大阪府理学療法士会 大阪府理学療法士会 豊能ブロック 新人症例発表会

ISSN 2185-6826
豊能ブロック学術症例報告大会誌
大阪府理学療法士会
豊能ブロック
新人症例発表会
日時:平成 27 年 2 月 15 日(日)9:00~13:00
会場:大和大学 講義棟 3階 大講義室 B
主催:公益社団法人 大阪府理学療法士会 豊能ブロック
“笑顔を忘れずに!!
笑顔を忘れずに!!”
!!”
(公社)大阪府理学療法士会 豊能ブロック
新人症例発表会 大会長
ブロック長 山根 章
(大阪府済生会吹田病院)
最近、父親や親戚が入院中や退院後の介護保険制度でのデイサービスの利用などで理
学療法士・作業療法士からリハビリテーションを受けたりする機会が続いています。何
と因果な仕事でしょうか。これからもっと機会が増えるんでしょうね・・・。
職場以外の現場でのリハビリテーションについて見聞き、考えたりする中で、しばし
ば聞かれたのが、「今日は機嫌悪かった」とか「今日は疲れているのか、挨拶の声が小
さかった」などリハビリ内容以外の療法士の言動や表情に関することでした。よく見て
いるというか、見られているんですね。
ところで皆さんの職場にも日本理学療法士協会から配布されたオレンジと緑のポス
ターが貼ってありませんか!?
オレンジの方は療法室でロフストランド杖と歩行器を
持って立位を取る2人と車椅子に坐った3人の高齢者と理学療法士が並んだもので、
「理学療法士は“身体づくり”の専門家です」と書かれています。 一方、緑の方は自
宅前で高齢者が手すりと杖を持ち、理学療法士が腋窩部に手を添えて立つ姿のもので、
「理学療法士は“生活動作”の専門家です」と書かれています。
“身体づくり,生活動作の専門家”として、ポスターのように“笑顔を忘れずに”症例
(対象者)の方にも“笑顔”を与えられるような仕事が出来れば良いですね。
豊能ブロックの会員数も年々増加して平成 26 年 7 月現在で 800 名の大台を超える大
所帯となりました。3年目以内が約3割,5年目以内で約半数を占める若い会員構成で
ある現状を踏まえると“新人教育”は重要な継続課題で、「新人症例発表会」もその一
環事業として行われています。 また今回発表された演題より各セクションごとに優秀
演題を選出します。その中から最優秀演題を選出して、7月20日に開催予定の大阪府
理学療法学術大会の「ブロック推薦演題セッション」で発表していただく予定です。
“ブロックらしさ”を意識して、みんなで仲間を育てていただけるように、当日会場
での質問も否定・批判・アラ探し的なものでなく、わかりやすく温かい指導的なコメント
を心掛けていただき、有意義な場となるように是非ともご協力をお願い申し上げます。
1
【過去の巻頭言タイトル・要約】
平成 22 年度: “今でも『夢』と『理想』持って働いていますか!?
“今でも『夢』と『理想』持って働いていますか!?”
!?”
動機や方向性は違うにせよ“
「理学療法士」になりたい”という『夢』や
『理想』をもって養成校に入学→卒業→国家試験合格して“理学療法士”に
なって、
「理学療法業務」に追われる中、
『夢』や『理想』を持続して働いてい
ますか!?
平成 23 年度: “選ばれる”理学療法士になるために
症例は病院(医師)や施設を選ぶことは、ある程度出来ても、基本的に理学
療法士は選べません。合わなくても機嫌を損ねないように厳しい指摘や批判は
しないでしょう(でも支払金額は同じです)
。サービス業のように「選ばれる」
存在になりたいですね。
平成 24 年度: 症例を“褒めて” “伸ばして”いますか!?
“褒める”ことは症例にとって大切なことです。褒められて嫌な気分になる人
はいないし、褒めてもらえれば、さらに“頑張ろう”って気にもなるか
なって・・・」
「人間」相手の理学療法、適度に“褒めて”あげて、能力を引き出しましょう。
そして表情や言葉遣いにも気をつけてください。きっちり見られてますよ。
平成 25 年度: “いつやるの!?
“いつやるの!? → “今でしょう!!
“今でしょう!!”
!!”
新しい知識・技術を習得して臨床へ出て、経験を積み重ねた中から選択した
1症例について時間をかけて、考えて抄録作成から発表までをまとめた経験は、
非常に良い機会になり、努力と苦労を“倍返し”出来るような発表と、経験を
活かして症例へ最高の“お・も・て・な・し”が出来るように期待しています。
2
参加者へのお知らせ
1.参加費について
無 料
2.参加者受付について
受付は 9 時 00 分より、講義棟 3 階エレベーターホールにて行います。
3.質疑応答について
1)症例発表時の質問については、座長の進行・指示に従って下さい。
指名されましたら、必ず先に施設名と氏名を告げてから、簡潔明瞭に質問する様
に心掛けて下さい。
2)発表時の質疑応答時間は限られています。
出来なかった場合などは、当該セクション終了後に演者が質疑応答室に一定時間
(10 分程度)待機していますので、そちらで質疑応答を行ってください。
4.新人教育プログラム認定について
本大会は新人教育プログラムのポイント加算の対象にはなりません。
5.留意事項について
1)発表会場内は、原則として飲食禁止です。
昼食は指定された場所にて食べていただきます様、ご協力お願いいたします。
2)発表会場内での携帯電話の使用はご遠慮下さい。
3)ごみは各自持ち帰りいただくようお願い致します。
座長へのお知らせ
1.大会当日は、座長も受付を行なって下さい。
2.座長は、該当セクション開始 10 分前までに「次座長席」に御着席して下さい。
3.発表時間は7分以内、質疑応答は 3 分以内で時間設定しております。担当セクション
の進行に関しては、全て座長に一任いたします。必ず、予定時間内に終了いただくよ
うにお願い致します。
4.質疑応答では、質問者へ所属と名前を述べること、簡潔明瞭に質問を行なうように促
していただきますようお願い致します。
5.発表の内容が抄録と大幅に異なる場合は、その場で建設的・指導的な注意を行いつつ、
セクションを進行してくださいますようお願い致します。
3
演者へのお知らせ
1.
演者は、スライド受付(講義棟 3 階エレベーターホール)で発表用データを提出して
ください。セッション 1 の演者は、9:00 にスライド受付を行います。その他の演者は、
発表予定時間の 60 分前までに受付を行ってください。
2.
発表データは、データ名を“演題番号”
“発表者氏名”に変更し、USB メモリーでご持
参していただき、所定の機器で試写と動作確認を行ってください。なお USB メモリー
は、最新状態のセキュリティーソフトで必ずチェックして提出してください。
3.
動画を使用される場合は個人 PC をご持参ください。なおプロジェクターのコネクタ-
は D sub15 ピン(一般的な RGB コネクタ)です。それ以外のコネクタ-、および電
源コードに関してはご持参ください。
4.
演者は、該当セクション開始 10 分前までに「次演者席」に着席して下さい。不測の事
態で発表時間に間に合わない場合には、速やかに大会受付まで御連絡下さい。万一、
御連絡のないまま時間までに来られない場合は、発表を放棄したものと判断致します。
5.
発表時間は7分以内、質疑応答は 3 分以内で時間設定しております。
6.
スライド操作は、ご自身でパソコンを操作してください。
7.
発表内容は、抄録と相違の無いようにお願い致します。
8.
発表時間の終了 1 分前にベルが 1 回、終了時にベルが 2 回鳴ります。ベルが 2 回鳴り
ましたら、速やかに発表を終了して下さい。
9.
セクション終了後、質疑応答室で一定時間待機(10 分程度)していただきますようお
願い致します。
10. 発表は Windows コンピューターを使用し、Macintosh はご使用になれません。コンピ
ューターは大会側で準備致します。大会側で使用する OS は Windows7、プレゼンテー
ションソフトは Microsoft PowerPoint 2010 です。
11. 文字化け、画面レイアウトのバランス異常を防ぐため、フォントは PowerPoint に標準
設定されている下記のフォントを推奨します。
日本語:MS 明朝・MSP 明朝・MS ゴシック・MSP ゴシック
英語:Arial・Century・Times New Roman
*学会当日、データの文字化け、画面レイアウト異常などは主催者側で修正しかねま
すので事前に十分ご確認ください。
12.静止画は JPEG 形式をご使用して下さい。
13.演者は新人教育プログラムのうち「症例検討」の単位が認められます。申請希望され
る方は新人症例発表会運営委員までお問い合わせ下さい。
4
交通のご案内
<大和大学アクセスマップ>
<大和大学周辺アクセスマップ>
5
会場案内図
・ 大学には駐車場がないため,お車でのご来場はご遠慮ください。
・ お車での送迎は、周辺の交通の妨げになりますので、お控えください。
・ 教室内での飲食は可能ですが、ゴミは各自でお持ち帰りください。
・ 大学敷地内は全て禁煙となっております。
6
フロア案内図
7
プログラム
大会長挨拶
9:20~9:30
豊能ブロック ブロック長 : 大阪府済生会吹田病院
運動器 1
座 長 : 市立吹田市民病院 都留 貴志
山根 章
9:30~10:10
1.脊柱管狭窄症に対する腰椎後方固定術後に健側下肢痛を呈した一症例
東豊中渡辺病院 三輪 慶太
2.膝蓋骨骨折後、CRPSを合併した症例を担当して
大阪府済生会吹田病院 木本 涼太
3.膝蓋骨開放骨折後に二度の授動術を施行した一症例~関節可動域の改善に難渋した症例~
医療法人マックシール巽病院 松下 慶紀
4.肘関節自動伸展可動域制限の改善が得られた一症例
篤友会リハビリテーションクリニック 赤尾 祥吾
脳血管 1
座 長 : 国立循環器病研究センター 太田 幸子
10:20~11:10
5.長下肢装具のカットダウン時期に難渋した脳梗塞の一例
彩都リハビリテーション病院 納谷 友季子
6.Pusher現象に着目し、長下肢装具による介入を行った一症例
彩都リハビリテーション病院 北脇 のぞみ
7.移乗動作の介助量軽減を目指した脳卒中患者の経験
関西リハビリテーション病院 梅澤 晴香
8.歩行速度が低下し,治療プログラムの再考を要した成人片麻痺の一症例
豊中平成病院 山中 敏行
9.非対称な立位の改善目的にペダリング運動を実施した症例
協和会病院 長谷 衣里
8
その他 座 長 : 株式会社フルーション地域支援事業部医療サービス課 瀬戸口 大介 11:20~12:00
10.顕微鏡的多発血管炎を呈し早期から理学療法を介入した一症例
大阪府済生会吹田病院 奥本 悠人
11.包括的介入により良好な転帰をとった重症熱中症患者
大阪府済生会千里病院 伊藤 勇基
12.退院支援を目指しアプローチを行ったが、全身状態悪化により死亡に至った一症例 ~寝返り動作に着目して~
坂本病院本院 上地 裕也
13.チームケアにより在宅生活の支援を行った筋萎縮性側索硬化症の一症例
やわら訪問看護ステーション 関本 英貴
脳血管 2
座 長 : 協和会病院 山口 修司
12:10~13:00
14.統合失調症、及び外傷性前頭葉障害が理学療法介入を困難にした症例の経験
坂本病院分院 小野寺 葵
15.階段昇降自立を目指した橋出血の一症例~片脚立位に着目して~
関西リハビリテーション病院 寺岸 香織
16.復職へ向けて屋内外の歩行自立を達成したワレンベルグ症候群を呈した一症例
関西リハビリテーション病院 田中 志織
17.脊髄硬膜下出血によりL4以下の対麻痺を呈した症例-屋内杖歩行の自立に至った一例-
関西リハビリテーション病院 清水 将之
18.延髄外側の出血性梗塞によりWallenberg症候群のlateropulsionに加え深部感覚障害・運動麻痺を
呈した症例
国立循環器病研究センター 竹中 悠司
閉会の辞
13:00~
準備委員長 : 株式会社フルーション地域支援事業部医療サービス課 真田 将幸
9
脊柱管狭窄症に対する腰椎後方固定術後に
脊柱管狭窄症に対する腰椎後方固定術後に
健側下肢痛を呈した一症例
健側下肢痛を呈した一症例
東豊中渡辺病院
腱反射:左右差なし
三輪慶太、清水由希子、松岡伸幸、中江徳彦
感覚(右/左)
:左大腿外側部軽度鈍麻(10/8)
Key words;腰椎後方固定術、術後健側下肢痛、
疼痛:歩行時の左大腿外側。左腸腰筋、縫工
外側大腿皮神経
筋、殿筋群、外旋筋群、大腿筋膜張筋に圧痛
【はじめに】
を認めた。外側大腿皮神経に強い圧痛を認め
脊柱管狭窄症は下肢の痺れや痛み、間欠性
たがティネル徴候は陰性であった。腸腰筋、
跛行を主症状とする退行変性疾患で、手術適
縫工筋伸張時に左大腿外側部痛を認めた。
応となる場合も少なくない。今回、腰椎後方
cobb 角:Th11-L2、右凸側弯:術前 27.6°、
固定術後に患側の下肢症状や間欠性跛行は改
術後 24.5°。L2-L5、左凸側弯:術前 23.2°
善したものの、健側下肢に疼痛が出現した症
術後 9.5°。
例を経験した。本症例の理学療法経過を疼痛
腰椎前弯角(L1 上縁と S1 上縁のなす角):術
に関する考察を加え報告する。
前 55.1°、術後 48.8°
【症例紹介】
ROM-t(右/左)
:股関節、屈曲(120°/120°p)
症例:77 歳 男性
伸展(15°/10°p)外転(10°/15°)内転
主訴:歩行時の左大腿外側部痛
(50°/45°)外 旋 (45 ° /50° ) 内旋 ( 30°
現病歴:約 2 年前より徐々に増悪する右下肢
/35°p)
の痺れ、間欠性跛行を認めた。平成 26 年 6 月
MMT
(右/左)
:体幹屈曲 3-、
股関節:屈曲(4/4-p)
上旬、A 病院で腰椎左凸側弯症、L3/4 脊柱管
伸展(4/4-)外転(3+/3-p)内転(4-/2+)、
狭窄症、右 L4/5 椎間孔狭窄に対し、L3/4、L4/5、
外旋(4/4-)膝関節伸展(4+/4+)、足関節:
左侵入 Oblique lumber interbody fusion を
背屈(4/4)底屈(4/2+)
施行。L3-5、左腸骨移植により前方固定、金
立位姿勢:骨盤左後方回旋かつ左寛骨前傾位
属により後方固定。加療により術前の主症状
で、右に比べ左股関節軽度外旋位。右片脚立
の改善を認めた。しかし、術直後から左大腿
位保持は 30 秒以上可能。左はトレンデレンブ
外側部痛が出現し、立位も困難であった。術
ルグ徴候及び疼痛の増悪認め、保持時間は 2
後 4 週で杖歩行が可能となり、6 月下旬に前
~3 秒程度。
医を退院。残存する左大腿外側部痛の改善を
歩行能力:杖歩行は自立していたが、左の
主訴として、7 月上旬より当院にて理学療法
Initial Contact から Mid Stance にかけて
を開始した。
Visual Analogue Scale(以下 VAS)で 6 程度の
【理学療法経過】
強さの左大腿外側部痛が出現し、トレンデレ
<初期評価(術後 5 週)>
ンブルグ徴候を呈していた。独歩は疼痛憎悪
10
のため困難であった。
を実施した。左立脚期における骨盤前傾に対
経過:外側大腿皮神経の強い圧痛および腸腰
しては、股関節周囲の筋力増強訓練を実施し
筋、縫工筋伸張時に大腿外側部痛を認めた。
た。その結果、MMT で体幹屈筋 3、股関節伸展
同神経の絞扼障害と考え、神経走行部位周辺
(4/4)外転(4-/3+)
、内転(4-/3-)外旋(4/4)
の軟部組織の柔軟性向上を目的に、腸腰筋、
と筋力の向上を認め、歩行時における左下腿
縫工筋に対する温熱療法、マッサージ、スト
外側部痛は軽減(VAS:3)した。
レッチングを実施した。その結果、左股関節
【考察】
の伸展可動域が改善し、歩行時の左大腿外側
腰椎後方固定術後に一時的な神経走行の偏
部痛は軽減(VAS:2~3)した。しかし、7 月
位及び緊張増加から外側大腿皮神経障害が合
中旬より新たに左下腿外側部に荷重時痛
併する事例が先行研究で報告されている
(VAS:4)が出現した。運動量を減らし 1 週間
本症例において術後に出現した左大腿外側部
程経過観察したが、疼痛の増悪(VAS:6)を
痛は、腰椎左凸側弯症に対して行われた正中
認めた。
方向への整復操作により、外側大腿皮神経に
<中間評価(術後 7 週)>
先行研究で示されていた症状が生じたものと
腱反射、感覚:左右差なし
推察された。大腿外側皮神経は腰椎から腸腰
疼痛:左下肢への荷重で左下腿外側部痛
筋に沿って走行し、鼠径靱帯と縫工筋起始部
(VAS:6)出現。さらに骨盤前傾、股関節内
の間を通過する。本症例の術前の脊柱アライ
旋位での荷重で増強(VAS:8)を認めた。左
メントから、腸腰筋が短縮位にあり柔軟性の
下腿外側部に局所の炎症所見は認めず、圧痛
低下が生じている事が推察され、整復操作に
は軽度であった。腹臥位での右股関節伸展抵
よって術後に伸長位となることで左股関節伸
抗運動にて、同部位の疼痛、骨盤の前傾・右
展制限を生じていると考えた。これに対し温
後方回旋、脊柱の左側屈が出現した。
熱療法やストレッチングを実施することで筋
ROM-t:股関節伸展(15°/15°)
の柔軟性が向上し、疼痛は軽減した。
MMT:
1)
。
体幹:屈曲 3-、股関節:屈曲(4/4-)
7 月中旬より出現した左下腿外側部痛は骨
伸展(4/4-)外転(3+/3)内転(4-/2+)外旋
盤の前傾により疼痛の増悪を認めた。骨盤前
(4/4-)膝関節:伸展(4+/4+)、足関節:背
傾による腰椎伸展負荷の増大に伴い左腰椎椎
屈(4/4)、底屈(4/2+)
間孔の狭窄が生じることで左下腿外側部痛が
立位姿勢:片脚立位は疼痛増悪により困難。
出現していると考えた。また、助長する要因
歩行能力:左立脚期において骨盤前傾増大に
として主に体幹屈筋及び股関節伸展筋、外旋
伴い左下腿外側部痛(VAS:6)が出現。疼痛
筋の筋力低下を考え、筋力向上を図ることで
により連続歩行時間は 5 分程が限度であった。
歩行時の左下腿外側部痛は軽減した。
経過:左下腿外側部の疼痛は、骨盤前傾に伴
~引用文献~
う腰椎伸展負荷の増大により生じていると考
1)豊原一作・他:腰椎すべり症に対する後
えた。腰椎伸展負荷の軽減を目的に、体幹屈
方椎体間固定術-すべり整復と非整復例
筋力の増強訓練及び、腰部術創周囲の軟部組
の 検 討 - . 整 形 外 科 と 災 害 外 科 42 :
織の柔軟性低下に対し温熱療法、マッサージ
1116-1118、1993.
