1 平成22年6月 稀少道具類に対する各和装産地の実態調査報告書

平成22年6月
稀少道具類に対する各和装産地の実態調査報告書
全国和装産地市町村協議会
調査研究部会
幹事都市 京都府京丹後市
平成21年度の調査研究部会事業として、“稀少道具類に対する各和装産地の状
況”をテーマに、加盟市町を対象とした実態調査を実施。「竹筬」や「力織機なら
びに関連部品」など、全国的に枯渇化が心配されている稀少道具類に関し、以下の
とおり各産地の状況や対策をまとめたので報告する。
1.調査概要
○調査目的:稀少道具類に対する各和装産地の状況把握
○調査対象:全協議会会員(18 市町)
○調査方法:アンケート調査
○調査期間:平成 22 年 2 月 16 日~平成 22 年 3 月 17 日
○調査回収:11 市町(回収率:61%)
○調査内容:①枯渇化が問題となっている織染道具や織機関連部品について
②各産地における稀少道具類対策について
2.調査結果
(1)各産地において枯渇化が問題となっている織染道具や織機関連部品などに
ついて
●11市町のうち、7市からは何らかの枯渇化が問題となっているとの回答を
得た。残りの4市町は、現時点において特段の問題は生じていないとする回
答であった。
●道具関係では、西陣織の竹筬、加賀友禅の刷毛の調達が困難になっている。
●織機関係では、西陣織、桐生織、丹後ちりめんに関係するダイレクトジャカ
ードならびに関連部品が不足している。前の 3 つに加え、博多織、浜ちりめ
ん、結城紬に関係する力織機や関連部品(機料品など)も入手困難になって
いる。
●枯渇化は、和装産業の低迷に伴うメーカーの製造中止および廃業が主な要因
である。
●織機関連部品は、品薄により価格が高騰している状況であり、廃業者の中古
品なども出回っているが、中古品であっても高額となっている。
●産地によっては、このまま枯渇化が進行すれば、近い将来、織物の製造自体
ができなくなると危惧している。
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【枯渇化が心配される稀少道具類】
産地名
道具・部品
の名称
道具・部品の用途など
枯渇化の要因
生じている問題
消耗部品の交換用
高橋式絣織機の
製 造 会 社 は 20
年程前に廃業し
てしまったの
で、消耗部品の
供給はなくなっ
ている。
消耗部品の補充ができ
ない。
メーカーの製造
中止および廃
業
自社の織機から不足の
部品を調達したり、部
品メーカーから調達し
ているが、部品メーカ
ーから調達不可能にな
った場合には、製造で
きなくなってしまう。
茨城県
常総市
高橋式絣織
機部品
群馬県
桐生市
(1)力織機関係
ルームプリ モーターの動力を織機
ー
に伝えるベルトの軸受
け
コンプリー
織機に動力を受けるベ
ルトの軸受け
ピッカー
ステッキの先端に取り付
け、シャットルを打ち、
又受け止める
ステッキバ ステッキの緩和用のベ
ンド
ルト
スピンドル ピッカーを受け止める
バッファー
緩衝材
フ ァ イ バ ー ピッカーに取り付け、ピ
張りステッ ッカーを打ち出す棒状
キ ( 合 板 の の板
ステッキ)
(2)ダイレクトジャカード関係
ソレノイド
ジャカードの横針に指
示を出す装置
フロッピーディクス
ドライブ(旧タイ
プ)
(3)機料品
シャットル
読み取り機
緯糸を織り込む為の道
具(柕)
ソフトシー
ル
シャットルの内側に貼
り、糸のゆるみを調整す
る髭状の物
石川県
金沢市
刷毛
引染(地染)に使用
良質の毛が少な
い。
輸入規制等
現状の刷毛は染料の含
み等が悪い為、作業がし
づらい。
滋賀県
長浜市
上管巻ヤー
ンガイド
管巻きの工程で巻き上げ
るときのガイド
メーカーの製造
中止
製造メーカーが少ない。
シャットル
のホルダー
ゴム
製織の工程で木管の固定
を行う
2
製造メーカーが少ない。
ピッカー
産地名
京都府
京都市
京都府
京丹後市
道具・部品
の名称
製造メーカーが少ない。
材質がもろい。
道具・部品の用途など
枯渇化の要因
生じている問題
竹筬
(西陣織)
経糸に通された緯糸の目
を詰める作業に使用する
櫛状の道具
和装産業の低迷
による竹筬製造
事業者の減少
近い将来、「綴織」など
竹筬が必要不可欠な織
物の製造ができなくな
る恐れがある。
機料品
(西陣織)
力織機、ダイレクトジャガ
ード等の部品(クランクシ
ャフト、ソレノイド等)
和装産業の低迷
による機料品製
造事業者の減少
近い将来、織物の製造に
必要不可欠な機料品が
調達できなくなる恐れ
がある。
ダイレクト
ジャカード、
ならびに関
連部品(タテ
針、ヨコ針な
ど)
従来の紋紙の代りに紋デ メーカーの製造
ータフロッピー・デスクを 中止および廃業
