古代文字から学ぶこと 認定講師 矢口道夫 私たちが漢字を読んだり書いたりする時、その漢字の成り立ちや意味を考えるこ とはほとんどありません。漢字はひらがなやカタカナと同じように言葉を書き表す道 具として考えられ、ある種の記号のようなものと思っているからです。 しかしながら、今から三千三百年前の中国で考案された漢字は、形・音・義という 三つの要素をそなえた独自の文字であり、アルファベットやハングルのように音を組 み合わせて単語を作らなければ意味を持たない文字と違い、一字でも明確な意味を含 んでいます。これを表意文字といいますが、映像として流れても一瞬で意味が理解で きる文字なのです。 また、この形・音・義は古代より変化をしてきましたが、連綿と現代に受け継がれ てきたことにより、作られた時代背景や人々の考え方を垣間見られる唯一の文字でも あるといえます。このような文字の成り立ちへの探検はまた漢字を学ぶ楽しさの一つ となるわけですが、そのためには漢字の作られた時代の文字である甲骨文・金文の知 識が不可欠であり、加えて旧字体の漢字を思い返すことも必要となってきます。 ところで、学校教育における漢字の習得は、学年別に配当された教育漢字一〇〇六 字を小学校六年間で学ぶことを目指しているが、どうしても書き取り帳中心の暗記学 習法に頼っているのが現状です。このことが配当漢字の多さからくる習得不足を生み、 字の形・書き順・送りがなといった規則の煩わしさなども相まって、高学年になるほ ど漢字嫌いの子どもたちが増えてくるという調査結果になるのではないかと思う。 また、従来から漢字は偏や旁(つくり)で分けて学習されてきたが、偏や旁は漢和辞 典のような区分にはとても便利であるが、漢字本来の意味については十分説明するも のではありません。やはり、漢字に含まれる字形の学習を通して、何を表しているの か、どのような意味を持っているかの理解を深めながら、漢字を学ぶことがよいと考 えています。 漢字は決して難しいものではありません。字形の意味するところを学ぶ新しい文字 学、すなわち漢字の成り立ちや意味を考えながら学習する方法が、いかに容易に漢字 の世界を広げ、いかに楽しくそこで遊ぶことができるかを、皆さんに体験していただ きたいと思います。
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