11
膝蓋骨骨折後、CRPS
膝蓋骨骨折後、CRPS を合併した症例を担当
を合併した症例を担当して
症例を担当して
大阪府済生会吹田病院
【理学療法評価】
リハビリテーション科
<初回手術(2014/2/21)後>
木本涼太
安静時痛自制内、しびれなし。下肢自動挙
上(SLR)は困難。足関節運動良好。触診にて大
Key words;CRPS、運動療法、関節可動域制限
腿直筋の筋緊張亢進あり。病棟 ADL は車いす
【はじめに】
使用にて可能(FIM:112/126)
。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは局所に
<再手術(2014/3/6)後>
起こった損傷に引き続いて発症する疼痛を主
安静時痛自制内、しびれなし。SLR は許可
とする病態である。今回、長期間のギプス固
後練習し徐々に可能に。収縮時痛(+)。足関節
定により入院中に CRPS-type1 を合併し、理学
運動良好。触診では大腿直筋、大腿筋膜張筋、
療法実施に際して難渋した症例を担当した。
腸腰筋の筋緊張亢進あり。筋力は MMT で左股
運動療法と物理療法の実施により症状の改善
関節内外転 3+、左足関節背屈 3+、底屈 2+、
がみられたことを報告する。
健側下肢は MMT4~5 レベル。
【症例紹介】
<抜釘・洗浄(2014/5/8)後>
・60 歳女性(身長 160 ㎝、体重 60 ㎏)
安静時痛 NRS3~5。左膝熱感(+)、左足部の
・診断名:左膝蓋骨骨折(横骨折、転移あり)
浮腫(+)、足指・足関節運動によって膝への疼
・既往歴:2 型糖尿病、母指 IP 関節固定
痛(+)。SLR 困難、Quad setting での疼痛自制
・現病歴:平成 26 年 2 月 3 日に濡れた地面で
不可。ROM は左膝関節屈曲 15°、伸展 0°。
滑り転倒受傷。2 月 20 日 ORIF(tension band
膝蓋骨周囲の痛覚過敏(+)。膝蓋骨の可動性は
wiring)施行。その後骨片離開あり 3 月 6 日再
上下・左右とも著明に低下、脛骨の前方・後
手術、感染疑いのため 5 月 7 日に抜釘・洗浄。
方引き出しの可動性もほぼ見られなかった。
術後は主治医の指示のもと理学療法を実施
膝蓋骨周囲~大腿前面の皮膚は光沢感・柔軟
(図 1)。遠位骨片は小さく脆弱な骨片であり
性低下(+)。
筋力は MMT で左股関節内外転 3-、
固定性は弱く、等尺性収縮の許可はあったが、
伸展 3-、左足関節背屈 3+、底屈 2 レベル。タ
積極的な実施は控えるようにとの指示であっ
ッチダウンにて疼痛自制不可であった。
た。骨癒合不良で、超音波治療を導入したが、
<退院(2014/6/29)時>
退院までに良好な骨癒合は得られなかった。
2月21日
5月8日
5月13日
5月16日
安静時痛 NRS1~2。熱感・浮腫(+)、足関節
運動による疼痛は軽減。
左膝関節屈曲 ROM60°。
5月26日
ギプス固定
膝蓋骨の左右への可動性は改善あり、上下は
シーネ固定
伸展装具
制限残存。筋力は左股関節外転 3、伸展 3-、
大腿四頭筋等尺性収縮 ※
足関節背屈 3+、底屈 2+。35~40 ㎏程度まで
膝関節ROMex
荷重練習
荷重可能。数m伝い歩き可能。屋外車いす、
※腿四頭筋等尺性収縮は3月6日の再手術後10日間は禁止期間
(図 1.リハプロトコール)
屋内ずり這い・伝い歩き併用にて自宅退院。
12
【治療及び経過】
なかった時期もあり、筋力低下が進んでしま
<初回手術~抜釘>
ったことも一つの要因であると思われる。
患部外トレーニング、平行棒内免荷歩行、
疼痛が軽減した要因としては、ギプスの除
禁止期間を除いて疼痛内での Quad setting、
去による刺激の増加や炎症の改善、物理療法
SLR を実施。トレーニングに関しては、繰り
(MCR)・運動療法による血流の改善・筋スパズ
返しの手術による心理的ストレスや糖尿病に
ムの軽減によって疼痛の改善がみられたと思
よる低血糖などがあり、積極的には実施困難
われる。MCR(マイクロカレント)とは微弱電
であった。
流を使用した電気刺激療法であり、知覚閾値
<抜釘~>
よりはるかに低い電流であるため不快感を与
ギプスからシーネへと変更し ROMex を開始。
えずに治療が可能である。効果として損傷組
その後、伸展装具へと変更し、装具装着下で
織の修復促進と除痛効果といわれている。本
荷重訓練開始。理学療法は大腿四頭筋・大腿
症例においては、感覚が過敏であったため、
筋膜張筋~腸脛靭帯のリラクゼーション、膝
TENS などの刺激を感じるものに比べ効果的で
蓋大腿関節・大腿脛骨関節 Mobilization、Quad
あったのではないかと思われる。
setting、SLR、左下肢荷重練習をタッチダウ
膝屈曲可動域については退院時 60°と制限
ンから開始するが疼痛のため困難であった。
が大きく残存した。大腿脛骨関節の可動性や
疼痛緩和目的に物理療法(MCR)を実施。また上
筋スパズムの改善は見られたが、皮膚・筋膜
肢の運動や平行棒内歩行など全身運動を積極
の柔軟性、膝蓋大腿関節とくに膝蓋骨の上下
的に行い、理学療法・作業療法の時間外でも
方向の可動性の制限が残存していた。長期間
チューブや棒・重錘を使用した自主練習を指導し
のギプス固定により癒着が生じている可能性
た。疼痛緩和とともに、関節包内運動や膝蓋
が考えられ、可動域の改善にも難渋すると思
骨 Mobilization が可能となった。荷重練習も
われる。
疼痛自制内の範囲で Active/Passive ともに
【まとめ】
促進した。疼痛の軽減とともに関節可動域・
本症例では、心理的な要因により運動療法を
荷重量の改善がみられた。
実施できない時期もあり、その際に傾聴する
【考察】
だけでなく、運動療法を積極的に実施するよ
本症例は関節拘縮・アロディニア・皮膚変
うな工夫が出来ていれば筋力低下を未然に防
化を認め、厚生労働省 CRPS 研究班の CRPS 判
ぐことができたかもしれない長期入院や患肢
定指標
1)
を満たしている。また、受傷機転に
固定の先に今回のような症状のリスクがある
おいて明らかな神経損傷を認めておらず、
ことを念頭に置いて今後の臨床に活かしてい
CRPS-type1 に分類される。CRPS の原因は明確
きたいと思う。
にはされていないが、外的刺激入力の減少、
~引用文献~
疼痛閾値の低下や炎症性サイトカインによる
1) 住谷昌彦・他:本邦における CRPS の判定
タンパクの機能変化、ニューロンの興奮性の
指標、日臨麻会誌 30(3):420-429,2010
2)
増大などが言われている 。また本症例では、
ギプス固定中の全身運動を積極的に実施でき
2) 関節外科 RSD(CRPS-type1)の病態・診断・
治療、p16-17、2006
13
膝蓋骨開放骨折後に二
膝蓋骨開放骨折後に二度の授動術を施行した一症例
度の授動術を施行した一症例
~関節可動域の改善に難渋した症例~
医療法人マックシール巽病院 リハビリテー
<前院>膝蓋上嚢に著明な滑膜増生、線維性の
ションセンター
瘢痕組織増生を認めシェーバーにて切除し、
松下慶紀
麻酔下では左膝屈曲 130°可能となった。
宇山享介
Key words;関節可動域・膝蓋骨骨折・授動術
<当院>マニピュレーションを行い、左膝屈曲
【はじめに】
約 130°可能となった。
膝関節屈曲可動域制限は、歩行・立ち上が
受傷前 ADL:両親と 3 人暮らし。ADL 自立。
り・しゃがみ動作など様々な動作を制限する。
仕事:ビジネスホテルスタッフ
今回、左膝蓋骨骨折後に、授動術を施行した
趣味:バイクレース、バイク整備
にもかかわらず左膝関節屈曲可動域の改善が
【初期評価】(H26/4/2~4/5)
みられず、再び授動術を施行した症例を担当
<ROM-t>左膝屈曲 60°~80°左膝伸展-15°
した。左膝関節屈曲可動域の獲得に難渋しな
<MMT> 左膝屈曲 1
がらも良好な成績を得たので報告する。
<炎症>腫脹・熱感・発赤・疼痛( + )、CRP 1.08
【症例紹介】
<歩行>Knee brace 装着し両松葉杖歩行
基本情報:男性
体重:64kg
27 歳
身長:163cm
左膝伸展 1
【治療】
BMI:24.1 国籍:フィリピン
<治療スケジュール>
診断名:左膝蓋骨開放骨折術後
術後:Knee brace 装着し全荷重、CPM 開始
併存症:左大腿骨顆部剥離骨折、左第Ⅰ趾末
術後 1 週後:Knee brace 外し全荷重
節骨骨折
抜糸後:物理療法許可
現病歴:H26/2/15 交通事故により受傷。他院
<治療>(術後 1 日目~2 週目)
入院。同日左大腿骨顆部剥離骨折に対し、骨
・アイシング
接合術施行。左第Ⅰ趾末節骨骨折は保存(術
・左膝自動・他動関節可動域運動(関節可動
後4週は免荷)。2/25 左膝蓋骨骨折(横骨折)
域運動:以下 ROM-ex)
に対し tension band wiring 法にて骨接合術
・膝蓋骨 mobilization
施行。3/11 左膝拘縮のため、授動術(関節鏡
・徒手にて膝蓋上嚢の滑走促す
視下滑膜切除術)施行。3/28 自宅退院。4/1 治
・低負荷での左膝関節周囲筋の筋力増強運動
療継続のために近医である当院受診。左膝蓋
・Knee brace 装着下での両松葉杖歩行練習
骨に転位を認め、手術目的にて同日当院に入
・股関節・足関節の ROM-ex、筋力増強運動
院し、tension band wiring 法にて骨接合術
(術後 3 週目~8 週目)
施行。左膝の著明な可動域制限のため、授動
・超音波療法を開始
術施行。
・Knee brace を外し動作練習・筋力増強運動
手術所見(授動術):
(術後 8 週目以降)
14
・パテラセッティング
・超音波療法終了
より 80°まで改善したと考える。
術後 4 日目から 2 週目で可動域の変化は
・高負荷での筋力増強運動
乏しかった。左膝屈曲時に膝蓋骨上部に疼
【左膝関節屈曲可動域の推移】
痛があった。徒手にて膝蓋上嚢の滑走性低
左膝関節屈曲可動域の推移
160
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
下・膝蓋骨の滑動性低下を確認し、膝屈曲
制限の原因となっていると考えた。徒手に
て膝蓋上嚢部の滑走を促したが、徒手では
大きな改善はみられなかったので、術後 3
4/2
週目から 8 週目にかけて運動療法に加えて
4/9 4/16 4/23 4/30 5/7 5/14 5/21 5/28 6/4 6/11 6/18 6/25 7/2
H26/2/25 左膝屈曲 35° 激しい鋭痛あり。
超音波療法を導入した。その結果、術後 8
3/28 前院退院。左膝屈曲 80°
週目の左膝屈曲は 145°まで改善した。超
4/2 当院にて理学療法介入。左膝屈曲 60°
音波療法は拘縮予防や癒着形成防止に対し
4/15 術後 3 週目。左膝屈曲 90°
て適応される
7/5 術後 14 週目。左膝屈曲 150°
たことで、膝蓋上嚢の滑走性は改善し膝屈
【結果】(H26/7/5)
曲可動域も改善したと考える。
<ROM-t>左膝屈曲 150° 左膝伸展-5°
<MMT>左膝屈曲 4
2)
ため、超音波療法を実施し
術後 14 週目の理学療法終了時、左膝屈曲
左膝伸展 4
150°まで改善したが仕事復帰には至ってお
<炎症>軽度腫脹( + )熱感・発赤・疼痛(-)
らず、趣味のバイク整備は困難である。その
<ADL>自立
原因は独歩の安全性の低下、階段降段時の不
独歩にて屋外歩行可能
【考察】
安定性、しゃがみ動作困難が考えられる。今
本症例は 27 歳と若く、膝関節の可動域制限
後は仕事復帰の為に、筋力増強運動を中心に
は日常生活だけでなく仕事・趣味を制限させ
治療を行なっていく必要が示唆された。
る。そのため、膝関節可動域の獲得は本症例
【まとめ】
において必要不可欠であると考える。左膝関
・今回左膝蓋骨骨折後、二度の授動術を施行
節の屈曲可動域制限について考察する。
した症例を担当した。
2/15 に交通事故にて受傷し、その後膝蓋骨
・左膝拘縮のために可動域の改善に難渋した。
骨折に対して骨接合術が施行されるまで 10
・膝蓋上嚢部に超音波療法を行ったことで良
日間の期間があった。また授動術施行後も膝
好な結果を得ることができた。
関節最大屈曲角度は 80°であり、可動域が制
~引用文献~
限されている状態が長期間続いていた。その
1) Carolyn Kisner、Lynn Allen Colby(著者)
ため、当院に入院した時点で左膝関節は拘縮
渡邊昌(監修)他 2 名:最新 運動療法大全、
していたと考える。
pp298、ガイアブックス
当院での術後初日で左膝屈曲は 60°であり、
2008
2) 奈良勲(シリーズ監修):標準理学療法学
術後 4 日目で 80°と術前の可動域まで改善し
専門分野 物理療法学 第 2 版 pp84-45
た。術後の急性炎症は、通常 4~6 日間である
医学書院 2005
