スマートフォンによる睡眠時無呼吸症候群自己診断アプリケーションの提案 Proposal of Self-Diagnosis Application for The Sleep Apnea Syndrome With a Smartphone データベースシステム学講座 指導教員: 村田 嘉利 はじめに 現在日本において,睡眠時に気道が塞がり,何度 も呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群患者は, 人口の 4 %から 5 %といわれている 1) .しかし,睡 眠時無呼吸症候群を検出するためには,血中酸素濃 度計や脳波計などの多くの装置を身体に取り付けな ければならず,手軽に自己診断することが難しい. 本研究では,スマートフォンで加速度センサーと マイクからいびきと体動を測定し,睡眠時無呼吸症 候群を手軽に自己診断するアプリケーションを提案 する. 2. 先行研究および関連研究 被験者 3 名に対してデータの取得を行った.3 名 の取得したデータを分析した結果,いずれの被験者 においても,以下の 3 つの特徴が見られた. 1. 図 2 の (1) のように,いびきといびきの間に 10 秒程度の無音が続いている.その時,無呼吸状 態が発生しており,図 2 の (2) のように,血中 酸素濃度が低下していく. 2. 10 秒程度の無音後,呼吸を再開するために図 2 の (3) のように,いびきが発生する.息を吸い 込む時,大きく息を吸い込むため,大きないび きと,図 2 の (4) に示す,1m/s2 以上の大きな 体動が発生する. 3. 無呼吸状態からいびきと体動が発生すると,図 2 の (5) のように血中酸素濃度が元に戻ってい 音量 血中酸素濃度 (5) (2) 100 95 60 80 30 75 20 70 (3) (1) 65 (4) (%) 85 40 血中酸素濃度 90 50 測定環境 60 10 55 0 50 (秒) 図 2 睡眠時無呼吸症候群患者の血中酸素濃度,い びきの音量および体動の変化例 1 音量 加速度 血中酸素濃度 70 音量 100 95 60 90 50 85 40 80 75 20 70 65 (1) 10 (%) (*10m/s^2) 30 血中酸素濃度 ・ 加速度 (db) 測定環境を図 1 に示す.データの取得にはスマー トフォンの加速度センサーとマイクを利用し,体動 といびきを測定する.睡眠時の体動を取得するため に,図 1 の (1) のように,スマートフォンを腹上部 に置き,データ取得を行なった.スマートフォンを 腹上部に固定するために,ポケット付きの腹巻を利 用した.また,無呼吸状態での体動といびきのデー タの特徴を捉えるために,図 1 の (2) のように,パ 加速度 70 (*10m/s^2) 3.1. データ測定 無呼吸時のデータの特徴 3.2. ・ 加速度 (db) 3. 鈴木 彰真 ルスオキシメーターを用いて血中酸素濃度を測定し, スマートフォンで取得したデータと対比させ検証を 行った. 音量 呼吸検知に関する研究としては,Kinect を寝室の 天井に設置し,Face Tracking 機能を利用するもの がある 2) .しかし,呼吸が止まっていても唇が動い ていると呼吸をしていることになり,無呼吸状態を 検出できない. 一方,先行研究として本研究室では腹上部に置い たスマートフォンを利用し,加速度の値といびきの 音量から無呼吸状態の推定を行う方法を提案してい る 3) .この研究では,1 人の呼吸データを用いて分 析を行っており,多くの患者に適用できるか不明で ある.本研究では複数人のデータを基に睡眠時無呼 吸症候群の判定方法を導き出す. 佐藤 永欣 1 12 23 34 45 56 67 78 89 100 111 122 133 144 155 166 177 188 199 210 221 232 1. 0312011070 下上 恭輔 60 55 50 1 13 25 37 49 61 73 85 97 109 121 133 145 157 169 181 193 205 217 229 0 (秒) 図 3 睡眠時無呼吸症候群患者の血中酸素濃度,い びきの音量および体動の変化例 2 図 1 測定環境 く.