講演の冒頭で、富士通の開放特許を利用した小さな繊 維メーカーの開発

平成 27 年 5 月 20 日(水)
、日立地区産業支援センター大研修室において、中小企業の知的財産活用セミ
ナー(第 30 回スーパーヒッツクラブ)を開催し、48 名の方に参加いただきました。
■第一部「他社特許を活用したビジネスの創出」
講師:富士通㈱法務・コンプライアンス・知的財産本部
知的財産イノベーション統括部
ビジネス開発部長
吾妻
勝浩氏
講演の冒頭で、富士通の開放特許を利用した小さな繊
維メーカーの開発を紹介したテレビ東京の「ガイヤの夜
明け」
(平成 27 年 1 月 20 日放送)を視聴した。和歌山
県橋本市の繊維メーカー林撚糸は富士通のチタンアパ
タイトを練りこんだ和紙の撚糸でポロシャツを商品開発した。チタンアパタイトは紫外線によって 8 時
間で菌がなくなる。酸によって溶けてしまうため、化学繊維には練りこめない。ニットなど撚糸技術を
持った中小企業が、要素技術である富士通の光触媒を活用して、抗菌効果のある糸を開発し、販売会社
を使って新商品として世界に売り出す予定である。ものづくりとは、
「もの」と「つくり」に分けられる。
「もの」とは理(頭)の世界である。一方、
「つくり」とは気(手足)の世界である。理の世界=設計思
想が、企業にとって必要である。社外の特許やノウハウの積極的な導入を検討することが重要であり、
時間の短縮になる。新規ビジネスの規模とターゲット市場をみると、大企業は 100 億円の売り上げがな
いと事業化しない。中堅企業では 10 億円の規模である。中小企業は 1 千万円から 1 億円の売り上げで
ビジネスになる。大企業の特許は、優秀なものでも、大きなビジネス規模が期待できなければ活用され
ない。知財活用の考え方は、①誰に→企業の業態・規模を問わず、②何を→開放可能な技術シーズ、③
どのように→基本は実施許諾である。重要なことは、売却により長期の友好的関係構築を重視。権利行
使は前提としない。商品企画(出口戦略)を重視し、パブリシティを活用する。ライセンス契約締結が
最終ゴールでなく、スタートである。顧客の顧客を考える。知財を活用して製品開発する場合、中小企
業の向こう側にいるお客様のことを考える。特許は単なる「ドキュメント(仕様書)」である。活用して
こそ価値がある。新事業開発は四輪駆動車に例えられる。前輪は特許を所有する大手企業と許諾を受け
る中小企業である。後輪は自治体・金融機関と産業支援団体のコーディネーターで、後押し役である。
この話は、藤沢久美氏の「なぜ、川崎モデルは成功したのか?」に詳しく書いてあるので、ご覧いただ
きたい。
「さいたまモデル」はライセンスを活用した企業支援事業である。金機機関や支援機関がニーズ
調査を行い、技術説明資料を作成し、特許を「核」とした新商品開発のためのディスカッションを行う
手法で、開放特許と中小企業・ベンチャー企業をマッチングさせる。また、出口戦略の一つとして、川
崎市下野毛工業協同組合は専修大学経済学部の学生と連携して、特許を活用した商品開発のアイデアを
だしてもらっている。学生のアイデアで製品化できたものに川崎市の中小企業で開発したフレグランス
カードがある。名刺の大きさのカートに内蔵したチップに香水をしみこませ、名刺入れに入れておくと
名刺が芳香する。昨年 12 月には全国の 13 の大学を集めて全国大会を開催した。日立地区の企業にも特
許を活用したビジネス創出に取り組んでほしい。
■第二部「開放特許を活用した成功事例」
講師:㈱末吉ネームプレート製作所
代表取締役
沼上昌範氏
末吉ネームプレート製作所は、大正 12 年、川崎
市で創立した。中島飛行機と取引し、ゼロ戦の計
器類のネームプレートを制作していた。知的財産
を導入した理由は、金属ネームプレートの下請オ
ンリーから脱皮し、製品の差別化を図る必要があ
った。また、時間と資金負担を軽減する手段を探
していた。自社の事業領域内で製品化できるもの
を探していた。きっかけは、川崎市知的財産交流
会に参加したことである。川崎市の知的財産コーディネーターは、大企業に保有するシーズの提供を依頼
し、中小企業にあったものを選定して知的財産交流会を通じてマッチングを図っている。末吉では川崎市
産業振興財団が行っている「新分野・新技術支援研究会」のクローズ型の知財活用セミナーで、富士通の
特許「チタンアパタイト」と出会った。O-157による食中毒事件がきっかけで、外食産業向け機器へ
の抗菌化の要望があったが、抗菌効果がなく導入を断念していたが、チタンアパタイトと出会い、特許の
ライセンス契約をし、開発を開始した。末吉の塗料技術と富士通のチタンアパタイトを含有した無色の塗
料、光触媒、抗菌塗料SNP-αを開発した。この塗料は、透明のクリア塗料ですので、様々な製品にコ
ーティングすることができ、かつ、光触媒の作用によって抗菌の効果を持つ。抗菌に対するニーズが強い
病院などの設備や機器のほか、情報機器などの防汚・抗菌に応用できる。どこに売るのか→取引先メーカ
ーに売る。虎の威を借る→末吉の看板だけでは売れないので、富士通や川崎市を利用して売る。商談成立
→PCメーカーである富士通ルートで、キーボード抗菌や耐久試験も行ってもらえる。販売経路転換に活
路→メーカーへの売り込みからユーザー直の売り込みに変えた。たとえば、パソコン教室のキーボードな
ど。また、新たな需要として、キオスク端末やタッチパネルも考えられる。初代のSNP-αは、金属用
抗菌塗料、樹脂用抗菌塗料などがメーンで、抗菌塗膜が割れたことがあった。追加開発した塗料は、割れ
ない工夫をした。タッチパネルなどで折り曲げても折れないものを開発した。販売当初は、カバー貼り付
けによる誤作動はないのか、いたずらされたらどうするのか、実績はないのか、一番乗りは嫌いだなどの
つれない返事ばかりであった。川崎市が人脈を生かし、プレゼンに同行してくれ、活路が開けた。川崎信
用金庫では全店舗の両替機に採用してくれた。今では全国からの引き合いが活発化している。知的財産導
入のメリットとして、低リスク高リターン(開放特許は大企業の事業領域外の案件)
、時間・資金負担の軽
減、製品の差別化が可能、各種補助金の導入が可能、会社の存在感・付加価値のUP、本業との相乗効果
があった。開放特許導入のポイントは、自社の事業領域に近い分野に導入する。知財コーディネーターを
活用する。担当者任せにしない、社長がまず動く。富士通の開放特許を活用し、下請企業から自社製品を
有する企業への脱皮をどのように進めたかを具体的に、わかりやすくお話しいただきました。