1)
と言われており、炎症症状が軽減したことに
15
肘関節自動伸展可動域制限の改善が得られた一症例
肘関節自動伸展可動域制限の改善が得られた一症例
篤友会リハビリテーションクリニック
赤尾 祥吾、鳴尾 彰人、兼松 章夫
美馬 圭孝
Keyword:肘頭骨折
可動域制限
筋緊張
【はじめに】
今回、左肘頭骨折、左鎖骨骨折、左肩甲骨
骨折を受傷した症例を経験した。上腕二頭筋
の過使用により生じた筋緊張亢進のため、術
後の肘関節自動伸展可動域改善に難渋したが、
図 1 左肘関節 X 線画像
治療対象を拡大することで改善が得られたた
た。肘関節他動伸展最終域では上腕二頭筋と
め、考察を加え報告する。
上腕筋に伸張痛があった。
【症例紹介】
動作観察として、左肩関節挙上時に右に比
70 歳、女性、独居。2014 年 2 月 17 日に犬
べて早期に過剰な肩関節の外旋、肩甲骨上方
の散歩中に転倒し、左肘頭骨折、左鎖骨骨折、
回旋、挙上がみられ、その際触診により上腕
左肩甲骨骨折を受傷。同年 2 月 21 日に左肘頭
二頭筋長頭に過剰な収縮を認めた。
骨折に対して tension band wiring 法(以下
日常生活動作では、肘 ROM 制限により洗
TBW 法)を施行(図 1)し、鎖骨骨折、肩甲骨
髪・整容動作で行いづらさの訴えがあった。
骨折に対しては保存療法(挙上 90°以上の禁
【理学療法経過および治療プログラム】
止指示)となる。同年 2 月 24 日退院、近医整
来院時より、肘関節に浮腫・炎症所見は認
形にて運動療法を行うも機能改善みられず、
めず、肘関節に対する運動制限もなかったた
同年 4 月 1 日にリハビリ目的で当院受診。同
め積極的な運動療法を開始した。
年 4 月 18 日に肩関節全可動域での運動療法許
肘 ROM 制限に対して、静的ストレッチと肘
可。同年 8 月 1 日抜釘となる。
関節周囲の筋力増強練習を実施し、開始後 3
【初期評価(術後約 2 ヶ月)】
週間で肘 ROM は屈曲 110°/120°、伸展は
左肘 JOA スコアは 75 点。
-25°/-10°となった。自動伸展可動域につい
左肘関節可動域(以下肘 ROM、自動/他動)
てはストレッチによる可動域拡大の即時効果
は、屈曲 85°/95°、伸展-25°/-20°であり
は認めるが、翌日には可動域が戻るなど持続
最終域感は筋性であった。また、肘関節伸展
的な効果はみられなかった。この時点で左肘
他動運動で上腕二頭筋による被動抵抗を認め、
関節屈曲時の肘関節前面の鋭利痛は改善し、
前腕回外位に比べ回内位で被動抵抗は強かっ
屈曲・伸展ともに伸張痛のみとなる。MMT は
た。前腕回内外の可動域制限はなかった。
上腕三頭筋 4 に向上した。
MMT は、三角筋前部線維 3、棘上筋 3、棘下
術後 3 ヶ月に低負荷高頻度および長時間の
筋 3、小円筋 3、上腕二頭筋 4、上腕筋 3、上
ストレッチ目的でウルトラフレックス継手付
腕三頭筋 3 であった。
肘関節装具(図 2)を作成し、自宅での装具
疼痛評価は、左肘関節自動運動では疼痛な
療法を開始した。その後、自宅での装具療法
し、他動運動では肘関節屈曲最終域に上腕三
と静的ストレッチ、筋力強化練習を継続し、
頭筋の伸張痛と、肘関節前面の鋭利痛があっ
術後 4 ヶ月で肘 ROM は屈曲 120°/130°と改
16
装具療法を行ったことにより、他動伸展可動
域は順調に拡大した。しかし、自動伸展可動
域の拡大が停滞したが、これは上腕二頭筋長
頭の筋緊張亢進が残存したためと考えられる。
林ら
3)
は腱板の機能が低下していても、肩関
節外旋位での挙上運動では、上腕二頭筋長頭
図 2 ウルトラフレックス継手付肘関節装具
は支点形成に関与し挙上可能となると報告し
ている。本症例においても、肩関節挙上時に
善するが、伸展は-25°/-5°と、ここでも自
肩関節外旋が生じており、上腕二頭筋長頭の
動伸展可動域改善が停滞していた。肘関節他
過使用による筋緊張亢進が生じていたと考え
動伸展時の伸張痛に変化はなく、上腕二頭筋
られる。また、上腕筋の機能不全も肘関節屈
による被動抵抗も残存していた。MMT にも変
曲時の上腕二頭筋の過使用として筋緊張亢進
化はなく、伸展最終域での上腕三頭筋の収縮
に大きく影響していたと考えられる。
も得られていた。
さらに、独居女性のため日常生活での上肢
この時点で、治療対象を上腕二頭筋長頭の
の使用頻度が多いということと、屈曲可動域
筋緊張亢進に移し、上腕二頭筋長頭の過使用
拡大に伴う左上肢の使用頻度の増加もあり、
による筋緊張亢進を抑制するために、棘上筋、
上腕二頭筋の過使用がより強調されていたと
棘下筋、小円筋、上腕筋の筋力増強練習を優
考えられる。
先し、自主トレーニング方法の指導も行った。
そのため、左肩関節周囲筋、上腕筋の筋力
術後 5 ヶ月で MMT は三角筋前部線維 4、棘
向上を図り、自主トレーニングでも早期の過
上筋 4、棘下筋 4、小円筋 4、上腕筋 4 と筋力
剰な肩関節の外旋、肩甲骨上方回旋、挙上が
向上を認め、それに伴い上腕二頭筋の被動抵
生じないよう方法を確実に理解して行うこと
抗が軽減し、肩関節挙上時の代償動作も改善
で上腕二頭筋長頭の過使用が軽減し、肘関節
した。肘 ROM は屈曲 125°/135°、伸展は-10°
自動伸展可動域の改善を得ることができた。
/0°となった。肘関節 JOA スコアは 96 点に改
【まとめ】
善し、日常生活動作は不自由なく可能となっ
本症例では他関節、筋緊張に着目すること
た。
で肘関節可動域の拡大が得られた。しかし、
【考察】
可動域制限のみられた肘関節のみに固執し、
吉川ら1)よると、尺骨肘頭骨折に対してTBW
肩関節の影響を軽視していたため、治療プロ
法を用いた臨床成績は、JOAスコアで平均90.6
グラムの再考が遅れた。その結果、可動域改
点と報告されており、本症例でもそれと同等
善により難渋してしまったため、今後の課題
の結果を得ることができた。
としたい。
今回、特に肘関節自動伸展可動域の拡大に
~引用文献~
難渋したが、この理由として、筋の伸張性低
1) 吉川 泰弘・他:尺骨肘頭骨折の治療成績
下に加え筋緊張亢進が混在していたためと考
-合併症とその対策について.骨折 第 30
えられる。沖田ら 2)は、1 ヵ月以内の不動で起
巻 No.1 2008
こる拘縮は,骨格筋の変化に由来するところ
2) 沖田 実・他:関節可動域制限の発生メカ
が大きいと報告していることから、約 1 ヶ月
ニズムとその対処.理学療法学 第 39 巻
間の左上肢の不使用により、軟部組織、特に
第4号
筋の伸張性低下が生じていたと考えられる。
226-229 項
2014
3) 林 典雄・他:肩関節拘縮の評価と運動療
これらの問題点に対して静的ストレッチと
法.運動と医学の出版社 27-31 項
17
長下肢装具のカットダウン時期
長下肢装具のカットダウン時期に難渋した脳梗塞の一
のカットダウン時期に難渋した脳梗塞の一例
に難渋した脳梗塞の一例
彩都リハビリテーション病院
-onal Ambulation Classification)( 以 下 、
納谷友季子、初瀬川弘樹、湊哲至、菊井将太、
FAC)は 2 であった。
本間隆次、新井秀宜(MD)、木本真史(MD)
【介入方法/経過】
Key words;脳梗塞 長下肢装具 カットダウン
身体機能向上を目的に、下肢装具を積極的
【はじめに】
に使用する方針を立てた.長下肢装具を使用
脳卒中片麻痺患者の歩行障害に対して早期
し、カットダウンの時期を検討しながら、歩
の下肢装具療法は有効である。しかし、長下
行機能・能力改善を目標に掲げた。
肢 装 具 (knee-ankle-foot-orthosis) ( 以 下
入院初日から KAFO 装着下で後方介助での
K A F O ) か ら 短 下 肢 装 具 (ankle-foot-o
歩行練習(以下、KAFO 歩行練習)と非麻痺側
rthosis)(以下、AFO)へ移行する適切な時期に
下肢のステップ練習を行った。入院初期には、
ついては、報告が散見される程度で
1)
確立さ
当院の備品の KAFO を使用し、入院病日 13 日
れたものはない。今回、脳梗塞片麻痺患者に
に本症例用の KAFO を処方した。大腿部を脱着
対して KAFO を使用し、カットダウンの時期に
式(セパレートカフ式)にし,内側足継手をダ
難渋した症例を経験したので報告する。
ブルクレンザック、外側足継手を
【症例】
GAITSOLUTION(以下、GS)に設定した。
70 代の男性である。平成 26 年 4 月下旬に
入院病日 26 日からセパレートカフを取り
脳梗塞(左中大脳動脈領域)を発症し、右片麻
外した KAFO(以下、semi-KAFO)で歩行練習を
痺になった。回復期リハビリテーション目的
行った。入院病日 29 日からカットダウンして
で同年 5 月下旬に当院に入院した。
AFO とし、四点杖および一本杖を使用した歩
【初期評価】
行練習(以下、AFO 歩行練習)と非麻痺側下
脳卒中機能障害評価法(Stroke Impairment
肢のステップ練習を行った。
Assessment Set)(以下、SIAS)の運動機能項目
【中間評価】
に関しては、股関節屈曲、膝関節伸展、足関
中間評価を入院病日 25 日と 63 日に行った。
節 背 屈 の 全 て が 0 で あ っ た 。 Brunnstrom
入院病日 25 日の時点で SIAS、BRS は変化しな
recovery stage(以下、BRS)は下肢Ⅱ、臨床的
かった。FACT7 点、FIM 移動(歩行)4 点に改善
体 幹 機 能 検 査 (Functional Assessment for
したが、FAC は変化しなかった。入院病日 63
Control of Trunk)(以下、FACT)は 6 点で、表
日の時点で SIAS 膝関節伸展 3、足関節背屈 2、
在感覚・深部感覚はともに重度鈍麻であった。
BRSⅢ、FACT12 点、FIM 移動(歩行)5 点、FAC3
非 麻 痺 側 下 肢 の 徒 手 筋 力 テ ス ト (Manual
に改善した。
Muscle Test)(以下、MMT)は 5 であった。機能
【考察】
的 自 立 度 評 価 法 (Functional Independence
今回、脳梗塞片麻痺患者に対して KAFO を入
Measure)(以下、FIM)の移動(歩行)は AFO と四
院時より使用したが、身体機能が著明に改善
点杖を使用して 3 点、機能的歩行分類(Functi
しなかった。そのため KAFO のカットダウン時
18
期の判断に難渋した。GS 付き KAFO は正常歩
ので、立ち直り反応に伴って体幹の筋活動が
行パターンに近似する筋活動の誘発が可能で
誘発され、体幹機能が向上したと推測した。
あると報告されており
2)
症例においても正常
そして、この介助の相違は運動学習にも影響
歩行筋活動の学習を目的に早期から KAFO 歩
する.運動学習において,療法士による介助は
行練習を行った。しかし、下肢機能は著明に
好ましくなく、有っても極僅か(FIM4 点程度)
改善しなかった。その理由として、適切な筋
に留めるべきと報告されている
活動が得られなかった可能性が挙げられる。
AFO 歩行練習において,介助を最小限にしたこ
脳卒中患者は、大腿四頭筋筋力の最大値到達
とで、運動学習が効率的に行われ歩行能力が
時間が遅延すると報告されている
3)
。本症例
5)
。本症例の
向上した可能性が示唆された。
の KAFO 歩行練習では歩行速度が速く、筋の最
以上のように、長下肢装具のカットダウン
大収縮が起こる前に次の歩行周期に移行して
の時期に難渋したが、AFO での歩行練習を中
いたため適切な筋活動が得られなかったと推
心に行ったことで、歩行機能・能力が改善し
測した。
た。
KAFO のカットダウンの時期に関しては、BRS
【まとめ】
Ⅲ以上であること、膝継手の制御を解除した
脳梗塞患者に対して KAFO を使用して歩行
状況で歩行状態が安定していることなどが報
練習を行った。報告されているカットダウン
1)
告されている 。また,セパレートカフを脱着
の基準を満たしていなかったため,カットダ
しながらカットダウンの時期を検討する方法
ウンの時期に難渋した。KAFO のカットダウン
4)
もある 。本症例は入院病日 25 日の時点で BRS
の時期について、今後更に検討が必要である。
Ⅱであり、semi-KAFO や膝継手の制御を解除
~引用文献~
した状況での歩行状態も不安定であった。カ
1)河津弘二・他:長下肢装具による脳卒中片
ットダウンの基準1)を満たしていなかったが、
麻痺の運動療法.PT ジャーナル 45 (3):
AFO 歩行練習が実施可能であったので、下肢
209-216,2011
機能改善を期待して AFO 歩行練習へ移行した。
AFO を使用すると、歩行の荷重応答期から
2)原寛美:脳卒中リハビリテーションにおけ
る下肢装具の展開―臨床的知見から―.