直接ジャガード織機に連
結し、コンピュータで織物
の柄や組織を制御するシ
ステム。ジャカード機の主
要部品。
力織機部品
ステッキの先端に取り付
けられ、シャットルを打
ち、また受け止めるもの。
力織機部品ならびに機
料品は全般的に品不足
で手に入りにくくなっ
ている。
品薄による価格や修理
代の高騰。
力織機関係の修理など
メンテナンスを行う技
術者の不足。
ピッカー
福岡県
福岡市
製織の工程でシャトル打
ちを行う
ステッキ
力織機部品
ピッカーに取り付け、ピッ
カーを打ち出す棒状の板。
シャットル
機料品
緯糸を織り込むための道
具。
博多織にお
ける自動織
機部品(全
般)
仕掛け材料、織機の全般的
な部品(鋳物、バネ、スプ
リング等)
和装産業の衰退
によるメーカー
の廃業
主に中古品で対応して
いるが、中古品を探すた
めに日数がかかる(使わ
なくなった織機を保存
している廃業した業者
等への連絡など)
。
中古品であっても、高価
である。
中古品が見つからない
場合、別注で別の業者に
新規制作させると、さら
に費用がかかる。
※茨城県結城市、群馬県伊勢崎市、鹿児島県鹿児島市、鹿児島県龍郷町からは、稀少道具類に
関する特段の問題は出ていない旨の回答を得た。
(2)各産地における稀少道具類対策(すでに講じている対策ならびに今後講じ
る予定もしくは検討している対策)について
●何らかの枯渇化が問題となっていると回答した 7 市のうち、対策を講じてい
3
ると回答したのは 4 市であった。問題となっている織染道具類の枯渇化につ
いては、問題の受け止め方や対策の必要性の認識度合いが違うことから、産
地によって異なる結果となった。理由としては、稀少道具類対策以外にも業
界内の課題(例えば、販路開拓、新規商品開発、後継者育成など)がたくさ
んあることから、その対策を優先して実施しているものと考えられる。
●京都府内の主な産地組合等で構成する「京都伝統産業道具類協議会(平成
20 年 9 月設立)」が、全国の産地と連携し、稀少道具類や原材料等の安定確
保を図る取り組みを推進している。京都市は、平成 21 年度において、伝統
産業道具類等確保事業として、協議会の活動に対し補助金(府 2,000 千円、
京都市 1,000 千円)を支出している。協議会は、「竹筬」を取り上げ、全国
の産地を対象にアンケート調査を実施し、全国産地のネットワーク化による
受発注システムを構築している(「竹筬」を制作できる体制が一定整い、受
注に向けた活動を推進)。また、
「竹筬」同様、筆刷毛や力織機および関連部
品などの受発注システムの構築を目指し、平成 22 年度以降も取り組むこと
としている。(別添資料参照)
●茨城県結城郡織物協同組合では、部品販売事業において、廃業した組合員の
古い織機を買い取って保存し、希望者に販売しているが、種類や数量に限り
があるため、長期間における供給は難しい状況となっている。平成 21 年度
の事業費は 757 千円、売上高は 30 千円で、平成 22 年度以降も実施予定で
ある。
●桐生市では、部品調達のため、廃棄すべき織機の部品を保存している。
●丹後織物工業組合では、フロッピードライブやフロッピーディスクの製造中
止などにより、既存のダイレクトジャガードを搭載したジャカード織機の継
続使用が困難になってきているため、織物事業者に対し新コントローラーへ
の置き換えを促すとともに、行政などに対し置き換えの普及に向けた支援を
要請している。
3.調査のまとめ
○「竹筬」や「刷毛」などの稀少道具類対策としては、職人の育成と原材料を安
定確保できる体制づくりが必要不可欠である。加えて、代替品の開発(「竹筬」
ならステンレス製のもの)を並行して進めていく必要がある。
○織機や関連部品などの安定確保対策としては、製造メーカーや機料品店と産地
組合などによる全国規模の情報ネットワーク構築が必要である。メーカーの製
造やストック状況、機料品店の部品取扱状況などを関係者間で情報共有し、中
古品の管理・供給体制づくりとあわせ、製造メーカーや機料品店の営業が成り
立つビジネスモデルの構築が必要と思われる。
○稀少道具類の安定確保体制の構築に取り組む「京都伝統産業道具類協議会」の
活動に注目するとともに、前に述べた全国産地のネットワーク化による稀少道
具類全般の共同受発注システムが構築できれば、問題の解決に一歩近づくと思
われる。
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○本協議会としても、このような取り組みに対して行政と連携を図りながら、必
要な支援策を検討する時期に来ていると思われる。
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