論文要旨 シェアされればそれで良いのか?

論文要旨
シェアされればそれで良いのか?
Ⅰ.目的
インターネット時代である現在、私たちの周りには多くの情報が溢れている。また、SNS
の普及により、さらに情報は拡散されている。インターネット上の広告には様々なものがあ
るが、中でも、拡散されやすく近年成長を遂げ注目されているのがインターネット動画広告
だ。私たちはこのインターネット動画広告に着目し、なぜ拡散されるのか、実際に消費者に
対してどのような影響を与えているのかを検証していく。また、情報化社会の背景から消費
者間のコミュニケーションが重視されるようになったことを踏まえ、インターネット動画
広告が拡散される過程とその効果について調査を行う。
Ⅱ.方法
以上の目的を遂行するため、以下の通り研究を行った。まず、Ⅱ章でインターネット時代
におけるマーケティング・コミュニケーションの手法について注目する。消費者間のコミュ
ニケーションが重要であることから、Ⅲ章で消費者間の相互作用であるクチコミの広がり
方について見ていく。Ⅳ章では、インターネット上でのクチコミ、すなわち SNS でのシェ
アが多く見られるインターネット動画広告の特徴について見ていく。そこから、実際にシェ
アされやすいインターネット動画広告とはどのようなものであるかを示す。Ⅴ章では、その
広告効果が消費者によってどのように評価されるのか、先行研究より軸を抽出し、そこから、
気分が「シェア意向」に影響を与えること、また「シェア意向」が高くても必ずしも「ブラ
ンド態度」が高いというわけではないという仮説を立てた。そこで、アンケートを行い、こ
の仮説を検証して、最後にⅥ章で考察を行った。
Ⅲ.論旨
人々にシェアされやすい広告表現の特長の一つが、インパクトがあるものである。イン
パクトには肯定的なものと否定的なものがあり、それらによって生まれる感情が「シェア意
向」にもたらす影響について調査を行う。また、その動画広告が与える影響について検証す
るため、以下の仮説を立てた。
仮説 1-1:肯定的気分が高いと「シェア意向」が高まる
1-2:否定的気分が高いと「シェア意向」が高まる
1-3:
「気分」の方が「メッセージに対する評価」よりも「シェア意向」に関係がある
2-1:
「シェア意向」と「広告態度」の間には何の関係も見られない
2-2:
「シェア意向」と「ブランド態度」の間には何の関係も見られない
2-3:肯定的気分が高いと「広告態度」が高まる
2-4「広告態度」は「ブランド態度」に正の影響を与える
この仮説を検証するため、2 つの動画広告を用いて調査を行った。1 つは、俳優の要潤と
女優の鈴木砂羽が出演するセクシーな CM でクレームが殺到し放送中止になった
「HOKTO」
の CM 総集編である。もう 1 つは、女優の大島優子が出演する「MINON」のブランドサイ
トで視聴することができる CM である。
前者はクレームが殺到したことからも分かる通り、
否定的気分を喚起すると思われる広告であり、後者は好感度の高い大島優子を起用し、落ち
着いた雰囲気で商品特性とともに親子の絆を表現したもので、肯定的気分を喚起すると思
われる広告である。この 2 つの動画を視聴してもらった上で、肯定的気分を測定する項目、
否定的気分を測定する項目、メッセージ評価に関する項目、
「広告態度」に関する評価項目、
「シェア意向」に関する項目、
「ブランド態度」に関する項目を質問項目として挙げ、大学
生にアンケートを行い、統計解析ソフト SPSS を用いて分析を行った。
Ⅳ.結論
以上のことから、インパクトがもたらす肯定的気分が高いと「シェア意向」は高いことは
支持された(仮説 1-1)が、否定的気分の因子が得られなかったため検証不可(仮説 1-
2)となってしまった。しかし、インパクトを与える要因は、
「メッセージ」よりも「気分」
の方が大きく関係していることは支持された。このことにより、仮説のときに考えた図は検
証できなかったが、広告は「メッセージ」よりも受け手に与える「気分」の方がシェアされ
る要因に繋がることが分かった。また、仮説 1-2 が検証できなかったため、
「シェア意向」
と態度の間には何の関係も見られないことも支持されなかった(仮説 2-1、2-2)
。しかし、
肯定的気分は「広告態度」と正の相関があり(仮説 2-3)
、
「広告態度」は「ブランド態度」
に貢献していることは支持された(仮説 2-4)。このことから受け手は肯定的気分、態度が
高くなければ、たとえシェアされたとしてもその広告や製品、ブランドに対する態度が高く
なるとは限らないことが分かった。