立脚中期にかけて膝関節が屈曲位になった。
リハ医 47(6):350-355,2010
大腿四頭筋に関しては,KAFO ではほぼ等尺性
3)大田尾浩・他:大腿四頭筋筋力の最大到達
収縮になるが、AFO ではこの膝関節の屈曲に
時間と歩行能力との関係―地域在住高齢者
より遠心性収縮になる。そのため、KAFO より
と 脳 卒 中患 者 との 比 較―. 西 九 州 リハ 研
AFO の方が大腿四頭筋の負荷量が増大し,下肢
7:7-10,2014
機能が改善したと推測した。体幹機能に関し
4)増田知子:回復期脳卒中理学療法のクリニ
ても、KAFO より AFO の方が改善した。この理
カルリーズニング―装具の活用と運動療
由として、体幹への介助の相違が挙げられる。
法―.PT ジャーナル 46 (6):502-510,2012
KAFO 歩行練習では後方からの体幹介助により、
5)才藤栄一・他:運動学習からみた装具―麻
立ち直り反応を妨げていた可能性がある。一
痺疾患の歩行練習において―.総合リハ
方、AFO 歩行練習では体幹介助をしなかった
38(6):545-550,2010
19
Pusher 現象に着目し、
長下肢装具による介入を行った一症例
彩都リハビリテーション病院
-re(以下 FIM)39 点。端座位、立位では体幹
北脇のぞみ、河野裕、井戸本彩、増田貴哉
機能低下、Pushing により左後側方への傾き
湊哲至、八幡澄和(MD)、木本真史(MD)
があり、正中位への修正に対し強い抵抗があ
Key word:Pusher 現象、長下肢装具、移乗動
り全介助であった。移乗動作では、支持物を
作
把持すると、Pushing が出現するため、FIM1
【はじめに】
であった。
頭頂葉を主体とした広範囲な右皮質下出血
【介入方法】
により、重度左片麻痺、重度 Pusher 現象を呈
本人用の KAFO を作製し介入を行った。KAFO
し、移乗動作が重度介助の症例に長下肢装具
を使用した立位保持時に、鏡での視覚的フィ
(Knee-Ankle-Foot-Orthosis 以下 KAFO)を使
ードバックによって正中位の認識を促した。
用し介入した。介入により Pushing が軽減し、
さらに、手すりを把持し引き込み動作を利用
移乗動作の介助量軽減に成功した症例につい
した自動運動での非麻痺側荷重練習を実施し
て報告する。
た。
また、KAFO を使用した介助歩行を行った。
【症例紹介】
環境面では、なるべく静かな場所で右側壁付
本症例は、88 歳の女性。平成 26 年 5 月下
けでの設定にて行った。移乗動作練習では、
旬、右皮質下出血、急性硬膜下血腫を認め、
Pushing が著明な時期では、介助者の頚部を
開頭血腫除去術を施行された。同年 7 月上旬、
引き込む動作にて離殿を促し、Pushing が軽
当院回復期リハビリテーション病棟へ入院と
減した時期では、縦手すりの使用にて反復練
なった。
習を行った。
【初期評価】(7 月上旬)
【結果】
(8 月中旬)
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下
HDS-R、BRS、GMT、感覚は著変なし。SIAS
HDS-R)11/30 点。Brunnstrom Recovery Stage
垂直性 2 点、腹筋力 1 点、SCP1.5 点、BIT 通
(以下 BRS)上肢Ⅱ、手指Ⅰ、下肢Ⅱ。非麻
常検査 27 点、FIM41 点に改善した。端座位、
痺側粗大筋力(以下 GMT)は下肢屈伸 3、Stroke
立位では後方への傾きがあり最小介助~見守
Impairment Assessment Set(以下 SIAS)垂
りを要すが、右上下肢での Pushing が軽減、
直性 0 点、腹筋力 0 点。表在・深部感覚とも
手すり把持が可能となり、左側への傾きは軽
に 脱 失 。 clinical assessment Scale for
減した。移乗動作では、縦手すりを把持する
Contraversive Pushing(以下 SCP)5.5 点、
ことが可能となり、立ち上がり、方向転換に
日本版行動性無視検査(以下 BIT)
改善がみられ FIM3 となった。
通常検査 14 点/146 点、全般性注意機能の低
【考察】
下を認めた。Functional Independence Measu
今回、高齢であること、出血範囲が広範囲
20
であること、高次脳機能障害を有すること、
SCP、SIAS の垂直性、腹筋力に改善がみられ、
また、発症からこれまでの随意性回復状況か
Pusher 現象の軽減により介入から約 1 ヶ月で
ら、今後、車椅子での生活が予測された。そ
移乗動作が FIM1 から FIM3 まで軽減した。し
のため、車椅子移乗の介助量軽減を目的とし、
かし、認知機能の低下、全般性注意機能の低
Pusher 現象、体幹機能改善に KAFO を使用し
下、左半側空間無視の影響より、特に方向転
た介入を行った。
換に協力動作が得られにくく、更なる介助量
網本ら²⁾は Pusher 例では、視覚的垂直と身
軽減に繋がらなかった。
体的垂直が乖離しており、視覚的垂直が正位
【まとめ】
であるのに対して身体的垂直が非麻痺側に偏
今回、重度の Pusher 現象、著しい麻痺側の
移しているためそのギャップを埋めようとし
支持性低下、体幹保持能力の低下がみられた
て「押す」現象が生じるとしている。本症例
ため、基本動作において重度介助を要した症
では、KAFO を使用し立位アライメントを補償
例に対し、KAFO を使用し、Pusher 現象、下肢・
した上で、鏡を使用した視覚的フィードバッ
体幹機能向上を目的とした介入を行った。介
クを行ったところ、正中位の認識が向上した
入により Pusher 現象の軽減が認められ、移乗
と考えられる。
動作は、一定の介助量まで軽減することが出
阿部³⁾は、麻痺側へ傾斜した姿勢を他動的
来た。しかし、認知機能低下、全般性注意機
に正中位へ修正した場合、その修正に強く抵
能低下、左半側空間無視の著明な残存により、
抗するが、自発的に非麻痺側へリーチするよ
更なる介助量の軽減は困難であった。今後、
うな課題を用いると、スムーズに非麻痺側へ
Pusher 現象への介入を継続し、認知機能、注
傾斜できるとしている。また、才藤⁴⁾は、行
意機能、左半側空間無視を考慮し、動作の定
動の変化は練習量に依存し、スキル獲得のた
着を行うことが必要だと考えられる。
めにはその練習量と頻度が最も重要な因子と
~参考文献~
なるとしている。
本症例では、KAFO を使用し、
1) 網本和・他:半側空間無視および Pusher
麻痺側支持性を補償した状態で自動運動での
現象を有する患者への理学療法士の関わ
非麻痺側への荷重練習を反復、繰り返し行う
り、理学療法 31:467-475,2014
ことで、運動学習が生じ、非麻痺側の荷重量
2) 網本和・他:視床・頭頂葉系の障害と理
が増加し、Pushing の軽減へ繋がったと考え
学療法、PT ジャーナル 47:19-25,2013
られる。
3) 阿部浩明:脳卒中理学療法の理論と技術、
高木⁵⁾は、麻痺側下肢の使用頻度が上がる
メジカルビュー社:457-478,2013
ことで、麻痺側下肢機能だけでなく荷重連鎖
4) 才藤栄一・他:FIT プログラム、医学書院:
により股関節周囲筋、体幹筋の機能改善がみ
89-100,2003
られるとしている。本症例では、KAFO を装着
5) 高木治雄:脳卒中片麻痺の積極的装具療
し、歩行練習を行うことで麻痺側下肢の使用
法 の 進 め 方 、 PT ジ ャ ー ナ ル 45 :
頻度が向上し、体幹機能向上に繋がったと考
201-208,2011
えられる。
介入の結果、Pusher 現象の評価項目である
21
移乗動作の介助量軽減を目指した
移乗動作の介助量軽減を目指した脳卒中患者の経験
脳卒中患者の経験
関西リハビリテーション病院
起立・着座・リーチ・移乗 1 点,他 0 点)。
梅澤 晴香、谷山 昂
移乗動作は手すりを使用し、左内反尖足予
Key words;脳卒中、移乗動作、介助量軽減
防のため金属支柱付短下肢装具を装着し評価
【はじめに】
した。方法は万冶ら
13 年前にクモ膜下出血により左重度片麻痺、
1)
に準じ、椅子からベッ
ドへの移乗動作をビデオ解析で相分けし、相
今回左ラクナ梗塞で右軽度片麻痺を呈した両
別(前傾相,起立相,回転相,着座相,終了相)の
片麻痺患者を担当した。移乗動作を時間的側
時間・FIM を評価した。
面・介助量から評価し、1 ヶ月で改善が図れ
移乗動作の相別時間と総移乗時間を図 1 に
たため、その経過を報告する。
示す。総移乗時間 27.38 秒で、相別では起立
【症例紹介】
相で 6.02 秒、回転相で 11.08 秒であった。
68 歳、女性。平成 26 年 X 日に発症。A 院に
各相の FIM は起立相で 4、体幹が前傾せず
て左放線冠ラクナ梗塞と診断され、抗血小板
上方へ起立し、殿部離床時に体幹前傾の介助
剤にて保存的治療を施行。リハビリ目的で
が必要であった。回転相は 3、左下肢支持の
X+22 日に当院へ転院となった。
際にふらつき、介助が必要であった。
既往は平成 13 年クモ膜下出血・同年右開頭
【問題点抽出と治療内容】
減圧、平成 15 年硬膜下膿瘍・皮下膿瘍、平成
相別時間と介助量が多い起立相と回転相に
16 年硬膜外膿瘍、また詳細な時期は不明の転
対して、問題点抽出しアプローチを実施した。
倒による腰椎圧迫骨折(L1)・左大腿骨頚部骨
起立相の問題点は、殿部離床時の体幹前傾
折(術式 THA)がある。クモ膜下出血発症時よ
動作の未定着と考えた。よって、動作の定着
り左重度片麻痺・左半盲・失行・失認・左半
を図るため、殿部離床まで体幹前傾を誘導す
側空間無視があり、視野障害によって周囲の
る起立練習を反復した。
環境はほとんど理解できていなかった。
回転相は、姿勢保持筋の筋力低下・重度の
発症前の生活は、夫と 2 人暮らし。移動は
運動麻痺や感覚障害がある左下肢の支持性の
車椅子で、1 日の移乗回数は少なくとも昼 8
低下を問題とした。しかし、左下肢の問題点
回(主介助者は次女、ヘルパー)、夜 4 回(主介
秒
40.00
助者は夫)であった。介助量は最大介助レベル
35.00
移乗動作の相別時間と総移乗時間(*)
終了相
2.47
6.00
30.00
であり、特に方向転換時に介助量が多く、ま
着座相
回転相
起立相
1.20
体幹前傾相
25.00
た左内反尖足を認め捻挫のリスクが高かった。
自宅生活で、移乗動作の立位時に 3 回の転倒
5.98
15.00
1.93
11.08
4.13
10.00
歴があり、2 回は骨折に至る転倒であった。
5.00
【理学療法評価】
5.37
6.02
3.10
3.60
2.95
5.82
4.30
0.00
* 27.38秒
初期
初期(X+42 日)の評価結果を表 1 に示す
(Berg Balance Scale:以下 BBS
18.80
20.00
端座位 2 点,
* 38.45秒
中間
* 16.92秒
最終
図 1:移乗動作の相別時間と総移乗時間
22
に対する大きな改善は難しいと判断し、右下
と左外腹斜筋と左大殿筋 MMT に改善がみられ
肢優位の動作改善を考えた。そのため、右下
た。総移乗時間は 16.92 秒、起立相 2.95 秒、
肢の支持性やバランス向上を目的として、左
回転相 3.60 秒と短縮した。介助量は動作を通
下肢に長下肢装具を装着し、立位バランス練
して FIM 5 に改善し、動作前の声掛けで方向
習や歩行練習を行った。特に歩行練習は回転
の誤りは無く、回転相のふらつきも軽減した。
時のバランス能力向上を図るため、短距離で
【考察】
方向転換を頻回に行うよう工夫した。
在宅復帰に向け、移乗動作の改善が必要と
【経過】(評価結果は図 1・表 1 に示す。)
考え、相別に評価した。評価結果より、特に
中間(X+59 日)で、右大殿筋 MMT 以外の
問題とした起立相と回転相へ介入したことで、
身体機能の変化は認めなかった。BBS は 端座
改善に繋がった。
位保持・起立・着座と移乗の点数が向上した。
起立相は、体幹前傾動作の定着が図れた。
総移乗時間は 38.45 秒と延長した。起立相は
また左外腹斜筋の筋力が増加し、座位姿勢や
5.37 秒に短縮したが、回転相で 18.80 秒と延
体幹前傾動作でも体幹を正中位保持し起立相
長した。FIM は起立相で 5、回転相は 4 と軽減
を迎えることができ開始姿勢の安定性が向上
した。回転相は動作中に回転方向を誤り、反
した。また左大殿筋の筋力増加に伴い左下肢
対へ回転するため修正する時間と立位保持の
の支持性が向上し介助量の軽減に繋がった。
介助を必要とした。中間評価以降は、移乗動
回転相の改善は、右下肢優位での動作定着
作前に回転方向の声かけを行った。また立
が図れたこと、また踏み替え動作時の左下肢
位・歩行練習は継続して実施した。
の支持性が向上したことの 2 つの要因と考え
最終(X+75 日)では SIAS 下肢近位(膝)
る。また中間評価時の回転方向の誤りは、介
表 1:理学療法評価(右/左)
助量が軽介助となり、初期評価時と比較し本
初期
中間
最終
人様の自主的な動作が多くなった。それによ
(X+42 日)
(X+59 日)
(X+75 日)
り視野障害の影響から回転方向の誤りが多く
Ⅵ
Ⅲ
Ⅵ
Ⅲ
Ⅵ
Ⅲ
みられたと考える。移乗動作前に回転方向を
近位(股)
5
2
5
2
5
2
確認し回転方向の定着を図り、最終時は方向
近位(膝)
5
2
5
2
5
3
の誤りが無くなり時間短縮が図れた。
遠位(足)
4
2
4
2
4
2
【まとめ】
下肢触覚
3
1
3
1
3
1
今回、移乗動作を相別に評価し、問題点の
下肢位置覚
3
1
3
1
3
1
優先順位をつけ治療を考えることができた。
理学療法評価の経過
Brunnstrom Recovery Stage
SIAS
下肢
MMT
腹筋力
2
2
2
改めて客観的に評価する大切さを学んだ。
垂直性テスト
2
2
2
~参考文献~
腹直筋
4
4
4
1) 万冶
淳史:脳卒中後片麻痺患者におけ
外腹斜筋
4
2
4
2
4
3
る移乗動作の相別時間の特性
腸腰筋
4
2
4
2
4
2
者・健常中高年者・片麻痺患者での 3 群
大殿筋
2
1
3
1
3
2
比較-.理学療法 20:15-19,2013
Berg Balance Scale
6
11
11
23
健常若年
歩行速度が低下し,治療プログラムの再考を
歩行速度が低下し 治療プログラムの再考を
要した成人片麻痺の一
要した成人片麻痺の一症例
豊中平成病院
BBS 22/56 点
山中敏行、畑中仁志
0 点項目
閉脚 片脚 タンデム立位,方向転換,踏み台
Key words;歩行・再評価・非麻痺側
SIAS
【はじめに】
右上肢 9 右下肢 17
11 年前に右上肢を主症状とした麻痺と永久
41/76 点
足底感覚
その他 15
左後足部 3/10
気管孔の造設に加え,今回右下肢を主症状と
筋緊張検査 背臥位 (触診)
する麻痺が生じた一症例を担当した.そして,
過緊張 右大胸筋,右広背筋,右上腕二頭筋,
既往歴と現病歴を考察し治療展開した.その
僧帽筋,腰背部,左下腿三頭筋
結果, 姿勢変化はみられたが, 歩行速度は低
低緊張 腹筋群,右大殿筋,右大腿四頭筋
下したため再評価を行った.再評価に基づい
10MWT
48 歩 38.4 秒
歩幅 20.8cm
て治療内容を変更する事で改善がみられた為,
立位姿勢
ここに報告する.
【症例紹介】
70 代 男性 . 妻 と一 軒家 に同 居 , 本 症例 の
HOPE は「早く帰りたい」であり家族の希望は
「一人で歩けて着替えが出来てほしい」であ
る.上記から, GOAL を在宅復帰, NEED を更衣
左 Claw toe
動作と移動の自立とした.
【画像所見】入院時に撮影(発症 1 ヶ月)
歩行観察(T-cane)
既往巣で左頭頂葉~左前頭葉にかけて低吸
右 LR で,体幹前傾し骨盤は右回旋する。右
収、現病巣で左内包後脚に低吸収病変.
back knee に,右肘関節の屈曲と右肩甲帯の拳
上・後退を伴う.右 Mst でトレンデレンブルグ
徴候みられる.
【問題点の抽出 1】
本症例の在宅復帰の阻害因子として立位の
不安定性に着目した.立位姿勢として,体幹の
前傾と右肩甲骨の拳上・外転,骨盤の右回旋,
現病巣
既往巣
右 back knee が見られた.これは,現病巣から
図 1 脳画像(CT 画像)
右大殿筋,右大腿四頭筋の活動が低下し生じ
【理学療法評価:初期】転院 1 週目から 3 日間
たと考える.これを助長する要因として,永久
BRS 右
気管孔の造設と既往巣から体幹の抗重力伸展
ROM
上肢Ⅲ
足関節背屈
手指Ⅲ 下肢Ⅲ
(R/L)※1. 5/-5 ※2. 10/0
※1 膝伸展
活動の低下に繋がったと考えた.この代償と
※2 膝屈曲位
して右広背筋,僧帽筋と右上腕二頭筋の過活
臨床的体幹機能検査(以下 FACT) 9/20 点
動が生じた.その結果,腹圧上昇の割合が減少
0 点項目
し,体幹が前傾,骨盤右回旋する事で左前方へ
側方移動,両下肢拳上,尻歩き,体幹回旋
重心移動を左足関節底屈筋にて左前足部から
24
床反力を生じさせ左 claw toe が生じたと考
改善した立位姿勢にて最大可動域での歩行練
える.その為,左後足部からの感覚入力が減り
習を行う事でより可動域拡大に繋がったと考
感覚低下に繋がったと考える.上記から,右上
える.しかし,11 年前からの左前足部での制動
肢の過活動を抑制し,右大殿筋,右大腿四頭筋
により左後脛骨筋,左長腓骨筋,左短母趾屈筋
の収縮を促すことで,静的立位姿勢での骨盤
の過活動が生じ,ハイアーチと Claw toe によ
と体幹のアライメントが修正され,立位での
り左足部のスティフネスが生じたと考える.
不安定性を改善できると考えた.
その結果,左 Tst でのロッカー機能が不足し
【治療プログラム 1】転院 1 週目~3 週間
たと考える.そして,右 LR で体幹の前傾によ
右大殿筋,右大腿四頭筋の促通,右広背筋,
る前方への推進力と左 LR での左前足部の制
右上腕二頭筋の伸張と体幹筋の収縮を図り,
動によって行われていた戦略に対し治療プロ
起き上り動作を行った.また,足浴により足
グラム1を行った結果,右 LR での体幹前傾が
底の感覚入力を促し立位練習を行い,右大殿
減少し左前足部による制動の変化は乏しかっ
筋,右大腿四頭筋の収縮を促す目的にエルゴ
た.その結果,前方への推進力の低下に繋がっ
メーターと立ち座り練習を実施した.
たと考える.
【理学療法評価:中間】転院 4 週目~3 日間
BRS 右
ROM
上肢Ⅳ
【治療プログラム 2】転院 4 週目~3 週間
手指Ⅳ 下肢Ⅳ
足関節背屈 (R/L)※1. 5/0
麻痺側下肢の促通に加え,左足部の可動域
※2. 10/5
練習と左 Tst へアプローチ,エルゴメーター
※1 膝伸展※2 膝屈曲位
FACT 17/20 点
BBS 42/56 点
SIAS
0 点項目
と足浴は継続して実施した.
体幹回旋
【最終評価】3 日間※変化項目のみ実施
0 点項目 タンデム立位
48/76 点
舟状骨高:荷重
(R/L)3.2cm/3.7cm
足部回内
(R/L)10°/5°
右上肢 12
右下肢 19 その他 17
10MWT
足底感覚
左後足部 5/10
【考察 2】
筋緊張検査 背臥位:過緊張,低緊張は軽減.
