本稿は申込に際して著者が提出したものであり,大会発表の要件を満たしたもののみが正式に発表と認められます. 会期終了後に「大会発表論文集データベース」で公開されるものをご確認下さい. ポイント選好における認知的熟慮性の影響 1)2) 秋山学・長谷川晃一・上田あすみ・吉野絹子(神戸学院大学 人文学部) キーワード:ポイント,認知的熟慮性,貨幣,ポイント利用経験 支払いに利用可能なポイント(reward point)を購入時に ては,両尺度それぞれに因子分析を行い,共通性が低い 付与するサービスの普及が進んでいる。ポイントは所定の取引 項目(それぞれ 2 項目)を除いた項目への評定を単純加 条件においては貨幣と同等の決済機能を有するが,額面 算した得点を算出した。また,ポイントへの選好度と認知的 上等価な貨幣よりも, 付与されるポイントの主観的価値は割 熟慮性やポイント利用経験との関連を検討するため, 認知的 り引かれる(秋山, 2012 など)。すなわち額面上等価な貨 熟慮性およびポイント利用経験の得点の中央値より 2 分割 幣よりもポイントは好まれない。こうしたポイントへの主観的 し,それぞれに上位群と下位群を設定した。 な価値割引の強弱はポイントの利用経験により変動し,ポイ 結果・考察 ント利用経験が豊富な場合には割引が小さいことが指摘さ ポイントへの選好度と,ポイント還元量や商品価格および認 れている(秋山, 2012) 。すわなち,額面上等価なポイント 知的熟慮性との関連をポイントへの選好度を従属変数とす 数からの上積みに対して敏感と考えられる。この敏感さ る 3 要因分散分析を用いて検討した。その結果,認知的 は直感的な判断とも考えられるが, ポイント利用経験の豊富 熟慮性とポイント還元量の交互作用効果が有意となった さとも関連することを考えると認知的に熟慮する傾向と (F(1,400)=4.50,p<.02) 。認知的熟慮性およびポイント還元 の関連も考えられる。本研究においては,研究参加者に 量の各条件におけるポイント選好度の平均値を図 1 に示す。 貨幣による値引きとポイント還元のいずれを選好するかの 単純主効果を検討した結果,認知的熟慮性の高群,低群 判断を求め, ポイント還元量を貨幣による値引きと額面上等 いずれにおいても,ポイント還元量が増加するにつれポイント 価な条件と,還元量を 1.5 倍,あるいは 2 倍とする条件 への選好が増した(認知的熟慮性高群:F(2,400)=195.60, を設定し,ポイント還元量の増加に伴うポイント還元への選好 p<.001,認知的熟慮性低群:F(2,400)=272.04,p<.001) 。ポイ がどのように高まるかを検討する。加えて,ポイント還元量 ント還元倍率に関しては,還元倍率が 1.5 倍および 2.0 倍 の増加に伴うポイント還元への選好が,ポイント利用経験や認 においてのみ, 認知的熟慮性が高くなるとポイントへの選好 知的熟慮性によって変動するのかを検討する。 が増していた(ポイント還元 1.5 倍:F(1,600)=12.66,p<.001, 方法 ポイント還元 2.0 倍:F(1,600)=6.50,p<.02) 。また,ポイント 調査参加者 大学生 202 名(男性 94 名,女性 108 名;平 利用経験には認知的熟慮性との有意な相関が見られる(r 均年齢 20.0 歳(SD=3.61))が実験に参加した。 =.36)とともに,ポイント選好度との関連においても認知 設問項目 本研究は質問紙調査により実施した。質問紙 的熟慮性と同様の結果が得られた。 は,1) ポイントへの選好度,2) ポイント利用経験 10 項目,3) 以上の結果から,認知的熟慮性が高いと自己評価する 認知的熟慮性−衝動性尺度 10 項目(滝聞・坂元, 1991)に とポイント利用する傾向が高まり,ポイント還元量の増分にも よって構成された。 敏感になる可能性が示唆された。 1) ポイントへの選好度 家電量販店での商品購入時に現金 5.0 値引きとポイント還元の両者を同時に示し, どちらを利用し, どの程度購入したいかを 5 段階評定で回答を求めた(5= 。現金値引きは商品 ポイント還元で購入,1=現金値引きで購入) 4.0 3.0 価格の 1/6 を値引くことを示し,ポイント還元は現金値引き と額面上等しい条件と,その 1.5 倍を還元する条件,2.0 倍を還元する条件の 3 条件を設定した。また,商品金額 は比較的低額(ドライヤー:販売価格 3,000 円)と,比較的高額 (音楽プレイヤー:販売価格 30,000 円)の 2 つを設定した。 2) ポイント利用経験および 3) 認知的熟慮性−衝動性尺度は それぞれ 4 段階評定で回答を求めた。また,分析におい 2.0 1.0 1.0 1.5 2.0 1)本研究は第2著 者が2015 年度に 神戸学院大学に 提出した卒業論 文をもとにした ものである。 2)本研究は科研 費 (15K04048) および神戸学院 大学人文学部研 究推進費の助成 を受けた。
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