2015/5/18 第一薬科大学 3年生 『分子生物学』 第5回 育薬研究センター 担当:高露 恵理子 (H27.5.18) 第100回国家試験より 損傷の種類(p26) DNAの塩基は自然状態でも損傷しており、通常は細胞 の持つ機能によって修復されている。 化学物質や放射線などによって損傷の頻度は格段に高 くなり、突然変異を起こす。 2 損傷の種類(p26) a 脱プリン反応(p26) プリン塩基とデオキシリ ボースの間のN-グリコシ ド結合はピリミジン塩基の 場合より解裂しやすい。 これはプロトンによって更 に促進される。 ヒトの細胞では1個あたり 1日に1万以上のプリン塩 基が脱離していると推定 されている。 脱プリン反応 アルキル化 脱アミノ反応 ピリミジン二量体 その他 a 脱プリン反応(p26) A=T塩基対が欠失 H+によるアデニン、グアニンの切断 脱プリン化したA T C T A G A 娘鎖 複製 娘鎖 T C A T A G T A 1 2015/5/18 b アルキル化(p26) プリン塩基はピリミジン塩基に比べてアルキル化反応を 受けやすい。 アルキル化された塩基は誤った塩基対を形成する。 O6-メチルグアニンは複製の際にシトシンではなくチミン と塩基対を形成する(図2・ 16a)。次の複製までに修復さ れないとG-C対であった箇所がA-T対に変異してしまう。 トランジション変異 G C アルキル化 CH 3 G C プリン(ピリミジン)塩基 プリン(ピリミジン)塩基 複製 CH 3 G T 複製 突然変異 A T ①直接修復 (p30) アルキル化剤により生じたO6-メチルグアニンのメチル基 は、O6-メチルグアニン-DNAメチル転移酵素によって直 接取り除かれる(図2-16a)。 アルキル化 CH 3 G C G C 複製 MGMT: O6-メチルグアニン DNAメチル転移酵素 MGMT MGMT S SH CH 3 CH 3 G T 複製 発がん 突然変異 A T 2 2015/5/18 ①直接修復 この酵素は1回しか反応することができないため、細胞 内のO6-メチルグアニン-DNAメチル転位酵素の分子数 が、アルキル化剤への耐性を左右する。 大腸菌からヒトまでほとんどの生物に存在する。 微生物では環境中のアルキル化剤が多いと酵素の量を 増やす機構が存在する。 N7-メチルグアニン(図2・16b)はN-グリコシド結合が解裂 しやすく、脱プリン反応を起こす。 ヒト染色体の長さでは1日に数百程度と頻度は低いが、 水分子によって塩基のアミノ基がケト基へ変化すること がある。 プリン塩基→プリン塩基の変化 or ピリミジン塩基→ピリミジン塩基の変化 トランスバージョン プリン塩基→ピリミジン塩基の変化 or ピリミジン塩基→プリン塩基の変化 b アルキル化 c 脱アミノ反応(p27) トランジション ヒトではアルキル化剤に暴露される可能性が高い肝臓 で酵素の量が多い。 b アルキル化 突然[点]変異 細胞内の通常の成分にもアルキル化剤があり(生体成 分のメチル化は珍しい代謝反応ではない)、ヒトの細胞1 個あたり毎日数十万の塩基のアルキル化が起こってい ると考えられているが、正常な細胞では複製までに修復 される。 しかし、環境中のアルキル化剤が体内に入ると修復機 構が追いつかないため、これらは突然変異を引き起こし、 発がん性がある。 図2-17 核酸塩基の脱アミノ反応 チミンにはアミノ基が存在し ないので脱アミノ反応はしな い シトシンはウラシル グアニンはキサンチンへ アデニンはヒポキサンチン へ変化する。 アデニンがヒポキサンチン へ変わった場合には、塩基 対を形成する相手がチミン ではなくシトシンになってし まう 3 2015/5/18 c 脱アミノ反応 c 脱アミノ反応 脱アミノ化したA (ヒポキサンチンに変化) T C H T A G C A 娘鎖 A-T対だったAがHになることでH-C対を経てG-C対へト ランジション変異してしまう。 食品に含まれる亜硝酸や、環境汚染物質のNOXは細胞 中で亜硝酸となり、強い脱アミノ化性を示すため、これら によって変異を起こす頻度が高くなる。 c 脱アミノ反応 C H T A G T A C A G H T T A TがCに変化 複製 娘鎖 T C A T A G T A d ピリミジン二量体(p27) T T 複製 T C H T A G C A 娘鎖 複製 細胞が紫外線に暴露されると、DNA鎖中の隣り合ったピ リミジン塩基間に結合ができてダイマー(ピリミジン二量 体)が生じる。 チミンとシトシン、シトシンとシトシンの間にもダイマーは 生じるが、チミンとチミンの間に生じるチミンダイマー(図 2・18)が最も一般的である。 娘鎖 T C G T A G C A d ピリミジン二量体 ピリミジンダイマーの生成は高頻度で起こり、日光に暴 露された皮膚細胞では毎秒数十個のチミンダイマーが 生成すると考えられている。 ピリミジン二量体があるとDNAの複製はそこで停止して しまい、細胞は分裂できずに死滅してしまうので、原核生 物にも真核生物にもピリミジンダイマーを修復することが 目的の酵素が存在する。光回復酵素、乗り越え修復 e 変異を起こす他の要因(p29) 有機化合物を燃焼した際に生じるベンツ[a]ピレンなど の多環芳香族炭化水素や、タンパク質を焦がした時にト リプトファンから生じるTrp-P-1などは、薬物代謝酵素シト クロムP450によって活性な化合物となり、核酸塩基(特 にグアニン)に共有結合した付加物となる。 