10MWT
62 歩 50.7 秒
42 歩 35.8 秒
歩幅 23.8cm
左 Tst での蹴り出し獲得の為に筋の収縮弛
歩幅 16.1cm
緩が可能となる生理的環境を得る必要があっ
【考察 1】
た.そして,筋節の短縮,循環不全に対して,足
今回治療にあたり,右大殿筋,右大腿四頭筋
浴と徒手療法を実施し可動域練習,バックス
の活動が向上し,右 back knee 骨盤の右回旋
テップを行い左側の蹴り出しの獲得を図った.
が減少し骨盤と体幹のアライメントが修正さ
その結果,ハイアーチは軽減され,左 Tst での
れた.そして,アウターマッスルである広背筋,
左足部回内の可動性が増大し,歩幅の増大と
僧帽筋の過活動が減少し,コアコントロール
歩行速度の改善に繋がったと考える.
の行い易い環境を得たと考えた.その結果,立
【まとめ】
位での安定性が向上したと考える。しか
立位姿勢に着目し治療展開を行った結果,
し,10MWT で歩数の増加と時間の延長を認めた
立位バランスの向上はみられたが、歩行速度
為,再評価を行った.
が低下した.その為,再評価と治療プログラム
【再評価】※中間評価期間に実施
の再考を要した。そして,非麻痺側足部のステ
舟状骨高:荷重
(R/L)3.2cm/5.3cm
ィフネスが目標達成の阻害因子であると考察
足部回内
(R/L)10°/-5°
し治療展開する事で改善がみられた.
【問題点の抽出 2】
今回の経験から,麻痺側だけでなく早期か
中間評価での左足関節の改善は立ち座り練
ら非麻痺側の評価と治療展開する事で本症例
習による荷重下での両側足関節の可動域運動
の早期退院に繋がると考える.今後は全身の
に加え立位による左膝伸展位での荷重を加え
評価を早期から行い患者様の希望に沿った治
る事で可動域拡大に繋がったと考える.また,
療を提供していきたい.
25
非対称な立位の改善目的にペダリング運動を実施した症例
協和会病院
長谷 衣里、藤川
山口修司、野谷
支持なし立位は、体幹屈曲位、骨盤左後方
加奈子、小林 優
回旋位、左股関節屈曲・膝関節過伸展・足関
美樹子
節底屈位で、前足部のみ接地していた。右手
Key words:非対称、ペダリング運動、脳卒中
掌は右大腿前面に接地し、右肩関節内旋・肘
【はじめに】
関節屈曲、右股関節屈曲・内旋が強まり、右
今回、中等度左片麻痺が既往にあり、新た
後方に姿勢が崩れ、立位保持が困難であった。
に右片麻痺を呈した両側片麻痺患者を担当し
【介入対象と方法】
た。症例は左上下肢を使用せず、右上下肢優
支持なし立位保持が困難な理由は、左下肢
位の非対称な動作パターンにより、支持なし
を支持脚として使用できない非対称な立位姿
立位保持が困難であった。左下肢の機能向上、
勢になることと考えた。その原因は、既往の
動作参加を図り、非対称な立位の改善を図る
運動麻痺による左下肢の支持性低下と、右上
為に、自転車エルゴメータによるペダリング
下肢の過剰努力による左下肢の運動への不参
運動を実施した結果を報告する。
加と考え、介入対象とした。
【症例紹介】
上記問題を改善させる目的で、脳卒中患者
70 歳代男性。X 年 4 月 13 日に左橋梗塞を発
において協調的な筋活動を促せ、筋再教育に
症し、同年 5 月 1 日に当院へ入院した。右上
有効と言われているペダリング運動を実施し
下肢の運動麻痺は極軽度で、既往の左片麻痺
た。その効果をみる為に BAB デザインを用い
(X-20 年)が動作能力を阻害していた。20 年
た。基礎水準期(A)では座位、立位、歩行練習
前より車椅子生活で、歩行機会はなかった。
等の通常の理学療法のみ実施し、操作導入期
【初期評価】
(B)では通常の理学療法に加えペダリング運
身体機能
動を実施した。介入は入院 5 週目より実施し、
運 動 麻 痺 は Brunnstrom Recovery Stage
B-1・A・B-2 を各 2 週間ずつ実施した。
Test(以下 BRS)で右上下肢手指Ⅵ、左上下肢
自転車エルゴメータはリカンベント型を使
手指Ⅲ~Ⅳであった。両上下肢に感覚障害は
用し、負荷量 25W、任意のペダル回転速度で
なかった。ROM・Fugl-Meyer Assessment 下肢
15 分間実施した。
項目(以下 FMA)は表 1 を参照、右上下肢の粗
評 価 は 、 FMA ・ 膝 伸 展 筋 力 (Hand-held
大筋力は MMT にて 4~5 であった。
Dynamometer 使用)・左足関節背屈の Modified
ADL
Ashworth Scale(以下 MAS)・ROM・立位左右体
Functional Independence Measure(以下
重比・支持なし立位保持時間を測定した。評
FIM)運動項目は 67/91 点で、移乗時に脚の踏
価日は各 2 週間の介入終了翌日に設定した。
み替えがみられず、整容は座位で行っていた。
【最終評価】
基本動作
B-1・B-2 後で膝伸展筋力・ROM・立位左
起立・立位は支持物使用下で自立していた。
26
右体重比・支持なし立位保持時間の改善が見
表1
FMA
(右/左)
膝伸展筋力
MAS
ROM
(右/左) 単位:kgf
足関節背屈
(左)
(左) 単位:°足関節背屈(膝屈曲位)
足関節背屈(膝伸展
立位 左右体重比
(支持物なし、静止立位)
支持なし立位保持時間
単位:秒
介入前
B-1 後
A後
B-2 後
32/23
32/23
32/23
32/24
20.9/5.9
21.3/9.0
20.8/8.9
22.6/11.0
1+
1
1
1
0
5
5
10
-10
-5
-5
0
7:3
6:4
6:4
5:5
3.28
34.58
36.16
51.91
られたが、A 後は変化がなかった(表 1 参照)。
ら健側への半球間抑制は減少し、健側は抑制
身体機能
から解放されると報告している 2)。本症例は、
BRS・感覚障害・右上下肢粗大筋力に変化は
左片麻痺の経過が長期であったことより、右
なく、ROM は改善した(表 1 参照)。
上下肢優位の非対称な動作パターンが獲得さ
ADL
れ、半球間で抑制の不均衡が生じていたと考
FIM 運動項目は 71/91 点で、移乗時に脚の
える。ペダリング運動で左下肢の運動を促し
踏み替えがみられ、整容は立位で行っていた。
たことが左半球への抑制に働き、不均衡の改
基本動作
善に寄与したと推測される。通常の理学療法
支持なし立位は、体幹屈曲・左股関節屈曲
に加えペダリング運動を実施することで、立
が軽減、骨盤左後方回旋、左膝関節過伸展が
位姿勢の改善に対し相乗効果が得られたと考
改善、左足関節底背屈中間位で足底が接地し
える。その結果、右上下肢の過剰努力が軽減
た。右上下肢の過剰努力は軽減し、自立した。
し、立位の左右体重比が均等になり、支持な
【考察】
し立位保持時間が延長したと考える。さらに
ADL 場面でも、非対称な動作パターンが軽減
非対称な立位の改善を目的に、左下肢の支
持性低下と運動の不参加に対してペダリング
し、左下肢を使用する機会が増えたと考える。
運動を実施した。結果、左足関節底背屈中間
【おわりに】
位で荷重が可能となり、膝伸展筋力が向上し
非対称な動作パターンを呈する症例の左下
たことで、左膝関節過伸展・骨盤左後方回旋
肢に着目してペダリング運動を実施した結果、
が改善し、左下肢の支持性が向上した。
非対称な立位が改善した。今回は右上下肢の
Fujiwara は、下肢ペダリング運動は重度な片
治療について十分に検討できていなかった為、
麻痺患者においても協調的な筋活動を促せ、
今後の課題としたい。
筋再教育に有効で、特に大腿四頭筋、前脛骨
~引用文献~
筋の筋活動が向上したと報告している
1)
。本
1)Fujiwara T, et al :Effect of pedaling
症例における膝伸展筋力の向上も、ペダリン
exercise
グ運動により図れたと考える。
limb.AmJPhysMedRehabil:357-363,2003.
また非対称な立位の改善には、ペダリング
on
the
hemiplegic
lower
2)原寛美ほか:脳卒中理学療法の理論と技
運動によって左下肢の運動を促せたことも影
術.MEDICAL VIEW:152-163,2013.
響したと考える。原らは、脳卒中後は患側か
27
顕微鏡的多発血管炎を呈し
早期から理学療法を介入した一症例
早期から理学療法を介入した一症例
大阪府済生会吹田病院
【理学療法評価と経過】
奥本 悠人
Key words:顕微鏡的多発血管炎、早期介入
【はじめに】
急性糸球体腎炎と肺胞出血を伴う顕微鏡的
多発血管炎の症例を担当した。理学療法は集
a
中治療室から介入開始して、急性期のリスク
介入当初
図1
管理を行いながら早期離床を目指した。肺腎
b
2 週間後
胸部 X 線画像
型の 2 臓器障害併発例は予後不良と言われて
いるが、本症例は経過良好で T 字杖歩行まで
獲得できたので、考察を交えて経過報告する。
【症例紹介】
70 歳代男性。既往歴:間質性肺炎
合併症:急性糸球体腎炎、肺胞出血
a
平成 26 年 5 月 31 日自宅で吐血して他院入院。
介入当初
図2
b
2 週間後
胸部 CT 画像
翌日に顕微鏡的多発血管炎と診断され、血漿
理学療法開始当初、本症例は声かけに対し
交換療法目的で当院へ転院し、酸素化不良の
て開眼する程度であった。鼻カニュレで酸素
ため緊急気管挿管、人工呼吸器管理となった。
5L/分投与で SpO2 95%維持可能。機能レベル
6 月 11 日呼吸状態安定して人工呼吸器離脱、
では、上肢運動可能で、下肢粗大筋力が 3 レ
翌日より理学療法開始となった。糸球体腎炎
ベルであった。上部胸郭の可動性低下があり、
の治療として、週 2 回・各 4 時間の人工透析が
1 回換気量の低下があった。呼吸様式は胸式
7 月初旬前腕シャント造設後、
開始となった。
優位のやや努力性で胸鎖乳突筋や僧帽筋上部
7 月中旬、腹痛と下痢を訴えてサイトメガロ
線維などの呼吸補助筋の過緊張を認めた。肺
腸炎を併発して絶食となり、高カロリー輸液
音聴診では、両上葉の呼吸音は減弱し、両下
が開始となった。下痢と絶食からアルブミン
側肺(特に左肺)に水疱音を聴取した。
値は低下(2.0g/dL 前後で推移)して低栄養状
主治医より排痰も含めた呼吸理学療法も依頼
態をきたし、低アルブミン血症は遷延した。
され、胸郭モビライゼーションや呼吸補助筋
腸炎改善後、7 月 30 日より食事を開始した。
のリラクセーション、スクイージングなどの
酸素化に関しては、労作時酸素飽和度(SpO2)
呼吸介助、体位ドレナージを実施して排痰を
低下があるため在宅酸素療法が導入された。
促進するようなアプローチも行った。
28
理学療法開始後、約 1 週間で炎症所見の CRP
って左右される 2)と述べている。さらに本症
は 10.0mg/dL から 0.8mg/dL、腎機能の BUN は
例は臥床期間が続いたため、下側肺障害の予
135mg/dL から 45.5mg/dL、CRE は 9.3mg/dL か
防が必要であった。尾崎は長期臥床で気道分
ら 4.7mg/dL に改善し、さらに酸素化も改善が
泌物貯留、肺水腫液貯留、末梢気道閉塞、肺
みられ、離床開始許可となった。血圧・自覚
胞虚脱等が下側肺領域に生じやすく、換気血
症状・SpO2 の変動を確認しながら、ベッドア
流低下による酸素飽和度低下が危惧される 3)
ップから端坐位へと実施した。循環動態が良
と述べている。また菅らは全身調整運動とし
好なことを確認して車いす移乗を開始した。
て早期の端坐位や車いす移乗で離床を促して
移乗は軽介助で可能だが酸素 3L/分で SpO2 は
歩行につなげることが、換気血流の改善、分
85%程度であった。病棟内 ADL 向上を目的に
泌物の移動を促進する 4)と述べている。
ポータブルトイレ移乗も促した。
気道内分泌貯留は、無気肺や感染症のリス
約 3 週間後に鼡径部の中心静脈カテーテル
クがあるため、排痰訓練を施行した。胸部レ
を抜去して平行棒内歩行練習を開始した。安
ントゲンや聴診で痰の位置を推定し、約 10 分
静時、酸素 1L/分で SpO2 90%以上を維持し、
の体位ドレナージを行い、呼気時に呼吸介助
呼吸補助筋の過緊張や胸郭可動性も改善した。
を行い、呼気の流速を早め、気道分泌の移動
開始当初の水疱音は軽減し、上葉の呼吸音も
と 1 回換気量増加を目的に実施した。さらに
改善したが、両下葉部に捻髪音を聴取した。
肋間筋などのリラクセーションや捻転などの
起居、移乗動作は見守りで、平行棒内歩行は
胸郭モビライゼーションを併用し、換気量の
軽介助で可能となった。労作時酸素 2L/分で
改善にアプローチを実施した。
SpO2 85%程度まで低下したが、2 分程度の休
疾患の予後は不良と言われていたが、早期
憩で 90%程度まで改善した。T 字杖歩行練習
から呼吸理学療法を実施したことで、本症例
は酸素化を確認しながら歩行距離を延長した。
は下側肺障害や肺炎など合併症の併発がなく、
退院時の状態は、下肢粗大筋力が 4 レベル
呼吸状態も改善した。また酸素流量と運動量
まで改善し、SLR も可能となった。T 字杖歩行
を検討して栄養状態をみながら、早期離床を
院内自立、移動時はウルトレッサーを使用し
促したことで、致死的な感染症の発症もなく
た。流量は安静時 1L/分、労作時 2L/分に設定
動作レベルが改善したのではないかと考えた。
し、自己で操作可能となった。歩行距離は、
~引用文献~
途中休憩を含めて約 100m 可能となった。整容
1) 有村義宏:保存期腎疾患診療のエビデン
や更衣などの身辺動作も自立した。
ス EBM ジャーナル 5:136-143,2004
【考察】
2) 吉田雅治:MPO-ANCA 関連血管炎,医のあゆ
本症例は肺腎型の顕微鏡的多発血管炎で血
み 184:887,1998
漿交換目的に入院したが、有村は顕微鏡的多
3) 尾崎孝平:腹臥位換気、救急医学 26(11):
発血管炎で肺(肺胞出血)、腎臓(急性腎不全)
1573-1576,2002
の 2 臓器障害併発は予後不良である 1)と述べ
4) 菅俊光、沖井明:周術期の呼吸リハビリ
ている。また吉田は顕微鏡的多発血管炎の予
テーションとそのシステム
後は、合併症の中でも骨髄抑制や感染症によ
42(12):852-858,2005
29
リハ医学
包括的介入により良好な転帰をとった重症熱中症患者
包括的介入により良好な転帰をとった重症熱中症患者
大阪府済生会千里病院
救急病棟へ転出後、経口挿管、鎮静下 Richmond
伊藤勇基
Agitation-Sedation Scale:-3 の状態でリハ介
Key words;熱中症、ICU-AW、包括的介入
入開始。
[第 13 病日]気管切開され人工呼吸器管
【はじめに】
理となる。[第 14 病日]鎮静剤投与を中止。人工
熱中症は日本救急医学会「熱中症に関する委
呼吸器離脱しマスク下酸素投与となる。GCS:E4
員会」によりⅠ~Ⅲ度に分類される。重症熱中
VT M6、握力測定不能、膝伸展困難、自己排痰困
症では様々な疾患を合併するため集中治療を要
難。Early Mobilization(以下 EM)、排痰訓練を
し ICU 関連筋力低下と呼ばれる ICU-Acquired
中心とした呼吸訓練、上下肢の筋力増強訓練を
Weakness(以下 ICU-AW)を惹起するリスクや中
自動介助運動にて開始。
[第 22 病日]胸部画像上
枢神経障害を主とする後遺症が残存するリスク
の浸潤影は改善。マスク離脱し歩行、嚥下訓練
がある。今回、当院に 3 次救急にて搬送された
を開始。握力:右 10.7kg 左 16.8kg、膝伸展筋力
熱中症患者に対し、
リハビリテーション(以下リ
MMT:2+/2+、軽介助で歩行器歩行可能、FIM:70
ハ)介入する機会を得たので報告する。
点、筋力増強訓練を自動運動に変更。舌骨上筋
【症例紹介】
群の収縮は弱く舌骨は挙上不良で空嚥下は困難。
特に既往歴のないADLの自立した81歳男性が
The Mann Assessment of Swallowing Ability(以
3 次救急で Dr.Car(以下 DC)適応となった。X 年
