物を採取し,2mm のふるい
分布の経時変化を図 2 に示した.2014 年 5 月には,両河
に残留したアサリについて殻長,殻幅,殻高,湿重量を
口域において平均殻長 8mm のアサリ稚貝が大量に発生
計測した.調査は 5 月より隔月で実施した.
していることが確認できた.
資源量を試算すると,相川,
雲出川それぞれ,102.3 トン,325 トンであった.その後
も,8 月までは順調に成長していたが,8 月の台風 11 号
により,資源量が相川,雲出川それぞれ,37.7 トン,12
トンと激減した.台風に伴う集中豪雨により,河口域の
アサリが,流出及び埋没により死亡してしまったことが
考えられた.
その後,雲出古川では,アサリ稚貝の回復は確認でき
なかったが,相川河口においては,生残したアサリの成
長と,新たな年級群の新規加入が確認でき,11 月には,9
貝類調査地点
3.3 トンまで資源量が確認できた.これは,河川の大き
底質調査地点
図1
さの影響が考えられる.1 級河川である雲出川のほうが 2
調査地点の概要
級河川である相川よりも,増水時の淡水の影響が強いた
め,流出と土砂による埋没によって,より減少したと考
2.放流適地の調査
えられ,小河川である相川のほうが生残率が高くなった
放流適地を把握するため,図 1 に示す,調査地点にお
と考えられた.
いて,底質とアマモの分布状況について調査を実施した.
2.放流適地の評価
底質については,表層から 2cm を採取し,粒度分析を実
図 3 に香良洲漁港周辺域の底質とアマモの分布を示す.
施した.併せて,香良洲漁港周辺において,アマモ場の
雲出古川河口域及び水深が DL0.5m 以浅では,中央粒径が
分布調査を音響調査により実施した.調査は 2014 年 9
2mm 以上の砂利砂の底質になり,中央粒径が 0.5~2mm の
月に実施した.
細砂となった.また DL-2m 以深の海域では,中央粒径が
3.アサリ稚貝の移殖実験
0.5m 以下の泥質となっていた.またアマモ場の分布は,
雲出古川河口域に発生していたアサリ稚貝が,台風 11
主に香良洲漁港南側の DL-1m 付近に帯状に分布していた.
号により,大量斃死してしまったため,今年度は大規模
しかし,前述した台風 11 号の波浪の影響により,100 株
5-20
資源量102.3t
5月
資源量92.8t
7月
資源量37.7t
9月
3.アサリ稚貝の移殖実験
資源量93.3t 11月
放流直後から,1 週間,2 週間,1 ヶ月後の個体密度と、
殻長の変化を図 4 に示した.放流直後 1500 個体/m2 あっ
たアサリが,1 週間後には,雲出古川河口で 1263 個体/
m2,前浜で 1368 個体/m2 に減少し,1 ヶ月後には,雲出
古川河口で 969 個体/m2,前浜で 1268 個体/m2 になった.
これは,放流初期の減少と考えられる.放流初期には,
最捕時や水質変化によるストレスにより,減耗すること
7/24調査結果(台風前)
が知られている.この初期の現象以上の理由が考えられ
資源量325ト ン
た.成長については,放流直後の平均殻長が,13.2mm で
あったのに対し,1 ヶ月後には,雲出古川河口域で 14.2
mm,前浜で 14.3mm と成長が確認できた.
以上より,放流直後初期の減耗はあったが,成長は確認
8/13調査結果(台風後)
10000個/m2以上
1000~10000個m2
できたため,今後継続して,追跡調査を実施し,放流効
果の評価を実施していく.
資源量12ト ン
2000
100~1000個/m2
古川河口
図2
個体密度( 個/m 2)
0~100個/m2
稚貝分布の経時変化(上:相川.下:雲出古川)
前浜
1500
1000
500
0
開始直後
1週間後
2週間後
1ヶ 月後
1週間後
2週間後
1ヶ 月後
20
古川河口
砂利砂
泥質
前浜
アマモ場
殻長( m m )
細砂
低密度アマモ場
アマモ場
15
10
放流予想適地
図3
雲出古川河口域の底質とアマモ場分布
5
開始直後
/m2 以下の低密度の分布となった.
図4
以上の結果より,香良洲漁港南側の DL0.5~-1m のアマ
モ場の岸側の海域を,アサリ稚貝の放流適地として選定
した.
5-21
放流後の個体密度(上)と殻長(下)の経時変化