いびきが発生し,息を吸い込むことで血中 酸素濃度が回復していく. また,今回のデータ分析の結果,息を吸い込もう とするために図 3 の (1) のように,いびきが起こる 前に 0.5 から 1m/s2 程度の小さな体動が複数回発生 する場合もあることがわかった. 無呼吸検出アルゴリズム 3.3. 以上の無呼吸時のデータの特徴に基づきアルゴリ ズムを考案した.まず,音量を計測し,音量の上昇 が見られた場合,その回数をカウントする.1分先 まで音量の上昇をカウントし,1 分間に 5 回上昇が 見られた場合,分析用にデータの保持を開始する.5 回見られなかった場合,いびきによる音量の上昇で はないとみなし,データを破棄する.このようにす ることで,いびきをかいていない場合の無駄なデー タ分析を回避する.データの保持を開始した場合,1 分間音量の上昇がなくなるまでデータの保持を継続 する.1 分間音量の上昇がなくなった場合,無呼吸 のデータ分析を行う.無呼吸の分析では,いびきと いびきの間の無音時間を計測するために,音量が下 がった場所から次の音量が上がるまでの時間をカウ ントする.10 秒以上無音が続いていた場合,音量が 上がった場所から前後 5 秒の体動を分析し,0.5m/s2 以上の体動が見られれば無呼吸が起こっていると判 定する. 4. 提案システム システム構成を図 4 に示す.利用者は,図 4 の (1) のように,ポケット付きの腹巻にスマートフォンを 入れ,腹上部に固定し利用する.図 4 の (2) に示す ように,データ取得を開始すると,音量と加速度の 取得を開始する.取得した時間,音量,加速度は図 4 の (3) に示すように,csv ファイルで出力を行う. また,図 4 の (4) に示すように,取得した音量と加 速度を提案したアルゴリズムを用いて,無呼吸の分 析を行う.分析結果は図 4 の (5) に示すように,csv ファイルとして,いつ,何秒間無呼吸状態が起こっ ていたかを出力する.無呼吸が検出された場合,図 4 の (6) に示すように,データをグラフで表示する. 無呼吸がいつ,何秒間起こっていたかを図 5 のよう スマートフォン (4) デ ータ 取得開始 加速度、音 音量 量の計測 (2) ・ 腹巻 (1) 加速度 取得 無呼吸状態 か判定 利用者 (3) 図 5 無呼吸と判定された 図 6 音量と加速度の 時間と秒数の一覧画面 グラフ表示画面 に確認することができ,見たい時間を選択すると図 6 のようにその時の音量と加速度のグラフが表示さ れる. 5. 評価実験 睡眠時に血中酸素濃度が低下する人 1 名と低下し ない人 1 名に,本アプリケーションを利用してもら い,評価を行った.血中酸素濃度が低下する人の場 合,無呼吸の起こった回数として,165 回と判定さ れた.血中酸素濃度が低下しない人では 16 回と判 定された.人数は多くないが,結果に違いが見られ た.しかし,血中酸素濃度の低下が見られない,つ まり睡眠時無呼吸でない被験者についても 16 回の 無呼吸が起きていると判定した.これは,スマート フォンのマイクが布団にすれる音を取得していたた めと考えられる.今後,この誤検出に対応する必要 がある. 6. まとめ 本論文では,スマートフォンを用いて睡眠時無呼 吸症候群を自己診断できるアプリケーションを開発 した.いびきといびきの間に発生する無音と無呼吸 後の体動から睡眠時無呼吸と判定する.今後,本ア ルゴリズムで判定した無呼吸の結果とパルスオキシ メーターで測定した血中酸素濃度を照合し,検証す る.また,今回の評価実験ではスマートフォンのマ イクにふとんがすれる音が原因と考えられる誤判定 が発生しているため,誤検出を軽減する方法を考察 する. 参考文献 (5) 結 結果 (6) 果 CSV を ファイル グ ラ フ データ で CSV 表 ファイル 示 図 4 システムの構成 1)井上 雄一,高齢者の睡眠を守る―睡眠障害の理 解と対応,ワールドプランニング,2014 2)吉武伸泰ほか,”Kinect センサを用いた医療用 患者監視システムにおける体勢検知機能の実装 ”,2013 情報処理学会研究報告 3)佐々木麻衣ほか,”スマートフォン利用した睡眠 時無呼吸症候群簡易検知システムの提案 ”,第 75 回情報処理学会全国大会,4ZG-8 (2013).
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