下 MASA)は 84 点、電気刺激と Shaker exercise
7 月 24 日、自宅屋根で作業中に倒れているのを
の併用療法を開始。[第 27 病日]握力:右 14.8kg
発見され救急要請される。救急隊到着時、気道
左 20.1kg、
膝伸展筋力 MMT:3+/3+、
独歩不安定、
開通、頻呼吸で SpO2 測定不可、総頚動脈は触れ
FIM:95 点、抵抗運動による筋力増強訓練を開始。
るも橈骨動脈は触知できず頻脈、JCS:300、体温
[第 32 病日]気管切開チューブを抜去し自己排
は 41.6℃であった。救急車へ収容途中で DC が
痰、発声が可能、MASA:162 点でゼリー食開始。
到着、症例は DC で搬送された。DC 内での所見
スラー様発話、
断綴性発話を認め発話明瞭度:2、
では頸静脈怒張、頻脈、上下肢に浅達性Ⅱ度熱
発話自然度:3。構音・韻律障害に対し Vocal
傷(以下SDB)、
頭部CT 上に意識障害の原因なし。
function exercise(以下 VFE)を開始。また舌骨
暑熱環境への暴露歴から熱中症と診断された。
上筋群の収縮は強くなり舌骨挙上は良好、空嚥
また検体検査の結果より急性腎障害、播種性血
下が可能となったため電気刺激を中止し徒手抵
管内凝固症候群、急性肝障害の診断が下され、
抗による筋力増強訓練を開始した。 [第 35 病
熱中症の重症度はⅢ度とされた。病着後、嘔吐
日]握力:右 18.7kg 左 23.0kg、膝伸展筋力
を繰り返すため窒息・誤嚥リスクが高いと判断
MMT:4/4、FIM:119 点、独歩安定、一般病棟に転
され経口挿管し ICU 入室。
出。
上肢 SDB は治癒傾向、
下肢 SDB は難治傾向。
【経過】
企図振戦やつぎ足歩行困難など運動失調を認め
[第 3 病日]呼吸状態悪化。胸部画像に浸潤影
る 。 Scale of the assessment and rating
を認め肺炎と診断される。[第 12 病日]ICU より
ataxia(以下 SARA)は 13 点。運動療法の主体を
30
協調性訓練に変更。[第 43 病日]MASA:184 点、
ことで、障害が改善する過程を定量化でき症例
常食開始。断綴性発話改善。[第 53 病日]SDB の
が後遺症の存在を自覚するきっかけとなった。
外来治療が可能な近医が決定し自宅退院。
握力:
またスラー様発話、断綴性発話も小脳失調の症
右 24.5kg 左 28.1kg、膝伸展筋力 MMT:5/5、
状と一致するため熱中症による後遺症であると
FIM:124 点、MASA:195 点、SARA:3 点、発話明瞭
考えられる。構音・韻律障害に対し VFE を実施
度:1、発話自然度:2、下肢 SDB、運動失調、ス
し断綴性発話は改善しスラー様発話が残存した。
ラー様発話が残存。
これは断綴性発話が音節時間長の不均一を代償
【考察】
していたためと考えられる。呼吸状態の落ち着
介入当初の問題点は化学性、人工呼吸器関連
いた第 22 病日以降より転院加療が望ましかっ
を疑う肺炎による酸素化不良と ICU-AW による
たが SDB の管理が問題となり転院困難であった
運動機能不全であり、酸素投与からの離脱、運
ため、本症例は当院より自宅退院に至った。本
動機能の再獲得に焦点を当て介入した。酸素化
症例が良好な転帰をとった最大の要因は八木ら
の改善は EM により肺胞換気が促され換気-血流
3)
比が改善されたことによると考えられる。酸素
としているように、DC による迅速な救命措置で
化能の改善後、問題点に嚥下機能低下を追加し
あると考えられる。次いで自宅退院が可能とな
1)
介入した。Madison ら は ICU 患者における嚥
った理由として包括的にリハ介入することで運
下障害を ICU-Acquired Swallowing Disorders
動機能のみならず嚥下・構音機能が改善したこ
(以下 ICU-SD)とし、その病因に神経筋障害をあ
とがあげられる。
げている。
本症例の嚥下機能低下も ICU-AW の嚥
【まとめ】
がⅢ度熱中症治療の鍵を速やかな体温の下降
下筋群への影響による ICU-SD と想定した。
介入
後遺症を呈した重症熱中症患者に対しリハ介
法には北裏ら2)が嚥下機能を改善すると報告し
入した。転院が困難であったが嚥下・構音機能
た経皮的電気刺激と運動療法の併用療法を用い
が改善することで自宅退院が可能となった。包
ることで効果的に舌骨上筋群の収縮を得ること
括的にリハ介入すること、また嚥下・構音機能
ができ嚥下機能の改善につながった。評価には
への理解を深めることの重要性を感じた。
MASA を用いて定量化を図り経時的に比較する
~引用文献~
ことで、食事開始や食事形態の変更における嚥
1)Macht Madison : ICU-Acquired Swallowing
下障害および誤嚥リスクを管理でき、誤嚥性肺
Disorders . Critical Care Medicine41 :
炎を起こすことなく常食に至った。運動機能不
2396-2405,2013
2)北裏真己・他:舌骨上筋群に対する経皮的電気
全に対しては経時的に握力と膝伸展筋力を評
価・比較することで運動療法の効果を検証した。
刺激と運動療法の併用治療が嚥下障害患者に
また運動機能を多角的に動作として評価するた
及ぼす影響.日本物理療法学会会誌
めに FIM を計測・比較し、改善した運動機能が
20:27-34,2013
3)八木啓一・他:熱中症の治療.日本臨床 70:
実用的であることを裏付けた。運動機能が改善
963-968,2012
傾向にあるなか明らかとなった運動失調は、熱
中症の後遺症である小脳失調症状と考えられる。
その残存程度については SARA を用い評価する
31
退院支援を目指しアプローチを行ったが、全身状態悪化に
より死亡に至った一症例
坂本病院
~寝返り動作に着目して~
本院
股外転(2/1→2/1→1/1)
上地 裕也
股内転(2/1→2/1→1/1)
Key words:寝返り、全身状態
体幹屈曲(1→1→0)体幹回旋(1/1→1/1→0/0)
【はじめに】
・FIM:28 点(運動項目全て 1 点、認知項目の
今回、顕微鏡的多発血管炎を発症された症
コミュニケーション 6 点・社会的認知 9 点)
例を担当した。本症例より「寝ていると腰が
・障害老人の日常生活自立度:C2
痛くなるから、自分で寝返りがしたい」と訴
・周径(cm)
えがあったことや、施設退院に向けて能力向
初期→中間 2
上を目的に介入を行った。しかし、全身状態
下腿最大
の悪化により平成 X 年 8 月に死亡退院。その
・体重、BMI、BEE の推移※身長:154 ㎝
期間までの経過と考察を報告する。
【症例紹介】
Rt
Lt
23.0→22.0
23.5→22.5
月
4月
7月
体重(kg)
41.6
35.3
80 歳代の女性、平成 X-?年より糖尿病を患
BMI
17.5
14.9
っていたが、杖歩行自立、その他 ADL 自立し
BEE
974
914
ていた。平成 X 年 1 月にと顕微鏡的多発血管
・血液データ(基準値より高値↑、低値↓)
炎の診断で急性期病院へ入院。全身状態が安
定してきたため同年 3 月より前院でリハビリ
テーション介入開始、2 週間後に介助下にて
摂食可能となる。同年 4 月に当院入院した。
【理学療法評価】
(初期:平成 X 年 4 月
中間 1:同年 6 月
中間 2:同年 8 月)
・バイタル(初期→中間 1→中間 2)
118/69
102→118/70
101→107/64
104
単位省略
4/18
7/16
TP
5.7(↓)
5.8(↓)
Alb
3.3(↓)
2.7(↓)
Ch-E
157(↓)
212(↓)
BUN
47.9(↑)
199.4(↑)
BS
229(↑)
329(↑)
HbA1c
6.4(↑)
7.0(↑)
CRP
0.23
2.43(↑)
【寝返り動作とアプローチ】
・JCS(初期→中間 1→中間 2)
・背臥位から左側臥位への寝返り(初期)
清明→清明→Ⅱ~Ⅲ
中等度介助レベル:背臥位より開始、両膝立
・HDS-R:5/30 点(初期)
て・右上肢の左側柵へのリーチを介助すると
・GMT(Rt/Lt:初期→中間 1→中間 2)
骨盤帯を左側へ傾けることができる。
下肢複合屈曲(2/1→3/3→1/1)
右肩甲帯の外転・右肩の水平内転、右下肢
・MMT(Rt/Lt:初期→中間 1→中間 2)
の内転・内旋、頭頸部を伸展させ左側臥位に
32
なろうとするが、重心が後方に残るため困難。
滴と注入食を併用(総摂取カロリー:900Kcal+
肩甲帯・骨盤帯を介助し左側臥位となる。
α)。しかし、下痢が続いたため 7 月より絶食
アプローチ
詳細
となった(総摂取カロリー:630Kcal)。徐々に
筋力増強(自動)
下肢複合屈曲、膝立て
覚醒レベルが低下し痰の量が増大し吸引が頻
5 回×1 セット
位からの体幹回旋
回となった。寝返り動作が重度介助から全介
寝返り
・3 相に分けた部分練習
助となり 8 月 7 日に呼吸停止となり死亡退院
5 回×1 セット
と一連の動作練習
となる。
【考察】
・背臥位から左側臥位への寝返り(中間 1)
入院 1 ヶ月で筋力が向上し、自動運動にて
軽介助レベル:背臥位より開始、両膝を立て・
膝を立てることができ効率の良い寝返り動作
左側へ傾け骨盤の回旋が可能。
右肩甲帯の外転・右肩の水平内転を行い左
が行えるようになった。しかし、嘔吐・下痢・
柵へリーチ可能も把持や引きつけは困難、ま
発熱にて絶食となり、体重減少や Alb 値の低
た頭頸部を伸展・左回旋させるが体幹回旋が
下を認めた(栄養評価判定¹により中等度の栄
できず介助を要する。
養不良)
。また、総摂取カロリーや BEE から考
アプローチ
詳細
慮すると筋力増強訓練や寝返り動作訓練は負
筋力増強(自動)
初期と同じ部位を継続
荷量が高いため再検討が必要となった。結果、
10 回×2 セット
追加:ギャッジアップ
筋力増強訓練を中止、寝返り動作訓練は回数
座位(60°)にて体幹
を減らし、廃用症候群の予防を目的に介入し
屈曲・回旋
た。しかし、徐々に覚醒レベルが低下してき
寝返り
・2 相に分けた部分練習
たため、覚醒レベル向上を目的とした全介助
5 回×2 セット
と一連の動作練習
での寝返り動作訓練に変更した。また、痰量
・背臥位から左側臥位へ寝返り(中間 2)
が増加したため呼吸理学療法を実施、体位変
重度介助レベル:背臥位より開始、両膝を立
換やポジショニングでの排痰を行った。
てるのに介助を要す。膝立て位の保持は可能
【まとめ】
だが、左側へ傾け体幹回旋させることが困難
本症例は全身状態が悪化した中で関わるこ
なため介助を要した。右上肢でのリーチはわ
との難しさを実感したと同時に医療療養病棟
ずかに見られる程度。
で理学療法の必要性を感じた。今後は全身状
アプローチ
詳細
態の変化を素早く詳細にとらえることで「そ
呼吸理学療法
・胸郭や頸部の ROM
の人に今、何が必要なのか」
「理学療法士とし
て何ができるのか」を考え、その患者様の最
・排痰訓練
寝返り
後の瞬間まで関わり合いをもてるような理学
JCSⅠ桁は機能維持
療法士になれるよう努めていきたいと感じた。
JCSⅡ桁以上は覚醒↑
~引用文献~
【経過】
1) 合田文則,他:栄養と栄養管理.PT ジャー
平成 X 年 4 月 18 日に当院入院され理学療法
ナル 41:447~457,2009
の介入により、寝返り動作の介助量軽減がみ
られた。6 月より嘔吐が続き経口を中止し点
33
チームケアにより在宅生活の支援を行った
筋萎縮性側索硬化症の一症例
やわら訪問看護ステーション
排便
関本 英貴
段差
一部介助
全介助
Key
昇段
・下肢挙上介助
・車椅子での昇段
・臀部挙上介助
・スロープ使用
運動 23 点
運動 15 点
性側索硬化症(以下 ALS)の利用者を担当す
認知 35 点
認知 35 点
る機会を得た。介入当初から、妻の介護力不
総合 58/126 点
総合 50/126 点
words:介護力不足 ADL 低下 連携
【はじめに】
今回、日常生活全般に介助を要す、筋萎縮
FIM
足に加え、介護保険料未納などの経済的問題
緩下剤使用
オムツ
【経過】
により、介護保険サービスの利用に難渋した。
介護保険未納により介護サービス導入に制
そこで本症例に関わる様々なサービス提供者
限がかかり、妻主体の介護体制となっていた。
と関わりを持ち、連携の重要性を学んだので
平成 X+2 年 1 月、感冒症状がみられ、臥床状
報告する。
態が続く。その頃、妻によるベッド↔PWC の移
【症例紹介】
乗時、転倒がみられた。そこで妻に対し、介
70 才代、大柄な男性。合併症:C 型肝炎
助方法指導などを行うが、介護・理解力不足
現病歴:平成 X 年 8 月より箸が握れない等の
により妻のみでの移乗は困難と判断。妻、単
症状があり、I 病院受診、ALS と診断され、外
独の場合、オムツ対応とし、移乗時、娘また
来リハビリ開始となる。平成 X+1 年 11 月よ
は他介助者との二人介助で行うよう指導した。
り通院困難になり、12 月より訪問看護・リハ
サービスの一つとして DS を利用している。こ
ビリ導入。妻と 2 人暮らし。介護保険未納に
れまでに DS 送迎時に妻が行っていた移乗も
より、デイサービス(以下 DS)と一日の訪問
転倒を機に、DS スタッフに行ってもらうこと
介護のみ利用、医療保険にて訪問介入。
となり、スタッフに対し、介助方法指導を行
<サービス:平成 X+1 年
った。外出時の玄関昇降(図 1)において降段
月
火
水
訪看
身介
訪リハ
12 月時点>
木
金
土
は車椅子乗車にて後方より下りていた。昇段
日
では転倒以前までは、一部介助にて行えてい
DS
たが、困難となっていた。家屋構造や経済的
【理学療法評価】
MMT
移乗
介入時
3 ヶ月後
上肢 2 下肢 4
上肢 1~2 下肢 3
一部介助
・方向転換誘導
トイレ
ポータブルトイ
移乗
レ(以下 PWC)
問題からリフトやスロープの玄関への設置、
住宅改修は困難であった。そこで担当者会議
を開き、福祉業者の提案によりブロック・す
全介助
のこ・ベニヤ板を活用し、スロープ設置が可
能となった(図 2)。しかし既製品を使用して
オムツ
いないため、安全面への不安はあった。安全
34
面を強固にするため、ベニヤ板のサイズ調
なかった。そこで他サービスへの依頼・介助
節・滑り止めを導入し、更なる安全の確保を
方法指導を行うことにより、それらを代償し
行い、その後は安全に使用可能であった。
た。DS 利用時、スタッフに協力を要請、その
他の移乗介助は妻と娘・他介助者など二人で
行うよう指導した。結果、妻の介護負担軽減、
安全な移乗が行えるようになった。玄関昇降
においては DS ヘルパー介助負担が増大した
図1
ために、他の方法を模索する必要があった。
しかし家屋や経済的な問題があり、スロー
プ・リフトの設置、住宅改修も困難であった。
大久保ら²⁾によると「理学療法士の役割は課
題解決を本人・家族・在宅チームと現場で一
緒に考え、具体的な支援方法を共有、実践す
ることである」とある。そこで、ケアマネー
ジャーに担当者会議を要請、開催し、サービ
図2
ス提供者間でのサービス内容の情報共有をす
ベニヤ板
る事で今回の方法の様な発案もあり、安全に
利用者自身が納得できる玄関昇降動作に繋が
スロープ
ったと考える。
【まとめ】
病状の進行に伴う ADL 低下があり、介護力
【考察】
不足や経済的問題により、ADL 遂行が困難な
今回の症例において感冒を起因とした廃用
状態に陥った。限りあるサービスの中での介
や症状の進行がみられたことに加え、介護ヘ
護力不足をどのようにして代償するか、指導
ルパーなどのサービス介入制限もあった。そ
方法については実際の場面で要点を介助者で
れらも妻介助時での転倒に繋がってしまった
ある家族、スタッフに伝える重要さを実感し
と考えられる。豊岡ら¹⁾によると「継続した
た。利用者、家族、各専門家での顔を見た話
介護生活を実現するためには、適切な介護方
