序 平均余命の延伸によりわが国は最長寿国となっているが,老化に伴う諸問題の解決は遅々とし て進んでいない。特に,要介護高齢者の抑制に向けた国家的な試みが必要とされている。要介護 に至る原因としては脳卒中,認知症,骨折に加えて,特に 75歳以上の高齢者でフレイルの関与 が多くなる。フレイルとは,加齢に伴って生理的予備能が低下することで外的ストレスに対する 脆弱性が亢進し,自立性低下,要介護状態,死亡などの転機に陥りやすい状態とされ,生理的な 加齢変化と要介護状態の間にある状態として理解される。2000年に介護保険制度が始まり,要介 護高齢者の増加が問題になるとともに,フレイルの問題がわが国でも注目を集めてきた。現時点 ではフレイルには身体的,認知的,社会的な要因があるとされており,それぞれの領域における 評価が必要とされる。しかも身体的,認知的,社会的な脆弱性は相互に悪影響を及ぼしあい,負 の連鎖を引き起こすため,早期の介入が重要である。わが国では,介護予防事業において基本 チェックリストを用いたスクリーニングが行われているが,この基本チェックリストは身体的, 認知的,社会的な要素を含み,フレイルをスクリーニングするのに極めて有効なツールであると 考えられる。したがって,スクリーニングから介入へのプロセスを確立することで,要介護リス クを軽減できると考えられる。そのリスクの低減には,多職種による多角的なアプローチによる 介入効果が期待される。 一方,身体的フレイルの原因として,サルコペニアが近年非常に注目されている。サルコペニ アは,加齢に伴って骨格筋が減少する病態である。現時点では骨格筋量の低下のみならず,握力 や歩行速度の低下など機能的な側面を含めた概念として捉えるべきであるとされ,筋量の低下と ともに握力,歩行速度の低下を含めた診断基準が提唱されている。サルコペニアが進行すると転 倒・骨折,自立性低下が生じやすく,要介護状態や死亡のリスクが高くなる。サルコペニアの治 療には,栄養,運動を中心とした介入が有効であるとの報告が多く,フレイル同様多職種による 介入が必要となる。 フレイルやサルコペニアの概念は一般の医療専門職における認知度が低いために,適切で必要 な介入が行われていないのが現状である。したがって,その重要性を周知し,病態,疫学,介入 法などについてエビデンスを構築することが喫緊の課題である。医療職間連携による多角的なア プローチが必要なフレイル,サルコペニアに関して,医療職間で最新情報を提供していただくこ とによりフレイルやサルコペニアに興味を持つ医療専門職,研究者が増えることを期待したい。 2015年 10月 国立長寿医療研究センター副院長 荒井 秀典
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