ひ ろ み ら 研 究 領 域

2
研究
研究活動報告書
いじめ防止への取り組み:
いじめの負の連鎖を断つために学校教育ができること
research
ひろみら研究領域
人文学部 教授 西野 泰代
専門分野:教育心理学
研究概要
いじめは学 校 現 場だけでなく、社 会 全 体に
各要因の相関を調べた結果、男女ともに傍観行動はピアプレッシャーと有意な正の相関を示し、仲
おいても重大な問題の一つである。いじめに
裁行動は自尊感情と有意な正の相関を示した。また、女子のみ、自尊感情と感情効力感が傍観行動と
対する有効な予防策の開発・構築は喫緊の社
有意な負の相関を示した。すなわち、男女ともに、ピアプレッシャーが高いほど傍観行動が多く、自尊
会 的 課 題であり、心 理 学をはじめとする社 会
感情が高いほど仲裁行動が多い可能性が示唆され、特に、女子では、自尊感情および感情効力感の
科学の担うべき重要な社会的使命だといって
高さが傍観行動の少なさと関連することが示された。
よいだろう。本研究は、いじめに対する有効な
さらに、個人特性の緩衝効果について検討するために性別で階層的重回帰分析を実施した結果、
予防策の開発をするうえで必要な基礎的デー
女子のみピアプレッシャーが傍観行動に及ぼす影響を感情効力感の高さが緩衝する可能性が示唆さ
タを収集することを目指すものである。
れた。一方、男子では自尊感情の高さが仲裁行動を促進する可能性も併せて確認された。これによ
ここ数年いじめを起因とする児童生徒の痛ましい事件が後を絶たず、子どもの健全な発達を支援す
る上でいじめを予防する取り組みは学校現場だけでなく、家庭や地域、社会をも巻き込んだ重要な課
り、いじめの予防には、生徒個々人の自尊感情および感情効力感を高めるような介入が必要であるこ
とが示唆された。
題となっている。欧米における最近の研究知見から、いじめの加害者と被害者という二者関係の中だ
けでいじめが起きるのではなく、その二者とその二者を取り巻く環境との相互作用の中でいじめが引
研究 2
き起こされる可能性について明らかになってきた。しかしながら、その相互作用のプロセスについては
本研究は、いじめ場面における傍観者行動
未だ解明の途にある。
を規定する要因について検討するため、いじ
本研究では、いじめが発生する心理的プロセスについてマイクロ(個人)とマクロ(集団)の両側面
め行動(加害、被害、傍観、仲裁)、個人特性
から検討をおこない、個人と環境(集団)との相互作用の中でいじめが発生するメカニズムを明らかに
(自尊 感 情、感 情 効 力 感、道 徳 不 活 性、共 感
することを目的とする。すなわち、いじめを規定する個人の要因が、学級集団の中でどのように形成
性)、および環境要因として学級風土、いじめ
され、それらがどのような状況時にいじめ行動を助長する要因となるのか、いじめ被害者を守る行動を
否定的学級規範、および教師の自律性支援に
促進する要因となるのかについて、学級集団の状態と個人要因との相互作用に注目して検討する。
ついてそれぞれ質問紙を用いて調査した。対
いじめ行動(加害、被害、傍観、仲裁)および個人の特性や学級集団の特徴について質問紙調査を
象は小学 4 年生から中学 3 年生までであった。
実施して基礎的データを収集することにより、対象とする集団の状態を把握する。調査対象は、小学
学校段階別に各要因の相関を調べた結果、
4 年生から高校 3 年生までの9コホート、調査時期は 10∼12 月であった。
成果要旨
小学生中学生ともに傍観行動に対してピアプレッシャーと道徳不活性が有意な正の相関、いじめ否定
的学級規範が有意な負の相関を示した。また、仲裁行動に対して小中学生ともに自尊感情および共
感性が有意な正の相関を示した。さらに、小学生のみ、仲裁行動に対してピアプレッシャーといじめ否
研究1
定的学級規範が有意な正の相関を示した。これにより、小学生では学級内にいじめを否定する雰囲気
本研究は、いじめにおける傍観者行動について検討するために、自尊感情と感情効力感という個人
を作り出すことでいじめの仲裁行動を促進させる可能性が示唆された。また、小中学生ともに個人の
特性と周囲の仲間からの圧力であるピアプレッシャーがいじめの起きている状況において傍観行動と
自尊感情や共感性を高めることでいじめの仲裁行動を促進する可能性が示唆されたとともに、集団内
仲裁行動の双方とどう関連するかについて調査したものである。本研究では、ポジティブな個人特性
での道徳意識の活性化についてあらためて考える必要性も併せて示されたといえよう。
がいじめ傍観行動を抑制するだろうという仮説について実証的な検討を行った。調査対象は高校生
であった。
27
ひろみらプロジェクト 2014 報告書
地域の未来を創る 3 つの取り組み/研究
28