し合いによる一つのチームとしての連携が重
法や介護量を指導し、身体への誤用や過用、
要であるということを再確認した。
廃用症候群の予防を務めると共に介護者の身
~引用文献~
体に対しても注意を払う事が重要である。
」と
1)豊岡功:家族に対するリハマネジメントと
ある。そのため感冒を起こし臥床が継続した
は?:訪問リハビリテーション vol3:P167:
ことによる廃用は明確で、妻単独による介助
2011
は危険と判断し、早期に中止する必要があっ
2)大久保智明・他:在宅におけるチーム医療
たのではないかと反省すべき点である。その
と理学療法士:PT ジャーナル第 45 巻 11 号:
後の妻への介助方法指導や福祉用具の導入を
P946:2011
行うも、介護・理解力不足により改善は認め
35
統合失調症、及び外傷性前頭葉障害が
統合失調症、及び外傷性前頭葉障害が
理学療法介入を困難にした症例の経験
坂本病院
小野寺
表1
分院
ROM
(介入初日
単位:°
股関節屈曲
SLR
膝関節伸展
足関節背屈(膝屈
曲)
足関節背屈(膝伸
展)
葵
Keywords;指示入力・理解困難、移乗動作
【はじめに】
】
今回、前頭前野の障害に統合失調症(以下
Sz)の陰性症状が混在し、指示入力・理解が困
難なために訓練効率が得られにくい症例に対
→
介入 57 日目)
右
115→120
50→65
-15→-10
-5→5
左
115→110
50→60
-15→-10
-5→5
-20→-10
-20→-10
し、接し方を工夫したことで特定の動作での
指示入力・理解の向上、自発性の出現、運動
療法併用により移乗動作に改善を認めた。以
下に理学療法介入約 2 ヶ月の経験を報告する。
【症例紹介】
】
症例は 50 代前半、女性、約 10 年前より Sz
を発症し、通院、服薬にて治療を行っていた。
現病歴は H25,3 橋から転落し外傷性脳腫脹、
a:介入初日
b:介入 57 日目
図1 介助下立位姿勢
左前頭葉挫傷内血腫を呈し救急搬送。翌日、
両側前頭部外減圧術及び左前頭葉挫傷除去術
みでの動作開始とはならない。丹波
を施行。H25,8 当院入院。
1)
は、注
意・処理容量の狭さからは「1度に沢山の課
全体像として半開眼状態であり、著明な自
題に直面すると混乱する」、「指示はその都度
発性の低下に加え、注意障害、遂行機能障害
一つ一つ具体的に」
、情報の文脈的理解の障害
や、思考途絶、感情鈍麻などの Sz の症状が表
からは「曖昧な状況が苦手」、「話や行動に接
面化している。指示に対し無反応や頷きのみ
穂がなく唐突」等が生じると Sz を含む慢性精
での反応が多く、その後の動作へ移行できな
神障害の特徴を述べている。以上から訓練中
い。ADL は FIM19/126 点。運動麻痺、感覚障
の指示を短く必要最小限とし、同じ言葉で統
害は認めず。
一した。注意を向けるため話す際には目線の
【理学療法及び経過】
】
高さを合わせ、指示に対する反応が起こるま
〈介入初日 H26,7〉
〉
で待ち、無反応の場合は声かけ(説明)+模倣、
車椅子乗車にて訓練室へ訪室し評価、治療
声かけ+徒手的誘導にて動作誘発を行った。
開始。ROM は表1に記載した。MMT 測定不可、
前頭葉機能検査(以下 FAB)、HDS-R(4/30)では
移乗動作における各動作を困難にする要因
を指示入力・理解困難、身体的要因を足関節
指示理解得られず、無反応や無関係な言動が
背屈制限、膝関節伸展制限と考えた。ROM の
みられたため信頼性に乏しいと判断した。
結果より膝関節、足関節の制限は主に腓腹筋
移乗動作時の指示理解について、声掛けの
の短縮と考えティルトテーブルで自重を用い
36
表2 移乗動作
座位
(左列:介入初日
→
右列:介入 57 日目)
近位見守り。骨盤後傾に伴う軽度円背。頭頸部の軽度前傾。前額面にて左右差なし。
近位見守り。
最終評価時にて変化認めず。
立位
起立
重度介助。足関節底屈位、下腿後傾位及び
重度介助。
中等度介助。重心線が前方へ推移し介助量
中等度介助。
胸腰部屈曲位で後方重心呈すため、前上方
軽減。声掛けにてわずかな股関節、胸腰部
へ重度介助。膝折れなし。体幹伸展困難。
伸展可能。
重度介助。初期の股関節屈曲及び重心前方
重度介助。
中等度介助。促しにより重心軽度前方移動
中等度介助。
移動不十分。離殿時後方重心にて早期膝伸
可能だが、不十分。早期膝関節伸展見られ
展行うため股関節過屈曲の状態で立位へ。
ず、重心位置保持した状態で立位へ。
方向
中等度~重度介助。
中等度~重度介助。膝折れなし。非律動的。 中等度介助。円滑性向上。足部接地位置は
中等度介助。
転換
足踏みに比例し足部は前方へと前進。
着座
重度介助。後方重心、膝屈曲先行にて着座。
中等度介助。体幹軽度前傾先行にて着座。
重度介助。
中等度介助。
安定傾向。指示による下肢前後踏み出し可。
た下腿三頭筋(主に腓腹筋)伸張訓練、移乗動
その他 ROM、移乗動作で改善を認めた。
作の反復訓練、標準理学療法訓練を実施した。
【考察】
】
〈介入 36 日目〉
〉
本症例は身体機能に重度の問題はないが、
指示に対し訓練後等、疲労感が残る場面で
Sz と前頭前野の障害による指示入力・理解困
は無反応であり、何度か呼名し軽く頷くとい
難が訓練実施を難渋させた結果、訓練効率が
う状態である。ティルトテーブルでの下腿三
得られにくかった。今回介助量軽減の必要性
頭筋伸張後、一時的な可動域改善に伴い移乗
の高い移乗動作に着目し介入した症例である。
動作内での方向転換で軽度介助量の軽減、円
前頭前野(前頭連合野)は外部情報を受けた
滑性向上が見られたため、下肢動作機能向上
頭頂連合野から統合された情報を受け「何を
を目的にご本人の希望でもあった歩行訓練を
すべきか」を判断(遂行機能)し、運動野へと
平行棒内右手把持、中等度介助にて開始。
指令を送る役割を担っており、前頭前野-運
〈介入 57 日目〉
〉
動野間の信号伝達の減少が結果的に指示入
指示入力については、反応までの時間短縮
力・理解困難となっている可能性が考えられ
や一単語での返答の増加、指示から動作開始
た。加えて、Sz による陰性症状がより理学療
までの時間短縮などが得られ出した。時折文
法介入を困難にしていることも考えられた。
章レベルで話されるが、関係性に欠け文脈は
約 2 ヶ月の介入で指示入力・理解、自発性
バラバラであった。動作中や発話中の急な言
の向上に伴い、移乗動作、歩行にて軽度では
動の停止が見られた。歩行訓練を開始してか
あるが改善を認めた。本人の意欲を阻害しな
ら訓練意欲は向上しており、特に歩行訓練に
い訓練レベルの設定、訓練時間の調節や障害
対しての拒否は見られなかった。
をより理解した上で接することで、動作能力
【結果】
】
向上に繋がるという貴重な体験をした。
移乗、歩行訓練にて指示入力・理解、自発
~参考文献~
性の向上に伴う訓練進行の円滑性が見られて
1)丹波真一:慢性精神障害の特徴と SST の有
きたが、HDS-R、FAB にて点数の変化認めず。
効性日本社会精神医学会誌 6:83-86 1997
37
階段昇降自立を目指した橋出血の一症例
階段昇降自立を目指した橋出血の一症例
~片脚立位に着目して~
医療法人篤友会
【結果】
関西リハビリテーション病院
初期(発症 3 週目) →
寺岸香織、反保壮一郎、中原理
■Brunnstrom recovery Stage:Ⅵ→Ⅵ
最終(発症 7 週目)
■Range Of Motion(ROM)(R/L) (°):
Key
word:片脚立位、階段昇降
足関節背屈(膝関節屈曲位)15/15→15/15
【はじめに】
■Manual Muscle Test(以下 MMT)(R/L):
本症例は左橋出血、軽度右片麻痺を呈して
体幹屈曲 5→5
いたが、
早期から院内日常生活活動(以下 ADL)
股関節屈曲 4/4→4/4、股関節伸展 4/4→4/4、
は自立であったが、階段昇降は手すりを使用
股関節外転 4/4→4/4、膝関節伸展 3/4→5/5、
し見守りであった。その原因として、片脚立
足関節底屈 2+/4→4/4、足関節背屈 3/3→4/4
位時の重心動揺に対する修正異常や保持時間
■感覚(右下肢のみ)
短縮であると考え、理学療法を行った結果、
・触覚:足底・足趾
軽度鈍麻→正常
改善がみられたため報告する。
(*左下肢と比べて返答に時間を要したた
【症例紹介】
め軽度鈍麻と判断。最終では、左下肢と比
本症例は、右半身のしびれが突如生じ、左
べて差がみられなくなり正常と判断)
橋部に 9mm 大の脳出血を認め保存的に加療さ
・運動覚:足関節 軽度鈍麻→正常(*と同様)
れた 60 歳代の男性である。発症から 22 日目
足趾 中等度鈍麻(4/10)→軽度鈍麻(7/10)
にリハビリ目的で当院入院。病前の ADL は自
・位置覚:股、膝、足関節 中等度鈍麻(6/10)
立していた。既往歴としては、C 型肝炎と高
→中等度鈍麻(6/10)
血圧がある。
■協調運動(右下肢のみ)
【方法】
・脛叩打試験:リズムはほぼ一定、部位は初
入院中の約 1 ヵ月間、1 日平均 4 単位の理
期では逸脱あり→最終では逸脱の程度が改
学療法を実施。筋力増強プログラム(特に膝関
善
節伸展筋群や足関節底屈筋群)、速度や難易度
・踵脛試験:初期では外果方向へ逸脱あり→
を変えながらの拮抗運動、タオルギャザー、
最終では逸脱の程度が改善
重錘を使用した歩行、エルゴメーター(40W で
・foot pat(30 秒間での回数):18 回→23 回
10 分間)、片脚立位などのバランス練習、階
(*動作速度について指示なしでは、速く行
段や段差の昇降練習を実施した。片脚立位で
うように指示した際と回数に変化なし)
は、立ち直り反応が出現するように実施中に
■片脚立持保持時間
上下・左右・前後への重心移動練習も実施し
・最大:右 4 秒 62 →
11 秒 64
た。また、フィードバックには口頭指示や姿
左 12 秒 88 →
18 秒 72
勢鏡を使用した。
・最小:右 1 秒 02 →
38
4 秒 42
左 3 秒 25 →
7 秒 37
以上のような問題点に対して、方法に記載
(最大保持時間と最小保持時間の差が大き
した内容の理学療法を実施した。
く、保持時間が変動していた)
最終時において、大腿四頭筋、下腿三頭筋
■F u n c t i o n a l I n d e p e n d e n c e M e a s u r e
の MMT がそれぞれ 5 と 4 まで向上したことに
(FIM)
:歩行 6→7、階段昇降(1 足 1 段)5→7
より、右下肢の支持性が向上した。表在・深
■階段昇降(1 足 1 段、手すり支持なし)
部感覚や協調運動ともに改善していた。表
:麻痺側立脚では体幹の左右への側屈、骨盤
在・深部感覚が改善したことで、情報入力が
外側変位や回旋しながら昇降する。
促通され、片脚立位時の重心動揺に対する修
【考察】
正異常が軽減し、片脚立位時の姿勢や保持時
本症例は、階段昇降では物的介助と見守り
間が改善したと考える。片脚立位は、上下左
が必要であったため、今回着目した。本症例
右への重心移動練習を行ったことにより、立
の階段昇降動作は、昇段で非麻痺側下肢の段
ち直り反応が得られやすくなった。また、動
鼻への接触、降段で非麻痺側下肢の踏み外し
作反復により、初期と比べ片脚立位能力に改
に問題があった。その原因として、麻痺側立
善がみられた。片脚立位時における麻痺側下
脚期の短縮により、昇段では早期に非麻痺側
肢の支持力改善により、階段昇降時における
下肢が墜落すること、降段では非麻痺側下肢
非麻痺側下肢の挙上時間や調節時間が保たれ、
の接地位置を調節する時間が不足しているこ
自立したと考える。
とを挙げた。そのため、麻痺側片脚立位に着
【まとめ】
目した。
今回、片脚立位の保持時間と重心動揺に対
麻痺側片脚立位時、重心動揺に対する修正
する修正異常に着目して理学療法を実施し改
異常や保持時間に短縮と変動がみられた。そ
善がみられた。しかし、保持時間の変動には
の点については、表在・深部感覚の低下によ
改善がみられにくく残存した。残存した理由
り、足底からの情報や各関節がどの方向にど
としては、協調運動障害の影響を考える。し
の程度動いたかの入力情報が不足しているこ
かし、距離の測定や筋電図計測などの客観的
とで生じていると思われる。保持時間の短縮
な評価が不足していたため、今後はこれらも
は、片脚立位に必要な大腿四頭筋や下腿三頭
踏まえて評価していきたい。また、階段昇降
筋の MMT が 3 と 2+とそれぞれ低下しており、
に対し、片脚立位に着目して能力に改善がみ
さらに骨盤の外側変位や回旋により、中殿筋
られたため、今後に活かしていきたい。
筋力の発揮が不十分となったことで、麻痺側
~引用文献~
下肢の支持性が低下していると考える。また、
1) 細田多穂:理学療法ハンドブック[改訂第
協調運動では、平衡機能など空間的な調節や、
3 版]第 1 巻理学療法の基礎と評価、
pp561、
動作の円滑さや連続性を保証している時間的
協同医書出版社、2000
な調節、収縮強度を通しあらゆる運動の強さ
と方向を保証している力の調節を行っている
1)
とされている。本症例では、動作観察およ
び検査結果より協調運動障害があると考えた。
39
復職へ向けて屋内外の歩行自立を達成したワレンベルグ症候
群を呈した一症例
関西リハビリテーション病院
とバランス練習、左足関節周囲筋の筋力強化
田中 志織、若竹 雄治
であった。BWSTT は 42 病日から開始し、週 2
Key words;復職、歩行、ワレンベルグ症候群
~4 回を 6 週間行った。各パラメータの設定
【はじめに】
は過去の報告を参考に、免荷量は体重の 0~
ワレンベルグ症候群は脳幹障害の一つであ
30%、実施時間は 5 分間を 2~3 セットとした。
り、延髄外側の梗塞によって生じる症候群を
さす。一般的に予後良好
60 病日以降は、二重課題(トレッドミル速度
1)
とされているもの
の変化、頭部の運動)を負荷した。バランス
の、死亡例や残存障害例の報告もある。今回、
練習と左足関節周囲筋の筋力強化は 70 病日
復職のため屋外歩行自立を目指したワレンベ
から集中的に行い、前者は片脚立位と端座位
ルグ症候群患者の理学療法を経験した。当院
での側方リーチとし、後者は徒手抵抗にて行
入院中にその目標を達成したため、理由につ
った。また 69 病日には、公共交通手段を使っ
いて考察する。
た外出練習を行った。屋内外の歩行自立に向
【症例紹介】
けて、以下の期間ごとに目標を設定した。歩
本症例は 201×年×月に右延髄外側梗塞を
行器歩行期(37〜44 病日):歩行速度と歩容
発症し、37 病日に当院へ入院した 50 代前半
の改善・杖歩行への移行、杖移行期(歩行器
の男性である。発症 3 病日目の頭部 MRI 画像
併用 45〜63 病日)と杖歩行期(64〜74 病日)
:
を図 1 に示す。入院時は右顔面と左半身に交
左下肢への荷重促進、独歩期(75〜87 病日):
叉性温痛覚障害を呈しており、右下肢・体幹
ご本人の目標でもあった頭部の動きに伴う歩
に軽度の失調症状を認めた。両下肢の錐体路
容の崩れの改善とした。
症状や認知障害はなかったが、原因不明の左
本症例の練習成果を判定するために、快適
足関節周囲筋の筋力低下を認めた。軽度の失
歩行速度、Berg balance scale(以下、BBS)、
調性跛行を認めたものの、病棟内移動は歩行
左足関節周囲筋力、FIM の運動項目(以下、
器で自立していた。本症例の希望は復職で、
FIM-M)、目視による動画解析、Dynamic Gait
そのための課題は屋内外の歩行自立であった。
Index(以下、DGI)を計測した。また 1 日の歩
職場の病欠可能な期間が 57 病日までであっ
行距離を記録した。
たため、可及的早期に目標を達成する必要が
あった。
【理学療法と評価方法】
理 学 療 法 の 主 な 内 容 は 、 Body weight
supported treadmill training(以下、BWSTT)
図 1. 3 病日目の頭部 MRI
40
【経過】