4 2015/5/18 ベンツピレン ベンゼン環が5個縮合した化合物で分子量252,融点179 度の淡黄色個体。炭素化合物の不完全燃焼で微量生 成する。自動車の排気ガス、コールタール、たばこの煙 中にごく微量含まれている。発がん性が高く、体の中で 図のように変換されて遺伝子と結合する。 また付加物とならない場合でも、これらを含む平板状の 化学構造を持つ分子は、DNA二重らせんのはしご状の 塩基対の間に容易に入り込む(インターカレーション)。 付加物もインターカレーションもDNA構造を歪め、隣の 塩基対が除去されたりヌクレオチドが挿入されるために、 このような化合物は変異原性、発がん性を示す。 放射線による突然変異の主な要因 軌跡に生じるヒドロキシラジカルなどの活性酸素やフ リーラジカルによるDNA鎖の切断、DNA-タンパク質架 橋の形成、核酸塩基の修飾などである。 C SBO 変異の修復 (p29) DNA複製時に起きたミスマッチは、DNAポリメラーゼの 校正機構によって修復される。 そこをくぐり抜けてきたあるいは複製後に生じた変異は、 細胞にとって重大な傷害となるので、生物には多くの DNA変異修復系が存在する。 ヒトの場合には、90余りの遺伝子がDNAの修復に関わ る。 変異の修復(p29) DNAの修復の過程について説明できる 修復系の分類 ① ② ③ ④ 特定の損傷を直接修復するもの 誤ったヌクレオチドあるいは塩基を一旦除去した後に 合成し直すもの 切断された二本鎖を再結合させるもの 損傷した二本鎖を正常な二本鎖のコピーで置き換える もの いずれの場合にも修復系は損傷箇所を認識しなければ ならず、その時に指標となるのは、塩基対のミスマッチ、 挿入、欠失などの二重らせん構造の歪みである。 5 2015/5/18 ①直接修復 (p30) ①直接修復 アルキル化剤により生じたO6-メチルグアニンのメチル基 は、O6-メチルグアニン-DNAメチル転移酵素によって直 接取り除かれる(図2-16a)。 ①直接修復 紫外線照射により生じたチミンダイマーは、可視光のエ ネルギーを用いた光回復酵素の反応により元の単量体 に戻る(図2-18)。 光回復酵素は細菌から鳥類まで存在するが、哺乳類に は存在しない。 この酵素は1回しか反応することができないため、細胞 内のO6-メチルグアニン-DNAメチル転位酵素の分子数 が、アルキル化剤への耐性を左右する。 大腸菌からヒトまでほとんどの生物に存在する。 微生物では環境中のアルキル化剤が多いと酵素の量を 増やす機構が存在する。 ヒトではアルキル化剤に暴露される可能性が高い肝臓 で酵素の量が多い。 ②ヌクレオチド除去修復(p30) チミンダイマーやミスマッチのように二重らせん構造を歪 める損傷は、損傷箇所を含む前後のヌクレオチドを除去 し、もう一方の鎖をテンプレートとして新たに合成して修 復される(除去修復)。 ②ヌクレオチド除去修復(図2・20) ②ヌクレオチド除去修復 (a)修復系を構成するエンド ヌクレアーゼが損傷の近 くで働く。 (b)損傷をはさんで離れた 位置の2ヶ所を切断して ニックを入れる。 (c)別の酵素がニックの間 を除く。 (d)生じた二本鎖の隙間を DNAポリメラーゼによっ て5’→3’の方向へ埋めら れる。 大腸菌の場合には10ヌク レオチド程度 ヒトの場合には30ヌクレオ チド程度と長い。 原核生物:DNAポリメラー ゼⅠ 真核生物:DNAポリメラー ゼδまたはε (e)最後にリガーゼがニック を結合する。 6 2015/5/18 チミン二量体の酵素による除去修復 塩基を切り取るとき、チミン二量体を挟んで12~13ヌクレ オチドで切り取る。 大腸菌ではUVエンドヌクレアーゼによって切り取られる。 コラム:損傷した鎖の見分け方 コラム:損傷した鎖の見分け方 修復酵素系はメチル化を認識して、メチル化されていな い鎖を修復すればいいのである。 真核生物では、大腸菌でメチル化を認識する酵素に相 当するタンパク質は見つかっておらず、どのように損傷し た鎖を見分けているか不明である。 除去修復では正しい鎖と損傷した鎖を見分けなければ ならない。 大腸菌には、GATCの配列があるとそのAをメチル化す る酵素があり、このメチル化によるDNAの構造変化はな い。 この酵素によるメチル化はDNAの合成より遅いので、テ ンプレートとなった親鎖はメチル化されているが、新しく 合成された娘鎖はしばらくメチル化されていない。 ③塩基除去修復(p30) DNA塩基が脱メチル化や 脱アミノ化されて生じた塩 基の除去 ③塩基除去修復 数種のDNAグリコシラー ゼによりN-グリコシド結合 が加水分解され除去され る(図2・21)。 ヒトのアルキルアデニン DNAグリコシラーゼは3メチルアデニン、7-メチル アデニンを含むさまざまな アルキル化塩基やヒポキ サンチンを除去する。 ウラシル ヒポキサンチン キサンチン アルキル化された塩基 ③塩基除去修復 主鎖に塩基が結合してい ない箇所(プリンの場合に はアプリニック部位、ピリ ミジンの場合にはアピリミ ジニック部位、 AP部位)と いう。 7 2015/5/18 ③塩基除去修復 AP部位は、APエンドヌクレアーゼによって主鎖の前後に ニックが入れられた後に、ヌクレオチド除去修復と似た機 構で修復されるが、除かれる一本鎖は数ヌクレオチドと 短い。 8
© Copyright 2024 ExpyDoc