時に歩行速度は 0.96 m/s 改善した。またそれ
本症例に提供した 1 日の歩行距離の平均は、
に伴い病棟内における歩行自立度も着実に向
2692.2±1228.1m であった。左前脛骨筋・後
上した。一方、「屋外での実用的な歩行」に
脛骨筋・腓骨筋の筋力は、60 病日でそれぞれ
向けて、具体的な課題を捉える必要があると
44.1・80.4・83.3N、85 病日で 83.3・144.1・
考えた。DGI で捉えた課題の中で、“頭部の
131.5N であった。
運動”に着目した。
パフォーマンスの成果について、先述した
BWSTT 中に頭部の屈伸・回旋を二重課題トレ
“期間”に沿って述べる。歩行器歩行期にお
ーニングとして実施した後、「頭部の運動を
ける 10m 歩行速度は 0.83m/s、BBS は 38 点で
伴う歩行」は一部改善し、DGI は 19〜21 点と
あった。歩容はワイドベースであった。杖移
なった。
行期における 10m 歩行速度は 1.72m/s、BBS は
しかし、片脚立位保持時間の延長や片脚立
45 点、DGI は 13 点であった。全ての項目で減
位時の異常姿勢には変化がみられず、測定ご
点があり、特に「頭部の運動を伴う歩行」と
とで結果にばらつきがみられた。再評価によ
「軸足回転」でそれぞれ 2 点の減点があった。
り、足関節周囲筋の筋力低下とバランス反応
杖歩行期における 10m 歩行速度は 1.79m/s、
異常を優先度の高い課題と捉えた。70 病日以
BBS は満点、DGI は 19 点であった。独歩期に
降、各課題に特化した練習を行った。このよ
おける 10m 歩行速度は 1.82m/s、
DGI は 21 点、
うに優先度に応じて、練習内容を切り替えた
歩容は歩隔の減少と歩幅の拡大を認めた。一
ことで、“保持時間”・“姿勢”両方に改善
方、頭部の運動に伴う歩隔のばらつきは残存
が得られたと考える。
した。これらの改善とともに入院中の歩行自
【まとめ】
立度は変化し、FIM-M は入院時 79 から退院時
本症例は、退院時点で、入院時の目標どお
87 に向上した。
り屋外の移動が自立した。DGI の結果から、
【考察】
残存障害があるにも関わらず、目標を達成で
本症例は 50 代前半と若く、入院初日から病
きた理由は、評価に基づき優先順位の高い課
棟内移動は歩行器を使って自立していた。ま
題を捉えたアプローチが提供できたためであ
た入院時の FIM-M は 79 であった。退院後の復
ると考える。
職を報告した先行研究の参加者の平均年齢
~引用文献~
は、59.7 歳であり、入院時の FIM-M は、50.9
1) 谷口ら:延髄外側症候群の機能予後-ADL
であった。このことから本症例は「若年」「軽
と嚥下機能についての検討.Journal of
症」であり、「屋外での実用的な歩行」の目
clinical rehabilitation21(2):214-8,
標に向けて順調に進めることができた要因の
2012
一つであると考える。
結果から、本症例の運動パフォーマンスは
最終評価時点で、大きく改善したといえる。
高強度なトレーニングを介入当初から実施し
たことで、64 病日に BBS は満点となり、退院
41
脊髄硬膜下出血により L4 以下の対麻痺を呈した症例
-屋内杖歩行の自立に至った一例-
関西リハビリテーション病院
クリアランスが低下、小趾側は床面と接触。
清水 将之
【評価項目】
Key
西本
一始
words:脊髄硬膜下血腫
不全対麻痺、歩行
【はじめに】
入院 1 週目
入院 17 週目
(発症 7 週)
(発症 23 週)
C / D
D / D
安静立位
右下肢荷重量
L4 以下の不全対麻痺を呈した症例を経験した。
15kg(30%)
(体重計で
本症例の Needs であった杖歩行の獲得を目標
70 歳代、男性。現病歴は平成 26 年 2 月初
26kg(49%)
最大荷重
計測)
に介入を行い、目標達成に至るまでの経過に
【症例紹介】
【最終】
Frankel 分類
今回、脊髄硬膜下血腫により右下肢優位に
考察を加えて報告する。
【初期】
25kg(50%)
41kg(78%)
深部覚
右 1/5・左 2/5
変化なし
表在覚
右 5/10・左 5/10
変化なし
MMT(右/左で記載)
旬に下行大動脈瘤に対しステント留置、2 日
後より下肢痺れ出現、
立位保持困難となり MRI
にて脊髄硬膜下血腫と診断される。2 月中旬
よりリハビリ開始、3 月中旬に当院転院。既
往には、第 12 胸椎圧迫骨折(受診歴なし)
、
脊椎側弯変形(右凸変形)、大動脈弁置換術、
高血圧症がある。病前 ADL は自立していた。
【理学療法評価】
体幹屈曲
3
5
伸展
2
4
股関節伸展
2 / 4
3 / 5
外転
2 / 3
3 / 4
膝関節伸展
4 / 4
5 / 5
屈曲
2 / 4
4 / 5
足関節底屈
2 / 4
2+ / 5
10°/15°
20°/20°
()は膝伸展位
(5°/10°)
(15°/15°)
片脚立位(秒)
0 / 0
2.06 / 7.92
Timed up & Go
33.37 秒
11.29 秒
test(TUG)
(4 点杖)
(独歩)
10m 歩行
50.06 秒:36 歩
8.70 秒:19 歩
快適速度
(4 点杖)
(独歩)
21 点
46 点
ROM:足背屈
入院初期の歩行動作:裸足で 4 点杖使用。
歩容は 2 動作揃え型。体幹は常時左側屈位を
呈する。右下肢の各周期において、初期接地
期では足部外側接地となりフットスラップ、
体幹の後傾が出現。荷重応答期では性急な膝
屈曲、トレンデレンブルグ徴候が出現。右立
脚中期では性急な膝伸展が出現し、トレンデ
Berg balance
レンブルグ徴候が増大する。右立脚終期では
scale(BBS)
股関節は伸展域に達せず、足関節は正中まで
【理学療法経過】
の背屈となり、下腿前傾が乏しく前足部荷重
<入院 4 週目>
不十分。遊脚期では右足部内反の出現により
1. 主たる問題点:右下肢の前脛骨筋、中殿筋、
42
大殿筋、下腿三頭筋、体幹の筋力低下。右
屋内杖歩行自立が可能とされる値となった。
足関節背屈の可動域制限。
しかし、歩容として 2 つの現象が最終まで課
題として残ったため以下に考察を述べる。
2. 治療内容:腓骨神経への電気刺激療法、
Gait Solution 短下肢装具(以下 GS と記載)
1 つ目は、右立脚期全般での重心の左偏位
を装着しての歩行練習。中殿筋、膝伸展筋
である。問題点として体幹・中殿筋の筋力低
の筋力増強、立位での右荷重練習。
下と判断し介入を行った。筋力の向上は図れ
3. 歩行変化点:足内反は軽減し、クリアラン
たが、既往の腰椎圧迫骨折や腰椎側弯症によ
スは向上。右立脚期での体幹左側屈は軽
るアライメント不良により、向上した筋力が
減、右下肢荷重量は安静立位で 38%、最
歩行においては十分に発揮されなかったこと
大荷重で 66%へ増大したが重心左偏位
が現象の改善に至らなかった一因と考えた。
は残存、立脚終期での下腿前傾は不十分。
4. 院内移動:車輪付き Pick up で自立。
2 つ目は、右立脚終期の性急な膝屈曲であ
る。介入初期では下腿前傾が乏しく重心の前
<入院 8 週目>
方移動は不足していたが、介入 8 週頃から観
1. 主たる問題点:右下腿三頭筋、中殿筋、大
察された。原因として、大殿筋の筋力向上に
殿筋、体幹の筋力低下。
より初期接地時の体幹後傾が軽減したことで、
2. 治療内容:立ち上がりやランジなどの下肢
重心の前方移動が増大し生じた現象と考えた。
筋の同時収縮、体幹筋力増強の割合を増加。
立脚終期に下腿三頭筋の活動は最大となるた
3. 歩行変化点:初期接地での体幹後傾、右立
め、問題点を下腿三頭筋の筋力低下と判断し
脚中期の性急な膝伸展は軽減。右立脚終
て治療を行った。しかし、運動麻痺の影響に
期では下腿前傾の増大に伴い、性急な膝
より運動時の筋収縮は乏しく、筋に対する負
屈曲が出現。
荷が十分でなかったため筋力の改善が得られ
にくく、現象の改善に至らなかったと考えた。
4. 院内移動:T-cane、GS 使用で見守り。
【まとめ】
<入院 15 週目>
本症例では、運動麻痺による下肢の筋力低
1. 主たる問題点:右下腿三頭筋、中殿筋の筋
力低下、脊椎アライメント不良(右凸変形)
。
下が主な問題点であると考えていたが、それ
以外にも体幹筋力や姿勢アライメント、歩行
2. 治療内容:右下腿三頭筋の筋力増強の割合
での重心位置やその制御機能による影響が重
を増加、片脚立位や動的立位練習を実施。
3. 歩行変化点:右立脚終期での性急な膝屈曲
要であると認識できた。今後は、客観的な評
は軽減し、単脚支持時間の延長に伴い歩幅
価をより充実させ、治療の内容や対象の妥当
が拡大、歩行速度は向上した。
性を意識した介入ができるように努めたい。
4. 院内移動:装具なし、T-cane 使用で自立。
【考察】
本症例は、退院時には屋内杖歩行の自立に
至り、最終評価において TUG が 11.29 秒、10m
歩行は 8.70 秒と屋外歩行可能と推奨される
値へと改善がみられ、BBS においても 46 点と
43
延 髄 外 側 の 出 血 性 梗 塞 に よ り Wallenberg 症 候 群 の
lateropulsion に加え深部感覚障害・運動麻痺を呈した症例
に加え深部感覚障害・運動麻痺を呈した症例
国立循環器病研究センター
【初期評価】
竹中悠司、山本幸夫、山内芳宣、碇山泰匡、
第 6 病日からベッドサイドにて理学療法を開
尾谷寛隆
始始した。初期評価時は人工呼吸器管理(SIMV
モード)であり、Japan Coma ScaleⅠ-1、左
Key words; lateropulsion、深部感覚障害、
上下肢の重度温痛覚鈍麻を認めた。さらに通
延髄外側
常の Wallenberg 症候群では見られない症候
【はじめに】
として、右上下肢重度深部感覚鈍麻、
Wallenberg 症候群は、病巣側のホルネル症
Brunnstrome Recovery Stage(BRS)で右上肢
候群、小脳性運動失調、顔面の温痛覚障害、
Ⅲ、手指Ⅳ、下肢Ⅴの運動麻痺を伴っていた。
lateropulsion、対側の上下肢温痛覚障害など
なお、重度の右上下肢運動失調が認められた
の典型的な症候を伴う。特に理学療法場面に
が、小脳性と感覚性との鑑別は困難であった。
おいては、病巣側への lateropulsion すなわ
【理学療法及び経過】
ち側方突進現象が動作獲得を阻害する要因と
第 12 病日から人工呼吸器装着下で端座位、
なっている。今回、延髄外側の出血性梗塞に
立位練習を実施した。端坐位は右への
より、病巣側への lateropulsion を主徴とし
lateropulsion が著明で重度介助を要した。
た Wallenberg 症候群に加えて、病巣側の深部
また、自発的な運動を契機に体幹、右上下肢
感覚障害、運動麻痺を伴った症例を経験した
の動揺が大きくなり、介助量はさらに増大し
ので報告する。
た。立位では、右への lateropulsion に加え
【症例紹介】
て右下肢の共同屈曲運動パターンが出現し、
症例は 68 歳、男性、病前 ADL は自立してい
十分な下肢支持性を得ることは困難であった。
た。2014 年 6 月、ふらつき、構音障害、嚥下
また、端坐位と同様に自発的運動で体幹、右
障害にて発症し、当院に救急搬送となった。
上下肢が大きく動揺するため、2 人での介助
頭部 MRI にて延髄右外側に急性期脳梗塞を認
を必要とした。
めた。入院加療中の第 4 病日に意識障害、症
状増悪を認めたため MRI を撮影し、出血性梗
塞(図 1)が確認された。この時点の National
Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)
は 8 点であった。また、中枢性呼吸障害のた
めに気管切開術が施行され、人工呼吸器管理
下になった。
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第 18 病日に日中の人工呼吸器が離脱され、
第 34 病日から訓練室での理学療法を開始し
た。右への lateropulsion を認めたが、端座
位は上肢で座面を支持して軽度介助で保持可
能となり、立位は両手すりを把持して軽度介
助で保持可能となった。静的端座位・立位の
安定性が向上してきたため、動的なプログラ
ム内容に変更することとした。その際に、右
下肢の共同屈曲運動パターンが出現していた
こと、下肢支持性が低下していたことから右
下肢に長下肢装具を装着して、動的なステッ
lateropulsion に加えて、病巣側の深部感覚
プ練習や歩行練習を積極的に実施した。
障害、運動麻痺を伴った症例であった。
動的なプログラムを約 10 日間継続したが、
本症例の理学療法プログラムにおいては、
左下肢振り出し時において、右への
坐位や立位の介助量が軽減した第 34 病日か
lateropulsion、体幹・右上下肢の失調は顕著
ら長下肢装具を用いた歩行、動的なプログラ
に認められ、自発的な運動を契機に体幹、右
ムを積極的に実施したが、アライメントの自
上下肢の動揺が大きくなるという現象をコン
己修正が困難であり介助量の軽減が得られな
トロールすることが困難な状態が続いていた。
かった。動的な練習を中心とした理学療法プ
このことより、本症例の能力に比べて実施し
ログラムは患者の能力に比べて難易度が高く、
ている動的なプログラムは難易度が高いと判
効果が得られないと判断し再考した結果、端
断し、再度、静的な端坐位・立位保持練習や
坐位や立位練習などの重心移動の少ない静的
重心移動の少ない移乗動作練習などに変更し
な練習を重点的に行うプログラムに変更した。
た。
結果として転院時には、歩行は依然として重
【最終評価】
度介助であったが、端座位や立位、移乗時の
介助量は軽度介助から監視へと軽減した。
転院時の第 81 病日では右上下肢深部感覚
は中等度鈍麻、右 BRS は上肢Ⅴ、手指Ⅴ、下
本症例は、小脳性と感覚性の運動失調を呈
肢Ⅴに改善した。また、右への lateropulsion
しており、小脳性運動失調の影響が少ない重
が軽減したことで端坐位、立位ともに自力保
心移動を考慮した静的な介入によって、体
持可能になり(図 2)
、移乗も軽度介助で可能
幹・右上下肢の過剰な動揺が軽減したと考え
になった。平行棒内歩行は右への
られる。歩行練習などの動的なプログラムよ
lateropulsion に加えて体幹・右上下肢の動
り姿勢保持能力の向上を目指した静的な理学
揺を認めるために依然として重度介助が必要
療法プログラムが重要であったと考えられる。
であった。
【考察】
本症例は延髄右外側の出血性梗塞を発症し、
Wallenberg 症候群の一つである病巣側への
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平成 26 年度 豊能ブロック新人症例発表会
~組織図~
会 期:平成 27 年 2 月 15 日(日)
会 場:大和大学 講義棟 3 階 大講義室 B
大会長
山根 章 (大阪府済生会吹田病院)
準備委員長
真田 将幸 (株式会社フルーション地域支援事業部医療サービス課)
事務局 局長 奥川 和幸 (市立吹田市民病院)
財務 松岡 伸幸 (東豊中渡辺病院)
会誌 川原 美保 (市立豊中病院)
受付 浅尾 和道 (坂本病院本院)
運営局 局長 池尾 和代 (箕面市立病院)
会場係
早川 万紀子、岡野 真奈、小野田 美楓(関西リハビリテーション病院)
田中 尚登、栗田 貴子、横田 祥吾(大阪府済生会吹田病院)
浦澤 純一、高城 圭加(坂本病院本院)
山田 章吾(坂本病院分院)
田中
達也、山口
浩、神窪
康尚(株式会社フルーション地域支援事業部医療
サービス課)
企画局 局長 杉山 恭二 (大阪大学医学部附属病院)
企画部
中野 英樹 (大和大学)
山内 芳宣 (国立循環器病研究センター)
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